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足止め

 紛争地帯はまだ続いている。今村たちは現在、魔族からも人間族からも嫌われており、獣人ですら中立の亜人族のエリアに居た。


「……あー……魔族、ウゼェ……」


 今村は丸耳をした店員が運んできたお茶を飲みつつ不快気にそう呟く。クルルとルナールはジャムパンを食べつつ今村を見上げる。


「進めないなー……」

「よわいけど、おおすぎなの……」

「しかも経験値的に不味過ぎだし……」


 【闇夜の虐殺者】が【常闇の虐殺王】に変わるほどの虐殺を行っても竜巻を割と本気で行っても相手は減った様子を見せない。


「……頑張れば、皆殺しに出来るが……いかんせん、臭過ぎ……殺すのに頑張る気を損ねるな……」

「匂いはキツいですね……」


 今村たちはここで足止めを食っていた。増えまくる知性の低い魔族たちを越えれば荒れた大地に強力な魔獣たちが住まうとされる魔族領なのだが、そこに行くには魔獣たちに駆逐されて辺境に逃げてきた彼らを越えなければならない。


「あー……隕石でも降らせるかなー……でも【玉】が主として発動してないと使えないんだよな……」


 【玉】、その言葉に何かが反応した気配がした。こちらに向けられる気配に今村は何となく気付いて周囲を見る。


「どーしたー?」

「……いや、何か……変な気配が……あっちか? アシュリー、何かこっちを窺ってる気配はないか?」

「……結構、あります……あの、クルルちゃんとルナールちゃんを見てる……」

「ついでにお前もな。……じゃなくて、俺を……お、猫様だ。」


 こちらを見上げている黒猫がいた。その目力の強さはその辺の魔物よりも凄いと思わせるものだが、今村的にはこちらを見上げて逃げないことが割と高ポイントだ。


「おー可愛いな。」

「にゃぁ……」

「……ご主人様、この子……付いて来て欲しいそうです。」


 アシュリーの言葉に今村は目を見開いた。


「え、お前……猫語分かるの……?」

「あ、……はい……え? 私、猫人って……」

「大きな声じゃ言えないが、俺の出自知ってんだろ。」


 割とアイデンティティに近い物を知らないと思われてアシュリーは混乱するが今村の言葉で異世界だと知らない物なのか……と納得して復活し、一行は勘定を済ませて猫に付いて行く。


「……町を出たな。」

「まもののつかいまだったらどーするなのー?」

「そん時は皆殺ししてこの猫はお仕置きとして超モフって連れて帰る。」

「もふもふしたいならルナが代わりになるぞー? 狐、超可愛いからなー? 猫には負けんぞー?」

「……猫、可愛いです……!」

「とりもいいなの。」


 イヌ科の狐とネコ科と鳥類が争いを始めるのを魔人は無視して猫の後を付いて行く。


「……お猫のお宿に連れて行ってくれんのかな?」

「違うらしいです……あの、近くに建物があるんですが……そこに変な気配があります。そこに真っ直ぐ向かっているようです。」

「どんな気配? 超猫がいっぱいいる?」


 アシュリーは今村が猫好きであることを初めて知って満更でもなさそうな顔で答えた。


「いえ……巨大な魔力があるのですが……生気はないというか……」

「幽霊みたいなもんか。」

「……幽霊……」


 あまり考えないようにしていたことをずばりと言われてアシュリーは尻尾をピンと張る。


「ん? 何だ? ファンタジーなんだからいっぱいいるもんじゃないの?」

「ぐ、グールやリッチのような肉体を持って蘇る存在はありますが……幽霊のように実体を持たないのは……怖いです……」

「ルナも嫌だなー……攻撃効かないし……」

「ズルいなの。」

「そういう問題なのか……因みに俺は人並みに霊感あるから多少祓うことはできるぞ。」


 そんな世間話をしつつ今村たちはアシュリーが予告した通り小さな小屋に着いた。その瞬間、扉が開いて猫はその中に入るが今村は近くにある石碑を見てそちらに興味が移ったらしくその文字を読む。


「……英雄ここに眠る……アシュリー何か知ってる?」

「あの……扉が開いてるのですが……」

「今、こっちだろ。紛争地帯の英雄って何か知ってる?」


 アシュリーは扉の近くに何かしらの不明な気配が移動しているのを感じつつ今村に告げた。


「……おそらく、タジマ様かと……あの……気配がこちらに……」

「誰?」

「……亜人の地位向上を目指して戦ってくれた、昔の勇者様です……それで。」

「へぇ……」


 アシュリーの感知には既に扉から顔をこちらに向けているのが窺えるが今村は自分の記憶を遡って思い出しにかかる。


「タジマ……何か聞いたことがある気が……」

「あなたと同じ、【玉】の力を持ってこの地に舞い降りた英雄よ。」

「……あぁ、そうだ。【玉壁展開】の関連の時に……」


 その言葉をきっかけにして思い出した今村は今村が連れて来た誰の声でもない声に気付き、声の主を見る。


「……扉を開けて待ってましたが。その石碑の説明は中でしますので先に入って下さい。」

「あ、そうですか。それではお言葉に甘えてお邪魔します。」

「……すっごく釈然としませんが、はいどうぞ。」


 急な態度の変化に微妙に釈然としない声の主、その姿にアシュリー達は臨戦態勢に入る。


「ご、ごしゅじんさま、それ……ゆーれーなの!」

「知ってる。つーか見ればわかる。ご丁寧に足もないし。」

「……この異世界人は……城の時からちびくろを通して見てたけど……直に見ると改めて何か……アレね……」


 幽霊は蟀谷に手を当てて難しそうな顔をし、そう呟く。


「あ、あるじを城の時から見てたのかー? 何のために……」

「それを今から説明してくれるんだろ。さっさと中に入れよ。」

「……あなたが言うのね……」

「え、言わないんですか……?」

「言うけど! あー……何だろう……」


 疲れた顔をして今村を家に招く幽霊。そんな彼女を見て今村は考える。


(若作りしてるのだろうか……してるんだろうな。多分、英雄とか言われてる馬鹿と一緒に旅したとかそんな間柄で、今更な情報をくれそう。国がどうのこうのとか。)


 そしてその予想は当たる。若い女の姿の幽霊は今村たちを部屋に招くと英雄と呼ばれた男がどういう人生を歩んで来たのか、何故今村が【玉】という理由だけで虐げられたのか。その理由をつらつらと述べてくれた。


「……つまり、過去反逆して来た【玉】の勇者のとばっちりで俺は迫害されたという訳でいいんですね?」

「……そう。この世界に招かれる際、【王】としての能力を得ることができなかった余計な分の召喚者に与えられる【玉】の異界の民にはこの世界の神々の共通認識が与えられず、世界に混乱をもたらすと言うことが彼によって示されてしまったの……」


 以前、帝都で話された宗教上の問題。それがここでも問題になるそうだ。


「……その辺のことも、詳しくはこの水晶玉に触れてくれればわかる。彼が生み出したこの水晶……早いわよ!」

「え、触れてほしいと言いながら差し出されたんで……」


 その直後、今村は意識を飛ばされる。それを見たクルルたちが幽霊に睨みを利かせて攻撃態勢に入るが、彼女の方が早かった。


「あなたたちも、見に行きなさい。」

「な、の……」

「う……」


 全員が昏倒し、一人だけ意識が残っている幽霊は話の間に今村に出していた紅茶の残りを自分のカップに注いで、軽く空を仰ぐと呟く。


「……私も、遅れちゃったけど……今、そっちに行くよ……」


 その姿は、儚い笑顔で……そして、その体は光に包まれ始めていた。




イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男


 命力:4053(前回+10)

 魔力:6177(前回+108)

 攻撃力:6725(前回+218)

 防御力:4439(前回+8)

 素早さ:4761(前回+212)

 魔法技術:5985(前回+111)


 ≪技能一覧≫


  【特級技能】…【玉石】

 【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】【王氣術】

 【中級技能】…【気配察知】【悪魔の御業】【複魔眼】

 【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】【調合】


 ≪称号一覧≫

 【大魔導師】【真玉遣い】【美食の悪食王】【異界の者】【常闇の虐殺王】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘氣武王】【英雄殺し】【薬師】


 現在所持金…1710万G


【闇夜の虐殺王】…ステータスに補正。気配操作に大補整。


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