8話 それは禁止とする
地下奴隷市場で、怪しげな老人――ロング・ファラルが奴隷の数を数えていた。
「今月の売れ行きは悪くないのう。そろそろ補充を頼むとするか」
そこに、部下の一人と思われる若い男が現れる。
息を荒くしながら、声をひねりだす。
「はあはあ……ロングさん……この前のダークエルフの奴隷、覚えてますか」
「ああ、あの死にかけのボロ雑巾か。それがどうした?」
「宿の奴が言ってたんですけど、今朝、外に出たって、聞いて……すぐに報告に」
奴隷商人と宿は繋がっていることが多い。
相棒が死んだとき、パーティーが解散したとき、怪我をしたとき、事故にあったとき、宿主が情報を与えると小銭をもらえるからだ。
「……外だと? どういうことだ? 担いでか?」
「いえ、それがちゃんと二本足で歩いたって話で。まだ詳しくはわかんねえっすけど」
塵の情報も積もれば宝となる。
ロングは経験で知っている。だが、これは匂う。
ボロボロ同然のダークエルフが、僅か数日足らずで歩けるようになるなどありえない。
つまりは、あの冒険者が特殊な魔法を持ち合わせていた、ということ他ならないだろう。
「治癒魔法か? いや、小僧の等級は新人に毛が生えた程度の物だったはず……ダークエルフに秘密があるとは思えん……あいわかった。――しばらく様子を見ておけ。監視を置き、逐一報告するがよい」
「へい。どうします? ダークエルフは今時珍しいです。取り戻して、また売りさばきますか?」
「急いては事を仕損じる」
「……は?」
「教養のない奴じゃの。もちろん、そのつもりではある。だが、まだ様子を見よ、ということだ。能力、資質、関係性、好み、熟知してから叩く」
「承知致しました! さっそく今日から動いておきます」
「――待て、いつもの面子ではなく、手練れを呼んでおけ」
「え、金もったいなくないすか? ガキと雑魚冒険者でしょ?」
「勘だ。これで生きてきたのでな。――次に口答えしたら、お前も鉄格子の中じゃぞ」
「わ、わかりました!」
◇ ◇ ◇
「これからどこへでもついていく。私はあなたの剣となり、盾となり、すべてを捧げる覚悟で、何でも命令してほしい」
食事を終えて、リドゥルが言った。
剣となり盾……? すべてを捧げる……?
おかしいな。一旦整理しよう。
俺は彼女を気まぐれ助けた。
で、恩に着なくていいと伝えた。
しかし彼女は、俺にすべてを捧げると。
――重い。
みぞおちにずっしりくる。
いや、確かに命を救ったかもしれないが、元魔王だよね? もっと傲慢なプライドとかないの!? いい子すぎない!?
するとリドゥルは、明らかに不安そうにしていた。
「ユリウス、もしかして困ってる? 迷惑なら、見えないところから守る謎の人物になってもいい」
「それはそれで嫌かも」
彼女はガックリと肩を落とす。
どうやら守ることに関しては確定事項のようだ。
――なんか、思ってたんと違う。
もっとこう「我を呼び覚ましたのはお前か?」とか「世の理すべてを知る私を蘇らせた代償はわかっているな」とか、覚悟をしてたけれど、普通にいい子みたいだ。
本当に……元魔王なのかな。
人殺しはおろか、人を傷つけることもできなさそうな気がするけれど。
「とりあえず、戦うのはダメ。リドゥルは病み上がりというか、まだ治ってないから」
「大丈夫。ユリウスを守るためなら、この身がふたたび滅んでもいい」
「その自己犠牲精神もちょっと落ち着こうか」
「わかった」
聞き分けがいい。
きっとリドゥルは、俺にとてつもない恩義を感じている。
ここまで気持ちを伝えてくれるなんて、よっぽどつらかったんだろう。
きっと、戦うこともしたくなければ、剣や魔法も見たくないに違いない。
よく考えると、彼女は元魔王とはいえ数百年前から突然、この世界に降り立ったようなものだ。
ここで放り出すのも違うか。
「わかった。なら、もう少し身体が治るまでは一緒にいようか」
「治る手前で自分を傷つけたら、ずっと一緒ってこと?」
「それは禁止とする」
「わかった」
なんか聞き分けはいいけど疲れるな。
パーティーってこんな感じなのかな。いつも一人だったから会話なんて久しぶりだ。
きっと俺の話し方が悪いんだろう。
まともに誰かと食事したなんていつぶりだ……もしかして村を出て以来か?
……思ってたよりやばいな。気を付けよう。
ん、パーティー。
「リドゥル――」
「わかった」
「まだ何も言ってないよ」
「どうしたの?」
「戦うのはダメだけど、一時的でいいからパーティーとして行動を共にするのはどう?」
これは口実だ。リドゥルに何かしてもらうつもりはないが、今の状態で離れられると、いつどこで倒れてもおかしくない。
それに、俺は会話に飢えているというか、将来的に仲間を増やしたり、尊敬されたいのなら会話上手にならなきゃいけない。
俺は会話が下手だ。今日、それがわかった。
彼女には申し訳ないが、俺の相手をしてもらおう。
「嬉しい。これからもよろしく、ユリウス」
すると彼女は抱き着いてきた。
国によっては、こうやって感謝を伝えることがあると聞いたことがある。
俺も静かに背中をポンポンする。
「それじゃあとりあえず冒険者登録へ行こうか。身分証がないと、何かと不便だしな」
元魔王の名前と一緒だけれど、同姓同名もいるだろうし、問題ないだろう。
偽名で通してもいいが、名前が変わるなんて嫌だろうしな。
リドゥルは頷き、行動をともにすることになった。
「ありがとう、ユリウス。――ずっとお礼を伝えてたけど、こうやってちゃんと伝えられて嬉しい」
「……ずっと?」
そのとき、思い出す。
――『……ぁ』
……あれは、『ありがとう』と言っていたのか。
ほんと、律儀な元魔王だ。
何かあったら、俺が守らないとな。
その前に、一つやることをやっておかないと。
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