海辺の激闘
「くっ……ここまでの実力者だとは……」
キタミは突如として襲い掛かって来た男の力量に舌打ちする。舐めてかかれる相手ではなかったのだ。
(斬られた部分が回復しない……毒か?)
元々いた世界の影響から【武】の能力を付与されたのにもかかわらず、一部の魔術などを使えるキタミは忌々しく思いつつ初手で斬られた箇所を鑑みながら無言の猛襲を捌き、反撃する。
キタミの体が回復しないのは毒ではなく【玉】として吸われているからだが、それはこちらの【武】の力による【武器】でも同じことが言える。
(【癒玉】が効かねぇか……そんなこと考えてる暇はないが! くっそ、【目玉】の情報より大分厄介な敵じゃねぇか!)
想定外の動きのよさに今村は内心で舌打ちするが、それを一切出さずに攻撃に対してより大きなダメージを与えられるように避けずに斬りかかる。
それを察したキタミは攻撃の手を途中で止めて引き、浅い傷だけで済ませて今村を睨む。
「お前……そろそろ、調子に乗るなよ……?」
素早い手数の応酬から3発だけ受ける代わりに殺気を漲らせてキタミは闘気で身を包むと強烈な一撃を今村にお見舞いする。
「【玉壁展開】」
内心で焦る今村だが、それを別の術を重ねることで受け切り、相手に更なるダメージを与えることに成功する。
だが、その結果として【幻玉】の分まで【玉壁】へと回してしまい、素顔が明らかになってしまった。
「貴様……その顔は……確か……!」
「クルル! ルナール! そいつらを絶対に逃がすな! 死喰い烏! ジャミングを張れ!」
「若干、声が違う気もするが……屑ゴミ野郎の今村だな……」
これまでの目から一転して冷徹な目をするキタミ。それに対して今村は一瞬だけ嘲笑した後、再び詰め寄る。
「くっ……鋭い太刀……お前はこうやってあのメイドを……」
横薙ぎから首を刎ねに行き、避けられるとそのまままわし切りで足下を狙う。それを更に沖に逃れることでキタミは逃れ、腰まで水に浸かる中、今村は術式を行使する。
(【毒玉】!)
「くっ……何だ!? 『アスカノート』!」
危機を勘で覚ったキタミは彼の世界の術式でその毒気を払う。その結果、今村の毒にやられて近くの魚たちが浮かんでくる。
「斬波!」
「ふっ! はぁっ!」
術で払ったキタミがその追撃代わりに斬撃を繰り出すのを力技で潰し、お返し代わりに背後に回らせていた【タスラム】で後頭部に打撃を与えるが相手はそれも刀で受け止めた。
「うぐっ……」
頭への攻撃は避けられたものの、その代わりに最初に攻撃を受けていた左手の傷などから血が噴き出すキタミ。斬撃などで飛んだ塩水が跳ねかえり、傷口に沁みながらも相手は目を離すことも弱みを見せることも出来ない相手だ。
(……塩水が、痛む……隙を見せぬためにも凍らせるか……)
キタミは一瞬でそれを判断すると冷気を伴う斬撃で今村を攻撃しつつ冷気を操作して傷口に応急手当てを施し、感覚をなくした。
「これで、少しはマシだ……相変わらず卑しいマネばかり……!」
激昂するキタミに対して今村は無理矢理頭の中を冷静に保ち常に相手の全体を見て少しずつ削っていくかのような攻撃を続ける。
細やかには傷を作り合っているが、二人の戦況は硬直し始めた。
「しねなのー!」
「くたばれー!」
「可哀想な子どもたち……あの下衆に無理矢理戦わされているのね……」
「あの屑……こんな幼い子どもたちに汚い言葉を……!」
「お前らの方が汚い言葉使ってるぞー!」
今村たちが剣や斬撃、徒手空拳を主にして補助的に魔術を使い戦っているのに対してクルルやルナールたちは魔術を基本とした戦いを繰り広げていた。
その戦いは、終始クルルやルナールたちが優勢で進んでいる。理由は簡単だ。
キタミの陣営は戦いに対しての意識が薄く、ある程度待っていれば相手を倒したキタミがこちらに来て勝てると言う見込みを勝手に立てており、救ってあげるという余裕。ある意味では油断としか言えないそれを持っているからだ。
「おっと、またキタミの斬撃が……まったく、こちらのことも少しは考えてほしいものだ……つっ……サルヴァ、回復を頼む。」
「はいはい……あなたたちにも私の負担を考えてほしいわ……」
よそ見をしながら軽口を叩くほどの余裕があるキタミの陣営に対し、クルル達は容赦ない攻撃を与え続ける。しかもクルル達は今村の戦い方や、鍛えている時の動きを近くで見ており、それに習い全ての攻撃に対して意味を持たせている。
「ルナちゃん! できたの!」
「よーし! 合わせて行くぞー? 『風螺刃』」
「『さじょうらんぶ』なのー!」
キタミ陣営がいる場所が急激に陥没し、その上空から風の刃と水で固めねじれた砂が乱れ撃ちされる。
「くっ……」
「きゃあぁああぁぁぁっ!」
急な変化に付いて行けずに反応が遅れた所を乱れ撃ちされ、術が間に合わずに体中を傷つけられまくるキタミの女たち。
その中でクルルとルナールが狙っていたのは先ほどからずっと回復役に徹していた白い服の女だ。彼女だけを中心的に、執拗に攻撃して完全に息の根を止めたと確信するまで攻撃を続ける。
「サルヴァ! サルヴァーッ!」
「そこまでにしなさい! でないと、いくら強制された身とはいえ、許しませんよ!?」
「……アシュリーちゃん。あのひとちゃんとしんだ?」
「う、うん……」
クルルがアシュリーに確認を取ったところで『風螺刃砂上乱舞』という技は終わった。我が身を省みらず、すぐにキタミの女たちは集中攻撃を受けた女の下へ駆け寄り、その安否を確かめる。
しかし、そのようなことを易々と許し、隙を見逃すほど甘い者は今村の陣営にはいない。当然のように両者に風の術で加速した蹴りと拳を捻じ込んで気絶させるとそれを見下ろしつつ首を傾げる。
「よわかったなの。」
「んー……弱かったと言うよりー危機感がなかったなーこれ、一応生かしてあるけどどうするー?手足縛って人質にでもするかー」
「なの。もし、ごしゅじんさまがおおけがしてたらそうするの。」
「まぁないと思うけどなー」
戦闘が終わってから初めてある程度会話を始める二人。その内容は彼女たちが戦っていた相手の発言だ。
「こいつらに許してもらうことなんてないよなー? こいつら甘々ー」
「なのなの。じぶんがしんじることいがいはぜんぶうそとか、クルルでもおかしいときづくの。もっとじゅうなんにいきるべきなの。」
「クルルちゃんは柔軟過ぎるけどなー」
談笑しつつ手際よく人質の身体チェックを済ませて縛りつつ、アシュリーが運んできた毒物を飲ませ、一応猿轡をして術も使えないようにしておく。
「じゃあ……」
そして、今村の加勢をしようかと3人は海の方を見るがその光景に3人は完全に止まった。
「……かいじゅーだいけっせんなの……」
「近付くのも無理だなー……」
「ご主人様は一応元気そうですが……」
気配を見て一応そう告げるアシュリー。相手は気が昂ることで攻撃の威力は増しているものの、大振りになったり気が急いた攻撃で力が正しく乗る前に逸らされたりと殆ど今村の身に届いていないようだ。
対する今村は自分では頭の中は冷静ながらも【破壊の奇行師】が発動するほどの殺意と破壊衝動を発しながら海を裂き、岸辺を破壊するかのような技を繰り広げる。
「どうするー? 待ってるのもなんだよなー……」
「おーえんするなの。」
「が、頑張ってくださいご主人様ー!」
「多分遠いし、攻撃の爆音と化がうるさくて聞こえてないぞー?」
「こ、こういうのは気持ちの問題じゃ……?」
「てゆーか、ルナ的には耳が良いから近くで叫ばれると五月蠅い。」
一行は黙りつつ、キタミに人質を見せつけて動きが鈍るように仕向けながら今村の戦いを応援することにした。
イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男
命力:2500
魔力:5000
攻撃力:5000
防御力:3000
素早さ:3000
魔法技術:5000
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】
【中級技能】…【気配察知】【魔操氣術】【悪魔の御業】
【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】
≪称号一覧≫
【大魔導師】【双玉遣い】【悪食】【美食家】【異界の者】【闇夜の虐殺者】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘武者】
現在所持金…1270万G




