さぁて、移動開始
「じゃ、旅に出るから準備して。」
「なのー!」
「わかりました! 頑張ります!」
王都での潜伏もそろそろ限界だ。クルルが美幼女な上に【玉衣】でうろついてたから目立った。必要以上に目立つ前に退散する。
それを決めてからクルルとアシュリーが荷物を詰めている間に俺は彼女たちに聞こえないように呟く。
「のこのこ出て来た兵士をレベルアップの種にしたかったんだが……まぁ自分から行動して大事になるのはアレだしな……」
あの低俗な兵なら美少女の多少の噂程度で出てくるかな? と思って噂を聞いて抜け駆けして出て来た兵を仲間に知らせられないように【黙玉】で音を閉じ込めて殺してステータスの糧にしたかったのだが、これ以上の時間が経過すると大勢に知られるし、大勢で動かれると囲まれそうなので逃げるということだ。
「さぁて……皆殺しにしてやるからな……」
そんなことを言いながら俺は王都から逃げ出した。
「……さて、一応俺の目標としては強くなりたいんだが……あんまり虐殺ばっかりでもなぁ……しっ!」
とりあえず適当に襲い掛かって来た獣を殺しながら道なき道を進む。理由は簡単だ。敵がいるのと、人目がないからだ。それにアシュリーがいるため迷う事もない。
「なのー!」
「……そこの幼女。別に働かなくても俺がそいつらは殺すぞ?」
「じぶんのゴハンはじぶんでとるの!」
何か逆カリコテリウムみたいな馬同様の四足歩行で顔がゴリラの化物の首を薙いで笑顔で元気に答えてくれる返り血べっとりのクルル。買ってやった服の袖部分が真っ赤になっている。顔にも血が少々跳ねていた。
「まぁ……馬刺しみたいなもんか……? 血抜きはしっかりな。後、キチンと火を通さにゃあな。」
「りょうかいなの! ごしゅじんさまはこれいるの?」
「……じゃあ俺が調理するか。骨からガラは取れるのだろうか……?塩は盗って来たが塩味だけとかやってられんからな……」
とりあえず返事をしただけであまり意味が分かっていなさそうだったので今村は自分で色々やっておくことにした。
そんな二人を前にアシュリーは何も言えずに警戒だけしておく。
「おっ。何かこれ危なさそうな虫けらだな。えい。」
「なの。なの。」
「ひっ! キラーアンツですよそれ!」
「燃やせ燃やせ! 【炎玉】」
「なの! なの!」
アシュリーが何をしているのだろうかと思って後ろを振り返ると今村とクルルが拳大の蟻を殺していた。いや、虐殺していた。
「……これは流石に食えないか……? いや……紅茶に……?」
「毒まみれですから止めておいた方がいいですよ! 絶対!」
「……蟻んこをレモンティーの代わりに入れてた所があったんだが……まぁ美味しくなさそうだからいいか……」
【炎玉】で焼き払いながら【金剛玉】で滅多打ちにしていく今村。アシュリーは目を逸らし、クルルの方を見た。クルルは蟻塚と戦闘中だ。
「危なくなったら呼べよ~俺はカリコテリウム的なやつ掻っ捌いとくから。」
今村はある程度殺したところで調理に移るらしく、【炎玉】と【金剛玉】を仕舞って馬ゴリラの首を半分ぐらい捥ぎり切って逆さにし、後ろ脚を無理矢理気に括りつけた。
「はいなの~」
「……一応、キラーアンツは危険指定動物なんですが……」
「知るか。【琨瑚】。」
今村は見事な宝玉で作られた透き通る刀身の刀を創り出し、それで逆さにしたカリコテリウム的な何かを掻っ捌きに入る。
とりあえずは腹を掻っ捌く。血抜き等をした方がいいのだろうが、時間的な都合もあり、やり方がよく分からない。
「ふむ……取り敢えず、スプラッターが出来上がったな。まぁ内臓が出て来てる方が捌きやすいからいいか……」
そう言いつつ刀に付着した血を払い、ついでに他の木の枝を切ってそこの先に【水玉】を発生させて水を取り、木を枯らしながら【玉】で作った器にその水を入れ別の作業に移る。
「腸抜きっと。これは別口で料理するしな~アシュリー。何か気を付けておくべき寄生虫とか居るって聞いたことある?」
今村は掻っ捌いて皮をぐちゃぐちゃながらも剥ぎ取って、その上に臓物を移動させた。
正直、持った時に気持ち悪い感触がして何か変な笑顔になりそうになったが、今から食べる物なので無下には扱わない。
「えぇと…………すみません……」
「知らないならいいや。小分けにして表面焦がす位きっちり焼けばいいな。」
「あっ! 火はわた……すみません……」
今村はアシュリーの【玉成】を解いて、【炎玉】で以て火を熾す。そしてその脇に平べったい石を置いてその上に買っておいた針金を編み込んだものをセットし、馬モドキの後ろ足の腿肉を片方だけ地面に近い方から薄めに切って一枚ずつ並べた。
「網焼きっと。」
「ご、ごしゅじんさま~! たっ……たすけてなのっ!」
「……アシュリー火の番頼んだ。多分くっつくからひっくり返しまくれ。」
「お任せください!」
今村は蟻塚の方に駆けて行った。アシュリーは持っていた『死喰い鳥』の雛を降ろすと真剣に肉を見て焼き奉行になった。
そのため、降ろした雛が後ろでカリコテリウム的な馬っぽい動物の臓物を喰らっている事には気付けなかった。
「ご……ごめんなさい……」
そして、今村とクルルがキラーアンツの群れを壊滅させて戻って来た時には肉は焦げ、臓物は食い荒らされ、そしてアシュリーは泣きながら地に伏していた。
「ごはん……」
クルルは悲しげな顔で焦げた肉の残骸を見る。今村は別方向の皮の上に乗せられていた馬ゴリラの食い荒らされ散らばっている内臓を見て、そして目の前で伏しているアシュリーを見た。
流石にあんなにぐちゃぐちゃになった臓物は食べられない。
「……アシュリー?」
今村の声にアシュリーは肩を震わせ、頭を地面に擦りつけた。
「……これじゃ叱りようもないし、何があったんかわかりゃしねぇな……」
「ごめんなさい……グズでごめんなさい。」
何を言ってもアシュリーは謝罪の言葉しか口に出さない。仕方がないので今村はアシュリーを放っておいて焼肉することにした。
「あ、その前にバラしておいた骨と肉を煮込まないと……出汁、出るか……? そうそう、肉も焼くけど、そういえばクルルって前は火を通さないで何でも食ってたけど今はどうなんだ?」
「よくわからないの! でも、やいたほうがおいしそうなの!」
クルルも焦げ肉のことはもうどうでもよくなったらしく、今村にべったりで火の側に地面に足をM字型に付ける女の子座りで腰を下ろした。
そしてしばらくすると目の前の肉の縁が焦げ始めた。今村はそろそろ大丈夫かなと肉を取りに体を前のめりにする。
その前にこちらをじっと見続けているクルルが気になり、黙って取るのも居心地が悪いので一応何か言っておく。
「……焼けたっぽいな。」
「なんでわかるの?」
「んなもん訊かれても焼き色と油の出て来る状態を見たのと音を聞いてからの勘としか答えようがないな。」
「それでだいじょーぶなの?」
「多分な。食ってみろ。」
毒見とは言わずに味見と言ってクルルに食べさせておく。クルルは排泄が必要ない程強力な胃液か何かを持っているのだからとりあえずは大丈夫だろう。
「おいしーの♪」
「……大丈夫か……ってあ、そう言えば何かあったな……えーと【毒玉】」
焼いた肉から毒性の何かは出て来なかった。今村はひとまず毒はないしこれだけ焼けば寄生虫の恐れもないだろうと食べることにする。
「……【塩玉】。ん?」
何か大量に奪取して来た割に前より小さくなっている【塩玉】。その表面を肉にクラッシュしてかけながら今村は考える。
(……使えば使うほど減るのか? ってことは多分……最初に城で吸収した分だけが上限……でも【炎玉】は……ってかあれは使えば増えて言ってる気が……もしかして燃え移った火を吸収して大きく……? じゃあ、物質として呼びだしたら減らないけどそこから離れると減るって認識でいいか……?)
おそらく、【塩玉】として何度呼び出しても【塩玉】自体は減らない。しかし、それをクラッシュさせたりして食べると多分減っていくのだろう。
「……では更に塩を手に入れなければ。」
「んー?」
「【璞】も……野ネズミから作られてるはず。城にいたネズ公は大概【璞】にしてあるからしばらくは大丈夫なはず……【水玉】はそれこそ川から大量に取ったし、必要とあらば植物があるところなら確保できる……」
「なんのはなしなのー?」
「……あぁ、ごく個人的な話だ。」
城にいた時は多分勝手に調理場から補給していたのだろう。城下街に居た時は盗んで補給していたのか気付かなかった。今回気付けたのでよしとして、
「焼くか。」
「なの!」
今は食事に専念することにした。それとは別に今村はアシュリー用に少し残しておく。
(明日歩けなくなったら背負うの怠いしな……)
イマムラ ヒトシ (17) 人間 男
命力:89(前回+27)
魔力:98(前回+31)
攻撃力:72(前回+17)
防御力:81(前回+23)
素早さ:54(前回+3)
魔法技術:100(前回+12)
≪技能一覧≫
【特級技能】…【玉】
【上級技能】…【言語翻訳】
【中級技能】…【近接戦】【杖術】【槍術】【刀術】
【初級技能】…【剣術】【魔術制御】
≪称号一覧≫
【異界の人】【ハンター】【軽業師】【魔物使い】【狂戦士】【魔術師】
【魔術師】…術式行使能力に小補正