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第三話『魔法使いの過去』  作者: 由条仁史
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第2章 What is Her Name?

鏡の中に放り込まれた鞠が行った先は、鏡の国であった。鏡の国で起こる、バトルではない魔法戦線。

 第2章 What is Her Name?



「痛っ……」

 落下して、鞠は地面と思しきところに着いた――見渡してみると、どうやら森の中のようだ。背の高い木から背の低い草まで……跳梁跋扈という言葉が思い起こされる。

「突き飛ばしやがって……」

 と、悪態を吐く。無理もない。無理矢理だったのだから、というか展開が無理矢理だ。

 いきなり家が不思議の国にテレポートしてきて。

 アリスと自称する少女について行かされ。

 洋服屋もどきの試着室でふたりきりになって。

 いきなりキスされて。

 鏡の中に突き落とされた。

 そして着いた場所が森の中。

「……はぁー」

 この場合鞠がついたため息は、どちらかと言うとキスのほうだった。

 鞠だって女の子だ。好きな人にファーストキスを捧げたい。そう言う意味ではとても純情なのだ。

 まあ、それは置いておいて。

「ここは……何処だ?」

 森の中を見回す。当たり一面同じような景色が広がっている。つまり、緑色。

 ポケットの中の魔法石を取り出す。

 これも同じく緑色の、透明度があまりないきらきらとした石。宝石のようにも見える。それは鞠の意思によって形状を変化させるという奇妙な石――。

「上から見れば、分かるかな」

 魔法石を両手に持ち――鞠は魔法石を二つ持っている――そして念じる。

 爆発が起きた――ように見えただろう。一瞬のうちに鞠は森の中を脱出し、森の上空に飛翔した。魔法石を気体にして、その反動で上昇したのだ。

 そして、魔法石でグライダーのようなものを作る。この森の上空を滑空するつもりなのだ。天気は曇り。太陽の光で眩しいということもないが、青い空も見えない。

「……はやく、轆轤さんたちと合流しないとなぁ」

 今頃どうしているだろうか。心配である。最強な魔法使いである濾過さんがいるから大丈夫だとは思うが、なにぶん不思議の国というのはアウェイなのである。何が起こるかわからないのだ。

「……あっ」

 意外と早く『何か』見つかった。家である。森の中に家があった。ひとまずそこに着陸して、話を聞くとしよう。

 有益な情報が得られればよいのだが……なあに、強情であったら、拷問でもすればいいだけだ。




 鞠が森の中にある家を見つけて、その3分後である。

「ん……二対一はやっぱりきついなぁ……」

 右側から銃弾、左側から斧。

 ふむ。なるほど殺戮用の道具だな。遠距離と近距離。戦い方としてはすばらしい。

 だけれども。

 さっきから物理的な、振り回す攻撃しかしてきていない。銃弾も直線的だ。戦い方にバリエーションがない。

 と、まあ厳しい批判をすることが出来るのは、魔法石の防御が完璧だからである。緑色の半透明の球体を鞠は自分の周りに広げていて、それがバリアとなっているのだ。魔法石の形状変化、さらに硬化。防御は完璧である。攻撃はまったく出来ないけれど。

 とはいっても攻撃する必要というのもない。

 鞠が「ちょっとアリスって人に頼まれて赤の女王に会えって言われたんだけどどこにいるか知らない?」と聞いたら「貴様、アリスサイドの人間か」「貴様、ミラーサイドの人間ではないのか」とまあなんともとってつけたような正反対のことを言われていきなり攻撃されて、反射的に防御して、攻撃がやむ気配がないからこのようにカプセルバリアーを作っているわけだ。

 ……なんというか。無視されてるよなあ、とも思う。

 そもそも戦いというのは相手の状態に合わせて行動を変える必要がある。戦車に乗っている相手に、輪ゴム鉄砲で立ち向かうというのは無意味というものだ。投石したほうがまだマシだ。

 それに対してのこの兄弟である――まあ兄弟と言っていいだろう。おそらく双子だ。全体的に筋肉質で、背もすらっと高い。ただ、鏡写しのようにそっくりな二人なのだ。攻撃方法は、まあ対極的だが。

「……進展しないな」

 と呟いて、左のポケットからもう一つの魔法石を取り出し――バリアに使っていたのは片方だけだ――二人に向かって発射。等しく。二等分して発射。スライム状になって発射されたそれは、二人の両腕にまとわりつく。まとわりついた後は、魔法石を固体に戻す。その行為で、『ディー』と書かれた襟のある服を着ている男のナイフは止まり、『ダム』と書かれた襟のある服を着ている男の銃は地面に落ちた。つまり、鞠に降り注ぐ攻撃は終わった。

「はーい、圧倒的な力の差があったら、暴力では何も解決しませんよー。話し合いで解決しましょうよ。話せばきっと分かります」

 ……暴力では何も解決しないという標語があるが、それは新たなる問題を生み出してしまう可能性があるからなのだ。しかし今回の場合は鞠とこの兄弟に圧倒的な力の差があるから、そもそも解決できないのだ。鞠の鉄壁の守りと、兄弟の虚弱な攻撃。一方的過ぎて、解決の糸口が無いのだ――暴力においては。

 あるいは、魔法においては。

「どーして攻撃したの? 教えて?」

「アリスは赤の女王の敵」

「俺たちは赤の女王の味方」

 ……ほう。

 なにやら当初想像していた状況と、相当違うらしい。

 不思議の国は、ハートの女王の統治で、自由にのんびりしているという認識があったが、本当は緊迫しているようだ。

「味方の敵は。当然――」

「敵の味方は。当然――」


「「敵」」


 と、見事なシンクロで発された成人男性のデュエットがあった瞬間――

 真っ暗になった。

 反射的に、空を見る。真っ暗だ――というより、真っ黒? なんだこの現象は? 夜になったのか? まさか――森に入る前の日の高さと、それから経過したであろう時間から計算して、夜になるはずが無い。まるで、空に蓋がされたような――

 そのとき、文字通りぶおおおという風が吹いた。風――というと『14C』のことを思い出してしまうが、彼女の魔法のように計算された、効果的な、一点集中の風ではない。相当強い、ただの強風――台風クラスと言っていいだろう!

「ぐっ……!」

 吹き飛ばされそうになり、咄嗟の判断で地面に伏せる。流石に強風と言えど、地面は吹き飛ばせまい。というか吹き飛ばしてしまったらそれは風ではなく別の何かだ。竜巻? しかし巻いてもいない。ただ単純に強い風。

 魔法か――しかし。どんな魔法だ? 今起こったことを整理する。空が暗くなる。強風が吹く。2つの魔法が起こったと見ていいだろう。双子なのだから、それぞれが――どちらがどちらの魔法を使っているのか知らないが――どちらかの魔法を使っていると見ていいだろう。

 辺りはどんどん暗くなり、風も強くなってくる。視覚と聴覚を奪われた形だ――つまりほとんど何も認識できないということ。触覚は危険だし、味覚や嗅覚が実用的に使えるまで鞠は発達していない。第六感? そんな馬鹿なことがあるわけが無い。

 あるとしたら、魔法石の感覚か――だがそれも触覚の延長だ。今の状況では役に立たない。

「トウィードル!」

「トウィードル!」

 彼らは、彼ら自身の姓を、声高に叫んだ――

「「思い描いたものを、この世界に!――『巨大鴉』!」」

 鞠は、ついに吹き飛ばされた。




 鏡の国。

 鏡の国のアリスという話をご存知だろうか。ルイス・キャロルの執筆した小説、不思議の国のアリスに感化された、不思議の国のアリスの二次創作――ではない。不思議の国のアリスの続編としてルイス・キャロルの執筆した。れっきとした小説だ。

 では、不思議の国のアリスと、鏡の国のアリス。何が、どう違うのか。

 まず登場人物が違う。主人公がアリスだということは変わらないが、彼女を取り巻く物語はあまりにも違う。

 まず国の名前だ。

 不思議の国と鏡の国――それらの国の大きな違い。それは女王が違うという点で間違いないだろう。国の名前が違うと言うのなら女王が違うのは当たり前だ。そう。不思議の国のハートの女王。そして鏡の国の――赤と白の女王。

 女王が二人いるという時点で、どちらがおかしいかは明白だ――鏡の国のほうが、意味不明に世界が進む。

 そもそもアリスのモチベーションがおかしい。

 不思議の国のアリスは常にびくびくして、出れるかしら出れるかしらと怯えていた。当然だ。いきなり穴に落ちておかしな世界に来て、まともでいられるはずがない。

 しかし対照的に、鏡の国のアリスは――どこか外に出られることを確信している。それはつまり、鏡というのは現実の裏返しで、裏を返せば現実に戻れると言うことなのか。なんてナンセンス。

 ナンセンス文学ならではの意思なのだろうか? それとも単純に、不思議の国と言う奇妙な世界を体験したからこそ、ある種の耐性がついたのだろうか?

 さらにその上、鏡の国には、不思議の国よりも不可解なものが存在する――




「う、うう……」

 トウィードル家から少し――否、相当離れた場所ではあるが、森はまだ続いているところ。あの馬鹿でかいカラス――何と言ったか――に吹き飛ばされた後、鞠は木の幹にぶつかって、その動きを停止したのだ。

 停止して――一分ほど、眠っていた。ぐったりと、気絶していた。

「……はっ!」

 そして、ただいま目を覚ました。森の中で、相変わらず木ばかりの周囲。頭上、空は――

 良かった。青い。雲も吹き飛ばしてしまったのか。

 トウィードル兄弟もいない。どうやらあの嵐で遠くに飛ばされたらしい。と鞠は判断した。

 ほっと息を一つ、ついた瞬間――頭部に衝撃が走った。たまらず頭を抑える。

「痛っ……つっ……」

 見てみれば、鞠の手にはべったりと赤いものがついている。頭から血が出ているじゃないか。木の幹でぶつかったときか、嵐の中で何かが当たったか――

 なんにせよ、手当てをしなければならない。女子の必須アイテム、手鏡を取り出し、顔を見る。鞠の白髪の一部が赤くなっていく。

 ビジュアル的に女子ではない。女兵士だ。

 あらかじめ平等家宅から包帯を持ってきている。それを頭に巻こう――そのまえに傷口を洗う水が欲しい。しかし、近くに川や池が近くに見当たらない。

 魔法石は持っている――2つとも無事に持ってきている。しかし物質製造をするような気力は無い。なんとなく分かるのだ。今、物質製造はできない。天から授かった才能による技術だから――

「君は、人間の女の子じゃないか!」

 突然、そんな声が聞こえた。鞠は驚き、振り返る。

 そこには、大きな、大人の雌鹿がいた。茶色の整った、つやつやした毛並み。くりくりとした、真っ黒のつぶらな瞳。しかしこいつはどうやって話しているのだろう。草食動物の分際で、言葉をしゃべるだけの喉を持ち合わせているのだろうか? と、鹿がしゃべったことについて、鞠はワンテンポ遅れてぎょっとした。

「僕は鹿だ。君の名前は?」

「……鞠。平等、鞠」

「マリ? ビョウドウ? 変な名前だねぇ。まあ、いいか。どうしてここにいるの?」

「――あなたは?」

「おいおいおいおい」

 と、鹿は鞠の周りを5周する。なんだこれ。ただの嫌がらせか?

「質問に質問を返すなよ。僕は鹿だ。先に説明しただろう? きみは一体何者なんだい?」

「……ねえ、アリスって、知ってる?」

 質問を、再度返す。

「もちろんさ。彼女がどうかしたのかい?」

 また怒られるのではないかと思ったがそんなことはなかった。

 よくわからない鹿だ。

 まあ、よく分かる鹿なんて見たこと無いけれど。

「アリスに頼まれて、赤の女王に伝言を伝えろって。そう言われたの」

「なるほどね、彼女らしいね。ついてきな」

 ついてきな?

 一体どこに連れて行くというのだ。その場所によっては鞠自身に多大なるデメリットが生じる。というよりも、なにもかも唐突だ。こんなわけの分からない世界に来て、その中でわけの分からないものに出会い、そして今はわけのわからない鹿についてこいと言われている。

「どうして、私なの?」

「質問が多いねぇ! まあ嫌いじゃないよそういうの! 赤の女王を探しているんだろう? だったら案内してやるよ。その女王の城にね! さらに説明してあげるよ! この鏡の国をね!」

「鏡の――国?」

「知らないのかい? 知らないでここまで来たのかい? まあいい。もんだいはそこじゃあない。その頭の怪我を治療する水場にも案内してやるよ。もう一度言うよ。ついてきな」

 ……完璧だ。鞠の今望むものをすべて満たしている。アリスからの命令。この世界の現状。そしてこの頭部の怪我の治療のための水場。3つすべてが手に入る。好条件過ぎて逆に気持ちが悪い。

「……オーケイ。ついていくわ」

 鹿はどこに通じるかわからない木の間を抜ける。

 鞠はその鹿に従う。




「もともとこの国は■■■■と□□□□の2人が統治していたんだよ。この国に女王は2人必要だからね。どちらかを失えば不利になるのは明白だ。まあ、ポーンが成り上がればまた女王が生まれるんだけど。それもルークが阻んでしまうかな。え? ルークは最初からいない? ああそうかい」

 ……気のせいか? いや、気のせいではない。この□の言っていることは――ってあれ? これは――何だ?

 こいつは――何だ? この毛並みのよい、四つの足を持ち、つぶらな瞳を持った動物は、何だった?

 名前が思い出せない。これは一体どういうことだ?

「ちょっと待って、あんた最初のほう――なんて言った?」

 と、×は尋ねる。ああ、自分の名前すら分からなくなっている。何だ? この現象は――×は戦慄する。

「聞こえる、というか、聞き取れるはずが無いよ。だって、ここは名前をなくす森――通称、□□□□□なんだから。おっと、これも聞き取れないか。ごめんごめん。だとしても、意外と何を言ってるか分かるだろう? そんなものさ、会話なんて。相手の名前が分からなくたって成立しちゃうんだよ。正義と悪みたいにね」

 正義と悪のたとえについてはまあ考えないことにして――名前をなくす? 名前が――消えるということだろうか。なんて恐ろしいんだ、と×は思う。それは、つまり――

「…………」

 つまり? 何だ?

 名前が無くて、困ることが――あるだろうか? もともと名前なんてものが、勝手に名づけられたもので、自然にあったわけではない。固有名詞が無くたって文章は成立するし――会話だって成立する。

「じゃあ、続きを説明するよ。■■■■――ああこれは赤いほうの女王様ね――と、×××と□□□□の連合。この2つに、この○○○は分裂しているんだよ。×××は君も知っているよね。君をこの国に連れて来た少女だ。あの小生意気な娘だよ。□□□□は白いほうの女王ね。ははっ。この森から出たらもう一度この会話を聞いてみたいものだね。とても馬鹿らしい会話になっていると思うから。まあ、そんなこと求めたって、物語の進行には関係ないってね。望みのすべてがかなうのなら物語なんか要らない、って話かな?」

「……もうちょっと、簡単に説明してくれない?」

「オーケイ、分かったよ。元はといえばの話になるけど、この分裂は人為的なものだ。×××によっての分裂、というよりも支配だね。この○○○と、鏡を隔てた向こう側にある○○○○○。この2つの国を、×××は支配しようとしているんだ」

「――支配? なんだか……」

 あの少女がそこまで考えるだろうか。いや、性格的にはそんな感じか。常に自分が上位にいると信じてやまないとでもいうのか。×と同じくらいの年齢とはいえ、そのような発想に至ることはあるのだろうか?

「変な構図ね」

「ああ、おかしい。背中に目がついているくらいにおかしい。そしてその×××だが、彼女は二人の女王のうち□□□□のほうを支配した。どうやったかは知らないけどね」

「そして――■■■■は、その支配を受けまいと、反対している。と」

「そのとおり」

 なるほど――だから■■■■■■兄弟が攻撃してきたのか。×××の頼みで、と言ったから――確か×××サイドとか○○○サイドとか言っていたか。なるほど、今までのことが少しずつ繋がってきた。

「ちなみに、あなたは?」

「僕? 僕にそれを聞くのかい? あのねえ、こんな動物を支配して、×××がどうするって言うんだい? 魔法も何も使えないこんな役立たずに!」

「この、名前のなくなる魔法はあなたのものじゃないの? あなたの魔法が、こうしているんじゃないの?」

「違うよ。この魔法はあくまでも、この土地にのみ宿っている。呪われた土地とでも言えばいいのかい?」

「別に、そうじゃあないけど……ってことは、あなたはただの□で、何もないってこと?」

「ああ、ただの□だよ。支配する心の強い者に支配されやすいというただの□だ」

「……×××サイドなわけね」

「協力する気はないけどね」

 と言い終えたとき、突然、□は足を止めた。つられて×も足を止める。

 ……どうやら、□は何か思案しているようだ。

「どうしたの?」

「……いやいや、あることに気づいちゃってね。そうかそうか、そうなっているのか……」

「……何?」

 □はくるりと、×に向かう。面白いことを思いついたと言うような表情でだ。動物の表情が分かるのかって? 分からずとも――伝わるのだ。固有名詞が無くとも、生きていられるように。

「分かっちゃったんだよ。×××がどうしてこんなことをやっているのか。こんなことをやり始めたのか。教えてやろうか?」

「×××の――目的?」

 ぜひとも知りたい!

 どうして○○○や○○○○○を支配する必要があるのか。支配をしてどうするのか。ちゃんと知りたい。それを知ることで×たちがどうしてここに連れてこられたのかを知ることが出来るかもしれない。そしてそれを逆手にとり、現実世界に帰る方法も生み出せるかもしれない。

 ただ、

「教えて欲しいけど――この森を出てからにしてくれない?」

 虫食いの情報になるのは避けたい。それだけを考えた発言だったが。

「無理だね」

 ――と、□は言った。

今か絶無か(ナウオアネバー)。どちらかを選べ」

「…………」

 命令調――どうしてもということか。どうしても情報を鮮明に明かすわけにはいかない、虫食いの情報でなければ渡せないということか――?

 一瞬、拷問しようかと脳裏をよぎるが、それは無理な相談というものだ。動物を拷問してどうしようというのだ――!

「……(ナウ)

「オーケイ。覚悟しろよ」

 と、□は言った。

 この際、虫食いでも仕方が無い。知れる部分もあるはずだ。固有名詞を、想像しろ。

「まず、僕がこのことに気づいてのは3日前と昨日の×××の格好がまるで違うってことさ。ああ、3日前も昨日も会った。×××はまるで変わっていたんだよ。それは多分だけど×××がついにアレを生み出したってことさ。何をって? ×××を、だよ――前から×××は言っていたんんだよ。作るのなら、名前は×××にするってね。思えば随分な傲慢だよ。×××が×××を生み出す、っていうのはね。それはおそらく2日前だろう。×××をこの世界に作り上げた――はっはっはっ! 今考えてもおかしな話だよ! あんなに小さいのにねえ! そして君、×と言ったかな? ピンときたよ、××。おやおや、どうしてこうなるんだろうね。×××。なのに、この差は一体なんだろうねぇ! そう僕は考えた。そこで、昨日会った理由が生きて来るんだ。正確には、向こうが僕に会う理由だね。○○○○をやっつけたという知らせだよ。そう×××が言ってきてね。そのころにはもう×××を手放していたわけだ。だって、○○○○の持っている時計には特殊な力があるからね。魔法だよ。もう推測はついているはずだろう? だから説明しない。×××はそれを用いて、×××を送った。どこに送ったのかは知らないけれど。×××はその後×××を回収したんだ。そのときが来るまで待ってね。これで分かっただろう? どうして君がそんなに×××にべったりとくっ付かれるのか。分からないって顔だね。ああ、違うか。君が知りたいのはそういうことじゃないのか。だけど、すぐ分かるだろう? そういうものを生み出した者は、世界の歯車になったと感じるんだよ。だから、×××にとって世界と言えるもの、○○○○○と○○○は支配しなければならないんだよ。きっとそれは彼女の目的――いや、目標の第一段階に過ぎないんだろう! その後が問題なんだよ。何せ×××ってのは☆☆☆を生み出す存在でもあるわけだからね――相応ヤバい名前さ。十分に気をつけて、丁寧に扱わなければならない。だからこその環境づくりさ。そのための支配だ。だからこそ、どちらかと言うと、君が頼まれた■■■■へのメッセージは、そういう意味なのかもね。×××と■■■■はもともとそういう関係だったんだからね。……なーんて、これは言いすぎかな? 考え直す必要があるね。だけど大きな枠組みとしてはこんなもんだと思うよ。そして、間違っていないと確信できる。だからあとは――×××がどう動くかにかかっているんだよ」

 ――何を言っている?

 まったく分からない。

 固有名詞が無いから分からないのか――そもそも論理が意味不明なのか。

「出口だよ。バターツキパンチョウが待ってるよ、鞠ちゃん」

 ――変な虫がうじゃうじゃしているところに出た。鞠はその光景にぎょっと――しない。何だこの感覚は。この不思議な違和感は。

 何かとても重大で、それこそ今の状況を打破するための手がかりだったかもしれないのに。まったく理解できなかった――

「もう少し行けば水場がある。その先にある列車に乗って、山を一つ越えれば、すぐ城が見えてくるよ。水場までは案内してあげるから、もう少しの辛抱だよ」

「あなたは――一体、何なの?」

「駒でもない、ただそこに配置されているだけの登場人物だよ。きみとは違ってね。もっとも、きみも駒ではないんだけどね」

 ――鞠は、もう何がなんだか分からなくなった。



                   第2章・終

                   第3章へ続く

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