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禁術

 この世界には世界を創り上げた創造神がいて、3柱の子どもがいた。


 長女 ヒュマイン

 次女 ラクシャ

 長男 マスタロト


 長女が基本的な能力には乏しいものの集団で力を発揮する基人を、長男が個で力を発する魔族と獣人を作った後、次女がそれらをじっくり観察して両者のいいところ取りをしたフィッラという一部だけ獣人や魔族の形をした基人を創り上げた。


 そして、創造神は世界を託し、姿を消す。残された子どもたちは誰がこの世界を統治するか揉め、自らの力を使うと世界自体が壊れることを危惧し、代理戦争と言う形で優劣を決めることにする。


 そこで最初に滅ぼされたのは次女のラクシャのフィッラの一族だった。彼女が生み出したその種族は、長女と長男の模倣であり、それが気に入らなかった長女と長男が結託し最初に滅ぼされたのだ。


 この背景から、フィッラに似た亜人は魔族からも基人からも嫌われることになり、残された両者も覇を争うことになり、世界は定期的に魔族と基人の争いが起こることになったのだ。





「とか何とか言ってました。途中で出てくる男がウザいし亜人を救う物語だから次女ラクシャを崇めてるけど物語にならない位弱いし、話自体が長かったから端折りまくったらもう終わったんですが……こいつらは何で寝てるんですか?」

「……喧嘩売ってるんですかねぇ?」


 幽霊はすぐに意識を取り戻した今村を前にテーブルに用意していた紙を握り潰して睨んだ。その最初の一文を見て今村は尋ねる。


「あなたが我に返った時、私はここにいないでしょう?」

「……分かってるなら、黙っててくれませんか……!」

「ん~……で、こいつらが見てるのは俺と同じ物なのかな? でもあの禁術は俺しか使えないのに……」

「……あなただけですとその禁術を使い放題しそうだから、彼女たちも飛ばしたんですよ……!」


 幽霊は目の前で笑っている男を睨みつけて苦渋の顔をしつつそう呟く。


 水晶玉に残された禁術、それは自らの命を「たま」と解釈し、それを材料として全ての能力をフルに開放する術だ。


 【玉壁】以外には宝石しか出せなかった先代の【玉】の勇者がどうにかして周囲を助けたいと思った際、心臓の部分に【玉】が埋め込まれ、その生命力を代償に強大な力を振るった。


「でも、俺は彼よりも大分……それこそ10倍近い命力があるんで、結構使ってもいいと思うんですが……?」

「それでも、命を削ることには変わりないでしょう? あなたの性格を考えると体を慣らすとか言って常時使いそうなのですよ。」

「……まぁ、そりゃ……」


 強すぎる力を急に得ても制御できなければ意味はない。なので試運転は必要だと思うのだが? と思いつつ取り敢えず今、使ってみたいんだけどな……と思う今村。


「……今でしたら、私の力で軽減するから……少しだけ、使ってもいいです。」

「『我が命を以て王の力を顕現せよ!』【皇】!」

「躊躇いとかはないんですね……」


 軽く素振りをして小屋を破壊してしまい、やはり制御が必要だと痛感した今村はすぐに元に戻す。


「あぁ、小屋のことなら心配は要りません。」

「直った……流石ですねー英雄様の右腕は違いますわー」

「……心の籠ってないお世辞ありがとうございます。さて、そろそろ私もあるべき場所に帰らないと……」


 そう言って目の前の存在は体に光を纏いながら真面目な顔で今村を見据えた。


「……まずは私の、私たちの争いに巻き込んであなたの人生を狂わせてしまったこと、本当に深く謝罪します。」

「あぁ……まぁそこまでお気になさらず。実害は気分と肩の傷だけだし。」

「そして、これからも私たちの思惑の所為で迷惑を被ってしまうこと……誠に申し訳ないです。」

「はいはい、で?」

「こんな物で許して貰えるとは思いませんが……あなたのパーティメンバーに私の力を足させてもらいました。」


 その言葉に今村は憮然とするが、思考を変える。


「……まぁいいです。」

「……あなたには『生命の丸薬』を。これを飲んだ状態で【皇】を使えば負担は軽減される……ですが、何度も言うけど【皇】はあんまり……」

「やったね。ありがとうございます。」

「聞いてないですね……でも、これで少しは許してくれますか?」

「まぁはい。」


 あまり歯切れのいい返事ではないが、それで光を放ちつつ天に昇り始めた目の前の存在は十分だったようだ。笑顔を見せると最後に告げた。


「では……【魔神大帝】様、頑張ってください。」

「絶対に許さん。待ててめぇ。除霊してやる。」


 最後にしてやったと言う顔で消えて行った主人を見送るかのように黒猫は一声にゃあ……と鳴いて天を駆け、消えて行く。


「……ちびくろ。か……まぁ悪気はなかったんだろうな。」


 黒猫が城でのことを伝えたのだろう……黒猫だから、可愛らしい目力の強い命の恩猫だから、仕方ない……そう自分に言い聞かせて破壊衝動を抑えると今村はその辺に横たわっている面々を見て首を傾げる。


「……一人、増えてる……?」


 ブロンドの髪をして、現在眠っている為【傾城の美幼女】がフルに発動している何故か天使に羽が大きくなったクルル。


 長い猫っ毛の髪は三角の猫耳付近の頭頂部が真っ黒で、毛先に行くほど淡くなり、最近ようやく少しだけ肉付きが良くなってきた童顔のアシュリー。


 硬めの髪質で狐色の直毛をし、大き目な狐の耳をしており、何故か尻尾が4本に増えたルナール。


「……で、これは?」


 そして、この中に一人だけよく分からない人が転がっている。


 黒髪、端正な顔立ち、引き締まりつつも出るところはきちんと主張しているその体に黒い翼が生えている。


「……知らない人ですね。取り敢えず捕縛しておくか。」


 そういうことで今村はその美女を後ろ手にして【金剛玉】で拘束し、足にも同じように付け、ベッドに座らせて……体重が後ろに行って壁に頭をぶつけた。


「……起きないな。よし。」


 案外難しいな……ということで横にした。そして最後の仕上げに口に猿轡を噛ませて完成だ。


「……にしても、幽霊なのにベッドあるって何でなんだろうな? 割と貴重な機会を逃したのかもしれん……」


 今更ながら幽霊の生態が気になり始めた今村だが、いないものはいないので取り敢えず座って紅茶を飲み、お茶菓子を食べながら全員が起きるのを待つ。


「あんまり起きるのが遅かったらおいて行くか……正直アシュリーとかはキツいことやらせすぎてる自覚はあるしな。常人じゃ無理だろ。……俺は、普通の人だがほんの僅かだけ、極々微量にズレてることは否めんから大丈夫だが……」

「な、の……おはよーなの……」


 最初に起きたのはクルルだった。彼女は起きてすぐに今村の方へとてとてやってくると座っている今村の太腿に乗り、抱き着いて来る。


「長くて、こわいゆめ見たなの……」

「端折ればよかったのに。」

「……むり、なの……」

「あ、ズルい。」


 次に起きたのはルナールで彼女はクルルが今村に撫でられているのを見て自分もと椅子を隣に持って行って撫でるのをせがむ。そしてアシュリーが起き、それとほぼ時を同じくして縛っておいた美女が目を覚ます。


「……お、起きたか。」

「はい……あの、それで……あちらの方は?」

「さぁ?」

「え、あるじが拉致って来たんじゃ……」

「……お前はそう思ってたのか……」


 ルナールの発言に今村は微妙な顔をしてクルルを降ろし、全員でベッドの周りを囲む。


「これが幽霊の正体だったらどうする?」

「違うって頸振ってるぞー? おっぱいもついでにすっごく揺れてるなー」


 自分の胸元を見て軽く凹むアシュリーはペットの死喰い烏に慰めてもらおうとしていないことに気付いた。


「あれ……?」

「何だ?」

「いえ、今あまり関係ないんですが……ぁ? あれ……? 使い魔のパスが……」


 アシュリーは目の前の美女に自分の使い魔のパスがつながっていることに気付いた。その気付いたことに気付いた美女は激しく頷く。


「……もしかしたら、彼女……死喰い烏のピーちゃんかも知れません……」

「ひじょーしょくなのかー?」

「そーいえば、はねがひじょーしょくみたいなの。」

「……お前ら、死喰い烏のこと非常食と思ってたのか……」


 割と驚愕の事実に今村は驚きつつ、一先ず猿轡は外して話を聞いてみることにした。




イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男


 命力:4053

 魔力:6177

 攻撃力:6725

 防御力:4439

 素早さ:4761

 魔法技術:5985


 ≪技能一覧≫


  【特級技能】…【玉石】

 【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】【王氣術】

 【中級技能】…【気配察知】【悪魔の御業】【複魔眼】

 【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】【調合】


 ≪称号一覧≫

 【大魔導師】【真玉遣い】【美食の悪食王】【異界の者】【常闇の虐殺王】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘氣武王】【英雄殺し】【薬師】


 現在所持金…1710万G


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