STORY14:第1の刺客
感想・評価 ヨロシクお願いします!
「よぅ」
瞼をゆっくりと開いたのは、金色の瞳をした男だった。
ユーリと同じく、ミーナの中に住むもう1人の人格。
男はユーリを見て、ニヤリと微笑した。
「俺様の他にも、同じようなのがいるとはな!」
「驚いたのはこっちもだ」
そして、何故か闘いの構えに変わる。
金色の瞳と銀色の瞳の間に火花が散る。
「まあ、待て」
と、ガイが間に入って言った。 そのガイを睨み、2人は構えを解いた。
取り敢えず、自己紹介が先だろう?とガイが言うと男が先に話し始めた。
「俺様の名はジェイド」
年は・・・、と語り始める前にリュウが話を遮った。
「なあ?何でそんな目してんだ?」
リュウの疑問は、2人の瞳についてだった。
彼等の世界に、瞳が金や銀といった色になることは存在していなかった。
初めて見たその美しい瞳の色に興味が湧いたのだろう。
「まさか、魔族なんてことは・・・」
リュウの半信半疑な質問に、2人は揃って首を傾げた。
「んな訳」
『魔族だぞ?』
リュウが自ら否定しようとした瞬間、2人は口を揃えた。 一瞬にして、その場の空気が凍り付く。
あ、ガイは除く。
その他のサミー、パオ、リュウの3人はそのガイの後ろに下がっていた。
「私の名はユーリだ。シュラやヒョウとは久しぶりだな」
そんなことはそっちのけで、自己紹介の続きが始まった。
ジェイドもユーリも、暴れる気は無いらしい。
見た目は若いが、彼等は既に5世紀は生きているらしい。
ジェイドに至っては、裕に7世紀は超えているのだという。
ここで皆に疑問符が浮かんだ。
ミーナやシェラの年齢と数が合わないということだ。
「俺様達は、死ぬ前に転生を繰り返すのさ。この瞳はその証。俺様の場合、魔族にも転生したからこんな色だがな」
と、ジェイドが笑って説明した。
魔族の転生者が、魔族に転生した場合その瞳は金色に変わる。 魔族の転生者は、いや、転生者事態この世界には珍しい。
だから大抵の人間は、金色や銀色の存在が分からないのだ。
とにかく、これで面子は揃った。 後は、敵陣へ乗り込むのみ!
「来たか・・・!」
暗闇の中で男が言う。
目の前には墓石、ヴィルド兄弟を背にして、とても嬉しそうに。
ヴィルド兄弟は男を目の前にして、片膝を付いている。
「貴様達に、改めて命を下す」
男いや、デスは急に冷めた瞳と言葉を、ヴィルド兄弟に向けた。
その瞳にびびって、兄弟は目を反らす。
デスはそのまま告げる。
兄弟もそのままで聞いた。
「分かったな?では行け!」
『はっ!!』
兄弟達は一瞬にして目の前からいなくなった。
デスは再び墓石を眺めた。
ガタガタ、ガタガタと揺れる墓石。
刻まれた主の名は未だに読み取れない。
そんな墓石を、いつまでも憧れる瞳で見つめていた。
一方、ミーナ一行は入口と思われる森の手前で休んでいた。
ジェイドとユーリは、それぞれの身体へ戻り、命に関わる時に手を貸すことを約束してくれた。
これで勝機が見えてきた。
「おい?いつまでその姿なんだ?」
『ん?』
近くの別の森で取って来たガイルラット(ミニブタくらいの鼠、魔獣)を数匹、薄暗い空の下で焼きながらリュウが聞いた。
もう辺りも暗くなり、突入するのは明日にしようと決め、あれから裕に3時間は経っていた。
が、焼けたガイルラットの肉を頬張って一言でしか返事出来なかった2人はまだ、ユーリとジェイドのままだったのだ。
はて?
今確かに、それぞれの身体に戻ったはず・・・。
今から数分前、それぞれが戻った瞬間、それは拒否された。
理由は、ミーナとシェラが眠ってしまったから、らしい。
「ま、明日の朝には戻ってるさ」
ムシャリ、と骨の周りに付いた肉を引き割いてジェイドは言った。
リュウ本人も、そっか、と軽く流す。
乗っ取られなければ問題は無い。 そう思ったリュウは食事を終えるとすぐにどこかへ行ってしまった。
その後を付いてユーリも歩いて行った。
他の皆も、それぞれで休んでいる。
今、その場で起きて活動しているのは、ガイとジェイドだけである。
パチパチと燃える薪を見つめて、静かな口調でガイが話を切り出した。
「500年前のこと、憶えているか?」
500年前。 つまり、ガイが約3歳の頃だ。
ジェイドは何も答えず、ただ薪の弾ける音だけが聞こえた。
やがて、決心したかのように、ジェイドは重い口を開いた。
「・・・あぁ」
ジェイドは沈んだ声を出す。
「じゃあ、オレを見て何も感じなかった訳じゃないだろ?」
ガイの真剣な口調と視線はジェイドに刺さった。
ジェイドは再び、ああ、とだけ答えた。
ガイは、目に薄らと涙を溜めて”じゃあ・・・”ときり出した。
が、それをジェイドは止めた。
「分かってるさ。謝って済まないこともな」
そして、夜が明けた。
森に入って数時間。
リュウとパオの嘆きが聞こえた。
『つ〜か〜れ〜た〜』
うるさいな〜、とミーナが呟き、ガイが笑い、皆が同時に笑った。
その場は一瞬にして消え失せた。
額に真珠を埋め込んだ、陽気そうな青年が・・・パールが待ち構えていたのである。
「やっと来たか」
パールは、まるで楽しみにしていたように言った。
笑みを創る、その真っ黒な瞳をミーナ達は睨むように見つめる。
「じゃ、始めましょか!」
そう言って突っ込んだ先は、先程まで欠伸をして気の弛んでいたゴッドだった。
驚いたように、劔を躱す。
ゴッドは文句を言うが、再び攻撃は繰り返された。
呪文を唱えることもままならないのだ。
「メリット・サンダー!」
ゴッドは、苦し紛れの呪文を口にした。
丁度、人の握り拳程の小さな火の粉の集まりだが、威力は凄いモノだった。
一瞬のうちに、パールの髪に燃え移っていた。
必死になって髪の火事を消すパール。
消し終わった彼の目付きが変わった。
「あまり、怒らせんなよ〜?」
先程より増して、殺気が強くなる。
キラリ、と一瞬だけ光りその一瞬で、ゴッドの視界は真っ赤に染まった。
躱したのだが、劔はゴッドの右目の瞼を割いていた。
鮮血が流れ、ゴッドの右目の視界を赤く染めてしまう。
「しまった!」
ガツッ!!!!
そのことに気を取られ、パールが迫っていることに気付かなかった。
気付いた時には、ナックルを装備したパールの右手が目の前にあったのである。「卑怯者!」
怒りの言葉を馬鹿にするかのように、パールは子供のようにチラリと舌先を見せて笑った。
「ふざけやがって!ディルバーストぉ!!」
苛ついたリュウが、パールめがけて呪文を唱える。 が、それは綺麗に消え失せてしまった。
リュウの放った、ディルバーストはちょっとやそっとのことでは破壊されることはあり得ない呪文。
”最強”とまではいかないが、それなりに強力な呪文である。
それが、意図も容易く消え失せてしまったのだから、リュウはショックを隠しきれていない。
リュウの絶望的な表情に、パールは笑った。
「無駄だぜ?俺を中心に半径10フィル(メートルと同じ)は物理攻撃も呪文も吸収しちまうぜ」
パールはニヤリと笑みを見せ、リュウに礼を言った。
言われた本人は気が付いた。 あの呪文を、吸収されてしまったのだということを・・・。
そして、パールの左手に炎が集まり始める。
呪文は必要無い。
なんせ、それは元々リュウが放ったモノだからだ。
ただ、吸収したエネルギーをそのまま自分の左手に移しただけである。
「ディルバースト・改!!」
パールはそう叫んだ。
無数の炎が、ゴッドに向かって巻き付くように走る。
人間同士に相性があるのと同様に、呪文・紋章同士にも相性がある。
リュウの『竜』の紋章と、ゴッドの『雷』の紋章はそれほど悪い相性ではない。
どちらも、元を辿れば『火』の紋章から生まれたものだからだ。
他の紋章、例えば『鳥』の紋章の人物よりはダメージは少ない。
だが、次の瞬間、ゴッドの叫びがミーナ達の耳に届いた。
「があああぁぁぁ!!!!!!!!」
その叫びが終わったのと同時にゴッドの身体は崩れ落ちた。
「まだ生きてやがる。悪運の強い奴だ」
パールはそう言って、左手を下ろし右手を上げた。
真珠がびっしりと付けられたナックルを、ゴッドの頭上で右手に身に付ける。
止めをさすつもりだ。
ミーナ達が思った瞬間、再び苦音の叫びが聞こえた。
倒れているゴッドではない・・・。 止めをさそうとしたパールの声だ。
「テメェ・・・!やりやがったな!?」
一瞬が速過ぎてよく分からなかったが、ゴッドはパールにダメージを与えていた。
パールを見れば、右手の指に赤い血が流れている。
それは、重力に従い純白な真珠を赤く染め上げる。
両手を付いて、苦しそうに顔を起き上げる。
その表情は、悪戯を仕掛けた少年のようだ。
「ヘ、ヘヘ・・・。魔族の肉ってのは、不味いもんだNa・・・」
ゴッドはそう言って何かを吐き出した。 べちゃっ!っと、赤いそれは地面に落ちる。
それと同じくらいの大きさの傷。 抉れた腕。
『それ』は、パールの肉。
「中にいる奴なら、攻撃可能なんだRo?」
ニヤリ、と笑ったゴッドはゆっくりと起き上がった。
ダメージは、ほとんど感じられない。 あの呪文はやはり、ゴッドには効いてないらしい。
闇の力が加わっても、ゴッドには通用していないようだ。
「死ね!サンダー・スネイル!!」
パールが自分の腕に気を取られている隙に、ゴッドは呪文を唱えた。
ゴッドによって生み出された雷は、蛇のように螺旋を描いてパールに巻き付く。
雷のせいで、身体が痺れてしまい思う様に動かせない。
最期には、蛇の姿を浮かび上がらせた雷は、大きな口を開けてパールを飲み込んでゆく。
「や、やめ・・・!」
半分悲鳴、半分叫びに聞こえたパールの声は、いつの間にか聞こえなくなっていた。
「・・・ド?・・・ゴッドってば!?」
疲れ切って、その場に倒れこんだゴッドにグーパンチが飛んできた。
ゴチッ!という、痛そうな音が響いた。
「いい加減、起きなさいよ!!!」
痛みと傷みに耐えながら、ゴッドは叫びにならない叫びを出していた。
声の正体はミーナでもなく、サミーでもない。 かといってシェラでもなかった。
彼の目の前にいたのは、ミレイだった。
ここは、ムムの精神の中なのか?とゴッド自身も疑いたくなる程に・・・。
「あれ?なんで・・・Da?」
ゴッドは、何かを確認するかのように手を握ったり離したり、を繰り返す。
瞳を確認する。
近くにあった水溜まりに顔を覗かせて、見てみた。
紫色だ。
ちゃんと、両方とも・・・。
これが意味しているのは1つだけ。
「戻ったぁーーー!!!!!!」
ゴッドは、両手を天に突き上げて喜んでいた。
ムムの身体、精神から1人消えた。
最初がゴッドだったのが気に入らないのか、ミレイはまた、ゴッドに拳を振り落としたのだった。
ビシッ!!!
「ほぅ・・・。パールを倒したか」
デスが言った。
墓石に『D』の文字が記される。
部下が倒れたというのに、デスは未だに墓石を見つめている。
その墓石に向かって何かを呟く。
ただ、嬉しそうに見えた。
一方、その頃ミーナ達は・・・。
「いつまでも浮かれてんじゃないよ!?」
姿は見えず、ただ、ルビーのハキハキとした声だけが聞こえた。
兄が倒れたのにも関わらず、平気な口調で話してくる。
「さっさと回復して挑んで来な!奥の方でまってるぜ!!」
ヴィルド兄弟は、1人ずつで向かって来る・・・いや、ミーナ達を待っているようだ。
もう、後には引き返せない。 胸にそう言い聞かせて、ミーナ達は覚悟を決めたのであった。
ヒューゴ:本名 ヒューゴ・サカキ 21歳 男 自己流剣術 『水』の紋章