七曜の物語 日曜日の追放者
元老院地下大法廷
地下にあるとは思えないほど明るいドームには、たくさんの聴衆がいて、その反対側……入り口から見て奥に設置されている高い台の上に十二人の裁判官と裁判長が座っている。左右には、それぞれ審問官がいて、ちょうどドームの中央にいる被告人の男に判決が下されようとしていた。
「以下の罪において被告を異端認定し、教皇領からの追放を命ずる」
「待ってくれ! 俺はやっていない! 無実だ!」
裁判長から下された判決にはむかうように男は暴れるが、すぐに近くにいた審問官に取り押さえられる。
「これは、決定事項だ。これをもって閉廷とする」
白髪の裁判長の言葉が法廷内に響き渡り、裁判官たちが順番に退席していく。
「待て! どういうつもりだ! おれは無実だって言ってるだろ!」
男の叫びになど聴衆も男を抑えている審問官の耳には入らない。
元老院の裁判所の決定は覆せない。それが世界の常識であるからだ。
*
翌日。
男は住み慣れた我が家を後にしようとしていた。家財道具はほとんどそのままになっていて、男の荷物は最低限の着替えや僅かな金品のみだ。
「見送りは……いないか」
男は自嘲気味に笑うとわずかな荷物を背負って歩き始める。
おそらく、二度とこの町に来れないだろうし、愛しの我が家に帰ってこれることもないのだろう。田舎の母のところへ帰ろうか……などと考えながら歩いていた時である。
「おじちゃん!」
小さい女の子の声が後ろから聞こえた。
男がゆっくりと振り向くと、そこにはいつもお世話になっていた近所の人たちが集まっていた。
「みなさん……どうして」
「どうしてって水臭いねぇ! あんたはうちの常連だよ! あんたが居なかったらさびしくてたまらないよ!」
そう言って笑い声をあげるのは、食事処を営んでいるおばちゃんで続いて花屋の少女が前に出る。
「おばさんの言う通りですよ。みんな、あなたの姿を見るために集まったんですから」
「おうよ! まぁどうせ兄ちゃんのことだから、ひょっこりと戻ってくるんじゃねーか?」
少女の後ろから話しかけたのは、今去ろうとしている自宅を作ってもらった大工さんだ。
「そうそう。家の管理は私がしておきますからね……もし、永遠に戻ってこないなんてことがあれば許しませんよ」
きついことを言いながらも笑っているのは隣に住んでいるおばちゃんだ。
「ねぇ。みんな待ってるから戻ってきてくれるよね?」
花屋の少女が代表して男に声をかける。
男は、力強くうなづいた。
「あぁもちろんだ」
男は、背を向けて歩き出す。
ただ、今度は絶望に打ちひしがれた暗い顔ではなく皆に励まされて希望に満ちた明るい顔だった。