STORY12:ヴィルド兄弟
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「こんな所に何の用だ?ここはオレの寝床だせ」
後ろから聞こえたのは、さばさばとした青年の声だった。
全員が後ろを振り向くと、紫色の髪に闇色の瞳の、如何にも怪しい旅人が立っていた。
耳は尖ってるし、牙も生えてる・・・。 爪も、ナイフのように鋭利だ。
よっこいせ・・・!と、青年が荷物を降ろすと全員が攻撃を仕掛けた。
「!?」
青年は、人離れした動きでそれぞれの攻撃を全て避けてみせた。 その姿に、皆が同時に驚いた。
明らかに人間とはかけ離れたその動き、冷静さ。 皆が同時に思っていた。
目の前にいるのは、人間ではない!
幻術をスキルに持つ魔獣、もしくは・・・。
「はあっ!!」
ガキィ・・・ン!!!
パオの勢いよく振り下ろされたスピアは、硬い音を響かせて宙を舞った。
(※スピア:魔力を秘めたレイピア。使い手の力と比例した攻撃が可能)
青年は止めた。 己の腕で・・・。
「なっ!?」
明後日の方向に飛んで行くスピアを見て、パオは驚きの声もまともに話せなかった。
生身で止めたはずなのに、その腕からは血の一滴も流れない。
「いってぇ。何しやがる・・・そんなにココで野宿したいのかよ?」
青年は面倒そうに言う。
今までの奴等とは何か違う。 そう思ったミーナが口を開いた。
「魔族・・・じゃないの?」
はぁ?と、青年は目を丸くした。
そして、吹き出して笑う。
「あっははは!魔族?オレが?冗談だろ!!」
最後には腹を抱えて笑いを堪えていた。
どうやら違うらしい。 そう気付いたのは、青年の笑いが終わった頃だった。
青年は、己の素性を話し始めた。
「オレの名前はガイ、年齢は20歳。男。まず、オレは人間じゃねぇ」
分かってる、と皆が頷いた。
ガイは話しを続ける。
「オレは人間ではないが魔族でもない。今では滅んだと言われている種族の末裔だ。魔族の存在を知ってるなら、頭の隅っこくらいにあるだろ?”竜人族”ってのをさ・・・?」
ようやく皆は気付いた。 この世の生き物の中には、瞳で見分けることが出来るらしい。
人間ではない者の瞳は、闇色になるのだ。
竜人族のように、人間とは見た目も違う者達の瞳も闇色・・・いや、黒色に近いのだと言うガイ。
「後、闇の紋章を持つ者だ。まぁ、闇つっても元々は竜だから、『竜』の紋章と変わりは無いけどな」
ほら、とガイはミーナを指さして、コイツと一緒と笑って言った。
皆は勿論、本人でさえ驚いている。
自分の右腕に、ガイと同じ紋章があるという話にだ。 信じたくはない話。
「知らなかったのか?黒色の紋章は『闇』を示す。こんなの基本だぜ?」
そう言った後、ガイは1人で納得したように頷いた。
彼がこの基本を知った時、まだミーナ達はこの世に存在していなかった。
皆の親、祖父母、曾祖父母さえこの世にいなかったのである。
竜人族は、ドラゴンと人間の神々が造り上げた神聖なる生き物。
人間よりも寿命は遥かに永い。 先程、ガイが20歳と言ったが実際はそうではない。
人間として見ればそのくらいだが、竜人族としてはその数10倍の年齢となる。
つまり、何が言いたいのかというと、ガイの言う”基本”は時代の流れと共に薄れていってしまったのである。
「ま、気にすんな。そんなことで魔族になったりはしないから」
不安気な顔のミーナに微笑んでガイは言った。
夜が明けた。
この国に来て2日目、新たな仲間(?)ガイを連れてミーナ達は街を散策していた。
空は晴天。 そこに薄い灰色の雲が太陽を隠している。
涼しげな風が、街中に漂っているようだ。
そう、この国は風の都。 一年中、涼しい風が漂う国。
ミーナ達が寝泊まりした場所も、昔は聖域だった。 清らかな風が、ミーナ達の旅の疲れを癒してくれた。
「うっそみたい・・・。疲れが残ってないなんて、久しぶりじゃん?」
ガイの頭の上でサミーが言った。
ガイは、だろぉ?、と嬉しそうだ。
暫く歩いていると、先頭にいたガイが足を止めた。
「どうしたの?」
ミーナが聞いた。
ガイは眉間のシワを中心に寄せて、辺りを見回していた。
その後ろを付いて来ていた皆も不思議そうに首を傾げる。
「臭うな」
「あ、悪ぃ・・・」
「いや、そっちじゃない。魔族の臭いだ」
『なにぃっ!?』
一斉に背を向けあい、円陣を組む。 敵がどこから来ても対応出来るようにだ。
どこからか、気付いたか、と声がした。
ユリークの声ではない。 それよりもっと若い声だ。
「俺達からは逃げられないぞ?」
そう言って現れたのは、額に真珠を埋め込んだ青年だった。
見るからにチャラチャラした格好のヤンキー(死語)。
青年は、ミーナとガイの間に現れた。
「俺、パール。魔族から生まれた魔族だ。おじいに頼まれてな、アンタ等の邪魔をしに来た」
青年・・・パールは淡々と語った。 嘘だとは思えないが、ミーナには気掛かりなことがあった。
それは、パールが姿を見せる前に言った言葉。
「ねえ?さっき”俺達”って言ってたわよね?・・・仲間、いるんでしょ?」
パールは、呆気に取られて目を丸くした。 感心してように呟くと、彼の後ろから声が聞こえた。
それは、パールを”兄”と呼ぶ若い少年少女の声だった。
同時に違うことを言っているために、あまり良く聞こえないが、取り敢えずパールを怒っているらしい。
「・・・ったく、困った兄貴だぜ」
「ルビー、口が悪いぞ」
暫くパールを怒鳴り付ける声が続いて、2人の魔族が降りて来た。 右耳に赤い宝石を埋め込んだ少女と、左耳に青い宝石を埋め込んだ少年の2人である。
赤い宝石の少女はリュウの目の前に、青い宝石の少年はシェラとシュラの間に。
そして、1番小さな少年がムムの目の前に現れた。
「我々は、ユリークから生まれた魔族。彼等からは”ヴィルド”と呼ばれている」
(※ヴィルド:この世界の宝石の名称みたいなもの)
ムムの目の前に現れた少年が、瞳を閉じたままで語った。
片目を開けて、オレンジ色の瞳を闇色の瞳で睨んだ。
ムムも負けじと睨み返す。 が、既に気迫で負けている。
「先程は兄が失礼しました。右が1つ上の兄のサファイア、左にいるのは姉のルビー。お見知り置きを・・・」
そう言って、少年は瞳を開けた。 魔族の闇色の瞳の隣には、緑色の宝石が埋め込まれていた。
ムムのオレンジ色の瞳に、緑色の宝石が映った。
少年は自分の名も名乗らず、ヴィルドの目的を語り始める。
少年とは思えない程、丁寧で上品な言葉使いで、長ったらしい台詞をズラズラと並べる。
彼等が伝えたいことは先程パールが言ったように、ミーナ達の邪魔をすることらしい。
「で、どうするつもり?」
ミーナは恐れの無い発言をすると、1つ溜め息を吐いた。
邪魔した所でユリークがどこにいるのかも分からないのだ。 これ程疲れそうな駆け引きは無い・・・。
取り敢えず、ココは”邪魔しないで!”等と口にしていた方がいいのか・・・?
「取り敢えず、あなたの名前を教えてくれる?」
敵意を感じさせない笑顔でミーナが言った。
少年も、ニコリと微笑んでミーナに向かって名乗った。
「申し遅れました。私の名はエメラルド。ヴィルド兄弟の末っ子です」
「なんか文句でもあんのかよ」
ルビーが言った。
女性とは思えない口の悪さに、ミーナも気が引けた。
そんなルビーに、エメラルドはSTOPをかけた。
「でも」
「黙れと言ってるんだ。それとも、私の言うことに背くつもりか?」
彼女はそれ以上、口を開かなかった。
その光景を見て、ミーナはなるほど・・・、と呟いた。
兄弟だからといって、長男がリーダーという訳ではない。 いくら歳が違うからといえど、『力』には適わないのだ。
姉であるルビーが、弟であるエメラルドに口答えが出来ないことも、そのことに口出し出来ない兄達のことも、それで納得がいく。
つまり、エメラルドがヴィルドのリーダー。
「さて、我々は貴方達の邪魔を任されてる」
先程の殺気は消え失せ、エメラルドは微笑んで話し始めた。
途中まではユリークにこき使われた嫌な思い出を話していたが、徐々に雰囲気が変わっていく。
それは、皆が気付いた。
「私も、兄弟達も、これ以上奴の言いなりは御免だ。だから・・・」
ボゥゥン!!!
「殺ったか・・・?」
サファイアがポツリと言う。
エメラルド達が囲んでいたはずのミーナ達は、塵も残さず消え去っていた。
「・・・いや、逃げられた」
ルビーが地面に触れて言った。
悔しがるルビーを隣に、エメラルドは面白い、と笑っていた。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
大人5人程度なら余裕で入るくらいに拡げられたガイの翼。 そこにミーナ達はいた。
エメラルドの急な攻撃に反応したガイが、己の翼を盾にして皆を守ったのだ。
「あ、ありがと・・・」
「助かった〜」
ミーナとリュウだけが口にした。
他の皆は、恐怖で言葉を忘れたように黙ったままだ。
小さくとも、魔族は魔族。 あの呪文を聞いた瞬間の、エメラルドの冷たい瞳は、言葉を喋れる3人以外を凍りつかせたのだ。
「大丈夫。ここは聖域だ汚れた魔族は入れねぇよ」
このガイのことばが、皆の恐怖心という絡まった鋼を、スルッと解いた。
一瞬にして、皆に生気が戻って来た。
「い、いい加・・・減にぃ」
ムムの声が次第に大人びている。 軽い口調・・・。
「し・ろ・Yo〜!!!!」
癖のある語尾。 ゴッドだ。
ムムの髪と瞳の色が変わってきて、叫ぶような形でゴッドと入れ替わった。
ゴッドは息を切らして、肩を上下に揺らしていた。 余程、入れ替わるのに一生懸命になったのだろう。
イマイチ、ムムの精神はよく分からない。
「ヴァ〜!・・・やっと出られた」
ダルそうにするゴッドは、人間じゃないガイを見ても普通に挨拶を交わしていた。
ムムの中で聞いていたのだろうか・・・? でも、実物を見るのは初めてのはず。
驚きもせず、見物視しない。
ゴッドのいい所だ。
「とにかく、これで俺達にも敵が出来たってわけだ」
冷静になって、リュウが言った。
ミーナ達は巻き込まれていく。 『運命』という名の定められた旋律に。
これがまだ、序の口だということも知らずに・・・。
「随分と勝手な真似をしてくれるじゃないか、なぁ?ユリーク」
どこかも分からぬ闇の中。 やはり、例の男が墓石の前で呟くように話していた。
ユリークは返事をする様子もない。
「上の者に逆らうとはな・・・。対した度胸だ、やはり親に似るのだな」
男は1人で話している。
勿論、ユリークに向かってだ。 ただ、ユリークは返事をしないのである。
後ろから、水滴の音が聞こえてくる。
暗くてよく見えないその空間に、壁に寄りかかるユリークの姿がある。
「ヴィルド兄弟の始末は任せろ。・・・と、言ってももう聞こえはしないか」
散々話した男は、ユリークの方を見て笑った。
同じ方向から、先程の音が聞こえる。
壁に寄りかかったユリークの足は、宙に浮いていた。 水滴の正体の色は、紅い。
「このデスが、奴等を招き入れよう。我が父のために!!」
一瞬、男・・・デスの前にあった墓石が動いたような気がした。
怪しげに笑う、デスの声が辺りに響き渡った。