帝都までの道のり
アレクとクリスと別れたその夜。休憩にするために停まった場所でアシュリーは昼間に今村がアレクとクリスに対して言った言葉の真意を尋ねた。
「ご、ご主人様……その、王国に復讐というのは……」
だが、そんなアシュリーの言葉に今村は反射的に拒絶の意を示す。
「気にしなくていい。……そういやアシュリーは王国に恨み持ってるよな? 」
反射的に踏み込ませないようにした今村だったが、アシュリーは奴隷にされたのだから当然恨みがあるはず……ならば教えてもいいのでは? という考えでそう尋ねる。
だが、現在の生活にある程度満足しており、その上長い嗜虐用奴隷生活により心を折られある種の洗脳状態にあったアシュリーは、こちらも今村と同様にほぼノータイムで答えた。
「いえ、王国が正しかったんです。共和国が悪かっただけです。滅ぼされて当然でした。」
「……そうか。」
今村はてっきり戦勝国の常として王国の資料は改竄されている物だと思っていたのだが、被害を受けた側が庇っていることから少々思考を変えた。尤も、復讐を止める気は毛頭ない。それは面に出さずに魔力をせっせと練りながら本日最後のトレーニングのラストスパートをかける。
「あの……復讐は……何をするつもりなんですか……?」
一度、拒絶されたアシュリーだがそれでも彼女の主の旅の目的を知りたいと食い下がると今村は面倒そうな顔で答えた。
「関係者各位皆殺し。なるべく屈辱的に。」
今村は天気の話をするかのようにいつもと変わらぬ声音でアシュリーの質問に答えてトレーニングを終え、ステータスの確認をすると称号欄にまた何か増えていた。
(……今度は【悪食】か……まぁとりあえず毒を抜けば何でも食べれるって思考だったしな……)
【毒玉】を使えば大抵の毒は取り除けるので今村は色々なものを食べていた。その結果の出来事だろう。そんなことを考えている間にアシュリーは今村に何か言いたそうにしていた。
「あ……あの……その……ご主人様、私……あの……」
「……あ、そういえば帝国に入るし俺のことはご主人様呼びはなしにした方がいいかね……? いや、雇ってるって感じを出せば特に問題はないか……?」
アシュリーの変化に気付かずに彼女が言った言葉の一部に引っ掛かりを覚えながらこれからのことを考え、【悪食】の説明を読んでいると思っていた以上に使えるものだったので内心でテンションを上げておく。
そんな今村に対してアシュリーは訊きたい……確かめたいことがあった。しかし、それを真正面から訊くのには躊躇いがある。
アシュリーにとって目の前にいる今村という人物は頭がおかしいとしか思えない人物で、どこに地雷があるのか分からず踏み込むのが怖いのだ。
一度【バスボール】と言う彼が創る温水球の風呂の中に彼がいた時に彼女は見たのだが、肩に傷があった。
こんな人に傷をつける者がいるなんて……としばしそこを見ていると今村は嗤いながらこれをやった人物の名前と何をされたのかを言って確実に殺すと言ったのだ。
その時の今村の顔は目だけ全く笑っていなかった。薄紫がかったピンク色の傷跡をアシュリーが癒そうかと訊いても残すと即断わられ、その後浮かべた殊更深い笑みはアシュリーが怯えるには十分な物だった。
「アシュリー? どうした? 大丈夫か?」
「あ……はい……」
だが一方でこのように奴隷である自分を気に掛けてくれもするし、アレクとクリスのように何の得にもならない子どもの面倒を見たりするという一面もある。
以前、彼が臥せっている時にお使いすら満足にできなかったときにも許してくれてお礼までされた。
アシュリーは今村のことが分からない。目立つのが嫌だからと言う理由で先の温泉街での戦闘をしなかったのに、アレクとクリスを助けるための……そして嫌っていたはずのヤマナの弔い合戦とも言える戦闘は明らかに目立つのに行った。
(……復讐……? その目的の時だけ……)
アシュリーは何らかの理由があればそれで自分を納得させることができると思い思考を巡らせた。今の彼女は生命の危機に怯えることもないし、栄養のある食事も出来ている。
なので自分を納得させることができるような、そんな思考に至ったのも、納得がいく理由づけも早かった。
(目的のためには心を殺す……でも、本当は……)
アシュリーが勝手にそんなことを思っていることを知らずに今村は今村の方でアシュリーに思う事があった。
「……にしてもねぇ……王国を恨んでないって……変な奴だなぁ……あんだけ虐げられてたのに……まぁ子どものころから洗脳混じりの教育受けてればそうなるかもしれんが……奴隷だから……か。」
「クルルはニンゲンきらいなの! でもゴハンはすきなの! そしてごしゅじんさまはもっとすきなのー♪」
今村が同情的な目をアシュリーに向けると周囲の索敵をしていたクルルが話に混ざりたいと今村の方に飛びついて来た。
今村はクルルが人間嫌いだという理由を聞いて少し意外そうな顔をした。
「へぇ……あの時からもう意識はあったんだ……ってか、言葉分かるのな。」
「おんなのこだったからころすって……ひどすぎるの! あのひとはごしゅじんさまがいいっていったらかくじつにころすの!」
「あはははは。」
恐ろしいことを身振りを交えながら言う美幼女を笑いながら見る今村。その様子はまるで学校であったことを言えで話している兄妹のようにも見えるが、内容はおぞましい。
「んー……あ! ルナも人間嫌いだぞ! 喰いもしないくせに殺しに来やがるからなー」
クルルと同様に索敵に言っていたルナールも戻って来てすぐに同じ話題に混ざる。今村は人間であるはずなのに人間殺しにとても乗り気で人間を嫌っている一団に入っている。
「しかも趣味が悪い。ルナの父さまとか死体になって首から上だけ屋敷に飾られるらしいしなー。父さまを殺しに来てた一団の中の隠れてビビってた気持ち悪いのが言ってた。」
「……あぁ、剥製か。」
今村は頷いた。人間形態で考えるとさらし首に防腐処理をして延々と家のど真ん中に飾っている様なものだ。
「その点あるじって凄いよな。最後まで喰い尽くすし、何か分からんので骨まで食べるし。」
「……さっきそれで【悪食】の称号を得たよ。」
「ルナは喰わないでくれよー?」
「食うかよ……」
アシュリーはいつの間にか輪の中から外されている感覚に陥り、表情を暗くして火を見る。いつも自分だけ役に立っていない気がしているのだ。
最近に至っては今村が【気配察知】の一つ下の【技能】、【気配探知】を覚えたので本当に捨てられるのではないか。そう思うと気が気でない。一度人並みの生活に戻ってしまったのだ。あんな劣悪な環境に戻るのは絶対に嫌だ。
恐ろしい程の狂気の人間を前にしていてもあの環境に比べればここは天国以上の場所だ。もしここが壊れたら今度こそ死のう。幸いここではあの環境とは比べ物にならないほどの自由を与えられている。彼に危害を与えることは出来なくとも自殺は可能だ。
そんなことを考えつつアシュリーは静かに火を見る。火はアシュリー達を煌々と照らしつつ周囲に色濃い闇を残していた。
イマムラ ヒトシ (17) ヒト 男
命力:1410(前回+4)
魔力:3200(前回+99)
攻撃力:1784(前回+50)
防御力:1585(前回+14)
素早さ:1312(前回+7)
魔法技術:3213(前回+115)
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】
【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀剣術】【気配探知】
【初級技能】…【操氣術】【奇術】
≪称号一覧≫
【異界の人】【アサシン】【トリックスター】【魔物使い】【破壊の奇行子】【大魔導師】【魔人】【双玉遣い】【修行者】【武芸者】【悪食】
現在所持金…1290万G
【悪食】…経口毒への耐性・味覚操作・消化器システム向上・噛む力の強化・吸収効率上昇・捕食対象の能力の極々一部を吸収。




