三話 森の中にて
三話 森の中にて
とある森のなか、
小さな兎の獣人がうずくまり、震えていた。
木の根っこにつまづいて転んでしまったのだ。
近くに親もいない。
どうしよう?彼女は思った。
このままだと、悪い魔物がやってきて、食べられてしまうかもしれない。
あたりはもう暗くなりかけていた。
ーーおおお……ん
そのとき、木々の向こうから、遠吠えが聞こえてきた。
狼だ!
しかし、気づいたときにはもう遅い。
すぐに、狼たちが影のように忍び寄ってきた。
ーーお母さん……!
ギラギラとした牙が迫る。
彼女はぎゅっと目をつぶりーー
「ぎゃおんっ⁉」
「駄目じゃないか、こんな小さな子に襲いかかるなんて」
そのときだった。
狼が一匹、それこそ影のように消えてしまったのだ。
そして、人間がいた。
狼の群れに全く怯える様子もなく、平然と。
***
数分後。
狼の群れは消えてなくなってしまっていた。
それを成した人間が、今度はゆっくりと、子兎の獣人の元へと歩み寄る。
濃密な死の気配だった。
彼女の体の震えは完全に止まっていた。
全く動けない。
狼の群れに囲まれたときよりも、圧倒的な死の存在感。
殺される。
小さな兎人はあっさりと理解した。
だから、
抱き上げられ、怪我をした腕に触れられたときも、彼女の体は死んだように動かなかった。
ーーそうして、そのうち、痛みも消えた。
「じゃあね、立派に成長しなよ」