STORY3:旅
ちなみに少女・少年〜20未満、青年(女を含む)〜20以上です。 感想・評価待ってます!
青い空と白い雲。
そして、燦々と輝く太陽が荒れた道を歩く3人を照らしていた。
小さなリュックを背負った白い猫と、一本の劔を背負った碧い瞳の少女(18歳)、そして大きなリュックを背負わされて泣きながら歩く碧い瞳の少年(19歳)の3人である。
まぁ・・・言わなくても分かるだろう?
簡単に言えば、2(ミーナとサミー)対1(リュウ)だ。 勝てる訳無いじゃない!
リュウごときがあの2人に勝てる訳が無いじゃない!!
「いい天気〜。ね?ミーナ」
軽やかなステップと口調でサミーが言う。
ミーナも、自分の瞳と同じ色の空を見つめて頷いてみせた。
リュウは相変わらず泣いている。
そんな3人の目の前に、一つの街が見えて来た。
サミーは、瞳を輝かせて走り出す。
小さいお陰であまり進んではいないが・・・。
「ね、ね!街だよ、街!」
「本当だ〜!こんな近くに街があったんだ〜!」
泣いているリュウは放って置いて、ミーナとサミーが嬉しそうに言った。
「ん?・・・街?・・・」
泣くのを辞めたリュウが、重い荷物を背負い直しながら2人が言う街の方を覗いた。
確かに、目の前に街がある。
リュウは提案する。
とりあえず、ここらで休もう、と。
「リュウにしてはいいこと言うじゃない」
と、ミーナが言うとサミーも賛成して、目の前の街に行くことが決定した。
3人はまず、呆気に取られた。
街の状態と、人の状態と、今の状態に。 タイミングが悪いと言うか、なんと言うか・・・。
3人の目の前には、『絶望』の二文字が目に見えた状態が広がっていた。
「どうしたんですか?」
ミーナが、目の前で片膝を付けた男に聴いた。 男は、涙目になったままで振り向くと3人を迎え入れた。
「ようこそっ・・・ひぐっ。メルガトの街へ・・・」
話し始めた途端、涙と鼻水が同時に垂れた。
えぇい!鼻水を拭け!鼻水を!! と思うミーナだったが、敢えて言葉にせずちり紙をそっと差し出した。
その優しさに(偽善だが)感動した街の男は、3人を街に歓迎してくれた。
男も少し落ち着いた様子で、ミーナは再び、どうしたのかを問い出した。
「はい。実は、この街の暴力団には手を焼いてまして・・・」
男は、ミーナに貰ったちり紙を右手にしっかり握って語り始める。
「街の物を壊すことは無いのですが、ただ・・・食べ物や着る物、お金や装飾品を奪い去って行くのです」
話を真剣に聴いていた(フリ)ミーナは、少し考えて質問した。
「何人くらいいるの?」
少なかったら、ブッ倒してしまおうという考えだ。
ミーナが予想しているのは20〜30人程。 だが、男の口から出た数はミーナの予想を覆した。
「さ、3・・・」
「え?30人?それだけ?」
こちらには紋章を持つ者が2人もいるのである。 そんな奴ら、わたし達が倒してあげるわよ、と付け足して言うミーナに、男は待ったを掛けた。
「え?違うの?」
「は、はい。その・・・3人・・・なんです」
・ ・ ・ ・ ・ ・。
男とミーナの間に、完全な『間』が生まれた。
ミーナの目が点になる。
呆れて物も言え無いのだ。
「街の皆で、わっと行けばいいじゃない」
最もなミーナの意見に、男も首を縦に振って相槌を打って答えた。
「したいのは山々なんです。でも・・・その3人は紋章を持つ者達でして・・・」
男は紋章を恐れているらしい。 それは、男だけではなく街の住民全てのようだ。
男は、ミーナに決して近寄らないようにして下さい、と釘を打って言った。
歓迎した旅人に死なれては困るからだと考えられる。
ミーナは、今までの汚れとか疲れを落としたいと思ってもいたために、とりあえず今回はお言葉に甘えることにした。
ちょっとボロい宿で食事を済ませ、十分に休んだミーナ一行は朝早くから街の広場にいた。
とっても
「寒ぃ・・・(泣)」
あ、台詞取られた。
「うっさいな〜。だったら、リュウだけ帰ったらいいじゃん」
両手で、両肩を持って小さくなるリュウの隣でサミーが言った。
その冷たい一言に、リュウは更に身を震わせた。
3人がここに来たのには理由がある。 簡単に言えば、街の人への恩返しだ。
街に到着して伝えられた、絶対に近寄ってはいけないという紋章を持つ3人。 そいつ達のせいで、お世話になった街が困っている。 お人好しのミーナには、素通り出来る話ではなかったのだ。
そろそろ、例の3人が来る頃だ・・・。
「・・・来た」
普通の温度とは違って、肌寒い空気と共にそいつ達は現れた。
緑色の髪をした奴、赤い髪をした奴、氷のように碧白い髪をした奴の3人が、ミーナ達の目の前に参上した。
3人は、ミーナ達に気が付いた。
「あぁ?」
「なんだ、あいつ等?」
赤い髪をした奴と、緑色の髪をした奴が同時に言い出した。 以後、こいつ等のことを赤髪、緑髪と呼ぶ。
真ん中にいた碧白い髪の男は、ミーナを睨んだ様子だった。
「アイスブリット!」
「「「!?」」」
ミーナを睨んだ後すぐに、呪文を唱える男。 ミーナ達はそれぞれに避けた。
後ろの赤髪も緑髪も、驚きを隠せないでいた。
「ってぇじゃねぇか!」
「いきなり失礼じゃない!」
男はキョトンとした様子で、ミーナとリュウを見つめた。
そして、ふふふっと笑う。
「お前達、呪文使いだろ?」
碧白い髪の男は、ヒョウと名乗った。
ミーナ達は、警戒して身構える。
ヒョウは、右手の手袋を外して甲の方に印された紋章を見せつけて来た。
氷の・・・紋章を。
「お前等、俺と殺り合いに来たんだろ?さっさと始めようぜ!」
ヒョウはそう言って、先程と同じ呪文を唱えた。
流石に二度目だったこともあって、3人とも氷の弾丸を素早く避ける。 ついでに、リュウがその氷を溶かしてみせた。 街に被害を出さないようにするためだ。
「止めなさい!わたし達は貴方達を止めに来ただけなの!!」
ミーナがそう言うと、ヒョウはくくくっと笑った。
続けてヒョウは言う。
「街の奴等か・・・。なら!俺を倒してみせろ!!」
ヒョウのその言葉と同時に赤髪と緑髪が足を揃えて劔を振り被った。 一番前にいたミーナに向かって、劔は振り下ろされた。
キィィンッ!という金属と金属がぶつかり合う音。 それと同時に、ヒョウは呪文を唱える。
「フリーズアロー!」
「フレアアロー!!」
それを打ち消すかのように、リュウも呪文を唱えた。
「スターアロー!」
打ち消し合うリュウの後ろから、光輝く矢が無数にヒョウめがけて飛んで行った。
犯人は勿論、サミーである。
ちょっと、矢の数が多く感じるのは気のせいか・・・?
「ぐぇっ!」
あ、気のせいでは無いらしい。 その証拠に、絶対に当たるはずの無いリュウに命中している。
「いってぇな!何しやがるサミー!!」
「あ〜ら、ごめんなさい」
サミーの膨れっ面を見た限り、ちょっと出番が少なくてのやつあたりっぽい。
「な、なんだ?そいつ・・・」
喋る白い猫を見て、呆気に取られたヒョウはただそこに立っていた。
さて、一方ミーナの方はというと・・・。
「その程度でわたしに敵うとでも思った訳?」
と、赤髪・緑髪の2人の喉元に劔を当てて言った。
後ろから、周り込んで当てている。 2人は、下手な行動が取れずそのままで固まっていた。
おそらく、街の男が言っていた紋章を持つ者はヒョウだけであって、この2人はただの付き人のような役割なのだろう。
そう考えれば、この2人は雑魚同然。 最近まで魔獣相手に劔を奮って来たミーナには、弱い相手だった。
「いい?貴方達以外にも強い人はいるの。あの街にもね。悪いことは言わないわ。街を襲うのを、今から辞めなさい」
ミーナは、いい?と、劔を強く当てて言った。 赤髪と緑髪の2人は、動かせる程度で首を縦に振って答えた。
あ、ちょっと涙ぐんでる。
返事を聴いたミーナが劔を外すと、勢いよくその場を去って行く。
そんなに恐かったかな〜?と考えながら、ミーナは他の2人の下へと急いだ。
「ファイアーボール!」
え〜・・・。 替わりまして、リュウとサミーとヒョウの3人・・・。
「キルスター!!」
チュドォォォォォンッ!!
シュビビビィィィィッ!!
ボォォォンッ!!
戦争ですかーー!?
先程から、止めなくてはいけないはずのヒョウを放って置いて、リュウとサミーの呪文のぶつけ合いが始まっていた。
ゴスッ!ベシッ!
「いい加減にしなさい!」
2人の呪文のぶつけ合いが止まった。 ありがとう!ミーナ!!
「そんなの後にして、さっさとヒョウを止めなさい!!」
まるで、母親のようにミーナは言った。
2人も、まるで子供のように渋々従った。
「何が何だか分からんが・・・。まぁ、いい!こっちから行くぜっ!!」
と、3人の準備が整うのと同時に、今まであのテンションに付いて行けなかったヒョウが口を開いた。
「フリーズキラー!!」
勢いよく飛び出した氷の結晶が、ミーナ達3人に向かって無数にぶつかる。
「キルフレイム!!」
その鋭利の結晶から避けるために、リュウが同じような呪文を唱えた。
ヒョウが放った氷のほとんどが、リュウの炎に溶かされてしまった。
ヒョウは、舌打ちをしてもう一度呪文を唱えて武器を作る。
氷の劔だ。
それを見て、ミーナも劔を構える。
リュウも、どこから持ち出したのか・・・一本の長い棒を手に取って構えてみせた。 一瞬の内に、それは炎を身に纏う。
「「はあぁぁぁっ!!」」
ミーナとリュウ、同時に攻撃を仕掛けた。
それを受け止めるヒョウだったが、氷が炎に勝てる訳も無く、虚しく蒸気と化しミーナの劔が喉元を捉えた。
「貴方の負けね」
と、ミーナが言う。
ヒョウは、呆気に取られてただ呆然としていた。 が、それから笑い始めた。
打ち所が悪かったのだろうか・・・?
そう考えるミーナとリュウとサミーだったが、3人の耳に入った言葉は意外なものだった。
「負けた、負けた!あー負けた!!やっと負けた!!!」
ヒョウは、嬉しそうに大声で言った。
彼は、負けたかったのだ。 自分より強い者と闘いたかったのである。
ミーナ達の方が、逆に呆気に取られた。
負けたことに感動しているヒョウに、ミーナは待ったをかけた。
「じゃあ、その為に街を襲ってた訳?」
「ああ」
怒りに震えるミーナに対して、ヒョウはケロッとして答えた。 更に、ミーナは怒る。
「ふざけ」
「ふざけんな!!」
「リュウ・・・?」
リュウは、ミーナの言葉を遮るかのように叫んだ。 そして、ヒョウに炎の棒を突き付ける。
"ジュッ・・・"という肉の焼ける音がした。
ちょっと臭い。
やられてる本人は、どうでもなさそうに笑っている。 その気になれば、氷で防ぐことも出来るからだろう。 だが、ヒョウはそれをしなかった。
「ははっ・・・。そっちの女が紋章を持つ者だと思ったのによ・・・。猫が紋章を持つ者だとはな」
ヒョウは、検討違いだぜ、と苦笑した。
ミーナはリュウの手を止め、首を振って辞めさせる。
何を言っても無駄だと悟ったのである。
「いいのか?殺さなくて」
「わたしは人殺しにだけはなりたくないから。死にたいなら、自分で死になさい」
笑うヒョウに、ミーナは冷たく厳しく答えた。 その瞳は、碧い色が凍りついたようにも見える。 それと同時に、氷を扱うヒョウが凍りつくように固まった。
ミーナが言い放つ『死』という言葉に反応してしまう自分がいるのだ。
ヒョウは笑う。
何か分からないから笑う。 それしか、今は出来ないから・・・。「あんた大丈夫?」
ミーナの後ろにいる2人は首を傾げていた。 ミーナの今の表情を見ていない2人には、何が起きているのかさえ分からない。
それ故に、そんな言葉しか掛けられないのだ。
「気に入った!お前、名前は!?」
ようやく笑いが終わったのかと思うと、ヒョウは嬉しそうにミーナの名前を聞いた。
「ミーナ・ドラグルゥ。ミーナでいいわ」
ミーナは冷たい瞳のまま、自分の名前を名乗った。
「そ、そんな瞳ぇすんなよ・・・。俺はヒョウ、それだけだ」
ヒョウは、少し脅えながら名乗った。
ついでに"捨て子だったんでな"と付け足して。
「ミーナ。お前に付いて行ってもいいか?」
「駄目」
何の余白も無く、ミーナはヒョウの申し出を断った。
「なんでだよ!」
ヒョウは詰め寄る。 ミーナは何気に嫌そうな顔をする。
「わたしは連合軍の総指令に会いたいだけ。だから」
ミーナはきつく睨んだ。 ヒョウは肩をすくめ、苦笑しながら悟ったように体制を整えた。
「なるほど・・・。人殺しは連れてけねぇって訳か」
ヒョウは短く息をつくと、クルリと向きを変えた。 そして、何も言わずその場を去って行く。 付いて行くことは諦めたようだ。
3人は、いなくなってしまうヒョウの姿をいつまでも眺めていた。
「ありがとうございました!」
街中が歓声に包み込まれたようだった。
最初に出会った男がミーナ達に言った。
あちこち、穴が空いたりボロボロになったりしているが、男は心よく許してくれた。
「これでメルガトの街も平和になることでしょう。それに比べれば、こんなもの・・・」
男は言葉を続けなかった。 いや、続けられなかったのだ。
目の前(ミーナ達の後ろ)に立たずむ男に驚いて。
男は、口をパクパクさせてそっちを指差した。 ミーナ達は首を傾げて、後ろを振り向いた。 そこには・・・。
「よっ!」
碧白い髪、翠色の瞳、両手には黒い手袋をはめた男。 先程まで、闘っていた男。 氷の紋章を持つ男、ヒョウだ。
そのヒョウが、片手を頭の上でひらひらと振りながらそこにいた。
その後ろには、緑髪と赤髪の2人の姿も・・・。
「何してんの?貴方達」
相変わらず、ミーナの一言は冷たい。
そんなミーナの冷たさにも慣れたのか、ヒョウはニカッと笑って再び手を振った。
「んな瞳ぇすんなって〜。俺らはもう殺し合いなんてしねぇよ」
まぁまぁ、とミーナをなだめながらヒョウは言う。 胡散臭気に思うミーナだったが、とりあえずはヒョウを信用することにした。
「で、何しに来たのよ」
「仕事探し」
ミーナの質問に、ヒョウは笑顔で答えてみせる。 それには、街の男も呆れたようだった。
それもそのはず。
なんせ、街を今まで襲っていた本人なのだから。
「そんなこと許せる訳無いだろう!」
街の男は怒鳴って言う。 ヒョウは男を殴り、黙らせた。
『殺し』はしてないとミーナに釘付ける。
「それに、ただの親子喧嘩だ。黙っててくれ」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「「「はぁ!?」」」
『間』が空いて、ミーナ達3人は声を揃えた。
街の男は首を傾げたが、すぐにヒョウの方に向き直した。
そして言う。
「お前のような悪魔、我が子だとは思ったことは無い!この街から出て行け!!」
ヒョウは無理して、な?、とミーナに笑いかけた。
街の男からは、優しさの"や"の字も見当たらない。
「"紋章を持つ悪魔"の俺は消える。今はコイツ等の仕事を探してんだ」
ヒョウがそう言うと、街の男は優しそうな男に換わる。
緑髪と赤髪は、オドオドとしながら前に出た。
街の男は2人を心よく引き入れる。 ヒョウとは全く反対の態度だ。
「引き受けた。だから、お前はさっさといなくなれ」
「はいはい。じゃあな、親父」
街の男が"出て行け"と言った瞬間、ヒョウは皆に背を向け去って行く。
ミーナ達もその場を離れることにした。 そろそろ、次の街に迎わなければならない、とリュウが言ったのだ。
街の男はミーナ達に礼を言って、緑髪と赤髪を奥の方に連れて行く。 忙しいようだ。
今日も空が青い。
ミーナ達+約1名の旅は、まだ続く。