第4話
祐介は、小松主将に連れられてグランドのホームベース
の方に歩いていった。
小松主将は、ファーストベースのあたりで止まると、
ユニフォームを着た真っ黒に日焼けした小太りの
中年男の前で姿勢をただした。
「監督、連れてきました」
どうやら、監督が小松主将に指示して、祐介を連れに来たらしい。
「おお、君か、外野からホームまで球を投げたのは」
「さあ、そうかもしれません」
祐介は、確信なさげに答えた。
監督は、疑い深かそうに祐介を見つめた。
「本当に、この男か?」
監督は、小松の方を振り返って遠慮会釈なく言う。
失礼な男だ。
右腕がぶるぶると震えた。
「監督に言われてすぐに追っかけて行きましたから、
多分間違いないと思いますが、、、」
小松主将も、首をかしげながら自信なさげに言う。
「じゃあ、とにかくテストしてみよう」
祐介は、突然気がついた。
(俺に外野からホームまでの遠投など出来るわけがない。
そんなことは、中学の時にわかっていたはずだ)
「すみません。ぼく用事がありますから」
「とにかく、一球投げてみろ」
監督は、祐二を睨みつけた。
「小松、お前向こうに行って球を受けてみろ」
小松は、ミットを持って適当な距離まで走っていくと、
しゃがんでミットをかまえた。
監督が、硬球を祐介の右手に押し込んだ。
「一球でいい。思い切り投げてみろ」
右腕の人面痣は怒り狂っている。
祐介は、制服を着たまま振りかぶると、
小松のミット目がけてボールを思いっきり投げた。
ボールはうなりをあげて、飛んでいくと、小松の
差し出したミットのうえを越して、後方の
バックネットにガツンと食い込んだ。
「こらー小松、しっかりとれ」
監督が、興奮して叫んだ。
「よし、おまえ、明日の試合に投げろ」
監督が、祐介に命令した。
「あのーぼくユニーフォーム持ってないから」
監督が、祐介を値踏みして言った。
「172センチ、58キロ程度だろ」
「いえ、173センチ、57キロです」
「ユニフォームは、余っているのが使えるだろう。
シューズは持ってるか」
「中学の時に使っていたのが履けるかもしれません」
「よし、明日9時集合だ。遅刻するなよ。
用事があるなら行ってよし」
祐介が、駐輪場に戻って自転車のキイをはずしていると
マリモがどこからともなくでてきた。
きっと待ち伏せしていたに違いない。
祐介は、ひるんで逃げ出そうとしたが、
彼女は、手を上げて道をふさいだ。
「ちょっと待って。さっき救急車が来たのを
しっているでしょう」
「・・・・・」
「わたしが呼んだのよ。顔中血だらけで呻いていたから」
「彼がさきに手を出してきたんだ」
「それは知ってるわ」
「君が呼んだんだろう。朝のことを恨んで」
「違うわ。私は何も言ってないわ。友達の誰かが
話したみたい」
「病院に行ったの」
「それほどひどい傷じゃなかったみたい。
消毒してもらったら。もう大丈夫だって。
空手部の副部長が、簡単にやられたので
恥ずかしかったのよ」
「それで、彼はいまどこに?」
「空手の練習してるわ。額の傷を聞かれて
レンガを割ったんだと言っていたわ」
「あれは事故だったんだ。恨まれても困るよな」
「もう二度とあなたには手は出さないと思うわ。
自分より強い奴には、意気地がないのよ。
それにもし何かしたら、私から先生に言うから」
「そうか、じゃあ、もう帰るから」
「ねえ、明日会えないかしら」
祐介は、驚いてマリモを見つめた。
マリモはすこし顔が赤くなって、うつむいている。
こんなマリモを見たのは初めてだ。
「明日は、野球の試合に出るんだ」
「そう、明日、試合を見に行くわ」
そう言うと、マリモは校舎のほうへ走っていった。
祐介は、呆然とミニのスカートを翻してかけて行く
マリモの後姿を見送った。
続く




