21話 パーティー
強盗犯たちは無事に逮捕された。
全員がそうだったわけではなく、外で待っていた女性たちだけが犯人だった。
本来の護衛は気絶させられていて、縄で縛られていたらしい。
ビアンカさんを誘拐して、身代金を要求しようと思っていたとのことだ。
ありがたいことに賞金をもらえることになった。手続きは済ませたが、頂けるのには少し時間がかかる。
ただ、奴隷商人の手先ではなかったことは、ある意味でまだ脅威が去っていないことになる。
傭兵たちは間違いなくそうだ。今後も気を抜いてはいけないだろう。
「ユリウス、ユリウス」
初めてのパーティーで疲れたこともあり、いつもより寝てしまった。
宿のベッドでごろごろしていると、リドゥルが俺の身体をゆすってくる。
振り返ると、むふふと笑みを浮かべていた。
「どうしたの、嬉しそうだね」
「強盗犯、捕まえたよ。拷問して、全部吐かせたよ」
「そうだね。偉いねリドゥル」
いつものように頭を撫でるが、なぜか不満そうだ。
「足りない」
じゃあ、と言ってさらにもっと撫でてあげた。
少しだけ笑顔になるが、また同じ不満そうな表情を浮かべる。
「どうしたの? 何が違うの?」
「もっとお近づきになりたい」
「急にお見合いみたいなこというね」
「ユリウスは、私のことどう思ってるの?」
ゆっくりと俺の身体を覆いかぶさるように、馬乗りになってくる。
肌は随分と綺麗になった。髪は相変わらず黒と白でマバラだけれど、手入れをしているのか、とてもサラサラで綺麗だ。
「もちろん、身体が良くなって嬉しいよ」
「……そうじゃない」
むーと頬を膨らませながら、もういいとふてくされる。
女性心というか、元魔王心はまだわからないな。
ふぁーとあくびをしながら上半身を起こす。
日の当たり方から時間だとわかった。
「そろそろ準備しないとね」
なんと今からビアンカさんの貴族屋敷へ行くのだ。
命を助けてくれたお礼に是非にと誘われた。
昨日の今日で驚いたが、なんと誕生日パーティーがあるらしい。
なんとまあ驚いたが、嬉しくもあった。
それだけ、感謝してくれたんだなと。
初めてのことなので不安だが、貴族とのつながりも持っていたほうがいい。
少し打算的かもしれないが、美味しい食事も楽しみだ。
着替えようと思い、だがそこで衝撃的なことに気づく。
――着ていく服がない。
普通に考えれば正装だろう。男性はスーツ、女性はドレスか、気品のある服装が好ましい。
だが生まれてこの方シャツなんて着たことはない。
そういったお店がペルポにあるのも知っているが、今まで一度も行ったことなんてない。
そもそも買えるのか? ああいうのはオーダーメイドだと聞いたことがある。
簡単に了承したけれど、これは大問題だ。
どうしよう。こればっかりはどうしようもないかもしれない。
魔物や狩りについては深く考えるのに、生活となると全然だめだ。
ヤバイ、ヤバイ――。
「ユリウス」
「え、このスーツどうしたの!?」
リドゥルがスッと差し出してきたのは、何とスーツだった。
白シャツもしっかり。ネクタイだってある。
いつのまに!?
「いいから、着てみて」
めずらしい彼女の圧におされて着てみると、驚いたことにピッタリだった。
「これ、どうやって? サイズ……教えたっけ?」
ちなみに普段見ている服はボロボロだし、そもそもサイズも適当だ。
だから、服のタグを見て確認することもできないはず。
「私はいつもユリウスを抱いて寝ている。首の太さ、手首の太さ、上半身、下半身、全部わかる」
なんか凄いことをサラッと。
店では身振り手振りで伝えたらしい。
とんでもない凄技だ。いや、それで完璧に仕立てあげる店の人も凄いけれど。
「かなり驚いた。ありがとう。これで何とかなるよ」
「良かった。私も、着替える」
いつのまにかドレスを持っていた。
彼女らしい透け感のある黒いドレスだ。
そのまま服を脱ぎ始めたので、後ろを向く。
「ユリウスなら見てほしいくらいなのに」
「それはダメだよ。先に出てるから、ゆっくり着替えて」
宿の外に出て空気を吸っていると、隣で貴婦人が傘をさしていた。
今は昼間だし、日差しも暑い。
でも、こんな冒険者がいる宿でめずらしいな。
「ユリウス様……」
傘から声が聞こえる。いや、違う。
傘の中の人が、喋ったのだ。
そのまま姿を現したのは、なんと、ランさんだった。
「え、なんでここに」
「スーツ姿。とてもとても素晴らしいです。何という格好良さでしょうか。この世の物とはおもえない美。はあはあ……お持ち帰りしたい……」
なんか変なことを言っているが、褒めてくれているみたいだ。
彼女は、少し大人っぽい黒のドレスを着ている。
「どうして、ここに?」
「私もビアンカさんに呼ばれたんです。強盗犯の手続きなどをして、色々とご迷惑をかけたからと。後は、ユリウス様とリドゥルさんとお知り合いだからですね。――そして、本当に申し訳ございません。強盗犯が任務に紛れ込むとは……私の責任でもあります」
「いや、気にしないで。外にいたからわからないしね」
「なんとありがたいお言葉……お礼に私と一日ペルポでデートしませんか?」
「ちょっと前後が繋がってないような」
「私がいないところで、ユリウスに手を出したら怒るよ」
そこにリドゥルが現れた。ランが、少しだけムッとする。
二人は仲良いと思えば、こうやって口喧嘩のようなことをするときもあるな。
とはいえ安心だ。ランさんはギルドの受付をしていたから言葉遣いも丁寧だし、俺よりも大人だ。
色々と頼れるだろう。
ホッとしているとところに馬車が到着した。
どうやらビアンカさんが手配してくれたらしい。
ここまで用意してくれていたとは驚いた。
「どうぞ、ユリウス様」
従者が現れると、手を引いてくれた。
まさに至れり尽くせりだ。
ビアンカさんは本当に凄いな。貴族でありながら冒険者の任務もこなし、感謝の心も忘れない。
俺も、彼みたいな凄い人になりたい。
「……リドゥルさん、食事会では沢山の人がいると思います。ユリウス様に近づく失礼な輩がいたら……」
「……言われなくてもわかってる。――ユリウスは、私が守る」
二人ともなんか喋ってるけど、何を話してるんだろう。
さすがに緊張してるのかな。
食事、楽しみだな。
肉とかいっぱい食べたいな。




