海にて
「……何か、カワハギっぽい。こっちは何か鯒っぽいし……これは……鮟鱇? 冬の魚ばっかりだな。」
今村は市で色々見ながらそう呟いた。朝方の売り残りと昼に遠出した船から上げている物しかないが、それでもいい物がたくさんある。
特に、今回は醤油と味噌があるので大抵の物は美味しく調理できる。
「クックック……何にしようか。というより、この世界って俺がいた所と旬は同じなんだろうか?」
今村は色々見て回っているが、隣にいるアシュリーはどれを見ても名残惜しそうな目をして見送るので何かやり辛い。だが、その可愛らしい少女の見た目で小さな魚などくれる漁師がいて得はしている。
「取り敢えずカワハギ買おう。」
「おっ。らっしゃい。カワハギかい? んじゃ、この下処理した奴とかどうだい? 大特価の150Gだ!」
「肝和えにしたいからそっちじゃない方で。」
今村がそう言うと漁師は苦笑いした。どうやら軽く引いているようだ。
「……変わった人だね。ほれ。」
今村はカワハギを買った。そのついでに鮟鱇や鯵っぽい魚。それにアシュリーが目を離さなかった鯛を買って他に何かないか探してうろつき始める。
「……お、イルカだ。あれ食おう。」
「た、たべるの……?」
「……まぁ正確には時間かかるし、それでも臭いから肉より油メインなんだがな。術が効かなかったら時間かかるけど。実験台として……」
クルルが引く中、今村はイルカの頭を買った。
「……なの。」
「他は……何だこれ。見たことないな……つーか、風の匂いが甘い……?」
潮風とは別の匂いがしてきて今村は首を傾げる。そんな今村を見てクルル達は更に首を傾げる。
「うみがあまいのとからいのがあるのはとうぜんなの。」
「……内地の方に住んでおられたのですか?」
「でも一般常識だろー。ルナたちみたいなのと違ってあるじって教養人? とか言われるような教育受けて来た人だろー?」
魚は見たことあるものなのに海が甘いと聞いて今村は流石異世界と思った。もしも魚たちが甘かったらどうしようか悩む。
「まぁいいや。」
だがそれはそれでいいことにした。甘ければ醤油の味を濃くして煮付ければいい。
「味醂が欲しいなぁ……まぁ仕方ないけど。まぁ大体こんな感じで食い物を作るかな。」
「たのしみなのー」
「生でも……い、いえ。ご主人さ……イマムラさんが、お好きなように……」
「狐火の準備は出来てるぞー」
「……まぁ、ちょっと秘密のレシピを使うから人がいない所に行こうか。」
今村の発言に従って全員が人気のない海岸線まで移動して行った。
「いえー3分クッキング! まず、鱗を消し飛ばします。でも、俺が食べる奴は刺身なので【瑫】で小刀を作って普通に鱗を剥ぎます。」
「【あしっどうぉーたー】なの。」
「毒を抜きます。おっと、寄生虫がいた……? あれ? カワハギと思ってたのに肝に毒があるとか……何か騙された気分……まぁいいけど。」
鱗をこそぎ落すことなどせずに溶かして魔術で毒を抜くと今村は【瑫】の小刀で鰓の辺りに刃を入れ、皮を剥ぐと手で切り裂いていく。まずは刺身だ。
「……うむ。ちゃんと滋味があって甘くない。それに鮮度がいいからなぁ……弾力があって……醤油があってよかった……っ! ただ……! この際、麦飯でもいいから穀物が……儲かるからって規制してる国々は害悪だな。滅ぼそうかなぁ……」
「……まぁ、獣人よりも人間離れしてる魔人ですからもう一々驚くことでもないですか……」
魚を生で、しかも変なのと一緒に食べるのを見て諦めているアシュリー達は取り敢えず今村が食べていいと言うまで待つ。今村は【珣】で玉製の鍋を作るとイルカから油を取り出す作業に入った。
「【油玉】……いや~魔術って便利だね! 最高。で、油のついたイルカ肉を一応水で二回煮て……かなり時間かかるんだがまぁ流石ファンタジー。次に醤油に味噌を入れて……本当はこれに根菜でも入れないとアレだし、これ結構時間かかるんだよなぁ……本来であれば4時間は煮ないと臭みがとれないし……」
そう言いつつイルカの肉を火にかけた所で今村は鯛を1尾刺身に、半身を煮て、半身を焼く。その調理中に今村は1人で刺身を食べ続けており、その様子をアシュリーがガン見していた。
そして耐えられなくなったのか、アシュリーはもじもじしながら3人の中で少し前に出て口を開く。
「……あ、あの……わ、私も生で……お願いします……は、はしたなくてスミマセン……でも、もう……もう我慢が、出来ないんです……」
「……いや、いいけど。お前、醤油を無理そうにしてたが……刺身をそのままで食うの? いやいいけど……あ、もしかして塩で食べるとか?」
何か色々我慢したらしく変な声で恥ずかしそうに言われて今村は手を止めてアシュリーに尋ねる。アシュリーは色々考えた。
「その、変な匂いの、少しどろっとした液体って……どんな味なんですか……? あの……私、初めて見たので……」
「わざとなの? どんな味って……まぁ、しょっぱいけど……何て言うんだろうか? 複雑な味……?」
醤油の味ってどんな味と聞かれても今村は元の世界の自分の家の醤油と比べて甘いだの後を引くだの色々言うことは出来てもこの世界に一つだけの物の説明は難しく適当に言った。するとアシュリーはおずおずと尋ねてくる。
「す、少しだけ……舐めてみても、いいですか……?」
「いいけど……何だかなぁ……」
何となく言い回しが釈然としないので微妙な顔をする今村だが取り敢えずご要望にお応えして取り皿に溜まっている醤油を、持ち歩いている箸につけて目の前の少女の方に向ける。
「失礼します…………んっ……しょっぱ……でも、美味しいです……」
「ねぇ? わざとだろ? あ、クルルその鍋に水注しておいて。」
「なの……」
切り身の煮物の方に水を足しておく。すると醤油を炊く今村にとっては非常に食欲を誘ういい香りが漂った。
「だが米がない。馬鹿なんだろうか……? 最悪、アシュリー達に小麦粉を固めて練り合わせてもらってもいいのに、パンを国が売ってるから……やっぱ滅ぼすべきなんだろうか……」
「何か腐ったのとかどーでもいいなールナもこれ食べるぞー」
「くるるもなの!」
今村の落ち込みと物騒な独り言を余所に二人が何故か挙手して発言する。二人は醤油の出所など忘れることにして煮魚を食べることにしたようだ。
その様子をペット化しているヒューマノイドスライムはどこか恐ろしい物を見るような目で見ている様な気がした。
「まぁ、待て。煮魚は少し煮終えて時間が経たないと味がしみ込まない。この世界も多分それは一緒のはず……あっ!」
そこで今村は気付いた。
「……昆布出汁が……ない……だと……? 色々あって忘れてたが……これは……潜ったら見つかるだろうか……?」
今村の発言に全員が考えるような素振りを見せて頷いた。
「潜る……近海の浅瀬じゃなくて、ある程度深い所ですよね……」
「まぁ……あるじなら……」
「あぶないけど、たぶんだいじょうぶなの……」
「えぇい、どうでもいい……【玉壁展開】!」
今村は急いで【玉壁】の中に空気を溜め、ついでに目の部分にゴーグルとしてつけると適当に服を脱ぎ散らかして海の中に潜って行った。
(……昆布の旨味を考えるに甘い海の方がいいのだろうか……? ソルビット関連はどう……いや、安牌を取るべきだな……塩っ辛い海の海草を……なかったらマジギレするかもしれない……)
一応身の回りには海草がうようよしている上、様々な貝類も見受けられ、まさに食材の宝庫だ。しばらく進み、水の中に顔を付け始めると今村は自分の体の状態に気付く。
(……息苦しさがない。それに、圧迫感もないな……強化されたせいだろうか……いや今はそんな事より……)
海底を舐めるようにして見て行く。やたらと大きめの魚がいるが、今は置いておくことにして海草をじろじろ見ていく。
すると、目の前にやたら鋭い頭部をした変なフォルムの魚が現れた。そしてそれは今村の姿を見つけると猛然と襲い掛かってくる。
「……美味いのかな?」
今村はそんなことを言って魚を迎え撃った。
イマムラ ヒトシ (17) 魔人 男
命力:2500
魔力:5000
攻撃力:5000
防御力:3000
素早さ:3000
魔法技術:5000
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】【総合戦闘術】
【中級技能】…【気配察知】【魔操氣術】【悪魔の御業】
【初級技能】…【奇術】【総耐性】
≪称号一覧≫
【大魔導師】【双玉遣い】【悪食】【異界の者】【闇夜の虐殺者】【超理者】【魔物統者】【破壊の奇行師】【魔闘武者】
現在所持金…1280万G




