優しい対応
「まぁ要するにアシュリーは侯爵レベルのお嬢様で、今も共和国の深層の森で王国に抗戦してる奴らの旗にしたいから返してほしかったと。」
今村は要約して奴隷商にそう告げた。【鑑定】結果として出された茶には思考力減退剤が入っていたがその程度の毒は効かないので無視して飲む。
「……戦争へは参加させません。お嬢様も奴隷として旅暮らしをするよりも文化の同じ同族の下で暮らした方が……」
「ホントにな。」
文化の違う場所にいきなり召喚されて勇者と言う名の戦奴隷にさせられかけた今村はそこだけに同意して要求に対して条件を出す。
「じゃあ、条件を出させてもらう。」
「……はい。」
「一つ目。【中級技能】以上の【気配探知】と【地形把握】、そして【治癒魔術】を行使できて素早さの項目が1000以上。そういう奴を代わりにくれ。」
「……おりませぬ。」
交渉はいきなり決裂した。代案すら出さずに沈黙で今村を待つ奴隷商に話にならないと今村は席を立つ。
「じゃあ本人に訊いて来るわ。思考力減退剤を飲まされた俺は、ありのままを一切オブラートに包まずに、思ったことをそのまま告げた後でな。」
「何のことですかな。先の条件は無理でも、金額を上乗せすることは可能です。そちらで……」
「生憎金はそんなに要らん。欲しいのは従順な奴隷という名の人手だ。」
代案を出すのが遅すぎるとばかりに今村は不満気な顔をして席を立ったまま告げる。
「少し、この町にいる……その間に俺が食いつくような話をくれ。」
「……形はどうであれお嬢様がお世話になっていた方に……あまり、荒事にはしたくないのですが……」
今村は割とイラッと来たので【王氣術】でこの付近だけ殺気をばら撒いて奴隷商を睨みつける。
「死にたいらしいな。集まるまでは許してやったが……幾ら温厚な俺でも攻撃されたら正当防衛するぞ?」
「ひゅ……」
「何か言ったらどうだ? あ゛ぁん? 死にたいです。殺してくださいとか何とかよぉ……」
キタミを殺したことで【武】の力を吸収し、強化された武器、【琨瑚】の刀を出して奴隷商の首のすぐ近くに突き出す今村。薄皮が切れ、斬撃が館の壁を崩して外で待ち伏せていた男を吹き飛ばす。
「ば、化物が……」
「だから何だ? 死にたいって言えっつってんだろ。すぐに殺してやる。」
床を踏み抜いてさらに脅しをかける。その間に今村を敵と見做した者たちは皆殺しにして床にうち捨て、【目玉】を奪う。
「……ま、駄賃だ。今回はこれで済ませよう……良い目もあったし。この灰色の奴に感謝しな。次は、容赦しないからな……勿論、騎士でも呼んでみろ。この場所で、全力を以て相手してやる……」
「……我ながら愚策でしたな。次は、気を付けましょう……」
「そうしろ。」
【琨瑚】をしまって今村はその場を後にする。その顔は先ほどまでのことは全てなかったかのような良い笑顔をしていた。
市場に出た今村は人混みの中で雑音に掻き消されるように呟く。
「あー……視線で会話できるようになったわ。すげー……」
【アイコンタクト】という変な技で視線だけで会話が出来るようになった今村は面白いので道行く人々にバレないように一方的に使いつつ移動する。
「……眼精疲労になりそう。」
だが、連続して使い続けると意外と疲れることが判明し、疲れた今村は宿に戻ることにした。
「よぉ、取り敢えず俺が荷物見てるから好きな所行っていいよ。」
「し、指導を、お願いします!」
「……はぁ?」
戻って来た今村は急にアシュリーがそんなことを言って来るので扉付近に立ったまま首を傾げてベッドの方に向かう。
「……何の? 戦闘? ダイエット? 料理? 歩法? 拷問? 生活魔術? 調合?」
「せ、戦闘です……お役にたてるよう、頑張りますので、指示だけでも……」
(あぁ、売られる前にやれることはやろうと。……何か気乗りしない。アレかな。子どもと思える外見年齢過ぎてるからなぁ……何か思考だけじゃロリコンみたいだが……つーか、面倒……)
そんな感情が顔に出ていたのかアシュリーが表情を暗くする。
「ダメ……ですか……? ご主人様に頼る前に、自力で……図書館で調べようとしたのですが……駄目で……お手を煩わせ「おい、図書館あるのか?」……あ、はい……ただ冒険者だと、ランクがC⁺はないと入れないとのことで、門前払いでした……」
「……ランク上げるしかないな。」
アシュリーは今村に何かのスイッチが入ったのを感じ取った。復讐とは違うベクトルながら強い意思で行動を起こそうとしている。
「本、ここ最近読んでなかったからなぁ……まぁ多分笑えるのはないだろうが面白いのはあるだろ……そう言えばスキルとかもあるかね。」
「えと……」
自分の話は忘れられたのだろうか……と思い始めるアシュリーに今村は先じて言う。
「あぁ、今から結構依頼を熟すから……戦い方は見て覚えろ。後、魔獣の動きから学ぶのもいいんじゃね? 一応、口出しはしよう。」
「ありがとうございます!」
「じゃあ荷物持って。行くぞ。」
「クルルちゃんとルナールちゃんは……」
「知るか。俺は、さっさと、本を、読みたい。行くぞ。」
クルルとルナールはお小遣いで食べ物を買いに出掛けているが、少し前にクルルの称号に今村の場所が何となくわかる物があるということを知ったアシュリーは何とかなるだろうと思って荷物を持って移動を開始した。
「えぇと、C⁻のイマムラ様がランクC⁺に上がるには通常ですと1月ほど適正ランクのご依頼を受けてもらうことになります。」
「最短ですと?」
「危険ですのであまりお勧めは出来ませんが……B⁺級の依頼をクリアすることですね……それだと依頼を達成して3日ほどで更新されます……」
「なるほど。ありがとうございます。」
この世界に何度も来た自称勇者共のお蔭でその辺の規則は結構緩くなっているようだ。取り敢えずB級の依頼を探すことにする。
「アシュリー何見てんだ?」
その手伝いをさせており、ギルドからちらちらと視線を集めているアシュリーがあるページで目を止めていたので今村は声をかける。すると彼女は今村を見上げつつ言った。
「……あ、これ……美味しかったですよね……」
「あの亀か……A⁻だったんだな。討伐部位は……魔核。」
ルナールの皿のスープの肉の中にあって、ルナールでは硬くて食べられなかったし、今村は綺麗な光沢があるし食べ物じゃないと判断したので良い感じの皿になる甲羅の一部と一緒に取っておいた気がする。
「アシュリー、出せる?」
「あ、はい……確かこちらに……」
亀の真珠かな? という適当なノリで宝石商としての取り扱い品の中に入れていたのだが、どうやら割と凄い物らしい。
「……じゃあ取り敢えず持って行って討伐依頼達成かどうか訊いてみるか。」
「あ、あの……特訓……」
「待機中の3日で何か色々するよ。なぁに、幸いお前には優れた回復魔術があるからな……大丈夫大丈夫。」
早まった気がしたアシュリーだが、居場所を守るために頑張ることにして受付に依頼書と亀の魔核を出す。
「えっ……」
「たまたま、ありました。」
「し、失礼します……【鑑定】……」
そう言えば水晶玉の改竄をもう少し最新のものに更新しておかないと流石におかしいかと思った今村は【鑑定】を用いてギリギリ勝てそうな状態にステータスを改竄しておいた。
「……確かに、最近のものですね……分かりました。それでは書類の方を改訂させていただきます。」
「あ、それと多分長旅でレベルが上がっているのでステータスの更新をお願いします。」
それを聞いてアシュリーが僅かに慌てて背伸びをして今村に耳打ちする。
「あの、ご主人様のステータスは……」
「大丈夫だから。」
水晶に手を翳して大体の平均が200前後のステータスに見せかけて情報更新を終了する。
「成程……これでしたら……いいですか? 最初のデータがいつの物か分かりませんが、なるべく更新は頻繁に行ってください。皆様の安全に繋がりますのでよろしくお願いします。」
「はい。すみません。」
「……それでは、手続きの方はこちらでやります。3日後にお越しいただいてご本人様が必要な最終的な手続きを行いますので、3日後の午後におこしください。ありがとうございました。」
「はい。どうもです。」
そして今村たちはギルドを後にしてアシュリーのトレーニングへと移ることにした。
イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男
命力:3629(前回+13)
魔力:5656(前回+21)
攻撃力:6088(前回+5)
防御力:4020(前回+19)
素早さ:4135(前回+11)
魔法技術:5456(前回+7)
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】【王氣術】
【中級技能】…【気配察知】【悪魔の御業】【複魔眼】
【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】【調合】
≪称号一覧≫
【大魔導師】【真玉遣い】【美食の悪食王】【異界の者】【闇夜の虐殺者】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘氣武王】【英雄殺し】【薬師】
現在所持金…1818万G
【複魔眼】…2種以上の魔眼を使用。




