遭遇
「……やっぱり昆布出汁を手に入れると鰹節も欲しくなるよな……」
そんなことを言いながら今村たちは海岸を沿い、時折漁村などを通過しつつ北上していた。
しかし探している鰹は見つからない。アシュリー達に特徴を言い買い物をさせている間や野営中に今村が海に潜り漁と殺戮を通して急激に上がったステータスに対して技術が追い付くように動きながら探しているのだが多種多様な生物を見つけてはいるが、鰹らしきものは見つかっていないのだ。
「揚がってる魚を見た感じじゃ真冬の魚だから少ないのは分かるが……初鰹的なのがいてもいいと思うんだよね……」
「ごしゅじんさまー! みてみてなのー!」
「何だ?」
今村は10メートル級のクジラを仕留めて、脂の乗った尻尾付近の高値の部分以外は大体【玉】に吸わせつつ買い物を終えた女性陣を見る。
「これ、どうですか……?」
アシュリーが持って来たのは視力の悪い今村が遠目で見ると鰹に見える。しかし、変に期待するとこの前みたいにメジマグロ(本マグロの子ども)の様な可能性もあるので喜べない。
だが、
「……これは、鰹だ……」
今村の言葉に買って来たアシュリー達が喜びの色を見せる。しかし……
「いや、でも……ソウダガツオだな……ソウダガツオって血合いが多過ぎて鰹節に向かなかった気が……」
「だめなの……?」
「……どうだろ……小さいから亀節に……まぁ、でもありがと。釣り銭はいつものように小遣いとしてあげるから……」
そう言いつつ今村はふと気付いた。
「……鰹節作るのには流石に片手間じゃ無理……スライムみたいに便利生物もいないし……」
そこで今村は【目玉】で王国の情報を入手しつつ時間について考える。
(馬鹿どもは強くなるのを後回しにして何かこの世界に合ってない自分たちの正義感を無理矢理押し付けることを最近の仕事にしてるみたいだから、若干余裕があると言えばあるが……)
取り敢えず食事のために血の色をしたクジラの肉を切って刺身にしていく今村とまた珍しい物が食べられるとわくわくしてそれを待つ子どもたち。
(……俺が楽しく生きてること自体があいつらにとっての復讐にもなるとは思えるんだが……さて、どうするかな。)
「あ、そっちの肉はヤマト煮にするから。おかわりはなしね。」
「わかりました。」
そう言いつつ今村は醤油ベースのタレを煮ていく。そうして食事を摂っているとアシュリーがいきなり立ち上がった。
「集団が、来ます……かなり、強い方々です。敵性反応ではないですが……」
「……警戒はしておくか。」
アシュリーが見晴らしがよく、海以外に生物のいないこの場所で急に反応したと言うことはそろそろ5キロ圏内に入ったということなので今村は周囲に目を凝らし、それっぽい集団を発見した。
「……変な恰好してるな……」
戦闘の可能性を考慮して食事を終えた今村はそう言いつつ【目玉】を【闇玉】で飛ばしてその相手を確認し、歪んだ笑みを浮かべた。
「……アシュリー、敵性反応はないんだよな?」
「はい……」
確認すると今村は【目玉】たちをしまい、魔物であるスライムと烏には声は届くが、少し遠くへ避難してもらいつつ軽くストレッチする。
相手はかなりのスピードで近付いており既に肉眼で見える距離にいた。
「おーい、すみませーん!」
女性が多いパーティの中で唯一の男性が声をかけて来る。彼は通常ではあり得ない程の力がこもった刀を差したまま今村の方へと笑顔で近付いて来た。
「あの、それって醤油ですよね?」
遠くからの声掛けにアシュリー達は今村の方を窺う。今村は【幻玉】に力を入れて笑顔で頷きつつ答えた。
「えぇ。それが……?」
「よかったら、それを分けてもらうことってできませんか?」
図々しい言葉に後ろの集団の美形揃いの女性たち3人が窘める。当然、今村も何が良かったらだ……と思ったが、それをおくびにも出さずに了承する。
「えぇ。流石に全部とは困りますが……これを……」
「やったぁ! それで、これってどこで……」
「存分に喰らいな。」
男に見せ、分けてもらうために覗き込んでいたヤマト煮にするために沸騰していた醤油ベースのタレからをその男の顔面にぶつける。
「何す……ぅぐっ!」
間一髪で避けた男に対して今村は隙を逃さずに【琨瑚】の刀で斬りつけ、左腕の付け根を切ることに成功した。
だが、今村が思っていたよりも相手の動きは素早く、三角筋をある程度斬れた物の上腕骨が見えない程浅くしか斬れていない。
「チッ……」
「キタミ! 大丈夫か!? ……貴様ぁ……」
王国の紋章を付けた女騎士がこちらを睨んでいる。クルルやアシュリー達は今村の行動を見て戦闘態勢に入る。
「オイ。俺はそこの腐れ盗人野郎を殺す。……他は、任せた。」
「……勘違いしないでくれ! 俺は、盗人なんかじゃない!」
対する今村の反応は無言の攻撃。その踏込の早さに僅かな驚愕を覚えつつも相手はそれを受けた。
「嘘……」
戦闘態勢に入っていた両サイドから驚きの声が上がる。今村の陣営からは人外の今村の攻撃を受け切った相手に対する驚愕。そして、キタミと呼ばれた男に付いて来た女性陣たちからはキタミが受けるだけで精一杯になっていることに対する驚きだ。
「ぐぐ……強いね……でも、勘違いしてるんだって。俺は、単に醤油が欲しくてさ。故郷の、味が……」
「はっ!」
呼吸を変えて今村は爆発的な力を発し、キタミを波打ち際へ押し飛ばす。力負けしたことにキタミの陣営は驚くも、その間に今村の陣営が奇襲をかけた。
「待って! 本当に、俺は怪しい者じゃないって! ほら、王国の証明書。異世界から来たからこの世界の常識がちょっと欠けてるんだ……」
無言で今村は追撃する。打撃が通り、キタミの腕の骨が軋むほどの一撃が入るが、それでもキタミは話そうとしてきた。
「あぁ、そう言えば、そうだったね! ぅぐっ! 異世界からの痛いっ! 勇者たちは一つの力に特化……待ってって!」
「キタミ殿。ここは一度相手を倒してから拘束し、話をするしかないのではないでしょうか?」
「でも……実際、考えると……つっ……俺ら、怪しさ満点だし……ここ、帝国領だからね……」
「あの、ご主人様……お話くらいは……」
アシュリーが怯えつつ今村に進言する。だが、戦闘状態に特化した今村はその辺のものを全て雑事として片付け、猛攻を加える。
防御に傾倒しているにもかかわらず、捌き切れなくなってきたキタミは女騎士の言葉に従うことにした。
「あぁもう! 恨まないでくれよ!」
戦闘態勢に入ったキタミを見て女騎士一行は笑いつつ、攻撃を加えて来たクルル達へ反撃する。
「ふっ。大人しくしてな。」
「ああなったら、キタミ様を止める事は出来ませんからね……」
「何せ、あの人はここと同じような異世界を救った英雄様なのですから……無駄な抵抗は止めなさい!」
キタミの囲っている女性たちがそう言いつつ攻撃するのをクルルとルナールは避けて今村を横目で見た。
「……何かあるじが負けるのって想像つかないよなー……」
「……とりあえず、てきはせんめつなのー♪」
アシュリーは一応動けるものの、戦闘要員ではなく回復要員として専念することにし、戦いは二人に任せながら戦況を見守る。
「……この魔力量、我々も油断できんな……」
「怪我をしますよ。」
「皆さん……あの子たちの首を……」
白い服を着た女がアシュリー達の首下を指す。そこには奴隷の証である首輪が着けられていた。
「……あぁ、そうか。王国民として、元々は当然だと思ってきたから何とも思わなかったが……」
「えぇ、キタミ様の啓蒙を受けた私達なら、今為すべきことは分かるでしょう? あの子たちを救ってあげないと……」
「いみわかんないなの!」
「お前らに何言ってるんだー? 急に出て来ておいてー……」
妙なことを画策し始めたキタミ陣営を遠ざけるようにクルル達は戦闘を仕掛けて行った。
イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男
命力:2500
魔力:5000
攻撃力:5000
防御力:3000
素早さ:3000
魔法技術:5000
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】
【中級技能】…【気配察知】【魔操氣術】【悪魔の御業】
【初級技能】…【奇術】【水棲】【総耐性】
≪称号一覧≫
【大魔導師】【双玉遣い】【悪食】【美食家】【異界の者】【闇夜の虐殺者】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘武者】
現在所持金…1270万G




