STORY15:第2、第3の刺客
ヒューゴの自己紹介の時に書き忘れがありました。 彼の瞳の色はネイビーです 感想・評価 お待ちしております!
「さあ、行きましょ」
太陽が真上に来た頃、ミーナが荷物を担いでそう言った。
ゴッドとパールの闘いから、そんなに時間は経っていなかったのだがミーナは急いだ様子を見せていた。
リュウとサミーが続いて歩き始めるのを、他の皆は呆れた様子で見つめている。
「おい?オレ、回復終わって無いんだけど?」
その辺に生えていた薬草を頬張りながらゴッドが言った。
勿論、薬草はミーナが見付けて来た物だ。
ガイも、やれやれ、と歩き始め肩を竦めた。
「知ってるわよ。でも、行かなきゃムム達の身体はそのままなのよ?」
でも・・・、と出し惜しみしているゴッドにガイはこう告げた。
「だから、お前は後ろで待ってればいいんだよ」
そして、笑った。
「・・・って、ミーナがさっき呟いてたぞ」
ベシッ!
ミーナはガイの頭を叩いて、また前に歩き始めた。
まるで、”余計なこと言わないでいいの!”と言わんばかりに。
大して痛くないが、頭を擦って後を追いかける。
結局、リュウを先頭にミーナ、サミーとガイ・・・と続いて皆前に進んで行った。
林を抜けて行くと、腕を前で組んで待っているルビーの姿が最初に目に写った。
額には青筋が浮かんでいる。
「遅い!遅すぎだアンタ達!!」
ルビーはそう言って呪文を唱えた。
右耳の赤い宝石に触れ、光を放ち1本の太刀を手に取った。
それは、赤く『太刀』と呼ぶには細すぎるもの。
だが、長く、ルビーの身長を遥かに超えていたのだ。
「まあいいさ。さあ!相手をして貰おうか!!」
その台詞と共に、ルビーの瞳が表情が変わった。
リュウが構えるが、その後ろから別の声が聞こえた。
何時の間に現れたのか、ミレイから身体を入れ替えたヒューゴが姿を見せていた。
「某が相手をしよう」
そう言って腰の劔に手を掛ける。
ネイビー色の瞳が、ルビーを捕らえた。
面白い、とルビーは笑い足下を蹴る。
鞘から抜いたばかりの劔で、ルビーの前進を止めた。 ルビーがいた場所、そこから随分離れていたはずのヒューゴの懐に、赤い太刀がキラリと怪しく輝いた。
勢いがあった為か、ルビーとヒューゴの劔の前に火花が散る。
「やるな〜。でも、勝たせる訳にはいかないんだよ・・・。」
ルビーがそう言って誰かに呼び掛ける。
ヒューゴの強さと、特徴と癖を告げてだ。
そして、最後にその人物の名を呼んだ。
「2人で殺ろうぜ!サファイア!!」
『やれやれ・・・身勝手な妹だ』
林の木々の間から、物静かな男性の声がした。
暴力的な口調のルビーとは逆に、冷静的な口調でその男は姿を見せた。
左耳に青い宝石を埋め込んだ、その宝石と同じ名の男・・・サファイアが、既に青い槍を構えてルビーの隣に立っていた。
「まったく、お前って奴は・・・。ボクの出番は無いんじゃなかったのか?」
「よく言うぜ。出待ちしてたくせに」
2人は顔を合わせず、目も合わせず、ただ、ヒューゴの方だけを見て会話している。
会話が進む度に、2人の殺気が強くなる。
相手は仮にも魔族。
しかも2人。
こちらは人間が1人だ。
勝ち目は無い・・・。
そこにいる誰もがそう思った瞬間だった。
「ぎゃっ!」
見た目や口調のイメージをぶち壊すような叫び声が聞こえた。
カラン・・・、と棒状のものが落ちる音の後に、サファイアが怒鳴った。
「お前ぇ・・・!」
ギラリと獣のような瞳をヒューゴに向ける。
青い槍に、鮮やかな血が円を描く。
目の前のヒューゴは、先程から動いていない。
周りの者達には、今、何が起こっているのか分からなかった。
「よくも・・・よくもボクの美しい顔に、傷を付けてくれたなぁ!!!」
そう言ったサファイアは、右手で傷を隠していた。
そう。 ヒューゴは肉眼では捕らえきれない速さで、サファイアの右頬を切り付けていたのである。
だが、その傷も次第になくなっていく。
どうやら、傷が浅かったようだ。
「片手を隠したりなんかして・・・・格好付けのつもりか!?」
傷が消えても尚、サファイアの怒りは修まらない。
ヒューゴは”ふっ”と笑う。
その反応にも、サファイアは怒りの矛先を向ける。
その台詞にも、ヒューゴには笑えるらしく再び鼻で笑った。
サファイアはその後も、ヒューゴの態度と容姿に矛先を向けて怒鳴り続けた。
「某は!!」
サファイアの怒りを静めたのは、ヒューゴの主張だった。
「某は好きでこの格好をしてる訳では無い。こうするしかないのでな」
ヒューゴはいそいそと右手で左腕の部分を引き裂き始める。
ヒューゴの太い腕を余裕で覆う、黒い服の下にあるはずの左腕は姿を見せなかった。
「貴様がそう怒鳴っている間、貴様の妹はボロボロだぞ?」
『くそっ』と声を漏らすルビー。
致命的な傷は見られない。 だが、全身が血塗れだったということには変わりはなかった。
「貴様は某には勝てない」
右手に持った劔を、サファイアの眉間に突き付けて言う。
その挑発にサファイアは乗ってしまった。
ヒューゴの強さは圧倒的。
しかし、片腕の剣師対魔族2人では不利なのは確実だ。
だが、それもまた、急ぎ過ぎた答えだった。
急ぎ過ぎた答えを思い描いていた2人に、痛みが起こった。
劔よりも温もりがあり、劔より厚みが無く、劔よりも高い切れ味をもつ最強のモノ。
しかし、それがあったのは左側・・・。
「舌噛むぞ?さあ、始めようか。闘いを!!」
ヒューゴが言うと、物凄い速さで闘いが繰り広げられた。
本人達に喋る余裕は無い。
ルビーの赤い太刀、サファイアの青い槍がヒューゴを襲う。 それを次々と防ぎ、攻撃を繰り出す。
右手には劔、左手には水で創り出した劔を器用に扱う。
周りにいた誰もが、2人の魔族と1人の人間との闘いを固唾を飲んで見守っていた。
両者共に、相手に傷を負わすことは出来ていない。
だが、先に膝を付いた者がいた。
血を流したまま動き過ぎてしまったのだろう。
赤い宝石の少女、ルビーは息を切らしていた。
そうなった瞬間、サファイアの動きが遅くなった。
「チィ・・・ッ!!」
本人も気が付いている。
原因が何なのかも。
ヒューゴもまた、それに気が付いていたのである。
「やはりな・・・」
ヒューゴは、劔に付いた血を振り落とすと、それをルビーに向けて見せた。
そして、歩いて行く。
倒れたルビーに向かって。
皆にも見える速度で、水の劔を空にかざす。
その真下は、傷ついたルビーの姿が・・・。
「シー・ニードル!!」
ヒューゴは、横から聞こえたその声に反応して避けた。
ルビーの避けの呪文ではない。 声は男の物だった。
相手は1人しかいない。
サファイアだ。
無数の針は、ルビーからヒューゴを引き離すように飛んでいた。
一瞬ながらも、サファイアはその隙にルビーを連れて離れた。
兄を倒されても怯みさえしなかったのに、ルビーとサファイアは動揺している様子だった。
「貴様等がその姿である限り、某には傷1つ付けられんぞ!」
距離を取り、回復を待つ2人にヒューゴが叫び声を上げる。
「サファイア、もうバレてるみたいだぜ?」
「そうだな」
2人がそう言うと、雲行きが怪しくなってきた。
1人で立ち上がれるまで回復したルビー。
サファイアと手を取り合って、何やら呪文を唱え始める。
「「我等、真ノ姿ヲ此処二示サン」」
2人の声が同時に聞こえて、その姿も変わっていた。
いや、戻った、と言った方が正しいのだろう。 2人は元々1人で、それが分かれて行動していたのであれば、先程からの彼等の態度にも納得がいく。
つまり、片方がダメージを喰らうとその影響がもう片方にも伝わって来る。
ルビーが傷付いている間、サファイアの様子が変だった理由がそれだ。
ルビーもサファイアも、それを承知の上で闘っていた。 ヒューゴはそれに気が付いたのだろう。
「「死ねぇ!!!」」
2人が1人に戻った瞬間、ソイツはすぐにヒューゴを狙って来た。
先程と比べものにならない程、ソイツの動きは速かった。
狂暴なルビーの強さに、サファイアの戦慄スタイルの強さが交わっているのだ。
1+1=?
答えを2と思った貴方!
正解です。
そう思ったのはヒューゴもであった。
「それならば、某も本気で参る!」
そう言うと、ヒューゴはもう1本劔を手に取って構える。
2<3
当たり前です。
ヒューゴも同じことを考えていた。
片腕は水だ。
もう1本増やすなんて容易いことである。
そして、ヒューゴは異様な構えを見せる。
水である劔の2本を目の前に、残りの1本の刃先をソイツに向けて頭上にかざす。
「「ヴァイオ・エレキアロー!!」」
赤い雷と、青い雷が放たれ紫色の雷となり、無数の矢はヒューゴに向かって行く。
ソイツの攻撃である。
勝利を確信したのか、ソイツの口元がニヤリと釣り上がる。
それを見て、ヒューゴも微笑を見せた。
「うおぉぉぉっ!!!!」
バチバチバチバチ!!!
くっ、と痛みに耐える声。
音と声に続いて、変な匂いが・・・。
何かが焼けた匂い。
煙は、ヒューゴの肩から上がっていた。
つまり、匂いの正体はヒューゴの肉が雷で焼けるもの。
これ以上喰らう訳にもいかない。
ヒューゴは、3本の劔をアーチの要領でダメージを地面へと流し込んでなんとか逃れることが出来た。
全ての攻撃を地面へ送り終えると、ヒューゴは一瞬にしてソイツの後方に回った。
「某の・・・か、勝ち・・・だ・・・・」
そう言って、ヒューゴは倒れた。
最後のヒューゴの言葉に、ソイツは嘲笑って答える。
下品な笑いが続き、ある者の怒りが頂点まで達した。
呪文を唱え、ソイツに標的を向ける。
体が小さい分、あまり声が出ないその者は、皆の鼓膜が破れる程大きな声で呪文の名を口にした。
「スターアロー!」
額に星の紋章。
そう、サミーである。
攻撃はヒューゴ程効いてはいない。
下品な笑いをただ続けるだけである。
サミーは更に怒り、スターアローを打ち続けた。
集中攻撃していたおかげで、ソイツの顔に傷が付く。
性格はサファイアのままであった。 顔の傷は、ソイツの怒りを買ってしまった。
「ギャハハハハ!!!!」
ソイツは笑ったまま、サミーに向かって呪文を唱え始める。
・・・だが、その先が聞こえなくなる。
キィン!
小さな音がした。
その瞬間だった。
それから、ソイツの声はしなくなってしまった。
ゆっくり、ゆっくりと身体がズレる。
右と左が分かれて、またルビーとサファイアの2人に戻った。
が、2人は2度と起き上がっては来なかった。
『勝ちだ』
ヒューゴは本当に勝っていたのであった。