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いきなり

(邪魔……)


 今村は目の前に邪魔な物が2つあって困っていた。


 1つは、言わずと知れた下級魔族。知性はないが、繁殖力だけはある魔物に近い存在は毎日1000ほど殺してもすぐに増えてそこにいる。

 それが邪魔をすることで今村は魔族領に行けない。


 もう1つは彼がここまで連れて来た人々だ。今村が本気を出せばあるいはここにいる下級魔族の低い知能でも今村が脅威であることを学んで退くかもしれないのに、その本気が危険だからと出させないようにしている。


(……レベルが35を超した時に俺を殺すために逃げられたら困るっていうことと、その時に今より強くなられたら困るということを考えた上での行動か。それとも純粋に俺に死なれると困るか……前者だよな。でも、後者の可能性も0ではない。それがネックだよなぁ……)


 そんなことを、先日まで考えていた。だが、本日の今村は先日の今村とは違うのだ。


「……【玉壁】を、球体にして俺を包んで……空を飛ぶ。」


 昨日、暇させられていた時間に急に行けそうな気がした。そして、実際に行けた。高速での移動はまだ実験していないが、飛ぶことはできたのだ。


「……さて、アレだな……ここでお別れと言うことになるか。正直これ以上酷い光景ばっかり見せるのも可哀想だし……退職金は1500万Gくらいでいいかな。相場はわからんが……まぁ、1年は楽に過ごせるらしいし。そんなに金持ってないし。それでこっちの宝石は……魔族は基本的に金じゃなくて物々交換で物を得てるらしいから渡せないっと。おい、どこ行こうとしてんだ?」


 スライムは逃がさない。アシュリーにここまで運ばせた荷物の内、自分のこだわりである出汁などは全て自分で持ち、毛布などの必需品はスライムに持たせて準備を整える。


「お前は、俺と一緒。この世界にいる限り、ずっと一緒。オーケー?」


 嫌そうだった。だが、この件に関しては有無を言わさずに連れて行く。今日は昨日頑張ったため、午前中を休みにすることにしていた。

 しかし、朝から隣の女子部屋が結構うるさかったのでおそらく起きているのだろう。一応、挨拶はしてから出て行く。


「よー。じゃ、行ってくるからじゃあな。……元気でな。」

「……? どこに行くんですか?」


 中では何が原因かよく分からないが争いがあったらしい。ルナールとクルル、そしてアシュリーがローナとじゃれるようにして戦っている。そんな中で顔を上げたアシュリーが今村に質問すると、今村は普通に答える。


「んー……まずはギルドかな? あ、俺が泊まってた部屋に置いていく荷物はあるから必要に応じて好きに使ってね。」

「はい。ちゃんと頑張ります。」


 今村の言葉を荷物の番、そしてその荷物を守るためなら何を使ってもいいと言う風に受け止めてアシュリーは頷く。


「ありがとう。それじゃ。」

「行ってらっしゃいませ。」


 笑顔で見送られて、今村は宿を後にする。


「善は急げっと。行け、【目玉】たちよ。【常闇の虐殺王】の力で誰にも見えないお前らを止める者はいない。」


 無駄に痛い台詞だったな……と思いつつすぐに見つけたギルドに付くと、今村はパーティの解除を申請し、パーティの全員のステータスを初めて見る。


「おぉ……アシュリーが34……クルルは2度目の更新に差し掛かる所だ……いや、危なかったな俺……」

「……奴隷契約でも結んでたのかい?」


 口ぶりとパーティメンバーの年齢からして碌な主じゃなさそうだと判断したギルドの職員は眉を顰めて今村にそう言う。それに対して今村は頷いた。


「まぁね。今日で解約なんだが……」

「ならさっさとどっか行っちまいな。刺される前に。」


 すぐに契約解除を促され、今村は自前のスキルで作った契約書を以て全員との契約を破棄する手続きを始める。


「……こんな幼い子たちを、酷使して……ロクデナシ……」

「さて、そのロクデナシから質問だ。市場はどこだ?」


 亜人である本人にも聞こえない位の声量で言ったのにもかかわらず、目の前の存在がしっかりと聞いている上、書類を欠く手を少し止め、剣呑な光を目に宿しながら顔を上げてそう言って来るのを見て彼はすぐに正直に答えた。


「よし、じゃあこれが終わったら……そっちだな……」


 今村は【目玉】でその教えられた道筋の方面をしっかり押さえ、契約破棄の手続きを進めた。










 宿で、最初に異変に気付いたのはアシュリーだった。


「……! く、首輪が……!」

「なの?」


 ベッド間際の攻防を止めてアシュリーは首から落ちた隷属の首輪を慌てて拾い上げて首に押し付ける。


「あれ、えい…………アレ……?」

「壊れちゃったのかー……?」

「ローナちゃんのせいなの……」


 目に見えて焦り涙目になり始めるアシュリー。それに驚く、と言うより戸惑うのはローナの方だ。


「……かなり言いがかり的な感じで攻撃を受けた上にそんな扱いですか……」

「あれ……これ、これがないと……ご主人様が……」


 どうしても閉じる部分が閉じないのでアシュリーは手で押さえて首につける。その目はすでに泣きそうだ。


「……更新じゃないのかー?」

「でも、まだ、レベルは34のはず……【ステータス・クオ】……」


 アシュリーは戸惑いながらも自分のステータスを見て固まった。


「…………え……?」


 自分が見た物が信じられないのでアシュリーは一度、その表示を消してそれが嘘だと念じながら再びステータスを表示する。


 だが、そこには彼女が望んでいた文字はない。


「どうしたんだー?」

「ない……なんで……?」

「なの?」


 ルナールとクルルが心配してステータスを覗き込むと彼女の状態の欄に何も書かれていないことがすぐに目に入った。


「え……? あるじに……何か……?」

「す、【ステータス・クオ】なの!」


 クルルが確認し、ルナールも確認する。だが、両者ともに今村の痕跡の影も形もない。


「どうし……どうしよ……なんで…………え……えぇ……?」

「落ち着いてください。まずはギルドに確認しましょう。大旦那様も、ギルドに向かわれたということですから情報はあるはずです。」


 ローナの一言で大混乱していた一行に1つの目標ができ、行動に移った。それに続こうとしたローナは荷物の存在を思い出す。


「……早過ぎます……」


 その一瞬で、全員いなくなっていたのでローナは必然的に留守番役になってしまった。










「おぉ……?」


 ギルドの扉が勢いよく開かれる。何らかの敵性勢力が来たかと殺気を飛ばしたり戦闘状態に入るギルドの人々だが、現れた人々を見て何とも言えない声と共に殺気などを収めた。


「ふーっ……ふーっ……こ、ここに、黒髪の、男の方が……」

「あるじは【幻玉】で普通金髪に見えるぞー……とにかく、イマムラって人が来たはず……」

「だれか、しらないなの?」


 周囲に気を遣うほどの余裕のないクルルの【傾城の美幼女】が発動し、魅了された職員が今村との先程のやり取りをそのまま報告し、少女は激昂した。


「……あるじの、馬鹿がぁぁっ……!」

「何で……どうして……い、嫌だ……置いてかないで……」

「とめないと、だめなの……行っちゃ、ダメなの……!」


 3人は急いで今村を追い、ギルドを出る。激昂するルナールと泣きながら跳躍し、飛ぶようにして移動を開始するアシュリー。そして半泣きで飛ばすクルル達は上空に今村の姿を発見する。


「いた!」

「とぉおぉまぁぁあぁれぇぇっ!」


 今村の前に勢いを殺さずにそのまま飛び込むルナール。それに気付いた今村は少しだけ驚いてそれを躱し、ついでに全員が揃ったことにも気付く。


「おぉ、もうバレたか。悪いね。いや、悪いことしたのは知ってるけどさ、ここで殺されるのも困るわけよ。」

「何言ってんのか、全然、わかんねーぞ……?」

「ハッハ。まぁ、俺の予想が当たってようが外れてようがどっちでもよかったんだけどね。俺は俺なりにこれまでのことを感謝してるよ。だから、こうやって攻撃されても反撃せず、殺さないで置いて行ってあげようと思ってさ。」


 その言葉でアシュリーとクルルはルナールを大声で呼びとめる。


「ダメです! 誤解されてます! ルナールさん!」

「とまるなの!」


 ルナールも行き違いに気付き、止めるための行為を停止して地に降りる。


「ルナたちは、あるじを嫌いでこんなこと……」


 だが、攻撃がなくなるということは今村の発信を妨げるものがなくなったということだ。今村は笑顔で手を振った。


「じゃ、ここからは出来るだけ良い人生を。最悪アシュリーに精神介入して貰って治しな。これまでありがと! さらば!」


 高速で飛んで行く今村とその球体。3人は忘我の状態でそれを見ることしかできなかった。




イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男


 命力:4065(前回+12)

 魔力:6195(前回+18)

 攻撃力:6736(前回+11)

 防御力:4446(前回+7)

 素早さ:4773(前回+12)

 魔法技術:6000(前回+15)


 ≪技能一覧≫


  【特級技能】…【玉石】

 【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】【王氣術】

 【中級技能】…【気配察知】【悪魔の御業】【複魔眼】

 【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】【調合】


 ≪称号一覧≫

 【大魔導師】【真玉遣い】【美食の悪食王】【異界の者】【常闇の虐殺王】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘氣武王】【英雄殺し】【薬師】


 現在所持金…200万G


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