STORY20:還って来た彼
紅い月が照らすのは―――痛みに叫ぶ魔王と、朱色の鱗を輝かせる男・・・。
ミーナの悲鳴。
その直後に、デスティニーの悲鳴。
一瞬の出来事に、誰も何も言い出せなかった。
1つ分かっていることは、デスティニーが苦しんでいるということ。
『キメラ』化したデスティニーに、挑発するような言葉を口にする男がいた。
黒い瞳に、背中に生えた大きな翼。
鋭い爪に、硬い皮膚。
そして、見覚えのある声と顔。
少し前に土へ還ったはずの男。
「待たせたな、ジェイド。これでチャラだ」
その男は、ジェイドを抱え起こして言う。
「出待ちが長いんだよテメェは・・・!」
そう言われて、男は笑ったように見えた。
ミーナ達は己の目を疑った。
涙して別れたはずの存在。
竜人族の男・ガイがそこにいたのだ。
「死んで・・・なかった・・・のか?」
リュウが漸く口を開いた。
ジンも、力が抜けたように腰を着けた。
「悪ぃ。ジェイドと一芝居うってたんだ」
(一言も”死んだ”とか書いてませんしねぇ/by作者)
ガイはジェイドを回復させ、デスティニーに向かって構えた。
そして、2人から黒いオーラが出る。
普段は見えないはずのオーラ。 だが、強く念じれば、誰でも出せるものなのだ。
それが見えるということは、それだけ強く念じていることになる。
デスティニーの瞳が、ガイを睨み付けた。
「魔王!!」
下の方から声が聞こえた。
それに続いて、大勢の足音も聞こえる。
先に姿を見せたのは、ダーク。 その後ろにサミー達が現れた。
「魔王!今度こそ、貴方を消滅させてみせる!!」
ミーナ達の前に現れた魔族は、そう言って呪文を唱えた。
左側の首筋に見える、闇色の『火』の紋章。
両手に炎を纏わせ、それを少しずつ大きな球体へと変化させる。
それをデスティニーに放ち、ダメージを与えてみる。
だが、ダメージは無いようだ。
微動だにしていないのである。
「流石、魔王。『闇』の力の俺では適わないか・・・」
デスティニーは低く唸る。
適わないと分かりながらも、ダークは炎球体を唱え続けた。
「魔王!下手な芝居は辞めようぜ!野生化しても、理性は残ってんだろ?」
ガイはそう言って、デスティニーに殴りかかった。
低く唸るのを辞め、デスティニーは360度回旋し、その時に発生した風でガイの攻撃を防いだ。
風に飛ばされたガイだったが、すぐに立て直し再び臨戦体勢で構えた。
『そうするとしよう。いい加減、疲れていた所だ』
ガイの殺気が強くなったのと同時に、デスティニーが言った。
ダークも気付いていた。
他の皆も、多少ながら気が付いていた。
「ウィンディ・ボール・・・」
「ファイア・ボール・・・」
「パウダー・ソウル・・・」
と、ガイと睨み合うデスティニーの後方から、小さい声で3つの呪文が同時に聞こえた。
「「「いっけぇぇぇ!!!」」」
3人は、身体を支え合って巨大な炎を作り、父であるデスティニーに投げた。
ジンの風で、リュウの炎が強くなり、ミーナの燐粉で、その炎を更に燃やす。
1人では、絶対に作り出せない炎がデスティニーの皮膚を焦がした。
皮膚の1部分を焦がしただけだった・・・。
『その顔は、母親によく似ている・・・。だが、我が子等よ、お前達は我に背くのだな?』
「「「当たり前だ(よ)!」」」
いくら父親だからといって、人を動物を世界を崩そうとしている存在を許そうとは思えない。
だから断った。
だが、デスティニーには理解出来なかった。 いや、したくなかった。
『何故だ!この世を我が物に出来るというのに!』
デスティニーは声を張り上げた。
ミーナはそれに静かに答えた。
”今のままがいい”と。
デスティニーは頭を抱え、同時に耳を塞ぐ。
我が子の口からは聞きたくない台詞だった。
以前の我が子であれば言うはずのない台詞・・・。
絶望し、孤独に育て、いずれ親子4人の世界を創り出すはずだった。
だが、ミーナ達は出逢った。
他人と。
友人と。
仲間と。
愛しく思える異性と。
そして、自分自身と。
魔王は、混乱している。
唸って、唸って、唸って、漸く我を取り戻した。
『・・・いいだろう。貴様達に、”死”をプレゼントしてやろう』
そう言って、デスティニーは口の端を吊り上げる。
だが、ミーナ達に勝機が無い訳ではない。
どちらかと言えば、デスティニーの方が不利だ。
なんせ、デスティニーは1人。
ミーナ達は16人。
シェラの中にいるユーリを合わせれば17人である。
そして、デスティニーとミーナ達の戦いが始まった。
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