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出立

「いや……うん。びっくりしたよ。まさか水蒸気爆発をねぇ……」

「くっそーっ! 畜生っ!」


 戦闘後、今村はアレクとクリスを称賛していた。


 今村はクリスが氷系の魔法を使う事を知って、細かい氷片を飛ばしてアレクの炎系の魔法で一気に気化することで起こせるかなーとは思っていたものの、彼らに思い付かれるものとは思っていなかったのだ。


 そんな今村に対してアレクは地団太踏み、クリスなどは涙目だ。


「あー……うん。まぁ結構強いと思うよ。冒険者にはなれると思う。」


 落ち込む彼らに今村は声をかけて励ます。今村が思っていたより何十倍も彼らは優秀だった。既に今の段階でも冒険者としてやっていける力量はあるだろう。ただ、今村(相手)がおかしかっただけだ。


「兄ちゃん……今回は……何が駄目だった? 俺……昨日クリスに爆発のこと聞いて、完璧に兄ちゃんから一本取れるって思ってたんだけど……」

「昨日聞いてこれかよ……いや……悪かったところねぇ……今回は相手が悪かったとしか……指摘できるにはできるけど……これは鍛え方と慣れの問題だからなぁ……」


 今から言うことは今村が指導した5日程度でどうこうできる話ではない。これは練度の問題だ。と前置きして今村は二人に話す。


「えーと、まず最初の水蒸気爆発からの急襲な。」

「すいじょーきばくはつって言うのかアレ……」

「……昨日言ったんだけど……」


 クリスが若干呆れながら突っ込むが、いつもに比べて覇気とキレがない。だが今村は続けた。


「あ、うん。別に【フォリアティックエクスプロージョン】でも何でもいいけど。」


 アレクの呟きに今村は何となく水蒸気爆発では攻撃名に聞こえないのでそれっぽく聞こえるただ英訳しただけの単語を教える。アレク的にこちらの方がお気に召したらしく何度か呟いて頷いた。


「で、あの急襲な、あの時に2人だったんだから一人で背後、もう一人はフェイント掛けて正面……とかだったら多分俺も処理に困ってた。」


 もっとも、【気配探知】がある上【武芸者】のスキルもあるのでそれはそれでおそらく対応していたと思うがそれは今回の話ではないので口に出さない。


「……後は本当に力と技の問題。例えばクリスの最初の技も扱いなれてて巨大な氷塊をぶつけながら細かい物までぶつけてきてたら俺も急襲に気付けなかったかもしれないし、アレクの振り下ろしが鋭ければ俺は避けてクリスとアレクの連携に守りの一手しか取れなかったと思うな……」


 こればかりは努力の問題だ。そう言って今村は両者の頭を撫でた。


「俺は色々あるからもう出るが……ま、一応俺が教えたことをやってればある程度の所までは力が付くと思う。そこから先はまた誰かに師事するか、もしくは独学で頑張れ。後は……まぁそんな感じかな。あ、忘れてた。ちょっと屑の粛清の為に動いてるから俺の名前は仮に行ったとしても王国じゃ出すな。俺の扱いは何か悪者だからな。」


 その言葉にアレクとクリスはしっかり頷いた。一応、今村が調べた感じでは王国でありふれた名前の一つだし、変装もしており【玉】なのに剣や槍とか魔法とか色々扱ってたので足はつかないだろうが……一応だ。


(まぁ、最悪バレても俺が魔王軍に付いて戦えば勇者とはり合えるんだが……まぁあんまり効率が良くないからしたくないな……)


 そんなことを考えていると何やら考えていたアレクは俺の顔を見てしっかりと目を見てから言ってきた。


「俺らも何か役に立てるかもしれないから、兄ちゃんの敵を教えてくれよ!」


 そんなアレクの言葉に今村は酷薄な笑みを浮かべる。


「いや、私怨だからな。言いがかりで殺された……敵討ち。それと、この前話しただろ? 王国の勇者召喚の裏側の話。俺が商人になった経緯。」


 それを言うとアレクとクリスは黙った。商人になった経緯に付いては今村の適当にでっち上げた勇者が召喚されたので騎士だったが、戦力外とされ、抵抗した物は斬り殺されて自分は追い出されたというそんな話だ。


 実際に、弱い兵士や傷病の者に対してそんな扱いをしていたのでバレはしないだろうと適当に作り上げた話。


 国も違うため本当のことを言ってもよいのか僅かに迷ったが、それはダメだとすぐに決めて敵討ちを自分が行うという意味を強調して言ったと勘違いしてくれるように間を置いて答えた。


「相手は……?」

「あんまり首突っ込まない方がいいから、ここまでな。」


 今村は苦笑しながらそう言って二人の頭から手を離した。


「まぁ最後にくだらんこと言ったが、強くなってその力を何に使うかは自分の勝手だ。こっからは好きにするといいよ。達者でな。」


 そう言って立ち去ろうとした……その時だった。何かがひしゃげた音と、絹を裂くような叫び声が迸り、反射的に今村がその声の方向を向くと、血の水溜りと何か、そしてそのすぐ近くにアシュリーと何かがいることを把握した。


 その姿を認識して、先程まで別れを惜しむ体勢に入っていたアレクとクリスの顔が恐怖に歪む。


「あ……あ……アレは……山の主…………」

「兄ちゃん! 逃げよう! あれには勝てないよ!」


 その何かは優に4Mを越す体をしており、ビッグフッドの様に前身が体毛に覆われており、首がなく、代わりに腕が4本ある。その内2本と脚で立っているそいつは醜悪な顔で笑うと血の水溜りにある何かを地面に着いていない手で掴み、咀嚼し始めた。


 それを認識した時、今村はすぐに動き出した。


「【幻玉】【偽玉】【タスラム】【玉木ぎょくぎ】【ウル・シュラクル】」


 完全に舐めきった目をしている山の主に今村は冷たい目を向けると相手を惑わし、武器を召喚し、そして身体能力向上魔法をかけた。


「……勝手に人のモン壊しやがって……死ね。」


 この場にいる誰にも聞こえない程度の低い声で山の主に死刑宣言をすると今村は【タスラム】を凄まじい勢いで飛ばした。


 食事中の山の主は食事を邪魔する不届き者を認識すると口を尖らせて威嚇の声を上げた。


 それを見て今村は嗤う。


「はっ! お前はチンパンジーですか! そうですか!」


 その意味はおそらく分かっていないのだろうが、山の主は挑発的なやつがいると判断して食事をその辺に投げ捨て、今村目掛けて走り―――強化されている【玉木】に衝突した。


「???」

「【エル・クルシギラ】!」


 何が起きたのか分かっていない状態の山の主を、主が衝突したまさにその木の枝が薄い紅色の水晶のような色で強化され、主に襲い掛かる。


「【えあ・すらっしゅ】!」

「クルル! 邪魔! 死にたくなかったら引っ込んでろ!」

「なの……」


 クルルは今村に怒られてすぐさま引っ込む。その際にアシュリーを回収してついでにルナールと連携して子どもたちをカバーできるように近くに集まった。


「goggoggogagyaaaaaa!」


 大した傷は出来ないものの、食事を邪魔された上、傷をつけられ、その上相手を殺すことも出来ないという状態に山の主が咆哮を上げた。


 そんな山の主は自分に向かってくる木の枝を強引に千切り取り……背後から寒気を感じた。


 それは彼がこの山の絶対王者になって初めて感じたもの……発生源は言うまでもなく。


「【大円断】。ざまぁみろ。」


 今村だ。


 【刀剣術】のスキルが発動するのを見て咄嗟に避けようとした彼は何故か足が動かないことを知り、体勢だけずらし、今村の一撃を何とか致命傷に至らせない様に躱した。


 しかし、その結果、彼の右の2本の腕は切り落とされる。通常であれば絶叫を上げ、必死に逃げるところだが、彼は獰猛な笑みを以て今村を迎え入れた。


 ここは彼の手が届く範囲内だ。彼は己の右腕を切り落とした怨敵を左手で殴り殺す―――その殴るという段階で、彼は自らの拳に違和感を覚え、それが痛みだと知ると同時に絶叫した。


 そんな山の主を見て今村はせせら笑う。


「はは愛しい右腕(恋人)と離れて寂しいってか? 【エル・キルグ・ファンギル】」


 その間に頭の中では詠唱を済ませて攻撃してきた左腕の内、自分を下から突き上げようとしていた下の腕を大きな火の玉で燃やす。


 その火は体毛に引火して山の主が更なる雄叫びをあげる。いや、それはすでに悲鳴と言ってもいいかもしれない。


「いい加減動いたら? そら!」


 今村の言葉と共に山の主の足に痛みが迸る。それの原因は結晶化して鋭くなった木の根だった。しかし、痛みに思わず視線を落とした山の主の目はそれを確認した数瞬後にはもう何も映さない。


「【目玉】奪い……これに関してはある程度魔力が減って抵抗力が下がってないと成功しないんだよね……あ、死ね。」


 最早登場した時の威容は完全に消滅した山の主はそんな今村の軽い言葉を最後にその生涯を終えた。


「……はぁ。流石に即死だよな……」


 そして今村は投げ捨てられた残骸を見る。無惨に腰から下を力任せに食い千切られており、圧力に負けた顔は見るに堪えない状態になっていた。


「……まぁしょうがない。ヤマナ、お前が何教か知らんがとりあえずご冥福をお祈りします。」


 今村は僅かな時間黙祷した。これは自分の身代わりは死んで獣に食われたところで終わったので、それと同じような末路を辿った彼女が復讐対象としてのリストから外れたことによる行為だ。


 今村は【炎玉】でヤマナの遺体を火葬するとクルル、アシュリー、ルナールそれにアレクとクリスの方を振り返った。アレクは呆然と、クリスはヤマナの亡骸を見て吐き、そして今は微妙な顔をしている。


「さて、行こうか。」

「に、兄ちゃん!」

「ん?」


 クルルがまず駆け寄り、ルナールが続きアシュリーが向かったところでアレクは今村に声をかけた。


「俺、ぜってぇ兄ちゃんみたいなすっげぇ冒険者になるよ!」

「……俺は商人の設定なんだけど……話聞いてないな……まぁ頑張れよ!」


 前半と中盤部分は聞こえない様に、後半部分は彼らの門出の時に元気づけることが出来るように大きな声でそう告げると今村たちはこの村を後にした。



 

イマムラ ヒトシ (17) ヒト 男


 命力:1406(前回+123)

 魔力:3101(前回+91)

 攻撃力:1734(前回+230)

 防御力:1571(前回+40)

 素早さ:1305(前回+100)

 魔法技術:3098(前回+94)


 ≪技能一覧≫

 【特級技能】…【玉】

 【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】

 【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀剣術】【気配探知】

 【初級技能】…【操氣術】【奇術】


 ≪称号一覧≫

 【異界の人】【アサシン】【トリックスター】【魔物使い】【奴隷使い】【破壊の奇行子】【大魔導師】【魔人】【双玉遣い】【修行者】【武芸者】


 現在所持金…1290万G


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