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可哀想

「ククククク……念願叶い、サーシャ。ようやくお前を妻として抱ける日が来たようだよ……」

「……反吐が出る……」

「あぁ、出したまえ。口の中に捻じ込んだ時に吐かれる心配がなくなる。」


 目の前の男はそう言って笑い、その側近たちが下卑た笑い声を上げる。私は悔しくて泣きそうだった。


「……っ! 触るな……!」

「んん? だが……事前に愛撫して慣らしておかねば挿れる時、痛い思いをするのはお前だぞ?」


 全身に怖気が走る。私の大事な所を、誰にも触れさせたことのない場所をこんなオークの成り損ないのような化物に触られた。


「おぉ、流石【傾国の妖美姫】……泣き顔すら美しい。」

「おぇ……」


 悔しくて出た涙を顔ごと舐められ、思わず嗚咽を漏らす。こんな醜い化物に私は……それだけは、嫌だ。


「甘露甘露……実に良い表情だ……行軍をやめ、ここで始めてしまおうか……?」

「どうしやすか?」

「……善は急げというしなぁ……早い内に、花嫁の教育は済ませるに限る……やはりあの時、兄の前で犯すことが最善だったかもしれん……」

「ファイアーストーム!」


 起死回生の一手。自分の体を少し焦がしてしまうが、目の前の存在に何もせずに好き勝手されるよりも遥かにマシだ。


 そう思って詠唱した魔術は発動しなかった。


「ふふふ……その顔、たまらないな……くくく……だが、やはり花嫁教育が必要なようだ……クハハ……ここで始めるとしよう……俺の力を誇示しなければな……」

「うっ……あぁ……っ!」


 もがけばもがく程奴の愉悦を誘うようだ。嗜虐的な笑みを浮かべて男はドレスローブを引き剥がし、サーシャの美しい裸体を衆目に晒す。


「おぉぉおおぉおぉっ!」


 ざわめきの中でサーシャは静かに泣いた。地面にその雫が落ちる時、陸軍長の男は笑顔でその乳房を掴み形を変える。


「うっせぇぇぇぇええぇっ!」


 サーシャの涙の雫が落ちるほぼ同時に飛び散る血の雨が大量に降り注ぎ、今村が現れた……










「うっせぇ! あーどこだ? テメェか! 死ね!」


 今村は怒っていた。


「何だテメ……」

「うっせぇ! 死ぃねっ!」


 問答無用の裏拳。それにより陸軍長の側近の脳漿が炸裂し、血飛沫が上がる。今村は怒っているのだ。


 最後まで実験を終えず、まだブレブレなのに【玉壁】で空を飛び、酔う破目になったことを。


「……あぁ、取り敢えず救出。あいよ【玉服】。」

「あ、ありがとぉ……」


 そんな中で一応今村は依頼を達成し、サーシャを救出して服を渡す。状況に理解が追い付いてはいないものの、渡された豪華な服に涙目になりながらサーシャは服を纏った。


 そんな光景を見つつ陸軍長は今村を睨みつけた。


「貴様……何者だ……?」

「化物だ。」

「ぐ、軍団長! 正体不明のガキが、軍の後方より現れて被害ぎゃぶっ!」


 伝令が駆けつけるが、陸軍長はその男の頭部を握り潰した。そしてその緑色の血を舐め取って今村とサーシャに笑いかける。


「……そこの男……今なら、まだ許してやるが?」

「え、マジ? やったー。帰ろ。あ、一応【鑑定】は済んでいるので確認なんですが、正規の魔族軍じゃないですよね?」


 頷かれた。


「あーよかった。最初の確認は以降割と適当に殺戮してたからちょっと心配だったんだよね。一応、実力主義で過去の軍団長を殺し、反対者も皆殺しにして軍を乗っ取って魔将軍になった逸話とかあるけど……まぁそれでも若干不安になったんですよ~それじゃ失礼しました。」


 今村は笑顔で普通にそう言うと本と一緒にサーシャの私物を持っていた男の荷物を漁り、本を手に入れると立ち去ろうとし始めた。


「えっ……」

「えっ?」

「え……?」


 しかし、今村の言葉はお気に召されなかったようだ。


「え……? アレですよね? 2,3人くらいなら癇癪でいつも殺してるから普通に帰っていいよって……」

「た、多分違うよ……?」

「……サーシャを、我が花嫁は、置いて行ってもらうぞ?」


 花嫁と言う言葉に今村はピンときたようで頷く。


「……花嫁。あぁ、駆け落ちしてたの。ごめんね? 空気読めなくて。」

「してない! 私はそんな変な趣味してない!」

「……どうなの?」

「……これからじっくり愛を確かめ合うところだ。」

「そうなの。……やっぱり邪魔……?」


 魔王軍、サーシャ、この場にいる全員がこいつ何しに来たんだ……? という目で今村を見る。そんな中で今村は隊長に告げた。


「まぁ……アレだ。何か良く分からんが……頑張れ。」

「お、おう……」

「え、た……助けて……」


 今村は取り敢えず愛を確かめるとか言っていた男を励まし、これでいいかなとサーシャの方を見る。しかし、隊長には微妙な顔をされ、サーシャには絶望的な顔で救援を求められて今村の頭の中に仮説が浮かんだ。


「分かった!」

「そうか……ならば!」


 ようやく分かりやすい結果が出たとばかりに賊の隊長は臨戦態勢に入りかけて今村の言葉で再び脱力する。


「文化が違うんだろ! 動物は一般的に群れの中で交尾をするが人間は基本的に1対1でするもんな。文化の違いを押し付けたらあかんぜよ。」

「……そういう問題じゃない……えと、あなた……何しに来たの?」


 先程までの空気を既に忘れたサーシャが根本的なことを今村に尋ねた。それに対して今村は応える。


「ん? お前の兄さんにな、助けに行ってほしいと言われて……実際に来てみたら花嫁とか愛だとか色々聞いてどうしたもんかなってなってるところ。」

「……こ、この状態を見たら……私が、この人のこと嫌ってるのわからない……? わからないの……?」

「どっちが悪いのかは分からんな。途中まで乗り気だったのに人が来たから急に気が変わったとかそんな感じの可能性だってある。俺の国には痴漢冤罪というものがあってな……っと。」


 今村がサーシャに説明をしていると後ろから陸軍隊長が鋭い一太刀を浴びせて来た。今村はそれを普通に避けて剣呑な目つきで相手を見る。


「……あぁ?」

「読めたぞ。貴様……とんだ食わせ物だな……ここで足止めをし、後軍を襲撃している者と合流、その後町の義勇軍と共に我らと戦うつもりだな……?」


 その言葉にサーシャがハッとする。


「ま、町の皆が……?」

「……どうでもいいけど。取り敢えずテメェは俺に攻撃したんだよな? じゃあ正当防衛だ。」


 今村は武器を持たずに直近の敵に掴みかかりその頭を手刀で叩き割る。


「本性を示したな!」

「死ね。」

「なぁっ!?」


 振り下ろした剣、それは今村の掌で受け止められた。


「バカな!」

「俺の習った技に鉄砂掌ってのがある……下手すりゃ相手を殺しちまうから試合する奴にゃさせないが……うちは特殊でね。尤も、ポン刀相手ならぶった切られるがね。」


 そう言う問題の話ではない。確かに鉄砂掌は修業が終われば鉄板に掌を減り込ませることができるが、剣を受け止めるのはまた別の話だ。


「で、ウチの国には他にも鉄拳ってのがあってだね……こうする。」


 剣の腹を殴って今村は剣を圧し折った。続けて猫手の手刀で腕を斬り落とす。


「……猫手関係ねぇな……まぁいい。」

「貴様ぁ……! 楽には死なせんぞ……!」

「おう。最近武器ばっかり使ってたからアレなんだよね。素手で皆殺しにするから……まぁ、面白いことするけど。」


 今村はにへらっと笑って幽霊から貰った丸薬を飲み込んだ。体に変化が起きるのを確認して今村はそれを発動する。


「【魔皇】……! クハハ! さぁ、殺戮ショーを……始めようか!」


 圧倒的な力の奔流を前にして敵対していた全員が恐怖で浮足立つ。


「き、きしゃまぁ……!」

「アレなんだよねー……折角部位鍛錬で鍛えてるのに【金剛玉】とかで拳を覆うのは何かアレだったんだ。この体なら素手で行けそう。精々頑張ってね。」


 次の瞬間、自らが死んだことを知覚する前に半径10m以内の全ての敵対勢力が死滅した。


 50m以内、自らが死んだことを知覚したとほぼ同時に死亡した。


 100m以内、前方の味方が死んだことを知覚し、迎撃準備をした時点で死亡した。


「なんだ。もう終わりか……んー……ちょっと力入り過ぎかな。理想よりも動いてしまう……あぁ解除。……やっぱり慣らしはいるよ。」

「なの! ごしゅじんさま、つかっちゃったなの? こんなのに?」

「……いいじゃん。」

「こんなのに、だいじなごしゅじんさまのじゅみょうを、つかういみがあったなの?」

「……問題点が分かったんだよ。それに薬飲んだから寿命減ってない。」

「ならいいなの……」


 環境にも甚大な被害を与えた今村はそう言いながら救出した本の下へと戻り、ついでにサーシャを連れてクルルと一緒に街に戻って行った。




 イマムラ ヒトシ (17) 魔  男


 命力:10286(前回+102)

 魔力:10334(前回+112)

 攻撃力:10344(前回+189)

 防御力:10252(前回+109)

 素早さ:10261(前回+157)

 魔法技術:12336(前回+101)


 ≪技能一覧≫


  【特級技能】…【玉石】【悪魔王の方途】

 【上級技能】…【言語翻訳】

 【中級技能】…【気配察知】【複魔眼】

 【初級技能】…【奇術】【水棲】【調合】


 ≪称号一覧≫

 【不羈ふきなる悪魔王】【戦場の悪夢】【戦屍蛮行】【真玉遣い】【異界の超越者】【薬師】


 現在所持金…200万G

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