3、同級生
ピピピピピ……
目覚ましの音が聞こえる。本格的な夏に入りかけの6月、少し暑い。
というよりも暑苦しい何かが乗っている。
それは人肌に温かくそして柔らかい自分とは違うモノ。
バサッ!
シーツをめくってみると、そこには“ルリ姉が居た”
すやすやと幸せそうに眠っている。
小さな頃からいつもベットに潜り込んでは勝手に寝る。恒例すぎて怒る気すら起きない。
「…あ、おはよぉ…ゆうちゃん…」
ルリ姉の目が覚めた。眠たそうに目をこすっている。
「おはようルリ姉。暑くないの?」
「ゆうちゃんと一緒だから全然だよー…」
「そっか…とりあえずちゃんと服を着ような」
「んー?」
今のルリ姉の格好は愛用のくまさんパジャマだが、暑かったのか胸元が大きくはだけている。
青少年的には刺激が強すぎる光景。2つの渓谷の隙間は汗ばんでいて一種の壮観さすら覚える。
誰かさんとは違うな…
「誰かさんがなんだって?」
「そうそう、ホントにマリ姉とはちが…」
「あら~マリちゃん。おはよう~」
「おはようルリ。朝ごはん出来てるから下にいらっしゃい。優希にちょっとお話しがあるから先に食べてていいわよ」
「うん。分かった」
お腹すいたお腹すいたと連呼しながら階段を下りていくルリ姉。
一方俺はまるで絞首刑にされた罪人のような気持ちでルリ姉を見送っていた。
ルリ姉を見送るまで菩薩のような顔をしていたマリ姉はこちらへ向き直ると般若のような顔になっていた。
「ところで優希くん?」
「は、はい…!?」
「誰の何がなんだって?」
「いやその…」
「誰の何がなんだって?」
「マリ姉の胸って小さいよなって思ってました」
「ほう…じゃあ優希は大きい胸が好きだと言うのね?」
「否定はしないっす」
「いいわ…その嗜好が変わるまでお姉ちゃんと肉体言語で話しましょ?」
「え…いやマリ姉!拳をポキポキ鳴らさないで!戦闘準備ばっちりかよ!やめて!やめーてー!」
ガチャ…部屋の扉が開かれる。そこから現れたのは
「ダメだよ~マリちゃん」
マリ姉だった。
「ゆうちゃんいじめたら私が許さないからね?」
「別にいじめてなんか…ねぇ?」
「お…おう。俺たち仲良しだよ!」
俺たちはわざとらしく肩を組んで笑う。
俺とマリ姉の間にはこういう戒めがある。
『ルリ姉を怒らせるな』
いつものほほんとしているルリ姉だが怒るとホントに怖い。
あのマリ姉ですら正座して号泣したそうだ。
ルリ姉はそれを見て満足したようで、
「むふー…なら良いよ。皆仲良くしないとね!」
「そ、そうね!ホントにそう!」
「あぁ!マリ姉大好きだよ!」
「私も!」
こうして朝の平和/(?)な時間は過ぎていく。
そして登校時間。昨日無理矢理に結ばれた約束はやはり続いているようで。
「今日も一緒に行こうね?ゆうちゃん」
「ほら、さっさと行くわよ」
「はいはい」
さっさと玄関を出ようとすると2人から手を差し出される。
まるで王子にキスをさせるお姫様のように。
「?」
「昨日の約束。忘れてないよね?」
「はぁ…分かったよ。ほれ」
2人と手をつなぐ。夏だと言うのに俺の手は暑さで汗が滲んではいなかった。
高校へと近づいていくと、少しずつ生徒も増えてきた。
もちろんこちら側をものすごく見てくるわけで、率直に恥ずかしい。
なんでこの年にもなって姉と手を繋がなきゃならんのだ…
でもこれ昨日も言ってたな…あれ?これデジャブ?なんてことを思っていると
「優希、この辺でやめましょうか手を繋ぐの」
「え?何だよ姉ちゃんたちから繋ぎたいっつったのに」
「あら?残念なのかしら!?」
「私たちはいいんだけどね~このまま学校に行って話題になったらゆうちゃんの迷惑になっちゃうから…」
「確かに校門で生活指導のおっさんとかに目をつけられたら大変だしなぁ…」
「そうそう。私たちも生徒会に入ってると問題は起こしたくないのよ」
「じゃあこのことが話題になったらどうすんだ?素直に弟が好きですって言うのか?」
「言うわね」「言っちゃうね~」
全く恥ずかしがらずに2人の姉が言う。
「そ、そっか…。まぁ俺のことはどう言われても構わないし。姉ちゃん達が幸せならそれでいいや…」
「それでこそゆうちゃんよ!」
「ま…まぁ私たちの幸せは優希の幸せなんだけどね…」
「ん?なんか言ったか?マリ姉?」
「なんでもない!ほら早く行くわよルリ!」
「引っ張らないでマリちゃ~ん」
マリ姉はルリ姉を引きずりながら校舎へと入っていく。
しかしその前には新入生、その他含め色々な生徒が群がる。
その中には入学式で一目惚れしたやつもいると聞く。
こうして客観的に見るとホントに姉ちゃんたちは美人だなあと思う。
流れるような黒髪に凛とした性格のマリ姉
ふわふわした茶髪にほんわかした雰囲気のルリ姉
釣り合ってないよな俺…
「おーはようっスー!」
背中をバンっと叩かれる。後ろを振り向くとそこには女の子がいた。
ショートで髪をまとめた快活そうな女の子。正直言って可愛い。モデル並みだ。
「おはよう…?んと……誰だっけ?」
「あれー?知らないっすか?クラスメイトっスよ?」
「ごめん、分かんない」
「あー…それは残念っす…じゃあ改めましてをば!」
そして彼女は自己紹介を始めた。
「自分は冴輝柚希!ゆずって呼んでください!」
「じゃあ…ゆ、ゆずちゃん?どうして俺に?」
「実は自分、キミが気になってるっスよ…」
「え!?」
ちょっと待てちょっと待て。期待するな。
小学生のころを思い出せ!女子に告って「その肩甲骨が嫌」って言われて姉ちゃん達の胸で泣いたあの頃を!!今思うとあの頃からルリ姉は胸がデカかt……そうじゃなくて!うーんうーん…
思考整理が追いつかないうちにゆずちゃんは俺に対してこう言った。
「あの誰とも関わろうとしなかった唯我独尊孤立無援っぷり!憧れるっス!」
「は?」
「入学式だというのに誰ともつるまず、挨拶すら不良のようで…あの瞬間ビリっとカラダに電流が走ったス!」
「いや…確かに挨拶は適当だったけど…そんなの他の奴らだってそうだっただろ?」
「そうじゃないっス!優希くん!いや…兄貴!あの瞬間の兄貴は…凛としていて、とってもかっこよくて…自分は一目惚れしてしまったっス…」
「兄貴!?」
「だから!兄貴!自分を舎弟にしてくださいっス!命じてくださればなんでもします!近くでその男っぷりを学ばせてくださいっス!」
深刻な表情で俺に訴え掛けるその目はとても冗談には見えなくて、まるで捨てられた子犬のような瞳でこちらを見ていた。
「……じゃあ…1週間だ!1週間俺の近くにいて俺のことを評価してくれ!それで多分キミは諦めることになると思う…俺は君が思っているほどかっこいい人間じゃないし男らしくもない。それを一番近い場所で見てくれ…」
これは俺なりの最大限の譲歩だ。断ることもできず、でも諦めさせるには自分を見てもらうしかない。
すると彼女はしばらく数瞬逡巡した後
「それって…もしかしてプロポーズっスか!?」
とんちんかんな答えを導き出した。
「はぁ…」もう考えるのも面倒だ…
2日目、愉快な舎弟(仮)ができました。僕は元気です。
PCエンジンかセガサターンにこういうタイトルの18禁ゲーありましたよね