表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/64

現状把握は大事です

「さて、許さないことは決定したが……現在の俺がどんな状態か、世界の情勢はどうなのか。……分からなきゃ復讐方法も困るよなぁ……」


 ということで、午前中に俺は術を駆使しつつ人目を忍んで王城の裏にある森の内部に来ていた。ここで一応体の状態などを調べる予定だ。


「……まぁ、叩いた感じの体の締まり具合的に考えると、動きはそこまで問題ないはず……」


 高校に入ってからもきちんと鍛えることは止めていなかったらしいので話は早いとばかりに【琨瑚】の刀を出して素振りをする。


「うん。振り下ろす動作とか……キツくならないし、まぁ、いいだろ。つーか日常使わないこの動きが大丈夫ならまぁ他のもイケると思うんだが。」


 そうは言う物の、実際に動かさないとその場所の状態はしっかりとは認識できないので突き、胴回打、扇打、回打、大回し、二段回打、燕返、山落などをやって動きを確かめる。


「……まぁ、大太刀じゃないしこんなもんか……じゃ、次は体捌き……」


 そう言うと、今村は刀を戻し、自然体から左構えを取る。


「ふぅ……転換法からやって四方投げ行くか……」


 何となくそう決めた今村はこの辺の動きも問題ないことを確かめて頷く。そして次が難色を示すところだった。


「で、問題はこれなんだよなぁ……部位鍛錬はやって、ると思うんだが……いやどうだろ? やっててもこの世界の物の硬さによっては、鍛え直しも……」


 そう考えつつ、今村は最初は適度に弱めた力で森の内部にある適当な木へ掌打を放った。


「ふむ。全っ然痛くないな……まだいける。」


 徐々に力を入れて行く今村。そして異変に気付くのはすぐだった。


「……この木、脆くないか……?いや、柔い気が……」


 拳の強度を知るために木を撃っていたのだが、思いの他、この木は柔らかいようなのだ。取り敢えず、他の木を殴ってみるがそれでも結果は同じだ。


「そりゃ、そうだよな……堅そうな木をパッと見で選んだんだから……」


 まだ引手を意識しない腕の力だけの突きであるにもかかわらず、これ以上力を入れると木が折れそうなので不完全燃焼ながら今村は手を引いた。


「次は、突きと蹴りか……まぁ見た感じは固そうだが……つーか殴っても全然痛くないから多分余裕だが……一応、ね。」


 正拳、裏拳、打ち上げ、打ち下ろし、どれも本気で殴ると木が折れそうなので不完全燃焼のまま蹴りへ移行する。

 上段、中段、下段と全ての蹴りを放つがこれも木が折れると流石に姿を隠していても怪しまれると思われるので木に対しては止める。


 そして目に入ったのはそれなりの大きさの岩だった。


「……行ける、か……? 強度が同じなら……殴るくらいなら、行けるが……蹴りはどうだろうか……?」


 木を殴った時の感覚から、多少わくわくしつつ、最初は拳を壊すのが怖いので弱く岩を殴る。そして、だんだん強くしていき……


「割れた……!やったぜ……岩の構造も硬いし……中学の時は礫岩しか割れなかったからなぁ……いやいや、成長したもんだ。」


 割れた欠片を見て今村は満足気に頷く。高校の時には既に割れていたのかもしれないが、それでも今見ると嬉しいのは事実なのでちょっと余韻に浸ってから蹴りについて確かめる。


「まぁ、足の裏ではそりゃ行けるよな。」


 執事の部屋からパクッたブーツで岩に皹を入れて今村は普通に頷く。


「爪先も……まぁ、ブーツだし行けるよな。」


 岩に爪先を減り込ませてこともなさげに今村は頷く。そして一般的には非常に歪んだ笑みととらえられる本人の楽しげな笑みで今村は脛を撫でた。


「……行けるか……?」


 普通に考えれば、無理だろう。だが、ここは異世界。信じれば、行ける気がした。


「まぁ、それでも最初は慎重に……」


 軽く蹴りを入れる。この時点で骨に響くような衝撃はない。今村は楽しくなってきた。


「死ね……死ね、死ね。死ね。死ね……」


 怨念が通じたわけではないだろうが、最後には岩は割れた。それを見て今村は満足気に頷き、その場を後にする。


「にゃぁ……」

「ん?」


 その後ろ姿に何物かの声が聞こえた。と言っても、この声の主は姿形は異なれど、種族は限られている。


「お、猫様だ。やっほ。元気?」

「にゃー……」


 そこにはやたらと目力が強そうな黒猫がいた。野良猫とは思えないほどの美猫だ。だが、何となく疲れているような、元気がなさ気に見える。


「ん? 何か元気ないな……餌かな? 持ってないんだが……あ、いや待てよ、あるわ。【璞】」


 今村はネズミ肉を出して警戒しているのか一定以上は近づかない猫に対してひらひら見せる。


「まぁ、来ないだろうな。……置いてくよ。じゃあな。」


 そう言って今度こそ今村はその場を後にした。











「さて、昼食も済ませたし……部屋に帰って情報収集と行きますか。」


 今村は執事の部屋で執事に化けて昼食を摂ると、本来与えられた部屋に戻り、そこにある残飯を本物の執事に処理させて他の勇者候補生たちが勉強している場所へ【目玉】を飛ばす。


「ん~……蠅の視界だからなぁ……色が何となく赤紫なんだよな……しかも魚眼レンズみたいで見辛いし……まぁその代わり全部がスローモーションに見えるから情報を捌くには問題ないが……」


 そこで、最初はこの世界の常識を質問形式で学んでいた。うわっ! 気付いたのか小野……お、小野が何か【目玉】にドン引きしながらも説明してる言葉とか文字を書いてくれてる……


 良い奴だな。つーか書くの早っ! あれか、ステータスの恩恵か……チートめ。ズルいなぁ……言義ままだが……



 Q.自分たちは本名で名乗ってもいいのか?


 A.いい。過去、何回か異世界から勇者を招いており、彼らは下々の民にも分け隔てなく愛情を注いだため、多種多様な名前が揃っており、日本風は寧ろ冒険者などに多い。


 Q.物の売買、貨幣に関してはどうなのか?


 A.心配しなくとも、国から支給する。お付きを付けるため、その者から定期的に金を貰うこと。


 貨幣についてはこの大陸を構成する国の内、永世中立を謳う独立国が発行する金属貨幣が共通貨幣となっており、


 1G=小銅貨

 10G=大銅貨

 100G=銀貨

 1000G=小金貨

 10000G=大金貨

 100000G=翠緑貨


 という十進法で成るらしい。 


 王国の庶民の家庭の平均可処分所得が200万Gらしく、物価の目安は大体1G2円くらいのようだ。



 質問の他にも知っておいた方が良い事などの説明がある。この大陸は5つの大国と多少の小国で成立しており、


 1.アクアリス聖教国(=王国)

 2.アエリウス聖国(=帝国)

 3.ラウスタン・~(=魔国、~はその時の王の家名が入る)

 4.エーセ中立国(=独立国)

 5.メルクーア小国連合(=連邦国)


 が基本的な国々となっており、賛美や侮蔑の言葉を省略し、訳しなおすと


 1の王国が今いる場所で、人間が多い。ついでに基本形のニンゲンに対する賛美が強そうだ。この世界を創ったと言われる女神信仰が盛んであり、神託なども降りやすいとのこと。王族貴族によって支配されており、1王5侯の合議制。気候は日本でいう春っぽい感じで安定しつつ、一応四季がある。大陸の東側の海岸沿いで、縦長のようだ。


 2の帝国は多民族で成り立っている。多神教で実力主義。宗教の力があまり届かないところなので手広く広げられた冒険者ギルドなど大手の本部の多くはここに移転したらしい。気候は北部と南部で違う。南部は王国と接しており、王国と同じ。北部は気温が下がる。大陸の東側から中央に掛けて横長のようだ。


 3の魔国。王国の戦争相手で帝国同様、多民族国家。無神教で超実力主義。基本的には紛争地帯だが、現在は強力な王の下、人間界に宣戦布告して来たらしい。気候には四季があり、大陸の中央山脈を挟んで王国と接し、北部の山脈が途切れている辺りで帝国と接している。大陸の西側で痩せた広大な土地のようだ。


 4の独立国は基本的に魔国へ入る時以外は関係ないらしい。平等主義で全ての国に属しない。少数に莫大な力を代々継承する特殊な魔術を行使しているらしい。人員が少ないので領土を広げることは出来ないが防衛に関しては最強と言える。直接民主制。空中に浮いている。気温は魔法によって設定されている。


 5の連邦国は一切関係ないようだ。水生の知的生命体の国。海にいるらしく一応国として参加はしているものの、実際は陸のことに興味は持たない。ただ、侵入などに関しての取り決めの為に結託しているだけのようだ。



 ……参考までに、覚えておこう。鵜呑みにしたらダメだからな……歴史とかの改竄を教育されたまま教えられてる国を元の世界でも知ってる身として、そのくらいの自衛は必要だろ。


 後で書庫あたりに【目玉】を飛ばしたり市勢の方にも耳を傾けねば…… 



 そして、時間制度


 1年=12ヶ月=360日

 1ヶ月=6週間=30日

 1週間=5日

 1日=24時間


 となり、元の世界と若干違うようで、30分以降は漠然とした感覚らしい。時々季節がズレたなぁ……と感じた時に独立国によって伝達が行き、暦は修正されるらしい。




 この最後は魔法の概要のようだ。


 【特級技能】は文献を基にしたり、感覚などで個別にするが、それ以下の物についての説明があった。


 上級技能に魔導がある者は3節以上から成る単語で何かするらしい。その際には行為自体よりも結果のイメージが重視され、イメージは瞬間的な物で構わない。また、常人としては家系で秘匿される特殊な術式や個人で開発した術式が多くあるようで、熟練度が低いと不発。


 中級技能程度の魔導は2節で成る単語で何かして、大体【エル~】だと攻撃系。【ウル~】だと付与や回復系になる。

 行為の意味を理解しないと不発。ただし、本人の感覚によって発動できる者もいる。その場合、詠唱が特殊になるとのこと。


 初級技能程度の魔導は無詠唱、もしくは1節から成る。行為のイメージが持続する間効力を発する簡単なもののようだ。


 さて、講義が終わったら実践の開始だ。その間に俺は【幻玉】で姿を変えて仕込みと情報収集に出掛けますか……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ