15話 パーティー
ペルポ街のとある邸宅。
奴隷商人、老人、ロング・ファレルが部下の報告に怒り狂っていた。
「貴様、今、何と言った?」
「……定時連絡が来ず、探しに出かけたのですが、服が散乱していました。おそらく魔物に――」
「バカなことをいうな! 全滅だと? 監視をしていたのはたった一人の雑魚冒険者じゃろうが! どこかへ逃げたんじゃないのか!」
「彼らは本物のプロです。そんなことは絶対にないかと。なので、おそらく……」
貧乏ゆすりをしながら、ロングは深く考えた。
ありえない。大金を払って呼び寄せたのは今回の為だけじゃない。
良質な奴隷を確保するため、ペルポの悪人どもをまとめ上げることを考えていた。
だから赤字を覚悟で呼び寄せた。なのに、何も回収できずに死んだだと?
ありえない、ありえない、ありえない。
「奴隷がいなければうちの商売は上がったりだ。ただでさえ生きながらえさせるのに維持費がかかるというのに……」
傭兵集団が全員やられたなど信じていない。
おそらく、何らかの理由で姿を消した。死を擬装したのだろう。
だが雑魚冒険者には何か秘密がある。つまり、価値がある。
「……これは賭けじゃな。――奴隷として販売待機させてる獣人たちを連れてこい。全員、戦闘奴隷としての印を刻む」
「な!? ロング様それをしてしまうとすぐ廃人になりますぜ!?」
戦闘奴隷の印とは、数百年前に開発された禁忌の洗脳魔法である。
付与すればひとたび能力が大幅に向上するものの、魔力を使いすぎて廃人となり死亡してしまう。
「雑魚冒険者とダークエルフを捕獲し、秘密を暴く。それから残った奴隷で回収作業する」
ペルポから南東に小さな村がある。ロングは前から目を付けていたが、危険もあるので避けていた。
だが、こうとなっては顧みない。
「それと、地下の入り口には爆破魔法を付与しておけ。もうあそこには戻らん」
「い、いいんですか?」
「もし雑魚冒険者が足を踏み入れたら大怪我を負うじゃろう。そうなれば治癒魔法が使えるかどうかもわかる。監視も置いておけ」
「な、なるほど! 承知致しました」
「クソ……なんでワシがこんな目に」
◇ ◇ ◇
翌朝、宿屋で目を覚ますとリドゥルがベッドにもぐりこんできていた。
その目は俺を凝視しており、ニコニコと笑みを浮かべている。
「おはよう、リドゥル」
「おはようユリウス」
「なんでそんな真っすぐ見つめてるの?」
「寝ているユリウスがとても素敵だったから」
「いつから見てるの?」
「寝ずにずっと」
さすがに嘘であってほしいが、本当だったら怖いので言及はしないでおこう。
「毛布とっていい?」
「朝からするの?」
「肌の調子を見るだけだよ」
「わかった」
リドゥルの毛布を取る。すると、驚いたことにかなり綺麗になっていた。
昨晩、オークゴブリンを壊滅した報酬としてお金をいただき、魔法薬を購入して飲んでもらったのだ。
前よりも高い、中級のもの。
どうやら効き目が良かったようだ。
けれども、リドゥルがうつむく。
「でも、これ以上の回復は無理みたい。肌も治ったけど、魔力は回復しなかった」
リドゥルの言う通り、回復には限界がある。
だからこそ等級があるのだ。彼女も表面上は元気だが、体力的にもきついだろう。
動くと身体が痛いと言っているし、無理しているのは間違いない。
「もしかして起きてたのは回復痛だったから?」
「……そう、だけど」
なるほど、そういうことか。
頭を撫でると、えへへと喜んだ。
これ以上の等級のものはペルポに売っていない。
今後は資金を貯めて別の場所まで行かなきゃいけないだろう。
元々長居するつもりはなかったし、それは別にいいのだけれど。
「ユリウスが使った費用は、私がその辺の悪党を殺して稼いでくる」
「その危険思考、ちょっと落ち着こうか」
「わかった」
この街から次へ行くにしても結構遠いんだよな。
だからリドゥルの体力を回復させようと思ったけれど、これ以上は難しそうだな。
こればっかりは試して見なきゃわかんないし、仕方ないか。
「それに、リドゥルが能力をくれたおかげで金を稼ぐのは楽になったし、気にしなくていいよ」
俺は、驚いたことに彼女から能力をもらった。
それは一つだと思っていたが、なんと、すべてらしい。
ただ、実際に持っていた能力を丸ごと、というわけではなかった。
ダークエルフのような種族でしか使えないものや、人間が習得してしまうと副作用がありすぎるものは自動的にはじかれたらしい。
するとリドゥルが「でも、良かったことがある」と話始めた。
「私はもう死ぬと思っていた。だから、私を助けてくれたあなたに、最後だと思って渡した。でも、そのおかげで身体が治ったの」
「……どういうこと?」
「能力を持っていることの負荷が凄かったみたい。ユリウスに渡したことで、治癒が始まった」
なるほど、そういうことか。
ずっとボロボロの状態だったのもすべて納得がいく。
にしても、死を覚悟して俺にすべてを捧げてくれたとは、本当に優しい元魔王だな。
能力を認識した途端、身体にいくつものスキルが宿っているのとわかった。
ただ、まだハッキリと認識できていない。
昔からの言い伝えを思い出だす。
――赤ん坊が母の元から離れ、肺呼吸が始まるように、必要なとき、能力は宿る。
十歳になって能力を授かるのも、一人前という、神からの贈り物だという。
まあ、俺のは今までほとんど使えなかったわけだが。
とはいえこれですべて納得がいく。
俺が傭兵集団を倒せたのは、何らかの能力が発動した、それも身体強化の可能性は高いだろう。
認識ができないのは、きっと魔力不足や、基礎能力が低いからだ。
すべてが突然使えるようになれば、それこそ身体がついていかないもんな。
リドゥルは不安そうにしていた。
能力を上げたのは善意だったが、その時点で俺の身体が崩壊してもおかしくはなかったかもしれない、という新たな視点に気づいたからだろう。
ただまあ結果良ければすべてよし。
どうせ、真名がわかるだけのままならいずれ野垂れ死んでいただろう。
「感謝してるよ。リドゥル」
ふたたび頭を撫でると、やっぱり喜んだ。
能力をいくつもっていたのか、史実には千を超えると書いていたが、覚えていないらしい。
まあ、確かに俺でも忘れそうだ。
つまり俺の身体にもどれだけあるのかわからない。
まあ、それはそれでまたおもしろいかもな。
自分でもわからないということは、相手に感づかれる心配もないということ。
持っている手札と合わせて、自分でもわからない切り札を持ってるなんて、ワクワクする。
「今の力でも奴隷商人たちを殺せる。ユリウスを傷つけようとしたなんて絶対に許せない。百回殺して、蘇生させてまた殺す。だから、行ってくる」
「ダメ。ランさんが調べてくれてるから、まずは情報を待とう。焦って動いてもいいことないからね」
今まで一人でやってこれたのは、俺の性格が慎重だっただからだと思っている。
いくら強くなったとはいえ、この利は捨てたくない。
今後も、油断は絶対にしない。
「でも、私は場所を覚えてる」
「俺がもし奴隷商人なら傭兵たちが帰ってこなかった時点で拠点を変更する。ついでに罠までつけるよ。爆破か、探知か」
「……私なら罠にかかってもいい。ユリウスのためなら」
「自己犠牲は禁止」
「……わかった」
冒険者ギルドは情報のプロだ。餅は餅屋、ある程度は任せたほうがいいだろう。
『任せてくださいユリウス様。初めて頂いた任務、綺麗に遂行してみせます』
ランさん、話し言葉まで変わっていたけれど、頼りになる。
もちろん、ただ待っているだけじゃない。
ちょうど、いい話をランさんからいただいたのだ。
「リドゥル、出かけるからお留守番しててね」
「……え? どこへ行くの? 誰と? どの女? なんで? ……私を置いて?」
「女性とは言ってないよ。いや、いるかもしれないけど」
「どういうこと」
なんか凄い圧だな。心なしか、魔力も漲らせている気がする。
「昨日の狩りで等級が上がったんだよ。おかげで、パーティー用の依頼に入れるみたいなんだ。即席で集まった人たちとやるみたいなんだけど、それに参加してこようかと」
ランさんには、昨日の今日で疲れてるからやめた方がいいと言われたが、むしろ逆だと思った。
緊張感を途切れさせたくない。それに、今までソロだったのだ。大勢での狩りも楽しみだったりする。
「私も行く」
「え? いや、身体痛いんじゃないの?」
「ない。本当に」
その目は嘘をついていない。――多分。
連れて行けないことはない。俺がパーティー補佐の申請をすればいいだけだ。
でも、うーん、大丈夫かな?
「ちゃんと大人しくする?」
「する」
その目は嘘をついていない。――多分。
「わかった。ただ、少し眠ってね。そのままではダメ」
「……わかった」
初パーティ、今から楽しみだな。




