13話 予測
――隙があれば痛めつけて捕らえろ。
私たちは、ロング様にそう指示された。
これまで千人を超える冒険者たちを始末してきた。
理由は単純、金だ。金があれば、この世界の殆どが手に入る。
冒険者はバカで雑魚ばかりだ。知能の低い魔物に集団で襲いかかり、不意打ちで成果をあげて祝杯を挙げる。
殺しには美学が必要なのだ。ただ戦うだけでは、それこそ獣と変わらない。
今回の標的はユリウスという冒険者だった。
経歴を見て、思わず拍子抜けてしまう。
新人に毛が生えた程度の肩書。
パーティーではなくソロで行動しているところは称賛に価するが、この程度だと誰にも組んでもらえないからだろう。
「班長、一人で森へ行く見たいですぜ」
「本当に冒険者はバカばかりだ」
奴隷を買ったあと、自分がどういう立場で見られているのかも考えていないらしい。
おそらくだが、奴は治癒魔法を持っていると思われる。
何かコツを掴んで魔法が強化されるやつもいる。
きっと、そんな感じだろう。
――痕跡を消す。
仲間の一人が、私たちの溢れる魔力を制御した。
まあ、ユリウス程度では必要もないだろうが。
オークゴブリンの巣を見つけ、一人で戦い始めた。
思っていたよりもやるようだが、所詮は冒険者。
肩で息を切らし、魔力も使った。
ただ、不可解な現象があった。
オークゴブリンが、突然、体を硬直させるのだ。
何らかの能力か? 毒の一種? にしては即効性が高い。
まあ、攻撃を受けなければ済むだけの話。
帰り際、一番油断しているときを襲うとしよう。
この仕事が終われば南でゆっくりするか。
「出てこいよ。隠れてもわかってるぞ」
するとユリウスは、想定外の言葉を放った。
私たちの魔力は、仲間の能力によって完璧に制御されている。
一流の冒険者ですら見破られなかった。
それを……こんな雑魚冒険者が?
――いや、偶然だ。誰かが姿を見られて、ただ鎌をかけたのだろう。
仲間に合図した。どうせ粋がりの雑魚だ。
数人の部下を残し、姿を見せた。
ユリウスは驚いていなかった。
おそらく戦闘したあとで興奮状態なのだろう。
俺たちは多重攻撃を仕掛けた。
ロング様からは口さえ聞ければいいと言われている。
つまり、手足を落としても問題はない。むしろ、治癒魔法があるならそこでわかるだろう。
高く飛びあがり、ユリウスの右腕を狙って振りかぶった。
――もらった。
「遅いな」
だが不可解なことがおきた。
ユリウスは私たちの攻撃を回避したのだ。
すれ違いざま、私の顔を覆っていたフードを斬りつける。
予想外のことが起きたときは、距離を取る訓練をしている。
全員が三歩下がり、ユリウスを囲った。
どうやら、誰の攻撃も成功していないみたいだ。
ユリウスは笑みを浮かべた。
なぜか、恐ろしいほど背筋が凍る。
「――ベルス・ガルム。今日はお前の命日だ」
次の瞬間、奴はこの二十年、ただの一度も名乗っていなかった私の名前を呼んだ。
身体が硬直し、全身が悪寒で震える。
剣が伸びてくる。なのに動けない。動くことができない。
心臓に向かって一直線、皮膚に冷たい剣先が触れると、激しい痛みとともに呼吸ができなくなる。
奴の魔力は私の十分の一以下程度しかない。
なのになぜ攻撃を回避――予測してたというのか。
ありえない。なぜ、こいつがずっとこんな低レベルな狩場で――。
そして、なんだこの能力は……。
その場に倒れこみ、視界が暗くなっていく。
直後、仲間の悲鳴が聞こえてきた。
最後に……娘に会いたかった――。
◇ ◇ ◇
「ファスト・リグレール。――なぜ俺を狙った?」
「…………」
最後の一人。森に隠れていた奴を殺した。
額の汗をぬぐって、深く呼吸する。
――初めて人を殺した。
だが、そのことへの葛藤は不思議となかった。
いつかはと覚悟していたからか、それとも、能力を使ったときの副作用によるものなのかはわからない。
魔物は、生きている人間は食べないが、死んでいる人間は食べてくれる。
このまま放置しておいても問題ないだろう。
驚いたことに、全員が口を割らなかった。
相当訓練された奴らだったのだろうか、けれども、能力のおかげで倒すことができた。
干渉についても、いくつかわかったことがある。
やはり、魔法抵抗によって硬直時間が違う。
これは強さというよりは、持って生まれた性質にもよってくるだろう。
攻撃に長けている奴もいれば、防御に長けているやつもいる。
このあたりは慣れていくしかないな。
何か手がかりがないかと思ったが、何も出てこなかった。
持っていたのは武器と水、あとは携帯食料だけだ。
だが、逆にこれが証拠みたいなものでもある。
普通の盗賊や山賊ならここまで徹底していない。
間違いなく奴隷商人の差し金だろう。
大方、俺を見張って痛めつけ、隙あらば捕らえろと命令していたのか。
最初に倒した奴は班長か、もしくは場数を踏んだ男に違いない。
真正面に立つなんて、それなりに自信があったのだろう。
リスクはあったが、最初に倒せてよかった。
おかげで、他の連中が明らかに狼狽えてたもんな。
明確に狙われているとわかった以上、この街に滞在するのは危険だ。
資金は心もとないが、別の街へ繰り出すとしよう。
――と、いつもなら考える。
でも、今の俺は違う。
リドゥルをあんな目に遭わせた上に俺を狙った。
――その代償は払わせてやる。
っと、その前に。
「武器は全部回収しておくか」




