STORY7:魔族見参 前編
この小説の原作をようやく見つけだしました。
これで、少しは早めに投稿することが出来ると思います。
これからも、ヨロシクお願いします。 邪餽 珀磨
晴天に、怪しく黒い雲が迫る午後。
同じく、晴天のような男・パオに、ミーナとリュウとシュラと……とにかく、その場にいた全員の黒い雲が迫っていた。
彼の我儘のせいで、リュウはその身を追われ、ミーナとサミーは村を焼かれたのだ。
シュラは、姉を狙われるし。
シェラに至っては、彼のせいで宿屋を戦場として使われてしまったのだから・・・。
「は、話しをしよう・・・」
沈黙を打ち消そうとしたのは、やはりパオだった。
その瞬間、4人の怒りの拳を同時に喰らう。 バングルを着けるリュウと、喧嘩慣れしているミーナの拳が特に痛そうだ。
「"話し"だぁ?ふざけてんじゃねぇぞ、ごるぁ(怒)」
リュウが、再び殴る。
「あんた・・・『死』んでみる?」
ミーナの冷たい瞳と、『死』という語源に固まるパオ。
気持ちはよく分かるよ、とヒョウが頷いて見せる。
「な!なんだ貴様は!!」
「パオ総指令に向かって!!」
外(壁が壊れているため、すぐ隣)から野次馬共の声がする。
ミーナは、それをギロリと睨んだ。
一瞬にして、野次馬の声は消え失せた。
総指令のパオと同じ色の瞳なのに、何故か身体が凍りつく。
恐ろしかったのだろう。
「悲しいねぇ。総指令ともあろう方が・・・」
軍の野次馬の中から、ひょうひょうとした声が聞こえた。
真っ紅な短髪に、紅い瞳と黒い瞳。
少々、自由に軍服を着こなした男だ。
「なんじゃと!?」
真っ紅な短髪に、紅い瞳と黒い瞳。
黒い瞳以外は、見覚えのある顔・・・。 と、シェラは考えた様子。
男は、ニヤァと笑って目を見開いた。
それと同時に、空の黒い雲から蒼い稲妻が輝いて、その姿を見せた。
「おぃ、そこの白髪」
顎で示され、釈に障ったヒョウが睨んで見返す。
「勿体無ぇな、お前。それだけの力があるってのによ・・・」
「なんだ、テメェ。人のこと、どうこう言う前に名乗ったらどうだ?」
男は、ただ首を振った。 "NO"ということらしい。
「じゃあ、俺がテメェのいうことを受け入れなくても、文句無いだろ?」
ヒョウがそう言うと、男は肩をすくめてその場を面倒臭そうに去って行った。
何でも無かったかのように、風のように・・・。
その場にいた誰もが、『何だったんだ?』と呆けていた。
話しを戻すと・・・いや、話しなんて出来やしなかった。
ただ、問題を起こしたパオを一時期預かりボコる・・・基、反省して貰うように(拳で)説得することは決まった。
「いやいやいやいや!ちょっと待て!!」
と、やられる本人は納得していないが・・・。
「「「「は?」」」」
が、怒りの籠った4人の表情を見て口をつむぐ。
パオは、とりあえず謝った。 リュウの指名手配も無くなった。 ミーナの村を壊した、あの2人にも罰を与えた。
でも、シェラは諦めなかった。
いい加減、ウザイと思うシュラだったが、今は姉のシェラに言われた通りリュウと壁の修理をする。
「あんた、本名は?」
唐突に、ミーナが聴いてきた。 パオは、ポカンと口を開いて固まった。
「ジン・ドラングドゥ。・・・しかし、そんなことどうするというのだ?」
冷や汗を垂らしながら、上目線でミーナを見る。
そんなパオに微笑んで、ミーナは冷たい目線を送った。
「気にしないで。ただ、呪うのに借りるだけだから」
一瞬にして、(連合軍の)皆の血の気が引いた。 みるみる内に、白くなって、青くなって、土色になった。
両手を縛られているパオは、足だけで変な動きになりながらも急いで後ずさった。
「逃げても無駄。ミーナの呪いは強烈なの」
猫のサミーが言う。
再び、軍の皆が青冷める。 共に思ったのだ。 『猫が喋った』と・・・。
サミーは呆れた。
ミーナは呪いの準備を始める。
それを、なんとかヒョウが止める。
「あのなぁ、そいつ先程から喋ってただろ?」
その場に重い空気が漂う。
ヒョウの肩をポンッと叩き、リュウは黙って首を振る。
その顔は、諦めを露にしている。
「連合軍の方って・・・」
今まで黙っていたシェラが、ゆっくりと口を開く。
シェラは、天使のように微笑んで言った。
「馬鹿な人が多いんですね?」
悪気は無いんだよ。 シェラは天然の毒舌少女だから。 あぁ、だからそんなに落ち込まないで・・・。
軍の皆さ〜ん! 特に、パオさ〜ん!!
目を覚まして!
魂、引き戻して!!
「ぁ、ご、ごめんなさい!私ったら・・・失礼なことを」
「いや!大丈夫じゃ!気にすることはない、シェラ殿!!」
シェラの瞳に涙が溜まり、素早くパオは平気なフリをした。
シェラは安心して、涙を拭きながら再び微笑んで見せる。
一瞬にして、軍の皆さんに笑顔が戻る。
『馬鹿だ』
皆の頭にその言葉がよぎった。
とりあえず、軍の皆さんはパオだけ残して退却してもらった。
そして、とりあえずパオをボコボコにして、その日は終わった。
雲1つと無い、晴天。
シェラは、溜まっていた洗濯物を外に干していた。
シュラとサミーはその手伝い。 ヒョウも一緒にだ。
ミーナは、近くの林に赴き食料の調達に。
リュウはパオを見張っている。
「お主も、"紋章を持つ者"なんじゃろ?」
屋根裏で、静かにしていたパオが尋ねた。
リュウは否定しない。 あえて、肯定もしないが・・・。
「だから、どうした?」
パオは、やはり・・・、と話し始める。
「紋章を持つ者同士、惹かれ合うモノがあるんじゃろぉな・・・」
「だからって、シェラちゃんは渡さねぇぞ」
パオは、リュウの返事(?)にふっ・・・、と笑う。
その笑みには、余裕さえ見える。 だが・・・。
「ケチ!!」
「って、うをぃ!?」
リュウのツッコミは、パオの溝落ちに見事に入った。
パオは両手を縛られている。 ついでに足も。
まるで、陸に上げられた魚のようにのた打ち回る。
言葉は無い。
「ふざけんなよ?一応、親同士が決めたことでも・・・俺の婚約者には変わり無いんだからな!!」
まるで、鬼のような形相でパオを睨む。
「わ、分かっておる!じゃが・・・シェラ殿がわしを選べば、文句無いじゃろ?」
パオは、視線を反らしながら答えた。
「それは無ぇ」
「なんでじゃ!」
2人はやいのやいのとがなり合う。 だが、それは幼い声でかき消された。
リュウは、パオを逃がさないようにしっかりと捕まえ、コイツがいるからだよ、と言って苦笑する。
「よく分かってるじゃない?馬鹿と大馬鹿」
濃い水色の髪、紅い瞳の少年。 2人にとって、最愛の女性シェラの弟であり、2人にとって最大の天敵。
シュラである。
シュラは、リュウの両手もついでに縛る。 勝手な行動をしないように、パオの縄に結び付けて・・・。
「お前等2人とも外出禁止!ついでに、昼飯も抜き!!」 それだけ言って去ろうとするシュラに、リュウとパオの2人は待ったをかける。 が・・・。
「何か文句でも?」
全身に青白い炎を纏って、シュラは振り向いた。
リュウもパオも、首を横に振って答えた。
シュラが下に降りると、殆ど同じタイミングでミーナが帰って来た。
「あ・・・」
「ただいま。ミーナよ、憶えててね?」
"忘れる訳無いよ"とは言えない。 シュラでさえ、ミーナは恐いと思ったのだ。
「うん。分かった」
と、シュラは明るい表情を作って笑った。
ギリギリ、バレて無いはずだ。
「やっぱ、恐いか・・・」
バレバレだったようだ。
シュラは苦笑した。
ミーナは話しを変える。 今日の収穫と、パオをこれからどうするか、について。
「そっか・・・ミーナ達は村に帰るのか」
「いいよ。俺ここに残るから」
皆がしんみりしている中で、ヒョウがしれっとして言った。
一斉に、皆がヒョウを見る。
「い、いいの?」
ミーナが聴くと、ヒョウは頷く。
どうせ戻る所も無いし、とヒョウは言う。
「あ、ありが」
『御免下さーい』
声のした方向へ向かうと、そこには1人の青年が立っていた。
青緑色の髪をした、優しそうな顔の青年だった。
シェラ、シュラ、ミーナ、サミー、ヒョウの5人は首を傾げた。
今は、修理のため宿屋はやってない。 勿論、表にも知らせは出している。 街にも、一応話しはした。
しかし、青年はそこにいる。
「あの・・・。何か?」
「はい。私、サッドと申します。シェラ様ですね?」
サッドと名乗る青年は、シェラの方を向いて聴いた。
「は、はい。そうです・・・けど」
戸惑いながらシェラが答えると、サッドはニッコリと笑った。 あまり、笑っているとは言えないくらいに瞳はそのままだ。
嫌な感じがする。
そう、感じ取ったミーナとシュラが身構える。
「貴方を、誘拐しに来ました。シェラ・コルベール」
一瞬、間が抜けた。
何か、さらっと言いやがった。
「では、今宵・・・シスターのカネでお待ちしております」
ミーナ達が呆けている間に、シェラはサッドと共に消えていた。
既に唖然とする4人。
見れば、リュウとパオも降りて来て唖然としている。
外出禁止って言ったのに、とシュラは青筋を立てる。
ま、今はそんなこと気にしている暇など無いが・・・。
「お前・・・何やってんだよ!?」
リュウは、自力で両手に巻かれた縄を引き千切る。
そのまま、シュラの両肩に手をやり揺さぶる。 力一杯に、だが、シュラは唖然としたままだ。
シェラがいないことに気が付いたリュウは、凄い形相でシュラとヒョウを睨んだ。
シュラは知らなかった。 リュウの今の顔を・・・。
今まで、見たことの無い、シュラでも"恐い"と思ったその顔を・・・。
もう、何年も同じ奴のヘラヘラ顔を見てきたはずなのに。
「お前、守るんじゃないのか!?俺の代わりに守るんじゃなかったのかよ!!?」
「・・・・・・・」
リュウは、ギリ・・・ッ、とシュラの肩を掴む。
シュラは黙ってうつ向く。
ヒョウも、何も言わない。 サミーが、何か言おうとするがシュラ自身がそれを止める。
バキッ!!!!
「分かってる。そんなこと・・・」
「じゃあ、なんで殴ったんだよ!!」
何時ものように、倒れはしなかったが目の周りには、大きな青痣が出来ている。
シュラは震えている。 急だったとは言え、たった1人の姉を連れ去られたのがショックだったのだろう。
それを見て、リュウは責めるのを辞めた。
「もういい・・・。お前はそこにいろ。教会に行ってくる」
リュウの瞳は真っ直ぐだった。 まるでシュラを見ていない。 目の前にはいないシェラを探すようだ。
サミーは問う。
何故、そこだと思うのか、と。
長いことこの街に通っていたせいか、リュウは街の者達よりも街のことを知り尽くしてしまったらしい。
「この近くに、古い教会がある。あそこは、聖なる場だ。魔術も、呪文も使えない」
交渉の場には打って付け、とリュウは言う。
しかも、笑みまで溢して・・・。
「行ってくる」
「待って、わたしも一緒に・・・」
リュウが言うと、ミーナが身を乗り出して言う。
だが、リュウは手を出して止める。
「俺は、シェラちゃんの婚約者だ」
つまり、付いて来るな、ということだ。
リュウは、笑って出て行った。 ついでに、リュウは言い残した。 1時間経っても戻って来なかったら、教会に来るように、と。
「なんで、あそこまで・・・?」
リュウの出発を見送った後、サミーが呟くように言う。
それに、ミーナは答える。
「人間じゃ無いからよ」
感想・評価 お待ちしております!