アレクとクリス 後編
トレーニング風景は割愛します。
「んじゃー今日は下半身なーアレク。1から9までの数で好きなの選んで。」
「え、………………じゃあ5……」
「昨日は一番になる! って1を選んだのに?」
彼は1を選んだ結果、足を真っ直ぐあげて地面との角度を10度にさせられて、10kgの重さの【玉】を足先に乗せられ、10分を10セットという腹筋トレーニングをさせられたという事を受けてもう1は止めた。
因みに説明時に今村はアレクが渾身の力を振り絞っても1秒も上げていられなかった10倍の重さ、要するに100kgをしていたのでアレクは文句を言えなかった。
クリスはそんなアレクを見て1は……と思い9を選んだら、まず90度になるように足を上げて、そして右左、まっすぐと30ずつ、計90回絶妙な力加減で地面に倒されかけ、触れれば左右と前を1セットとする同じものが増えるという鬼のような特訓を受けた。
その説明の際に今村は足で重りを持って先に見本を見せたのでこちらも何も言えなかった。
もちろん、今村はその後に背筋もさせた。腹筋だけだと体のバランスが悪くなり腰を痛めやすいからだ。
終わった後は【癒玉】で程よく治す。この辺は自分の体でいつもやっているので慣れたものだ。翌日の下半身のトレーニングに使うことが出来る程度に治しておいた。
そんな昨日の教訓を活かして動くのが億劫になるほどの筋肉痛を負った彼らは数字を選ぶときに頭を使うことにしたのだ。
だが、それは甘いとしか言いようがない。今村の称号欄の【修行者】と言う物がいかなるものか、それを彼らは身を持って知ることになるのだ。
「オーケー。じゃ、クリスは?」
「僕もご……5で……」
「じゃあ俺が腹筋5回するまで空気椅子。あ、先に姿勢の確認ね?」
二人はこれなら楽そうだ…そう思ってしまった。しかし……
「え、あ……今……まだ……」
「うん。1回目。」
「足がぁ……」
今村の腹筋は非常に遅かった。しかも地面についている間はほぼない。起き上がっている状態でいることもほとんどない。そのCカーブと言われるその中間地点で本人主観で30秒に1度ずつ動いているのだ。
5度~75度に各30秒ずつ。現在すでに8分が経過していた。
「あ、姿勢が悪い。」
そして今村は膝などに過度の負担がかかり始めるといけないと姿勢の注意を入れる。その間今村は注意しながら姿勢の維持をするだけなので動かない。
「し……死ぬ……」
「大丈夫。俺はこれで死んだ奴を見たことない。」
今村の嫌に爽やかな笑顔が彼らに絶望感を与えるが、そこに水を持った天使が現れた。
「ごしゅじんさまーおみずなのー」
「あ……また…………アレクさん。クリスさん。どうぞ……」
「よっしゃぁ! 頑張るぜ!」
「……まぁ、まだ。うん。いける。」
今村はクルルに、二人はアシュリーに水を貰う。今村としては【水玉】で勝手に作れるからあまり必要ないと言えば必要ないが、それを言うほど野暮ではないので礼を言って受け取り、アレクとクリスは毎回アシュリーに水を貰う事で良い所を見せようと頑張ってくれるので今村としても見ていて楽しい。
「あるじ……暇……ふわぁ……」
「まぁ一通りメニューを教えてからは模擬戦だから。ルナールは【幻術】の特訓してくれ。」
「……んー……まぁあるじのためだしなー……やるけど……」
傍で見ているルナールが道の調査をしていると銘打って山に【闇玉】で隠して縛っているヤマナに【幻術】で悪夢を見せる。
今日の悪夢はもし今村が城の影響を受けずに旅をしていたらという図だ。宿の女将が面倒を見てくれて……と言う話をヤマナが聞いて挙動が一瞬止まったのを見てインスピレーションを得た。
子どもたちの面倒を見て楽しげに笑っている今村をヤマナの意識がある状態で多重人格になったヤマナが子どもたちだけ殺していくと言う映像にしてみた。
因みにルナールがこの【幻術】を操作しているのだがこのラストはルナールと今村の手でヤマナを殺すことにしようかな~とか考えている。その後で幻想内の自分と主を交尾させようとも画策している。
「……も、もう無理だ!」
アレクが音を上げて地面に倒れ込んだ。今村はそれを見ながら少し上体を起こすがそれも僅かだけだ。アレクを見て声をかける。
「あ、まだ2回目の途中なのに。仕方ないなぁ……アシュリー膝とかの関節の余分なダメージのケア。」
「はい。」
アシュリーは何の得もないのにアレクとクリスの面倒を見る今村を傍で見ながら最近は怯えすぎないである程度落ち着き始めていた。
子どもたちが投げ出しても今村は仕様がないと笑うだけで体罰等を一切しないのを見てこの人は普通ならこうなんだな……と思ったからだ。
そんなことを思うと今までの場面を思い返しては自分があの時気付いてなかっただけで色んなことをしてくれていたと思い出す。
「おークリスは偉いな。まだイケる?」
「まだ……ですよ。アレクとは違いますから……」
「くっそ……俺もまだやる!」
クリスが苦しそうな顔を隠して頑張るのを見てアシュリーの手当てを受けていたアレクがまた空気椅子に復帰する。その様子をアシュリーはずっと眺めていた。
そしてこの町に滞在する最終日が来た。
「じゃ、アリクリ。二人まとめて掛かってきな。」
今村は模擬戦ということで前日は早めに切り上げ、アシュリーに子どもたちの体を全快させると今日に向けて備えさせた。
そして今、帝国と王国の境にある山中に全員いる。
「兄ちゃん! その前に約束覚えてるか?」
アレクはそう言って今朝、今村にした話を思い出させる。今村は頷いた。
「あぁ、俺から一本取れれば来週も村に残るって話だろ?」
「約束だぜ! 絶対だからな!」
「まぁ……取れればな。」
今村の言葉を受けてアレクとクリスは顔を見合わせて頷いた。そんな両者に対して今村は【璙】で銀の刀を作り、【操氣術】で強化した。
「じゃ、主審はルナール。副審にアシュリーとクルルで。ハンデで俺は初手から3手まで動かないってことでいいな?」
「おう!」
アレクの勢いの良い返事とともに戦端が開かれた。
まずはクリスが槍を掲げて今村目掛けて槍の突き方、薙ぎ方、杖として回すやり方、それに魔力の発現方法など教えてもらったこと全てを組み合わせて出来た彼の最強の技が繰り出される。
「【エルド・ノワ・ヒューステン】!」
クリスの詠唱と共に今村目掛けて螺旋状に氷と鋭い斬撃を伴った一撃が繰り出される。
「【玉壁展開】。」
が、それは今村の【玉壁】を貫くまではいかない。クリスの術は【玉壁】にぶち当たり、今村の周りに氷塊が飛び散る結果に終わる。
「【豪炎灼断破】!」
その直後に今村に対してアレクが灼熱の炎を伴った斬撃を繰り出す。そして―――
轟音。そして衝撃。
「~っ! 耳が……」
「なの~……」
ルナールとクルルが思わず目と耳を塞ぎ、勝負から目を逸らすほどの轟音と炸裂した光。そんな中少々意外な出来事が起こっていたりもする。
「……あ、あの……どうも……」
「……気にしないで。」
ヤマナが【風】の力を使って近くにいたアシュリーを保護していた。一瞬だけアシュリーはお礼のために勝負から目を放したものの、すぐに戦闘へと目を戻すことで決定的な瞬間を見た。
爆発直後、彼らは今村の背後目掛けて走り出していたのだ。そして爆発に気をとられていると思われる今村を背後から急襲!
「3手。」
しかし、今村はそこまで読んでいた。いや、その顔には戦闘時に顔色を変えないように言っていた本人であるのにもかかわらず、この1月以上ずっと顔色を窺っていたアシュリーだからこそわかる範囲で少々驚きの色が見える。
そして今村は手に持っていた銀刀でまずクリスの槍を弾き飛ばした。その間にアレクが今村へと乾坤一擲の一撃を繰り出す。
「やぁあああぁっ!」
その乾坤一擲の一撃を今村は【操氣術】で強化した手で横から殴り飛ばした。そして今村がアレクに気をとられていると思ったクリスが好機! とばかりに攻撃を繰り出す。
「ふっ!」
「惜しい!」
槍を失ったクリスは今村の勧めで持っていた短槍を杖術の打突の要領で打ち込む。
が、それは今村がアレクの剣を殴り飛ばした勢いのまま体勢を入れ替えることで真正面に来た腕に掴まれ、自分が操作できる範囲内から更に引かれ、クリスは体勢を崩した。
そしてその今村がクリスの相手をしている一瞬の間にアレクが術式を練り上げたのだが……
「はい。」
クリスが持っていた短槍を突き付けられ、アレクは止まり、クリスは銀刀を突き付けられることで降参した。
「……はっ! 終わってる……えーと、勝者、あるじー!」
そして轟音と閃光によってここに至るまでの過程を見逃した少し締まりのないルナールの声によってこの戦いは幕を下ろした。
イマムラ ヒトシ (17) ヒト 男
命力:1283
魔力:3018(前回+8)
攻撃力:1508(前回+4)
防御力:1532(前回+1)
素早さ:1209(前回+4)
魔法技術:3011(前回+7)
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】
【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀剣術】【気配探知】
【初級技能】…【操氣術】【奇術】
≪称号一覧≫
【異界の人】【アサシン】【トリックスター】【魔物使い】【奴隷使い】【破壊の奇行子】【大魔導師】【魔人】【双玉遣い】【修行者】【武芸者】
現在所持金…1290万G




