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あぁウザい。

「ガハッ……」

「起きろ。屑めが……」


 また、朝が来た。執事は外見だけは健康そうな体で再び勇者共の肉人形にされるために周囲を監視の兵たちに囲まれながらこの部屋から連れ出される。


 あれから5日ほど経った。気持ちの悪い目玉を通して連れて行かれた執事の様子を見るにアレの心が摩耗して【黙玉】なしでもほとんど言葉を発することがなくなる程度には酷い扱いを受け続けている。


「屑が! 死ねよ!」

「あなたの心情も少しは分かります。いきなり異世界に飛ばされて、しかも使えないと言われる……想像を絶する心細さだと思います……が、それは人を殺めていい理由にはなりません。貴方が殺したあの子はそれはそれは心優しき少女で自分にも何かできることはないかとあなたの部屋に行ったのですよ? それをあなたは一方的に殺害した。それは許されることではありません。罪には罰を。勇者様方。彼の罪人に罰を。」


 糞王女が……今日もまたウザい演説をありがとよ。罪には罰を。貴様を殺しに行くときには是非とも使わせていただくフレーズだな。


「エアカッター! ふん。この国の刑罰は少し行き過ぎな気もするけど……この人には物足りない気がするよ。あの子は、本当にいい子だったんだから……あの子の亡骸を見ると……ふ……こんな、ものじゃ……エアハンマー!」


 涙交じりに言ってるそこの屑。亡骸を見た? なら、首から上を切り落とされてたの見なかったのか? 俺の能力は【玉】だぞ? この城の奴らは俺が玉偏で刀とかの刃物を使えるのを知らないはずだが?


 おっと、いいのが入った。陥没骨折どころじゃない。粉砕骨折だ。


「……いい気味よ。あの子はもっと、苦しんだはず……」


 悶え苦しんでる執事を尻目に吐き捨てるようにそう言って立ち去る女。そして回復が行われる。


「っぎぃやぁあぁぁぁああああっ! あがっ……あげぇっ! ぁ……あぁ……」


 ……痛みなしで回復してやれよ。最初はそうしてただろうが……胸糞悪い。最近更に扱いが悪化してるな。っ! ぅえ……回復させすぎだろ。回復箇所だけ異様に肉が盛り上がってる……


 そしてその箇所はまた別の奴……風貌から察するに不良かな? そいつに何の衒いもなく斬られた。執事から絶叫が迸る。


「……こりゃ、流石に精神崩壊したかな? 今日は俺に対する悪口雑言は無しになるかもな。聞くに堪えんものだから丁度いいが。」


 そんなことを考えながら姿を変えたまま城の外から城内に帰る。拷も……丁寧に尋ねて知った裏口がとても便利です。


 ただ、あの執事は何を考えているのか知らないが未だに拷問してない時の俺に対してだけ異様に強気で「今なら楽に殺してやる。さっさと俺に掛けた術を元に戻せゴミ屑!」とか、「生きる価値すらない汚物の癖に俺を盾にするのは何事だ!」とか「さっさとくたばれ役立たずが!」とか……後はもう短く「キモいんだよ!」「死ね!」「能無しが!」とかその他彩り豊かなバリエーションで罵倒してくる。


 尤も、彩り豊かなバリエーションにも限りがあるのでネタ切れだなと思ったら物理的に寝かせているが。


「さて、今の内に飯を手に入れに行かないとな。」


 身代わり君がボコられている内に俺は執事の部屋に向かった。何か毎回毎回執拗に顔を狙って来る奴がいるのでそいつの気が済むまでの間は執事の顔に化けて移動し、そして事前に頼んでおいた食事を頂く。


 気が済む頃には顔はグチャグチャだからしばらく顔は【幻玉】かけなくていいから楽なんだよね。


 俺の所に来る者は兵士たちの残飯ならまだいい方で、時折誰かの物かは知らないが汚物が載っていることなどもあった。


 ……あれ、誰が載せたんだろ。少し気になったが全て執事に処理させた。俺も鬼ではないので流石に汚物は選択肢をあげたが……


「お、今日はこんなモノか。米食いたいなぁ……あ、よ。猫。これ食う?」


 今日の食事は98円6個入りのバターロールにも劣るパン。とスパイスを利かせていない塩味だけ濃いスープ。後美味しいお肉と魚。


 最近よく見る森で出会ったあの猫に魚の一部をあげて俺は食事を開始し、部屋の中にある金目の物をバラして懐に仕舞う。


 因みにこれらの物は先ほど城下街で俺が不特定多数の商人から名前買いで買った物だ。


 城内を知らない人物が歩いているのにも特に気に留めない上、城を観光場所として扱うこの国の城は俺に対しての行動も込みで、頭おかしいんじゃないだろうか? と思ったが好都合なのでいいことにする。


 で、不特定多数の商人から物を買う理由は三つ。


 単純に財産として持ち運びに易く、何かしら財産になりそうなものを買っていること。現金も結構あったが、一人旅には心もとないので金は集められるだけ集めている。


 そして、不特定の者を城内に歩かせることで万一の可能性で術が破られた時に宝石商の振りをして誤魔化すことが出来るようにするという目的。


 そして、情報入手のため。買ったら商人は機嫌を良くして世間話の際に饒舌になるから。


 その話だが、甘い汁を吸いたい奴とか、情報通ぶりたい奴なんかに適当に相槌を打つだけで色々知れる。……それでまぁ酷い事実が結構あった。


 勇者召喚に当たっては1人の召喚に対して植民地にした隣国の子どもたちや貧民層の子どもたちから1000人ずつを生贄にしていること。


 魔王というのは単なる魔国の王で、こちらから一方的な宣戦布告と奇襲で攻撃を仕掛けて今逆襲を受けていること。


 ここは人間至上国家だが北にある帝国などの他の国では普通に、平等に多種族が協力して生活していること。


 ついでに言うと、この人間至上国家としての自負が国民を国粋主義みたいな状態にして全員洗脳状態みたいなことにしているため、国民には団結力があり犯罪は少ないそうだ。それを下地にしているため、城の中でも外部の人間でも王国民であれば特別な間以外は有料で観光してもいいらしい。寧ろ、王国民なら生涯に一度は来るのが義務になっている。


 メッカかよ。


 そして元々この大陸は6つの国で構成されていて、この国では亜人と呼ぶ他種族が統治していた共和国に言いがかりをつけて攻めて属国にしたこと。


 そして、この国に関してだけはその他種族に対して何をしても犯罪ではないと言う決まりがあるとか。

 完全にモノ扱いで、奴隷になった他種族を壊したら持ち主に対して賠償しないといけないらしい。


 まぁ、ある意味では普通だが……その他にも考えられる屑国だと思った物は結構あった。その他にも知っておいた方が良いと思えるようなものは片っ端から手に入れておいた。


「っと。そろそろ肉人形を虐める遊びは終わりか。」


 そろそろ座学の時間になる。勇者たちに一般教養を身に着けてもらうために開かれているその時間は、俺をハブり嘲笑の的にする時間でもある。


 それにしても執事はボロボロだなぁ……最初の方は何か変な体術っぽいやつで勇者(笑)に抵抗出来てたけど、今じゃチート性能の奴らにボコられるだけだから最初のが煽りにしか使われてねぇ……


「おい、そこの役立たず。何をのろのろ歩いているんだ? 勇者様方のご迷惑だろうが! 少しは物を考えろ!」

「……あの、ゴミ……じゃないですね。今村……さん? 汚いので城の中に入らないで頂きたいのですが……あぁそうでしたね。一応、招かれた人でしたね。汚物でも招かれてしまったのでした……大変失礼致しました。どうぞ、この結界の中をお進みください。お城の皆様に汚い風が当たるといけませんので。」


 ……執事は大変な目に遭ってるな。あれ全部俺に向かって言ってるんだからこいつらも皆殺しにしよう。だって、罪なき者に冤罪を与える真に罪深き者たちだからなぁ……断罪の罰を与えないと。王女が言ってた使命ですから!


「……にしても毎日毎日飽きもせずによくあんな豊富なフレーズで俺のこと罵倒できるよな。毎日会議か何かで俺のことを罵倒するフレーズ決定でも行ってるんかね?」


 そんなことを考えながら……うん? 何か一人俺の扱いについて王女にやり過ぎ論を主張してる奴がいるな。しかも、この勇者(笑)の面々の中でもかなりの主要メンバー……イケメン主人公(笑)系の男。


 だが、遅いぞ? もう少し早く言ってくれればよかったのに。まぁそれでも言ってくれる分だけマシか。


「……ちょっと不信感の種を蒔いておくか。」


 ということで俺は執事の顔のまま外に出て侍女に頼んで彼を夜に呼び付けることにした。












 ……午後は基本トレーニングと強制回復による部位鍛錬、それに俺の虐められる光景を見ながら授業を受けるのに勤しんでいたんだが……俺、滅茶苦茶色々なことしてるが、何で使えないとか思われてるんだろうか……? 順調に攻撃魔法とか覚えてるんだが……


「……来たぞ?」


 色々考えている内に勇者(笑)の中で何か典型的な主人公(笑)の男が呼び出しに応じて城の裏にある森に現れていた。


「……待っていたぞ。早速だが本題に入らせてもらう。」

「……あぁ。わざわざこんな所に呼び出してどうしたんだ?」

「……王国の闇を、教えてぅぐっ!」


 ……あ? ………………刺し、た?


「……成程。王女が言っていた通りだった。」


 整った顔立ちを歪めてこいつは闇夜の中でも光り輝く【光】の力で具現化した剣を血塗れにして俺に告げた。マズイ。こいつ、思ったより話が通じない。


「あの男は……今村と言ったか。誰かが少しでも庇う姿を見せると懐柔してくるらしいが、もう手を出したか。」

「な、何しやが……?」


 左肩を刺し貫かれた。【光】の権能により焼き貫かれているのでもはや痛みを感じないが、ただでは済んでいないだろう。


「……王女が言ってくれたんだ。国は皆が一致団結しているが、タルポワール侯爵家の……貴様は、物欲に塗れた屑で、最悪女の為に国の威信を捨てる男だと。つまり、お前は今村から小野さんの身柄を買って、ボクに交渉をする役目を請け負った。違うか?」

「ち、違……」

「問答無用!」


 訊いておいて何て言い草だこのゴミ……王女の言い逃れと権力争いの愚痴から論理飛躍しやがって……死んでも呪い殺してやる……絶対に許さない。絶対に殺してやる。祟ってやる。


 の前に、生きる足掻きを見せましょう。


「っ! 防御陣か!」


 見えない宝玉で剣を阻むと体勢を整え直し、対峙する。瞬間、茂みから何かが飛び出して目の前のゴミの注意が俺から逸れる。


「にゃ?」


 っ! さっき魚あげたお猫様! 貴重な一瞬をありがとう! 多岐に渡る選択肢を探って全体を見ていた俺と俺を殺すことだけに集中していた屑との間に立て直しで差が生まれる。俺は猫様がいる方の茂みの中に逃げ込んだ。


「くっ! 待て!」

「貴様、絶対に覚えておけよ……全く異なる言いがかりで私を刺しおって……」

「許さないのはこっちの方だ! 次に顔を合わせた時は覚悟してろ!」


 屑が……あぁうざってぇ……取り敢えず、城に戻ったら執事の部屋で治療と今回の件について言及しよう。



 ゴミ屑勇者はしばしの反省の為に投獄され、俺は傷跡は残るものの執事の顔をしているため、回復されながら一部を吸収し、ずっと見ていたおかげで治癒魔法が【薬玉】と合体して万能治療術【癒玉】を覚えた。


 そして怪我の為に僅かに落ちた体の機能と、元々の能力を取り戻すためにリハビリと、加えてトレーニングを更に加えて日々を過ごしていたある日、事件は起きる。




イマムラ ヒトシ (17) 人間 男


 命力:50

 魔力:40

 攻撃力:32

 防御力:55

 素早さ:33

 魔法技術:68


 ≪技能一覧≫

 【特級技能】…【玉】

 【上級技能】…【言語翻訳】

 【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀術】

 【初級技能】…【剣術】


 ≪称号一覧≫

 【異界の人】


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