青少年よ大志を抱け
「あーえっと、あ! 僕たちは村の案内しに来たんですよ!」
「そうそう! ……にしてもお兄さん綺麗な子いっぱい連れてるね……」
今村が歩を進めた先はここに来た2人の方だ。急にこちらに向かってくる今村から逃げ遅れた彼らは思ったより幼く、中学生くらいだろうか。急遽した打ち合わせの結果、親戚のおじさんから道案内を頼まれたことにしたらしい。
最初に発言した銀髪の少年は中性的な顔立ちでかなりの美形だ。そして次に発現して今村の回りの女子陣をじろじろ見ている赤髪の少年は、顔立ちは整っているがどことなく好奇心旺盛な子どもといった印象を受ける。
ついでに言えばその好奇心は今、この中の誰が外でシテいたのだろう……と興味津々といった様子で観察していることで爆発している。
「あぁ。まぁ。」
今村は連れているのが美形揃いという事は否定はしない。しかし、割合的に半分は人間ではない。女性陣の内訳は亜人。異世界人。それに魔獣と魔鳥だ。
「さて、道案内してくれるなら宿まで案内してくれるかな?」
「! もうベッドに……あ、いや、その。」
少年の片割れ、赤毛の短髪の子が思ったことをそのまま口にしてしまったので慌てて隣の銀髪の子が取り繕う。
「お! お疲れですもんね! 旅の途中ですか!?」
今村は脳内でピンク色の妄想しているであろう少年たちを微笑ましい感じで見て頷いた。
「あぁ、行商中。主に宝石を扱ってるよ。」
「へぇ~……」
ほとんど野盗から奪ったり、山賊を襲ったりして手に入れた物だが。価値の高い物で言えばおそらく執事から奪った物が高いが、それは誰にも教えていない。
「少人数で凄いですね~! あ、そちらの方、荷物持ちますよ?」
アシュリーにそう言い寄る銀髪の少年。アシュリーは勢いよく首を振った。
「いえ、これは私が!」
「え……あ、何かスミマセン……」
唯でさえアシュリーは戦闘などをしていないのだ。仕事を奪われれば捨てられる下手をすればヤマナみたいに扱われるという恐怖感を感じたアシュリーは荷物を庇った。
そんなアシュリーの様子と少年たちの顔を見て今村は苦笑いして少年たちに説明する。
「ハハハ……あれには商品が入ってるからね……君らを信用していないわけじゃないが……」
「あ、そうですよね!」
すぐに納得がいった少年。クルルは幼いし、ルナールとヤマナは武器を持っているがアシュリーにはそれがない。
山の中には魔獣もいただろうから非戦闘員のアシュリーが持つのは至極当然のように感じられた。
他愛無い雑談をしながら一行は村の中に入る。前の温泉街でもそうだったが、クルルとアシュリーは人の目を引きやすい。その上ルナールも可愛らしい少女で傍から見れば狐人の亜人だ。
今村はこの状態であれば変な男がいると思われても印象は薄いだろうと思いながら少年たちの案内を受けた。
「と、ところでお兄さんらって…旅人だったよね?」
「アレク! 敬語って! 怒られるぞ!」
「ハハ。まぁ、ある程度気を遣ってくれればそこまで目くじら立てることはないよ。」
今村の言葉にアレクと呼ばれた赤毛の少年は目を輝かせた。
「じゃあさ……です! 護衛もないってことは強いってことだよねです!?」
「フフッ……」
今村は「です」と言う丁寧語だけを付けるのを頑張っている赤毛の少年を見て思わず笑ってしまった。銀髪の少年の片方は頭を押さえている。
「アレク……ですってつければ敬語になるわけじゃないんだよ……」
「でもクリスはですってつけて敬語って言ってるじゃん。」
「場合によるんだよ! あーもう。僕が言うから黙ってて!」
クリスと言われた銀髪の少年が今村に尋ねる。
「えっと……僕らは冒険者を目指してるんですよ。それで、村から出たいんですけど両親からは反対されて、ギルドの人たちには取り合ってもらえてないんです。それでも外……都とか、冒険したいので自主トレしてるんですが……」
「分かった。相手がいないから腕を見てほしいってわけか。まぁ……その程度ならいいかな? 何ならトレーニング内容も考えようか?」
今村は普通に快く引き受け、頷いた。ルナールなどは山の中での人物と同じなのか目を疑った。
「じゃあまずは宿に案内してくれるかな?」
「あ、はい! あ、 でも、今開いてるのはウチくらいしかない……か?」
「おぉおぉおおおぉおっ! クリススゲェ! よっしゃやるぞぉっ! 兄ちゃん見てくれよ! 俺の【炎刃け…」
「今日は先に宿だって!」
二人のやり取りを見ながら今村は薄い笑みを絶やさずに村の様子を【気配探知】で確認しておいた。
(……まぁ、害意は見当たらんが……警戒しておくに越したことはないな。)
少年たちに対する微笑ましい視線とアシュリー達に対する邪念は大きいものの、よそ者を探るような目は今のところ受けていない。
一応今は亡き温泉街で王国と魔国が戦争を始めて帝国~王国間の交通量が増えているという事もそれとなく聞いていたが、その情報は正しかったようだ。
「あ、目の前の『ゆとり木』ってお店です。王国からの隊商が今駐在してるんで村の中規模以上の宿は空いてないのでウチで良ければ……」
「うん。」
どんな宿であっても警戒はするので屋根があれば特に問題はない。そんな気分でクリスの言葉に頷く今村。
「じゃあ少し待っててください! 母さん! お客さん!」
「お! 俺もなんか手伝うぞ! 兄ちゃん今日はすっげぇ寛いで明日すっげぇ鍛えてくれよ!」
「んー……ま、善処するよっていねぇし……」
今村が考えている間にアレクは宿の中に飛び込んでいた。その間にルナールが今村に尋ねる。
「なぁあるじー。何であの子どもと変な約束したんだー? 面倒じゃん。」
クルルとアシュリーも気になっていたが余計なことをすると捨てられそうなので黙っていた。が、今村は普通に答えた。
「ん? 面白そうじゃん。それに頑張る子どもを応援するのが年長者のやる事だろ。間違っても……」
今村は途中まで素で言っていたが途中から何か思いついたようでヤマナを見て邪悪な笑みを浮かべる。
「間違っても誘拐して、差別して、蔑視の感情を植え付けて、集団で壊し続け、殺し、挙句死体まで冒涜する! これは、普通の、年長者の、やることじゃねぇんだよ。なぁ……?」
ヤマナは必死に顔を上下に動かす。すぐに今村の顔は普通に戻っていた。
「まぁそういうこと。お前らだって子どもに狩りの仕方とか教えねぇの?」
「んー? そりゃ教える。だって食べないと死ぬし。ルナたちは弱らせた獲物で練習させる。」
「それと一緒だ。」
そう話していると宿からアレクが出て来た。
「兄ちゃんたち何泊するんだ? 最低でも1週間は見てほしい! あ! 後、朝食何だった?」
「……朝食?」
今村が何故そんなことを訊くのか。特にベジタリアンでもないので献立などは気にしなくてもいいんだが……と返そうと思ったらクリスが続いて出て来た。
「アレク! お兄さんたちが何泊か決めるのはお前の願望じゃないんだぞ! それと、夕食は無料で付くけど、朝食は別料金だからいるかどうか聞いてって言われたんだよ!」
「ん? 朝食はどうか訊いて来いって言われた……あ、そっか。どうだったかじゃないか。いっけね。」
今村は最早コントだな……と笑った。
「あー朝食はいる。6人前だ。で、そうだね……1週間にしようか。」
「やった!」
「アレクってば! あぁもう……すみません。中に入って母さんと話をお願いします……」
クリスがはしゃぐアレクを宥め、「お前が何か手伝いたいって言ったんだろ!」と裏庭へと連れて行った。どうやら薪割りをするようだ。
「クックック……面白。じゃ、行こうか。」
「ん。」
一行は建物の中へと入って行き、恰幅の良い女将さんにまず謝罪を受けた。
「すみません。ウチの子がご迷惑をおかけしたようで…」
「いえいえ、元気そうな子で……」
「ホンット、元気すぎて困ってるんですよ……」
軽く世間話を交えた後、今日の夕飯はサービスしてもらうことにして今村は宿泊代を支払う。前金2万5000G、後金2万5000Gだ。
今村はそこで温泉街の時にかなり損したなぁ……と思い出したが埋没費用だということできっぱり忘れることにした。
「それじゃお部屋は2階の奥2つになりますので。何かありましたら私の所にお願いします。」
今村は部屋の割り振りを考える。部屋は2室。3人用が1部屋に2人用が1部屋。ルナールはヤマナと一緒に出来ない。山中で朝、ルナールがヤマナを何度か殺そうとしていたことで目が覚めたことがあるぐらいいがみ合っている。
自分もヤマナと一緒は嫌だ。まだ使えると思っていても殺しかねない。
「……じゃあヤマナとアシュリーで一部屋。俺とクルルとルナールで一部屋。」
これを受けて山中で色々悩んでいたように見えるクルルがぱっと華やぐ笑顔になって、アシュリーが若干怯えた。
「ごしゅじんさまといっしょなのー♪」
「あるじと一緒ー」
喜ぶ外見のみ幼女と少女。今村はとりあえず人聞きがあまり良くないのですぐさま部屋に撤退した。
イマムラ ヒトシ (17) ヒト 男
命力:1283
魔力:3004
攻撃力:1502
防御力:1531
素早さ:1201
魔法技術:3004
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】【大魔導術】
【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀剣術】【気配探知】
【初級技能】…【操氣術】【奇術】
≪称号一覧≫
【異界の人】【アサシン】【トリックスター】【魔物使い】【奴隷使い】【破壊の奇行子】【大魔導師】【魔人】【双玉遣い】【修行者】【武芸者】
現在所持金…1297万5000G