魔族領
「おぉおぉぉおぉぉぁあぁぁぁあぁぁぁちきしょぉおぉおおぉおぉ……」
今村は、後悔していた。
(もう少し、もう少しで、魔族領に、魔族領はまだか!)
【玉壁】で飛ぶ。その案はよかったのだが、その後がダメだった。
(何で、ここは物理依存なんだよ! そこは、何か……あー……)
空気抵抗がもの凄くて非常にブレて進み、今村は気持ち悪くなりながら魔族領に移動することになったのだ。
(ファンタジーのくせに……他の術はもっと緩々なのに……もうちょっと適当にやれよ……)
イメージで何とかなる物だと思っていたが、何ともならず強靭に鍛え上げられた体の三半規管でも長時間のランダムな揺れはダメで、今村は魔族領に入った後は割と長時間の休憩を入れることにした。
紛争地帯
亜人領に置いて行かれた3人の内、最も我に返るのが早かったのはルナールだった。
「……行っちゃったなら、仕方ない……この群のボスを決めるぞー……クルルちゃん。準備いいかー……?」
割とドライに立ち直ったルナールがそう言ってクルルとこれから群のトップを賭けた戦いをするためにクルルを揺さぶる。するとクルルは我に返った。
「な、の……なのぉぉおおぉおぉおぉっ!」
「おぉ……?」
「おいかけなきゃなの! なの!」
そして猛スピードで空へと飛び上がる。背中の羽から五色絢爛に輝く神々しい光を鱗粉のように落としながらクルルはこの場から消えて行った。
「えぇ……無理だろー……魔族領って言ったって、広いぞー……? 見つけるなんて出来るわけない……」
【懐刀】のことを考慮に入れても難し過ぎる。だが、パーティは今村が抜けただけで基本的には組んだままのため、大まかな範囲であれば自分たちの下へ帰って来れると自信を納得させて未だ呆けているアシュリーを揺り起こす。
「おーい……駄目だなー……どうかしちゃってる……」
ぶつぶつと何か呻くように呟きながらその場に蹲るアシュリー。声をかけても反応は殆どない。仕方がないのでルナールはアシュリーを背負ってローナが待つ宿に戻って行った。
「なの!? 何か、とべてるなの……びっくりなの。……それより、いまはいそがないとだめなの!」
高速で飛びつつ頭の中に新たに得た称号、【誠忠鳳凰】の使い方を何となく理解するクルル。その精度は以前より高くなっているため何とか今村の後を追うことが出来る。
「……でも、ごしゅじんさまのほうがはやいの……これいじょうはなされたらこまるなの……」
だが、今村の方は何度か休憩を挟んでいるらしく、ギリギリの範囲で追いかけることが可能だ。
「うぅ……はねが、つかれたなのぉ……でも、とまれないなのぉ……」
空にいる敵を瞬殺しつつクルルは死力を尽くして今村を追う。
それに対して宿に戻った2人とそれを待ち受けていたローナは暗い雰囲気で会議をしていた。
「……そうですか。大旦那様は……」
「だから、これからはルナがこの群の主だ。生き残らないとダメだから、これからはギルドの仕事を頑張んないと、ダメだぞ。」
アシュリーは会話に参加する気力もない。会話は二人だけで進んで行く。
「お金にはまだ余裕があります。大旦那様は1500万Gほど、退職金と書かれた袋に入れて、荷物の中に残して出て行っているので……」
「ダメだ。それは、あるじのだ。」
「使っていいと、仰られていましたが。」
「それを使ったら、ルナたちは本当に……」
そこまで言ってルナールはまだ自分が今村が帰ってくることを前提に話そうとしていることに気付いて首を振る。
「そーだな……それ、使ったら……2年近くはゆとりを持って生活できるな……」
「はい……ですが、それ以後のことを考えると今から行動は起こしておくべきだと思います。」
「やれることもないしな……」
ルナールはアシュリーを見てそう呟く。しばらく彼女には休息が必要だろう。基本的に劣悪な環境だったとはいえ、それが彼女にとっての普通で、居場所だったのだ。それが強制的に終了したショックは計り知れない。
「交代で、アシュリーちゃんの面倒と狩りに行くぞー……」
「しばらくはそうした方が良いですね。」
「まずは、ルナが行ってくる……イライラするし……」
「わかりました。行ってらっしゃいませ。」
「……アシュリーちゃんのベッドには入ったら駄目だからなー……」
そう言い残してルナールは宿から出て行った。
そして、3日後。
「あーまだいいや。うん。もう少しダラけよう。最近雑魚ばっかり倒してたからいきなり強すぎるのと戦うのもアレだし。」
今村は、魔族領に着いてすぐに休憩に入りつつ近辺の敵の強さに驚きながらそれなりに殺していた。
「強いねー……いや、やっぱり井の中の蛙になったら駄目だよ。確かにこの丸薬はもっと使う相手がいるわ。この辺の雑魚相手にこんな様でいくら強くなってもダメだ。うん。ここで休憩を適度に取りつつ地道に強くならないと。」
ついでに、飛ぶ際に当たっての【玉壁】の改良にも勤しんでいる。戦闘に【玉石】の内、石を混入させることで球体を歪にし、何とか流線形を描かようと四苦八苦しているのだ。
「β99まで行ったし、次はγ1からか……難しいよな。」
自分と同質量の石人形が倒れるとやり直し。より良い乗り心地を目指しながら今村はステータス上げと移動型【玉壁】の改良に勤しむ。
そんな折に、近辺の情報を集めていた【目玉】に見覚えのある影が写る。
「……クルルだな。おー……執念って凄い。あ、でも死にかけてる。しかも魔物に襲われてるなー……」
今村は放置するかどうか考えた。クルルは半泣きで戦いつつ一直線にこちらに向かっているようだ。
「集団に囲まれ……飛んだ! あいつ、飛べたのか……」
驚いていると【目玉】ではなく肉眼で見えるところにまでクルルは来ていた。それを確認すると今村は考える。
「んー……どうしよ。弱ってるらしくてあんまり高空飛行は出来てないが……殺すしかないのかなぁ……いや、まぁ一応話せばわかるかもしれないし……しばらく休憩中だから、助けるか。」
今村は【玉壁】を空中に足場として生み出して空を駆け、魔族領が魔境と呼ばれるに相応しいことを示すかのような強力な鳥のような魔物がクルルを捕食に向かったところへ飛んで行った。
クルルは恐るべき捕食者に気付く余裕もないようだ。完全に捕食できたと判断している目の前の存在に今村は【琨瑚】で思いっきり切り倒す。
「おらぁっ!」
炸裂音に驚いたクルルが勢いよく振り向くとそこには彼女がここまで追いかけてきた姿が。
「ご、ごしゅじんさまぁ……」
「今、後ろから刺したらお前もこいつに食われて死ぬからな? フリじゃなくて刺すなよ?」
「そんなこと、しないな……の……」
クルルは今村を涙目で見上げた後、弱々しくそう言って気を失い、墜落していく。
「……助けたのに死なれるって……仕方ない。」
「ひゃぶっ……」
目の前の存在の羽を斬り落としてバランスを崩したところでクルルの下に蹴り飛ばす。ひっくり返った状態で片羽がなく上にクルルを乗せた状態のその魔物が体勢を入れ替える間に今村はその上に着陸し、ほぼ同時にそいつを殺した。
「……さて、今夜は鳥肉の上、羽毛布団がまた増えることになるが……クルルを拘束してから話を聞くか。」
2メートル近いその化物を引き摺りつつ、逆の手でクルルを担ぎ上げた今村はそう言って【玉壁】で作られたかまくら式の自分のベースに帰って行った。
イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男
命力:4168(前回+103)
魔力:6284(前回+89)
攻撃力:6853(前回+117)
防御力:4213(前回+167)
素早さ:4974(前回+201)
魔法技術:6102(前回+102)
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉石】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】【王氣術】
【中級技能】…【気配察知】【悪魔の御業】【複魔眼】
【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】【調合】
≪称号一覧≫
【大魔導師】【真玉遣い】【美食の悪食王】【異界の者】【常闇の虐殺王】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘氣武王】【英雄殺し】【薬師】
現在所持金…200万G




