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山の中に逃げました

「ふぅ……嫌な奴だった……アシュリー荷物大丈夫か?」


 とりあえず村が魔物に襲撃された時点でアシュリーに全員分の荷物を持たせていたので貴重品の類に問題はない。


 ただ、保存食系がない。村を出る少し前に買う予定だったのだが、それどころではなくなっていたのだ。


 このような適当な備えでの状態での山越えは通常、死を意味するが魔法がある世界は通常にカウントされないので特に今村は気にしていない。


「あ、荷物はその……大丈夫でしたけど……」

「けど?」

「これで山越えって大丈夫なんですか……?」

「火も起こせるし飯もネズミの干し肉が一応ある。山の中には季節問わず魔獣がたくさん。【玉菜】でキャベツもあれば【玉葱】も出せる。最悪毒を抜けば何でも食べられるし、雪も大量で、水もある。何か?」


 今村はアシュリーを黙らせるとそわそわしているクルルを見た。


「何か来るのか?」

「うしろから……なにかくるっぽいなの……」

「アシュリー。」


 今村はアシュリーに【気配探知】を行わせる。自身は結構疲れているので戦闘の可能性がある限り魔力などを出来る限り温存しておきたいのだ。


「人……みたいな魔物みたいな……?」

「どっちだ?」

「姿は人です。ですけど……気配が魔物です……」


 何となくオチが読めた気がする今村は少々機嫌を悪くする。そして止まっていると今村たちが来た方向から亜麻色の長い髪をした狐耳の子どもが走って来た。


あるじ~!」

「む……ごしゅじんさまーアレだれなのー?」


 その子どもは今村を認識するとさらにスピードを上げる。その手には血塗れのボロ雑巾のようなものが掴まれて引き摺られている。


「……おそらくルナールだ。さっき治癒した狐の子。」


 今村は自分の称号【魔物使い】のことを思い出す。最近は基本的に能力値しか見ていなかったのであんまり意識していなかったが、こうも簡単に行くものか……と呆れの感情を覚えていた。


「コレ!」


 追いついた『ストームフォックス』の幼生と思われる子どもは引き摺っていた血塗れの雑巾を今村に差し出す。今村はそれを見てアシュリーに質問する。


「……これ、生きてる?」

「は、はい……辛うじて……」


 今村が指したのは血濡れの雑巾のようなもので、アシュリーは今村の質問に首を縦に振る。そんな両者のやり取りを全く意に介さず子どもは今村に用件を告げる。


「皆殺された! あるじ助けて!」

「……殺されたのは無理。死にかけなら何とかなったが……」

「……そっか……じゃあどうしよう? 群、なくなっちゃったよ……?」


 納得の早さに軽く尊敬の念を禁じ得ないが自分もそんなものかと思うと隣の雑巾が人型を取り戻し始めた。


「う……うぅ……」

「アシュリー。回復を止めろ。」


 今村は最低レベルの意識を取り戻そうとしている人型雑巾の回復を止めるように言った。それを受けてアシュリーはへどもどしながら今村に現状を伝える。


「え……ですけど……いいんですか……? このままでは死にますよ……?」

「こっから先は俺がやるよ。【毒玉】【癒玉】」


 今村は途中で採取しながら移動していた神経毒で手足と魔力の感覚を痺れさせておいた状態で体の傷だけを癒しておく。


「うぁ……あぁ……! き、貴様……!」

「喉は潰すか。要らないよな。」

「ぁああぁぁぁ…………っ! けひゅっ……」


 顔を認識するなり敵意の目を向けられたので細い喉に手を掛けると軽く常人を逸した力で声帯を握り潰した。口や首から血が吹き出て再び死にかける。


「……睨むな。抉るぞ。【目玉】」


 今村はそれでもこちらを睨んでくる雑巾改め勇者候補生ミキ=ヤマナの前に大量の目玉の集合体を召喚する。

 それを見てヤマナの顔が一瞬で恐怖に染まった。そんなやり取りと見ていたルナールと思わしき子どもは首を傾げる。


「あるじー仇なのに何で回復させてるんだー?」

「あ? こいつは俺に……まぁ厳密に言えば違うが……俺に地獄を見せてくれたんでね。楽に殺すのはちょっとイラつく。」


 クルルは特に何も思うところはないようだ。寧ろ先程の村での一件が気になってそれどころではない。


 アシュリーは怯えきっている。


 ルナールは興味津々といった様子で今村とヤマナを見ている。


「さて、アシュリー帝国にも勿論奴隷商はあるよなー?」

「え、はい……」


 それだけでヤマナは自分の身に何が起きるのか察したようだ。横たわって限界を迎えている体を必死に動かそうともがいている。

 それを見て子どもは幾分か気を良くしたのか笑い始めた。


「アハハハハー! 必死だ! でもあんまり動いたら死んじゃうよー? ルナはそれでもいいけどあるじが怒るからダメー!」

「……やっぱルナール。ってか自分で名前カスタマイズしてんのな。」


 ヤマナの顔は恐怖一色で染め上がっていた。眼前には子ども特有の無邪気な残酷さで先程自分をボロボロにした子どもと城では全く感じられなかった狂気と得体の知れないオーラを発する男。


 どうにか命乞いをしようとするも声は出ない。体も動かない。


「あう……うぁぁあっ! うぁ! うぁあ!」

「え? 何でもするから助けろって?」


 それでも声を出したところ、何故か男には通じた。驚き、恐怖、色々な感情が顔に溢れるが、男の邪悪な笑みの前ではそれらも凍りつくだけだ。


「城で、風使いって言われたらさぁ……両手両足の腱を切られたことを覚えてるんだよね……後なんかエアハンマー? アレさぁ……骨に皹じゃ済まなかったんだよ? 陥没してたんだから。」

「え? あるじって城にいたのか?」

「んー? あ、城って言っても……まぁ城下町な。」


 小声での会話を無駄に聞き取るルナールへ一応誤魔化しを入れておくが、目の前の少女はすべて理解していた。そして更なる恐怖を抱くことになる。


 自分が受けた酷いことを事細かく誰がしたのか全て覚えているのだ。しかも、それを語りながら笑っている。……しかし、その笑みはどこまでも狂気と殺意と悪意に満ちている。


「恩は2倍に、仇は5倍に、殺意は10倍で返す。良い言葉だよね? じゃあ今だけ喋っていいよ? どういう気分で俺をこんな目に遭わせた?」


 ヤマナの首の痛みが全て治癒した。そして声が帰ってくる。そしてヤマナは当時の状況を思い出しながら言葉を選びつつ答える。


「あ、あれは、王女とか……周りの人に言われて仕方なく……」

「エアハンマーの時にいい気味だって言ったのは?」

「っ……」

「こ た え ろ。 コ タ エ ラ レ ナ イ ノ カ ?」


 今村は笑顔で普通に喋っている。しかし、ヤマナは恐怖のあまりに異次元から声を掛けられているかのように真っ青になっていた。


「なぁ……? 良い気分だったか? 絶対的な力の差で、自らが正しいことと信じ、相手の言い分も聞かずにただ力を解放するということは楽しかったか? 自分の都合を押し付け大義の名の下にストレスを発散するのは心地よかったんだろう? 罪にならないってのは最高だったか?」

「う……あ、」

「王家の庇護下で権力を得て敵なしだと思ったか? 富を得て人を見下し蔑むんで悦に浸れて爽快だったか? ただ悪そうというだけの偏見での強制執行は素晴らしいよな? 風評だけで無礼討ちできて痛快だったろう?」


 声は帰ってきているのに何も言えない。圧倒的な負のオーラに妨げられているのだ。


「まぁ、良い気分に決まってるよなぁ? だって、俺が今こんなに楽しいんだもの。まぁ……ご愁傷様。君の冒険はここまでだ。なぁに、心配いらんよ。なるべくド変態っぽい人に買ってもらうからさ……」

「うわぁあるじいい顔! 変態っぽい人ってどんな人?」

「……俺が知ってる奴じゃ……獄嬰組の元会長が一番酷かったかな……? 手に入れた女の屈指筋に穴開けてそこに突っ込んで腰振って血と一緒に精子を顔に浴びせてたって話だから……あ! 屈指筋ってここな。」


 今村はそう言ってヤマナの腕を指す。今村は半笑いで続けた。


「その人が言うには何か骨を無理矢理こじ開ける感じが堪らんのだとよ。五月蠅いのは嫌だからギャグボールをいっぱい持ってるんだが……大量にあるからって俺に渡されても困ったもんだよ。汚いし。」


 そこで今村はふと思い当った。


「あ、【ギャグボール】……おぉ、まさかできるとは……いやまぁ何の役にも立たんがな……「ウィンドカッター!」」


 ヤマナの決死の詠唱。しかし、それは何の意味もなさなかった。いや、そよ風程度の攻撃にしかならなかった。今村は何てこと無いように続ける。


「……あぁ、魔力が散逸するように神経毒盛らせてもらったから。なぁに初日の俺に対して盛った王家の毒に比べれば多分、良心的良心的。」

「ぅ、あ……あぁ……ああぁぁぁぁあああぁぁああぁあぁっ!」


 逃れられないのを知りそれでも何かしようと叫び声をあげるヤマナ。しかし、今村の前では無意味だ。


「さぁ、まだ、まだ、まだ、マダ、マダダヨ……?って、……異世界2度目……」


 どうしても逃れられないのを理解し、異様な雰囲気で告げられるその言葉が聞える中、目の前の少女は失神して失禁した。今村の服がまた汚水で汚されていき、一気に今村は脱力した。


 少女が発生源なのでこれ以上汚れる前に野に投げる。血と尿が野を染めた。


「……あぅ……その……」


 後ろで初犯者がもじもじしている。先程の恐怖の一幕から一転してしまった空気の中で今村は溜息をついて【バスボール】をセットした。


「きったねぇ……俺に変な性癖を植え付ける気かこの……」


 この後ルナールも付いてくる中、延々と神経毒を使いながら山登りをして虐殺も行いヤマナの恐怖を煽るのだが、その度にヤマナが失禁するようになったので色んな意味で締まりなく一行は山頂を目指した。




イマムラ ヒトシ (17) ヒト 男


 命力:1099

 魔力:1828

 攻撃力:991

 防御力:1003

 素早さ:830

 魔法技術:1919


 ≪技能一覧≫

 【特級技能】…【玉】

 【上級技能】…【言語翻訳】

 【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀術】【魔導術】【気配探知】

 【初級技能】…【剣術】


 ≪称号一覧≫

 【異界の人】【アサシン】【軽業師】【魔物使い】【狂戦士】【魔導師】【魔人】【双玉遣い】【修行者】


【修行者】…異常トレーニングによりステータス上昇可能。


 現在所持金…1305万G

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