STORY17:いざ!決戦へ!!
「ガイ・・・?」
ミーナは、その人物を見下ろした。
身の危険の時は助けてくれた、下からサポートしてくれたその人物を、違う形で見下ろしていた。
何が起きたのか分からないが、自然と涙が頬を伝う。
そのミーナを見て、笑う者がいる。 そいつは、闇色の瞳と共に翡翠色の石を輝かせる。
「泣いちゃった?でも、それ、君がしたんだよ?」
「!?」
エメラルドの冷たい一言が、混乱するミーナの動きを止めた。
碧い瞳を大きく見開いて、ミーナはエメラルドを見た。 そして睨んだ。
「嘘だぁ!!!」
ミーナの背に異変が起きた。
本人が感じる程、熱く、そして何かが生える。
それは羽根だった。
真っ黒な、蝶の羽根。
その辺りに生えている草木や花から、粉のような物体を引き寄せて創った羽根。
異変は、背中だけではなかった。
「こいつ、瞳が・・・!?」
あまりの驚きに、エメラルドは声を漏らした。
「リュウ!火を!!」
今までに無かったミーナの凄みに、リュウは言われるままに火球を渡す。
ミーナはそれを受け取ると、手元にある劔を鞘から引き抜いた。
魔族に焼かれたあの街で手に入れた劔だ。
刃先が怪しく光り、リュウの火球を纏う。
「はああぁぁぁっ!!!」
ミーナの踏み込みは、1歩だけでエメラルドの目の前まで移動した。
「なっ!?」
エメラルドの注意がミーナに移った。
それを合図に、ミーナは叫んだ。
「今よ!一斉に攻撃して!!」
それぞれが、それぞれの呪文でエメラルドを攻撃する。
エメラルドは、逃げの態勢を見せるが次々に来る攻撃に埋もれてしまった。
暫くして、エメラルドの姿が無くなったのに気が付いたリュウが”STOP”の合図を出す。
「・・・やったな」
ホロリと、リュウが言う。
ミーナは涙を流したまま、立ち尽くしうなだれる。
「ミーナ」
それを見兼ねたサミーが声をかけた。
反応は無い。
サミーは、ミーナの目の前に周り込んでもう1度声をかける。 が、次の言葉に詰まった。
「ん?あ、サミー。ねぇ・・・」
ミーナは首を傾げて、もう1度サミーを呼ぶ。
しかし、返事は無い。
「?ねぇ、サミー?サミーってば!!」
大声で呼ばれて、サミーは”え?”と声を漏らす。
サミーは思わず思考の世界へと旅立っていたようである。
「ご、ごめっ・・・。で、何?」
サミーがそう切り返すと、今まで威勢のよかったミーナが再びうなだれた。
そして、呟くように小声で1度言った。
「もう1人のわたし・・・ガイを殺したの?」
普段から、あまり涙を見せないミーナが、今はっきりと涙を流した。
勿論、皆が驚いたが、1番驚いていたのはミーナ自身だった。
彼女自身、誰かのために涙を流したのはこれが2度目であった。
そして、知らなかった。 こんなにも、彼に好意を抱いていたことを・・・。
「なくしてから気付くなんて、本当にあるんだね」
その日、皆の身体が元に戻った。
その日、仲間が1人土に還った。
その日、ミーナは初めて人前で声を出して泣いた。
夜が明けても、空が快晴でも、ミーナ達の顔は曇っていた。
「なぁんて顔してんの!もう、前に進むしかないじゃん!!」
そんな時でも、道を造るのはサミーであった。 彼女が歩き出すと、シューグとヒューゴが火花を散らしながら寄り添って進む。
そんな3人を見て、皆ゾロゾロと付いて行く。
「みんな!!!」
ミーナが、バカみたいにニカッと笑って『ごめんなさい!』と大声で言った。
ミーナを追い抜いた者も、前にいた者も足を止めて振り返る。
無理して笑っているなんてバレバレだ。
ミーナが悪い訳ではない。 皆、分かっている。
だから皆、ミーナに笑みで応えた。
「ありがとう!!!」
そう言って再び笑い、一筋の涙を流す。 深呼吸の後、ミーナの瞳に迷いは無かった。
森を暫く歩いていると、目の前に塔が現れた。
真っ黒で、馬鹿デカイ塔だ。
終わりの見えないその塔を眺めていると、どこからとも無く声が聞こえた。
『よくここまで辿り着いた』
皆、初めて聞く声だった。
一瞬、不安が過った。
魔族・・・つまり、敵が1人増えたということになるのだ。
だが、その不安は皆の心から消え去った。
「卑怯者!姿を見せなさい!!」
ミーナが先頭に立って言った。
すると魔族のものらしき声がクスクスと笑い始めた。
『私はこの塔の頂上にいる。早く来た方がいい・・・間もなく、魔王が復活するからなぁ!!』
声は大きな高笑いを響かせながら、だんだん小さくなり、聞こえなくなった。
暫くして、ミーナ達は前に踏み出した。
迷いなど無い。
魔王が復活する前に、それを止めればいいのだから。
先程の魔族の声の主も倒してやればいいのだ。
良くも悪くも、魔族は自分がいる場所も教えてくれた。
仲間が1人減ったのと同時に、彼等の心に炎が宿ったようである。
「行くわよ。頂上に・・・!」
ミーナのその言葉と同時に、皆は1歩、1歩と前に踏み出し始めた。
長い・・・・。
長い・・・・。
な〜が〜い〜いぃ・・・・。
ずーっと、長い階段を登り続ける・・・。
いい加減、脚が痛い。
「・・・よし。こんなもんじゃろ」
皆が足を止めて休み始めた時だった。
パオの声は、長い長い階段に響いた。
その手には、風で出来た小さな球体。 パオが力を加えると、1周り大きくなる。
次は息を吹き掛ける。
すると球体はミーナ達全員が入れるほど、とても大きなものに変わった。
「あとはコレで行こうかの。体力を温存せねばならんしな」
そう言って球体の中心に立つ。
パオは”行くぞ”と合図を出す。
皆が小さく、だが力強く頷く。
それを確かめて、球体はミーナ達を乗せて頂上に向かう。
決戦は、すぐそこまで来ていた。