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STORY16:宿敵




 片腕の武士の目の前には、赤と青の刺客が血を流し倒れている。

 ヒューゴの圧倒的な強さに、手出し出来なかった2人の憐れな姿だ。

 2人が融合したその存在は、ヒューゴの劔によって真っ二つに裂かれ、再び分裂して2つの存在が現れた。

 最後に攻撃したサミーによるものではなく、融合した存在を通り抜けた瞬間にヒューゴがした攻撃によるものだった。

 それを証拠に、彼等が引き裂かれる前に『キィン』という金属音があった。


 2人の魔族を倒したのだから、勿論ヒューゴは元に戻った。 そして、もう1人。 最後に攻撃したサミーもまた、人間の姿に戻ったのである。

 ヒューゴが(疲れによって)倒れ、また、日が沈みかけている。

 皆はまた、休むことにした。

 相手は魔族。

 ゴッドやヒューゴという負傷者を抱えながら、このまま闘いを続けるのは危険と予測したからである。

「腹が減った。おい、糞巻き毛!メシ取って来い!!」

 糞巻き毛・・・基、パオを足蹴にしながら言ったのはジェイドだった。 辺りが暗いせいなのか、彼の金色の瞳はよく目立っている。

「何をするんじゃ!メシくらい己で探せ!!」

「は?」

「スミマセン、行ッテキマス」

 珍しく歯向かったパオだったが、やはり、逃げ出してしまう。

 ジェイドはリュウとムムにも脅し・・・基、頼むとガイを連れてどこかへ行ってしまった。

 怪我しててよかった・・・と、ゴッドやヒューゴは薬草を頬張りながらそう思っていた。



 残りの魔族は恐らく3人。

 ヴィルド兄弟の末っ子兼リーダーのエメラルドと、その生みの親のユリーク。 そして、忘れているかもしれないが、サッドと名乗り姿を見せなくなったあの魔族の3人である。

 皆にも疲れが見える。

 特に、1つの身体でダメージを浴び続けたムム達は・・・。

「てなわけだ。奴等もそこを狙って来るだろうな」

 皆から離れたガイとジェイドは、暗い暗い森の中でこれからについて話していた。

 意外にもしっかりと考えているガイに関心して、ジェイドは”ほぅ・・・”と声を漏らした。

「で、どーする気だ?」

 ジェイドの最もな意見に苦笑を見せるガイ。

 何か考えはある様子だが、一時黙ったままだった。

 再び、ジェイドが同じ意見を口にすると、ガイは重そうに口を開いた。




「おー、遅かったな。ホレ!メシ、取って来たぞ?」

 森の奥から現れたジェイドとガイの姿を見て、パオが爽やかに声を掛けた。

「・・・・」

 パオの爽やかな笑顔を無視して、2人は旨そうに焼けた魔獣の肉を取りまたどこかへ行ってしまった。

 今度は森の奥ではなく、月がよく見える樹木の上。

 2人は無言のまま、月を眺める。 先程までは何もなかったというのに、2人の間に亀裂が入ったように声さえ掛けようとはしなかった。




 夜が明けても尚、姿はジェイドのまま・・・。

 そして、ガイとの間も離れたままだった。

「現れないな」

 苛立ったガイが声を漏らした。 それを、ふっ、と鼻で笑う者がいた。

「仮にも竜のガキともあろうお前が、そんなに苛つくな」

 ジェイドであった。

 しかも、鼻に付く、と付け加えて言う。

 その台詞にガイが更に苛立った。

 いつも冷静だったガイのその行動は、ただ、皆を困惑させただけだった。


『仲間割れかい?』


 姿は見えずとも、その幼い声ははっきりと耳に届いた。

 太陽が眩しく輝き、その明かりに照らされながら、小さな男の子は樹木の上で頬杖をついて笑っていた。

 ヴィルド兄弟のリーダー、エメラルドである。

 ミーナ達の最年少のシュラよりも若く見える。

 だが、やはり魔族。

 その冷徹な闇色の瞳がそれを語っているようだった。

 ガイとジェイドが再び離れると、止めちゃうの?、と可愛い振って見せる。

「君達敵同士が仲間じゃ、他の人間達も不安だろう?」

 一変して、悪魔のような悪い笑みを見せるとそう言ってサミー達を見た。

 頭上に疑問符を付けて首を傾げるサミー達。

 ガイとジェイドの2人に冷や汗が浮かぶ。

「え、え?敵?・・・誰と誰が?」

 額に『星』の紋章がある、ネイビー色のセミロングの髪の少女が困惑の色を隠せないまま言う。

(↑サミーです。)

 それを見て、エメラルドは嘲笑った。

「知らない!?仲間なのに?」


 エメラルドは語り始めた。

 500年前の、ある出来事を・・・・。










 魔王がこの世に混沌を散らばす少し前。

 ガイがまだ約3歳くらいの頃である。

 その頃は、人間も魔族も竜人族も、協力し合って生きていた。

 だが・・・・。

「我等、人間は貴様達のような危険な存在とは協力するつもりは無い!!」

「竜人族の子供が、私の子供に怪我を・・・!」

「出て行け!」

「出て行け!!」

 人間達に”恐怖”が取り付いた瞬間、人間と魔族と竜人族との間に大きな溝が出来てしまった。

 それからというもの、人間は光に、魔族は闇に、竜人族は黄昏に・・・と、生きる場所を求めるようになった。

 その出来事から数ヶ月。

 人間と魔族の間に争いが始まった。

 初めは小さな争いだった。

 が、月日が経つうちにある問題が発生したのである。

 光と闇の闘い。

 では、黄昏に生きる者達はどちらの味方なのか。

 竜人族は、争いを拒んだ。

 それは、人間にも魔族にも就かないということだった。

 所謂いわゆる、中立、という立場である。

 そして、中立という存在は光と闇に争いの火を点けた。

「味方でも、敵でもないなら・・・・!」

「殺せ」

「殺せ!」

「殺せぇ!!」

 人間達は魔族から、魔族達は人間から、的を竜人族へと変更した。

 ドラゴンの皮膚は硬く、人間達は歯が立たなかった。

 が、魔族は違う。

 傷は付かないが、ダメージは大きいのだ。

 魔族は自分の分身、手下を自由に作り出せる。 そんな相手に、高齢な竜が多い彼等が勝てるはずがなかった。




「そうだ。俺様はあの時、そこにいたんだ」

 エメラルドの話が一段落して、ジェイドが開き直った態度で言った。

 金色の瞳が輝いて見える。

「俺様はあの時、竜人族を滅ぼした魔族達の仲間だった・・・」

「ね?敵同士だったでしょう?」

 ジェイドなど、気にも止めずにエメラルドは陽気に笑って見せる。

 やけに、闇色の瞳が黒く見える。 それだけ面白いと思っているのだろう。


「ジェイドー!!」


 少し後ろの方で、ガイの怒りで震えた大きな声が聞こた。

 エメラルドとジェイドが同時に声の主、ガイに目を向ける。

 今まで、ずっとクールな雰囲気で行動していたガイが怒っている。

 ジェイドの正体も知っていて、ずっと平然な振りをしていたためにストレスがあったのだろうか・・・?

 ビキビキビキッ!と、硝子に亀裂が入ったような音が辺りに響いて、ガイの姿が人間から遠ざかる。

 朱色の鱗が硬そうに光る。

 見た目、正に竜人族!

「お前ぇ・・・!あの時の言葉は嘘だったのかぁ!!?」

 確かに、ガイとジェイドはあの頃の話をしていた時があった。 ”謝って済む話では無い・・・”とジェイドも言っていた。

 ジェイドは、ふっ、と鼻で笑って肩を竦めた。

「記憶に無ぇなぁ」

 その台詞にガイは怒った。 『竜』の紋章に触れると、呪文を唱え黒いオーラを放つ。

 オーラが球体となった瞬間、ガイの手元から離れジェイドに向かってまっしぐらに飛んで行く。

 ジェイドはそれをあっさり避け、ガイを嘲笑った。

 ジェイドの後ろからは何やら文句が聞こえて来るが、恐らく攻撃が当たりそうになったエメラルドのものだろう。

 2人はそれに見向きもせずに攻防を続けていた。

「お前だけは、絶対に許さん!!」

「はっ!若造が、俺様に勝つつもりか!?」

 再び黒いオーラを球体に変えるガイ。 それに対抗するかのように、闇色のオーラを球体に変えるジェイド。

 『闇の竜』対『闇の蝶』。

 『竜人族』対『魔族』。

 今の今まで文句を言っていたエメラルドも、楽しいのか陽気に笑い声をあげる。

「やめろ!」

「やめて下さい!」

 と、リュウ達は止めようと必死だ。

 しかし、その努力も虚しくそれぞれの球体は相手めがけて大きさを増し、輝きを増して飛んだ。



 音にならない衝撃が、ガイとジェイドを包み、弾けた。

 倒れたのはガイ。

 経験の差というやつなのか・・・。

 無傷なジェイドに対して、ガイの身体は血塗れだった。

 左胸を貫かれ、もぎ取られた腕の鱗が辺りで光る。

 最早、ピクリとも動かない。

「・・・ふん」

 左肩に付いた土埃を払いのけて、ジェイドは満足気な態度を見せていた。

「ガイ!おい、目ぇ醒ませ!!」

 リュウやヒョウ、サミーやシェラがガイの名を呼び叫ぶ。

 が、返事は無い。

 今まで晴れていた空に、蒼い稲妻が走り、ザッ・・・、と雨が降り始めた。

 ジェイドの金色の瞳が、碧く澄んだ色の瞳へと変わる。 ミーナが目を醒ましたのだ。

 目の前の皆が、絶望的な表情をしている。

「どうしたの?みん・・・・」

 言葉と同時に1歩踏み出すと、パチャ、と水溜まりのような音がした。 そこに目をやったミーナは黙ってしまったのだ。

 人間ではないが、よく分かる。 昨日まで一緒に闘ってきた仲間だ。




「ガイ・・・?」




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