帝都の町で
「うん……付け焼刃にしては上等。……つーか、こんな短時間でここまで動かれると何かな……俺、一応基礎は3年近く頑張ったんだが……」
「ご指導が、上手でしたので……」
「……まぁ当時7歳だったから比較できんが……これだけやってれば一応、大丈夫だと思う。」
基本的な動き方などを延々と回復して続けていた根性のあるアシュリーを見て今村は頷いた。
「……薙刀は奢るよ。頑張ってたし。」
「! あ、ありがとうございます!」
と言うことで今村はアシュリーを連れて鍛冶ギルドへ行った。
「あいよ、いらっしゃい。」
筋骨逞しい壮年の男性が待ち受ける場所に案内され、今村とアシュリーは攻撃力順に並べられている武器を探して行った。
「……適正200越えは高いな……」
「あ、ぅ……その……」
「いや、買うけど。」
最近は前にも増してやたらと遠慮するアシュリーの言葉を流して今村は長物を見て行く。
「……長巻か……その手もあったな……」
「お客さん、冒険者かい? ……不思議な鍛え方してるねぇ……そっちの子は……スイング系かな? いや、刺突も一応……と言ったところだね。」
今村とアシュリーの上腕三頭筋などの腕を見てそう判断する鍛冶屋。今村的にはアシュリーは全然筋肉がないように見えるのだが、何故分かったのか不思議に思えた。
「……まぁいいや。アシュリーはどれが良い? あ、値段は言わないでもらえますかね?」
「おぉ? まぁ、いいけどよ……」
自分にお金を使われることに慣れていないアシュリーは非常に困った顔になって鍛冶屋に尋ねる。
「あの……安いのは……」
「あー……何かアンちゃんが怖いから詳しくは言えねぇが……基本的に魔金属が使われてると高いな。その割合が多い程。……これくらいならいいだろう?」
「安かろう悪かろうになったら困るんだ。お前の命を預けられるやつをきちんと選べよ?」
今村にそう言われてアシュリーは困りながらモノを選ぶ。今村はその間に別の物を見て楽しんでいるが、聞き耳は立てている様なのでアシュリーは目線で鍛冶屋に訴えかける。
すると、彼は微かに頷いてアシュリーが持った薙刀を見ると首を振った。しばらくの無言のやり取りの後、アシュリーが手に取ったのは静型の反りの少なく軽い薙刀だった。
(これ……軽いし、大丈夫だよね……?)
鍛冶屋に目線を向けると彼は大きく首を横に振った。それだけはダメだと目で強く訴えかけているかのような視線だ。
(う……じゃあ、こっちかな……)
「選んだ?」
「ひゃいっ!」
「……それ? 鍛冶屋さん。これ幾ら?」
驚いて声を上げてしまったアシュリーの持つ薙刀の値段を尋ねる今村。鍛冶屋は不味いと言う顔をしてしばし悩んだ後、恐る恐る口を開く。
「200万……」
その時点でアシュリーの顔が目に見えて真っ青になる。それに対して今村はいつもと変わらない何の感情もない目を向ける。
「だ……だったんだが、あんまりにも売れないから……その、170……」
今村が鍛冶屋の方へ視線を戻したときにはアシュリーは既に床に正座して地に伏していた。それを見た鍛冶屋は一度黙って今村の方を見る。
「ん? ……アシュリーが何か?」
鍛冶屋がアシュリーの方を見たので今村もそちらを見ようとして雰囲気が悪くなりそうなことを悟った鍛冶屋はそちらを見せないように大声を上げた。
「い、いや! こっちで会計の話をしようじゃないか!」
「……あぁ、はい。アシュリー付いて来いよ?」
今村は何も気にしていないようだが、アシュリーの方は耳を寝かせて尻尾を股の間に挟む完全な怯えの姿勢のまま少し震えながらその後ろに付いて来る。
「……なぁ、因みにアンちゃんとあの子の関係は?」
「奴隷と主人ですが。」
「……幾らで買った?」
「200万Gかな……」
「あの子の出身は?」
「アシュリー、出身は?」
「は、はい! 滅ぼされた下賤な共和国です!」
アシュリーの自虐的な言葉に鍛冶屋は哀しげな顔をして今村に再び訊く。
「……あの子と……夜は……その、シタのか?」
「しませんけど……何でそんなことを?」
「いや、何でもない。」
会計場所に着いた。鍛冶屋はアシュリーの売られるのは嫌だ……という小声の本気で怯えの交ざった声を聞いてかなり困りながら溜息をつく。
「何か?」
「いや……その子、大分不憫な生まれみたいなんでな……」
「まぁそうですねぇ。色々あったみたいですよ? ……あ、いつの間にか何かまた怯えモードに入ってる。」
「も、申し訳ありません……わ、私は、素手でも、頑張ります……生意気なんて言いませんから……お願いします……売らないで……」
「……あー、ちょっとアンちゃん。これ……流石に100万Gは割れないんだが……別のにした方がいいんじゃないか……?」
「いや、別にそれでいいんですが……?」
アシュリーは既に涙目だ。自分の服を掴んで何かを耐えるように力を入れている。それに対する今村の感情の動かなさに鍛冶屋は深く溜息をついた。
「分かった。赤字覚悟の98万Gで売る。……だから、約束して欲しい。この嬢ちゃんを奴隷商に売らないでやってくれ。」
「……? はぁ。まぁ……いいですけど……」
「絶対だ。」
何か変なこと言ってんなこのおっさん……ロリコンなのかな? と思いつつ今村は取り敢えず頷いておく。
「……それと、悪いがこの値段で買ったことは秘密にしてくれ。これ、大分不味いことやってんだ……嬢ちゃん。負けんなよ。」
「あ、ありがとうございます……!」
「いや、わざわざそんな不味いことされなくても……」
今村はそう言うが、何か変な世界が出来ている様なので放置することにした。
「はぁ……その薙刀の銘は【旭光】。『夜に沈め』というキーワードで手の平サイズまで縮み、『夜を開け』でこの長さになる。縮めている間に全ての修復を一瞬で行ってくれるから手入れも楽だ。」
「へ~……凄いな。」
「勿論切れ味は保障するし、アイアンドラゴンの希少な真鉄を精錬して作り上げた魔鉄鋼を使用してるから折れることも曲がることもない。……大事にしてくれ。嬢ちゃん……」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げるアシュリーに、鍛冶屋のおっさんは少し落ち込みつつ力無い笑顔を向けた。
「まぁ、俺には妻子もないし……金は貯まる一方だったからな。あんまり気にしないでくれ。あー、もうそういう話は良いから。アンちゃんたちはそれなりの腕をした冒険者なんだろ? じゃあアレだ。何かいい素材でも優先して持って来てくれればいいさ。ははっ……」
「いい素材ねぇ……例えば?」
他人の損は飯のタネと思えるような今村だが、見ていて哀れだったのでそう尋ねてみると少し首を傾げてから思い出したかのように怒り始めた。
「Aクラスの魔獣だと部位にもよるが魔力が籠っていていいな。……それで何で俺が苛立ち始めたかって言うとな、3日前だが……冒険者ギルドにな。大物が上がったって話があったんだよ。何でもクリスタルタートルの討伐に成功したらしい。だが……奴ら、その素材を独占してるんだよ……!」
「クリスタルタートル……」
「あのおいしい亀さんです……」
「あぁ、アレ。」
今村の会話に鍛冶屋はぎょっとする。
「アレ、食うのか!?」
「おぉ、血抜きして内臓放り出しても生きてるから素人にはお勧めできんがな。あぁ、アレいい素材なのか……じゃあこれも?」
今村はアシュリーに亀の甲羅の一部を出させた。
「おぉ……すげぇ……マジか……」
「いい感じの食器になるんだ。値引きのお礼にあげるよ。」
「……魔力がまだ大量に籠っていて、軽くて圧縮されたままだ……これはいい素材に間違いない……いや、にしても軽い……! 凄いな……どうやって……それなりどころじゃねぇ凄腕の冒険者じゃねぇか……! 今回の値引きはいい伝手が出来たことにするよ。創作意欲が湧き始めたから今日はここまでな。ありがとよ!」
満足したらしい鍛冶屋に見送られて今村たちは外に出る。するとそこには待ち構えていたかのような一団が揃っていた。
「冒険者ギルドのイマムラ殿ですね。帝都騎士団です。」
「……値引き交渉の結果ですか? 最終的にはこちらから素材を提供することで商談はまとまったんですが……」
先程の不味いことがもう起きたのか……鍛冶屋もグルだったらぶっ殺そうと思いつつ相手を見るとどうやら違うようだ。
「貴公の腕を見込んで頼みたいことがあります。城に同行を。」
「……城に同行することが頼みなんですかね。なら別にいいですが。」
「そこでお話があります。ご同行を。」
「それはギルドからの依頼ですか?」
「いえ、国からの依頼になります。」
その言葉を受けて今村はざっと騎士団に視線を向ける。誰も攻撃的ではないので正当防衛が出来そうな余地はない。
「どうしよっかなぁ……」
「ご主人様……」
見上げて来るアシュリーを見て今村は彼女を俵のように抱え上げて跳躍した。
「逃げるか。」
「ぅぐにゃっ!」
急激なGにより変な声を上げたアシュリーで居場所がバレ、騎士団たちが見上げる中で今村はアシュリーに道案内をさせつつ逃げ出した。
イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男
命力:3635(前回+4)
魔力:5660(前回+3)
攻撃力:6097(前回+5)
防御力:4026(前回+3)
素早さ:4139(前回+2)
魔法技術:5463(前回+4)
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】【王氣術】
【中級技能】…【気配察知】【悪魔の御業】【複魔眼】
【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】【調合】
≪称号一覧≫
【大魔導師】【真玉遣い】【美食の悪食王】【異界の者】【闇夜の虐殺者】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘氣武王】【英雄殺し】【薬師】
現在所持金…1710万G




