紛争地帯から帝都へ
帝国領に入った今村は減速して地上に降り、ニーナもそれに倣って発勁を止めて地上に降りる。
【玉璧】を解いた今村はニーナに尋ねる。
「……竜人。」
「ニーナなのだ。」
「ニーナ。」
「えへ、照れるのだ……」
身をくねらせるニーナに今村は尋ねる。
「お前、これ……第2次反抗期? いや……回りくどいな。単刀直入に訊くが精神年齢幾つなの?」
「……あたしは1万歳なのだ!」
「ダメだ。分かんねー……」
「んーあたしも……名前聞いてないな。名前何?」
答えたくなかったので偽名を告げる。
「権兵衛だ。」
「ごんべえ……? ふーん。何か強そうなのだ。」
「俺もそう思う。名無しの癖に強そうだし、偉そうだよな。」
「……あ、思い出したのだ。そういう言い回しは異界の民が名無しの権兵衛とかそんな感じで使うって父殿が言ってたのだ。」
今村は笑顔で舌打ちした。
「うーうー……早くも亭主関白なのだ……」
「あるじ、とうとう竜王様と婚姻しちゃったなー……竜王様、愛人許してくれるかなー?」
「ぺ、ペット枠で入りましょう……」
ルナールとアシュリーがこそこそ何か話しているので今村は一応突っ込みを入れておく。
「勝手に人を人生の墓場に連れて行くな。おい、あんた「ニーナなのだ。」ニーナ。もっと良い相手がいるからそっちに行け。」
「まだ見たことない未来より確実な現在を掴むのだ。」
真顔で言われて今村は納得しかけた。しかし、諦めたらそこで試合終了となってしまう。今村は負けたくなかった。
「……少なくとも、もっと恰好良い奴のことを知ってるぞ。今から行く所に居るから。」
「んー……確かに、王子様としては顔が微妙なのだ……でも、いくら顔が良くても同じステージの生物じゃないと生理的に無理なのだ……それに、このままだと父殿と結婚……それだけは嫌なのだぁあぁぁぁっ!」
力強い叫びのお蔭で辺り一帯が文字通り壊れた。地には亀裂が入り、空気は震え、動植物は死に絶える。ついでにローナは気絶した。
「はぁ、はぁ……その点、あんた……あ、いい加減名前を知りたいのだ。じゃないとだぁりんで通すのだ……あ、それでい「イマムラだ。」」
ダーリン呼びはマジでないとうんざりした顔で今村はそう告げる。だが、ニーナの方は納得しなかった。
「……名前……」
「何かの契約に使わないことを今、ここで誓約するなら教える。」
【悪魔王の方途】を使用して言質を取ると今村は名前を教える。
「……ヒトシだ。」
「何か普通だからだぁりんで通すのだ。」
「ぶん殴るぞテメェ。」
「だぁりん! 一緒に父殿倒してあたしを救って結婚なのだ!」
話をするだけ面倒になって来たので今村はスルーすることに決めて帝都へと歩を進める。気絶したローナは仕方がないのでルナールが尻尾で担いだ。
「さて、先見の何とかさんが今もきちんと帝国にいるならそろそろ……」
「あの、前方に……複数の集団が……」
「来たか。」
出迎えに来たのだろうと判断し、仮に敵であれば虐殺して帝都に隠密で乗り込み、帝王を暗殺して一部を買収したり【音玉】や【幻玉】を駆使して王国に宣戦布告させることを決めた今村は笑顔でその集団の方へと移動する。
「っと、おぉ……アレクとクリスじゃん。」
「師匠! サリーシャからの命令で迎えに来ました!」
「姫様って付けろ馬鹿アレク……!」
「相変わらずコントやってんだなぁ……」
現れたのは赤髪の立派な青年に成長したアレク、そして銀髪で怜悧な雰囲気を漂わせる青年に育ちながらも再会を喜んでいるクリスだった。
「朱雀将軍。この方が……」
そして、近付くにつれて今村が連れている少女たちの全貌が明らかになり騎士たちは絶句して惚ける。
「お、おぉ……ヤバいな……うぁ……」
「……魔力に中てられたか……?」
「あの、おそらくサーシャさんたちの魅力が……魔力で抑えてください……」
「……どうやって?」
小首を傾げるサーシャ。その光景に騎士団の一部から声が漏れる。そんなサーシャにクルルが助け舟を入れる。
「……ぎゅーってするなの。」
「はい、ぎゅー」
「ち、ちがうなの! クルルをぎゅーじゃなくて、まりょくを……」
「ふっひゃあぁぁぁあっ!」
奇声を上げる騎士団の誰か。今村は我関せずと無言で騎士団が持って来た馬車に乗り込む。
「せまいな。」
「ご、ごめんなさい……」
「いや、そこで呑気に気絶してる奴が悪い。」
「降ろすかー?」
アシュリーやローナ、そしてルナールが乗ったところでスペースがなくなり始めたので今村が感想を告げるとニーナが外から覗いて来て尋ねる。
「あたしは走った方が良いのだ?」
「あの、師匠……そちらの方の、お顔も……」
「何なのだ? 喧嘩売ってるのだ? ところでだぁりん。格好いいとか言ってたのはこれなのだ?」
「のだのだうるせぇ。国民が無邪気にマスゴミの情報に乗せられて政権交代してた時期のこと思い出すだろうが……」
「口癖だから仕方ないのだ。」
結局サーシャとニーナの魅力を抑えて出発するまでしばらくの時間を要することになった。
「えーと、増えましたね……お久し振りです師匠……」
「師匠になった覚えがあんまりないんだが……まぁいい。そんなことより狭いんだが、子どもの方に行ってくれないか?」
「やーなの。」
「ご、ごめんなさい……もっと端に行きますね……」
「仕方ないなぁ……尻尾で馬車にぶら下がるしかないかぁ……」
「……人間、嫌いだし……」
「近くに行くと間違えて潰しそうなのだ。」
仕方がないのでローナをアリクとクリスの足の上に転がしてルナールを今村の対面でクリスの隣に座らせ、その奥にアシュリーを座らせることで一応争いは終結した。
「で、お前らはどこまで知ってる状態でここに来てるんだ?」
「えぇと、近々戦争があって、暴走気味の王国を止めるために三国同盟を組みにお師匠様が来たってことくらいです……」
「ふむ……」
「王国を滅ぼせばいいのだ? なら、あたしが……」
「今からお前が出るとややこしいことになる。戦争が始まってからにしろ。それからなら何やってもいいから。」
「宝石食べ放題は?」
「……山脈でも食ってろ。」
そんな会話をしているとアリクとクリスが今村にその女性は何者なのかを尋ねて来た。
「……俺もよく知らない。こっちは移動図書館の人。小食で味にうるさい。」
「どうも……貴族級の魔族です。階級は伯爵……」
サーシャの自己紹介にアリクとクリスが悲鳴を上げて腰を浮かせ、ローナが馬車の足を置く場所に転げ落ちる。
「ま、ままま、魔族……!」
「は、初めて見た……!」
「で、こっちは宝石老龍とかいう奴。」
「よろしくなのだ! 下等種族! 近付くと間違えて殺すかもしんないからあたしの存在には気を付けて近付かないようにするのだ!」
「お前よろしくする気ないだろ……」
明らかに喧嘩を売っているとしか思えないニーナの自己紹介にアリクとクリスは耳を疑って聞き取れていなかった。
「宝石……」
「老龍……あの、最強と言われるドラゴン族の、土系最上級種で地上最強の……」
「んー? あたしは普通なのだ。お前らが弱いのだ。それにあたしより多分このだぁりんの方が強いのだ。」
「……面倒くさがらずにダーリン呼びを強く否定しておけばよかった……」
驚きのあまりに目玉を落としかねない程に目を見開いて尊敬のまなざしを送って来る二人。今村は話題を変えるために先程から伸びているローナについて説明した。
「それはローナ。アシュリーの恋人だ。」
「えっ……」
「え、あ、ち、違います……けど……ご主人様が、そうと言うのでしたら……そうなんです……」
「俺が悪い奴みたいになるからやっぱ今のなし。」
こんな感じで馬車は帝都へ向かって移動して行った。
イマムラ ヒトシ (17) 魔 男
命力:12650
魔力:12504
攻撃力:12823
防御力:21592
素早さ:12520
魔法技術:14568
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉石】【悪魔王の方途】
【上級技能】…【言語翻訳】
【中級技能】…【気配察知】【複魔眼】
【初級技能】…【奇術】【水棲】【調合】
≪称号一覧≫
【不羈なる悪魔王】【戦場の悪夢】【戦屍蛮行】【真玉遣い】【異界の超越者】【竜の愛人】【薬師】
現在所持金…200万G




