STORY21:『魔王』
『魔王』 それは、憎き者 『魔王』 それは、憎まれる存在
1人で構えるデスティニーを睨み続けて、もう、暫く時間が過ぎた。
緊張した空気が、皆の感覚を狂わせたかのように漂う。
『貴様達に、有利な戦いで勝負しようではないか。それなら、負けても悔いは残るまい・・・?』
皆が感覚を取り戻そうとしている中、デスティニーだけは平然として、しかも、笑みを見せながら言った。
そして、デスティニーには不利な戦いを求めた。
「二言は無いわね?」
漸く感覚を取り戻したミーナが言った。
それを見たデスティニーは”ほぅ”と感心する。
ミーナの後方には、まだ取り戻しきれていない者も多かったからである。
本人には悪いが、魔王の子だけのことはある。
「じゃあ、早速だけど、わたし達に休息を頂戴。」
ミーナの提案に、デスティニーはただ頷いた。
普段ならすぐにツッコミを入れるのだが、確かにミーナの言う通り、皆疲れている。
皆は、普段よりも冷静なミーナの意見に賛成した。
完全に回復して、今の雰囲気に身体を慣れさせるには、思ったよりも時間が掛かった。
あれから紅い月が3回昇った。
欠けていた月が徐々に満ちていく。
日がある間、デスティニーは眠っている。
その間に、ミーナ達は作戦を考える。
どうすれば・・・!
勝ちたい・・・!!
そして、4回目の月が昇ってミーナ達は決めた。
「魔王」
『覇王か・・・』
デスティニーに、このことを告げに行ったのはダークだった。
それに気付いていたらしく、デスティニーは背を向けたまま、ダークの二つ名を呼んだ。
ダークは冷静なまま、ミーナからの伝言。
”明日、決着をつける”・・・と。
それだけ告げて、魔王の側を離れて行った。
そして、朝が来た―――
魔王が目覚めた夕刻頃、ミーナ達は万全だった。
この空間、雰囲気にも慣れた。
体力も回復した。
そんなミーナ達の中から、最初に前に出たのはヒョウ、シューグ、ヒューゴの3人。
皆、『水』や『氷』の紋章の持ち主である。
「・・・ROUND1(ワン)」
「まずは俺達が相手になるぜ」
「参る!!」
と、3人はそれぞれにデスティニーに言った。
まずは、ヒューゴの呪文から始まった。
「ウォーター・ウェーブ!」
その呪文を唱えると、発生した水達がたちまち辺りを水浸しにした。
小さい波が徐々に大きくなる。
大きくなった波は、デスティニーを襲った。
「クール・ポイント」
続いてヒョウが呪文を繰り出すが、デスティニーは簡単に躱した。
襲って来る波も避けようと身体を翻す。
案の定、簡単に躱される。
「スパイダー・ブリザード!!」
シューグが蜘蛛の巣のような氷柱を辺りに張り巡らせる。
獣のような瞬発力は、それにも反応してみせた。
飛び上がろうと脚に力を込め、態勢を整える。
「ジョイント!」
ヒョウがそう唱えると、デスティニーは動けなくなった。
ヒョウが放っていたのは、時間差で発動するものだったのである。
水浸しになった床に、氷柱が這う。
「スパイダー・ブリザード」
ヒョウが、また呪文を放つ。
2つの氷柱は、真っ直ぐデスティニーに向かって行った。
”スパイダー・ブリザード”は元々、左右に現れる呪文である。
ヒョウはそれを上下に放ってみせた。
氷柱は徐々に小さくなり、デスティニーを包み込む。
氷の檻に閉じ込められたデスティニーに向かって、3人は同時に合体呪文を唱えた。
「アイス・・・」
「ニードル・・・」
「アローーー!!!」
その呪文は、無数の氷針を創り、まさに矢の如き勢いで標的へ向かう。
ズドドド、と轟音をあげているが、3人は手応えを感じてはいなかった。
『素晴らしい連携だが、残念だったな』
朱い夕日が、3人と1体を照らしている。
デスティニーは薄笑いを浮かべて言った。
どことなく、不気味に見える。
デスティニーは、退け、と一言だけ言って呪文を唱えずにただ、腕を凪ぎ払った。
その風圧のみで、3人の身体は背中側の壁まで飛んで行ってしまった。
壁に叩きつけられた後、すぐ重力に負けて下に落ちた。
圧倒的な力の差を見せ付けられた。
3人は動かない。
死んだ訳ではなさそうだが、すぐには動きそうもない。
その一部始終を見ていたというのに、ミーナ達は諦めていなかったようだ。
「オラオラ!ROUND2だぜぇ!!」
デスティニーが一息着く前に、ルークの一撃が極った。
手応えはあるが、軽い音・・・。
ルークの舌打ちと共に、シュラが蒼い炎を打ち出す。
シェラの放つ燐粉で、更に威力が増す。
結果、凄まじい炎の渦がデスティニーを飲み込んだ。
『ぐっ・・・』
デスティニーの口から、思わず苦情の声が漏れる。
3人はそれを見逃さなかった。
次々と呪文を唱え、轟音と共にデスティニーを襲った。
『ぐぐ・・・』
デスティニーは身体を丸めて、防御の態勢を作る。
そこに、オージェットとミレイの最強呪文が加わる。
それは、デスティニーを追い込んだように見えた。
だが・・・、デスティニーは身を震わせていとも簡単に反ね返してしまった。
休み無しに呪文を唱え続けていたためか、5人は疲労を全身で感じ取り、暫くは動けない状態となっていた。
『ふぅ。今のは少し危なかった・・・。さぁ、ROUND3を始めようか?』
多少ダメージはあるが、疲労の色を見せていないデスティニーに皆引いた。
既に8人がノックアウトされている。
「しゃ〜ねぇな〜。ミーナ、ROUND3は俺様が行くぜ?」
金色の瞳の魔族は、頭を掻きながら言った。
ミーナは黙って、首を縦に振って答えた。
「・・・と、まぁそうゆーことだ。今までの礼をさせてもらうぞ?」
全身に金色のオーラを放ち、ジェイドは今までに無い力を溢れさせている。
その場の雰囲気を変えてしまう程、威圧感で皆を包み込んだ。
デスティニーも感じ取った様子で、今までに無くぐっと構え待った。
「ポイズン」
ジェイドは呪文を唱え、燐粉を漂わせる。
もう1つ呪文を唱えると、燐粉は長い槍となって現れた。
『魔王』と『転生者』の闘いが始まった。
さすがは魔族。
先程の8人よりも感じ取れる力の強さ。
2人の攻防は、茜色だった空を暗くして行った。
紅く輝く月が登った。
その瞬間、ジェイドが押され始めた。
辺りは紅い月光に照らされ、デスティニーの身体に紅い文字が刻まれた。
文字が刻まれる度に、デスティニーの力は増し、ジェイドを傷付けた。
傷付けられたジェイドは、眉間にシワを寄せて次第に重くなる身体を動かす。
「月が・・・!くそっ!!」
デスティニーがニヤリと笑った。
月が昇り、魔王としての力が増したのである。
しかも、今日は満月。
魔王の力が最も優れる月に1度の日、そして、デスティニーが存在を許された日。
ミーナ達の母達に出逢った日。
つまり、デスティニーにとって、忘れようのない大切な日なのである。
今や、キメラとなったデスティニーに感情があるならば、涙を流していたであろう。
『うおおぉぉっ!!』
「ぐぁ!!」
デスティニーは、ジェイドを投げ捨ててミーナ達に立ちふさがった。
『残りはお前達だけか・・・』
そう言って呪文を唱えようとするデスティニーの動きが止まった。
脚部に違和感を感じたのだ。
そこには、投げ捨てたはずのジェイドの姿。
まだ、ヤリ足りないと笑っていた。
『”転生者”如きが・・・我に適うとでも?』
「思ってねぇさ。1人ならな!!!」
デスティニーの言葉を遮り、ジェイドが叫ぶように声を出すと、倒れていたシェラの身体が輝きだした。
蛹が羽化するように、シェラの身体から銀髪の魔族・・・ユーリが現れた。
少々、機嫌が悪いようだ。
長いことほったらかしていたからだろうか?
「久しぶりだな、魔王。貴様に殺されかけ、転生者としての力に目醒めてから500年・・・。今日はその決着を付けてやる!!」
突然現れたユーリの姿に、一瞬怯むデスティニー。
おそらく、ユーリの言葉通りなら”殺したはず・・・”とでも思っているのであろう。
その隙を、ユーリとジェイドは見逃さなかった。
「「ポイズン・ミスト」」
2人が同時に唱える。
すると、霧状の何かが辺りに広まった。
その『何か』とは、身体を蝕むモノ・・・つまり『毒』である。
野生的勘で、霧を吸い込まないように低い姿勢を保つ。
そんなデスティニーの姿を見て、ジェイドは笑い声をあげた。
「無駄無駄無駄ぁ!お前の身体には、既に毒が回り始めている!!」
「貴様はもう、まともには動けまい!!」
『ふ、残念だが・・・我はその程度の毒にはやられはせ―――っ!?』
まだまだ余裕、と仁王立ちしていたデスティニーの膝が地面に着いた。
2人の転生者が、同時に倒れた。
何が起きたのか、ミーナ達には分からなかった。
ただ1人、分かっている者がいる。 ミーナはその人物、ダークに眼で問う。
ダークは静かに答えた。
「魔王が受けた傷は、魔族にもダメージが与えられる。裏切り者は別としてな」
ダークを見つめていた碧の瞳が、地面に倒れた2人を向く。
「じゃあ、今までの攻撃の分も?」
「ああ、多少は喰らっていただろうな」
そんな話をしている間にも、デスティニー達は再び攻防を繰り返す。
デスティニーに痛恨の一撃を喰らわす度、ジェイドとユーリの身体は地面に着いた。
”どうせ2人は止めないだろう”
そう思ったミーナは、自ら止めようとはしなかった。
両者がボロボロになった頃、漸く2人の動きが止まった。
倒れた2人の顔は、子悪魔のような笑みが浮かんでいた。
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