6 花葬のマルヴァロス
「あいつ帰れたかな?」
「連れてくるよりマシよ。」
ここが四魔帝の砦なら、ロシュを連れてくる訳にはいかない。
皆で決めたことだ。ロシュ含め。
「お前は自分の心配をしたらどうだ?」
相変わらずマルクスの言葉は切れ味抜群だ。
石造りの階段は終わりが見えないほどの長さであった。
左右には蒼炎の松明がつけられている。
「長いですね。」
「こちとら時間がないって言うのに。」
ラミレスとマルクスが愚痴をこぼす。
「ただ長いだけなら良いのに、途中に小部屋があるからね。」
「その度にラリルに魔力探知をして貰わなきゃいけねーからな。」
「まただよ。」
階段の右側に小部屋が現れた。僕は魔力探知を行い、安全を確認した。
小部屋は4、5人ほどしか入れないうえ、中には何も無い。
「多分、詰所じゃな。ここが砦として使われたなら、こう言うものもあるだろう。」
「ってことはこの先に罠もあるかもしれないってことか?」
「無いとは言い切れん。」
緊張が走る。この手の古代遺跡の罠は致死率が高い。
こう言う時にいい魔法がある。
「石造人間を先行させます。」
僕は手に魔力を込めながら、床に触れた。
途端、はまっていた石レンガが動き出し、人の形になった。
「おおぉ。」
みんなが感嘆の声を上げる。
「さすがじゃな。」
魔力でゴーレムに信号を送る。
(階段を降りろ。)
ゴーレムはゆっくりと動き出す。これで、もし罠があってもゴーレムが先にかかる。
「無杖の利点じゃな。」
「無杖の利点?」
ラミレスがバースに聞き返す。
「本来ならばゴーレムに杖を向け続けなくてはならないが、ラリルの場合は手に魔力を込めるだけで良い。」
「なるほど。」
僕の知らないところで勝手に解説されているのはなんとも言えない気持ちになる。
「おい、ゴーレムが止まったぞ。」
ゴーレムが止まったということは階段が終わりだということ。
命令が階段を降りろだからな。
「また随分と長いな。」
階段を降りると、長い通路が待っていた。
さらに天井からは水が滴り落ちる。
「しょっぺーな。海水か。」
「舐めたんですか?!」
ガリアの行動には驚かされてばっかりだ。
他の3人は慣れているのだろう。
「普通は舐めないでしょ!」
慣れていなかった。というか、慣れた方が怖い。
「一旦、並びを整えるぞ。」
結果、1列目にマルクスとラミレス。
2列目に僕とメイ。
3列目にガリアとバース。
「ねえ、どこまで続くと思う?」
「そうですね。長すぎると不便ですし。ある程度だとは思いますよ。」
「そっか。」
メイも少し顔に疲れが出てきてる。
船旅からのサーペント、そして海底要塞。
無理もない。
「高速移動の魔道具とかあったら良いんだけどね。」
「おいおいメイよ。子供みたいなことを言うなよ。
魔法の箒でも想像してな。」
箒か。よくファンタジーで出てくる空飛ぶ箒を実際に作れたらな。
「ラリルさん。」
ラミレスが振り返った。何だか口角が上がっている。
「帰れたら作ってみたいですね。デュフフ」
「気持ち悪い笑い方するなよ。」
マルクスがツッコミを入れる。まあ、その通りだけど。
「また、失敗するなよ。」
「しませんよ!」
ラミレスが前を向き直した瞬間、音が鳴った。
ガコン!
床が消え、目線の先にはラミレスの靴が見える。
気が付けば身体が反転していた。真っ逆さまに落下している。
周りを見渡しても、メイしかいない。そして、、、
「うわぁ〜」
メイはパニックになっている。
僕は手を真下に向けて、魔術を放った。
上昇気流
僕とメイの体は減速した。
しかし、上を見る限り落ちた穴は塞がっている。
「はーはー」
メイは少し落ち着いたものの過呼吸だ。
ゆっくりと上昇気流の出力を下げて、地面に降りた。
辺りは真っ暗で何も見えない。
光の粒子
目の前にはさっきと変わらない道。右にも左にも。
そして後ろにも、、、
「十字路か。」
まるで迷宮だな。バラバラになったうえに、こんなに道があると合流は厳しいな。
「いてて」
メイが起き上がる。少し気絶していたのだろうか?
「大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないわ。私はね。」
そう、問題があるのはこの状況だ。
メイは念の為か、治癒魔術を自身にかけた。
「こっち来て。」
意味も分からず寄ると、杖を僕のおでこに当てた。
「別に大丈夫ですよ。」
「いいから。」
体の中に何かが広がっていく感覚だ。
自分で使った時とは違う。
「さて、どうしようか?」
「どうしましょう。」
僕らは十字路の真ん中で背中合わせで座った。
―――ラミレス視点
「メイ!ラリル!」
バースが叫んだ。振り返った時にはラリルさんの髪しか見えなかった。
「ラリルさん!」
「メイ!」
二人が落ちた穴はすぐに消えた。僕とマルクスは床を凝視した。
僕が前を向いた一瞬の出来事だった。
「破壊します。」
「いや、待て。」
「どうしてですか?」
「破壊されたレンガがあいつらに直撃するかもしれんだろ。」
僕は杖をしまった。マルクスに言われるとなんかムカつく。
ふと顔を上げるとそこには誰もいない。
「あれ?バースさんとガリアさんは?」
通路を見渡し、名前を呼んでも返事はない。
「あいつらもか。」
ここには僕とマルクスだけになってしまった。
最悪だ。
「どうしましょう?」
僕は涙目になりながら、マルクスに訊く。
「ああもっ!泣いたって仕方ないだろ。」
僕は涙を拭き取り、頷く。
「とりあえず、前に進むしか無い。行くぞ。」
ただマルクスについていくことしか出来ない。
妹に見せれない、こんな姿。
10分程歩いた。ようやく長い通路を抜け出すと大きなホールに辿り着いた。
天井には蒼炎のシャンデリアが飾られている。
「うわー、、、」
思わず声に出してしまった、半球状の天井には色とりどりのステンドグラスが埋め込まれており、蒼く輝いている。
「こんなのに見惚れているようじゃ甘いな。」
マルクスは隙あらば憎まれ口を叩く。
「人の家をこんなの呼ばわりか。」
前から声がした。厚く重みのある声だ。
僕とマルクスは気を取り直して、それぞれ杖と剣に手をかけた。
「人の家ってことは、、、」
「ああ、間違いない。」
声の主が暗闇の通路から現れた。
その姿は白く長い髭に古びたローブ。
そして、3つの目。
「一応聞く。誰だ。」
声の主は立ち止まり、三角帽子を取った
「名乗り遅れた、私は四魔帝が1人、花葬のマルヴァロス。」
分かっていたが、名前を聞いた瞬間、全身から汗が吹き出す。
逃げろと体が訴えてい。しかし、脳がそれを許さない。
(動いたら、殺される!)
その感覚が脳を支配する。
「客人には最高の礼を以て、もてなすのが私のモットーだ。」
「ラミレス!」
黒い斬撃が目の前に現れた。
マルクスが割って入り、それを弾き、、、返せなかった。
「くっ!」
マルクスが僕の後方に飛ばされる。
「マルクス!」
マルクスは壁に叩きつけられる。
どうしよう?こんな相手にどうしたら!
否応なしに斬撃が飛んでくる。
「氷柱」
僕は防ぐので精一杯だった。
しかし、マルヴァロスは腕を組んでいる。完全に舐めている。
今ならいけるかもしれない。
「火球」
正面に大きな火球が現れる。しかし、次第に小さくなる。
そう、圧縮熱球だ。
手のひらサイズになった火球をマルヴァロスに向けて放つ。
「随分とレベルが低くなったものだ。」
マルヴァロスは小さい魔法陣を展開する。
バケモノ相手には初見魔法しか通じないだろう。
これが通じなかったら終わりだ。
「!」
火球が奴の腕に触れた瞬間、大きな爆発を起こした。
シャンデリアが落ちて、暗くなる。
僕は火球を幾つか出して、光源を確保した。
「汚いぞ!」
マルヴァロスの右手は吹っ飛んでいた。
四魔帝に傷をつけた!とは喜べない。
だって、多分死ぬから。
「いくら弱いからと、卑怯な。」
マルヴァロスは黒い槍を出現させ、僕に放つ。
さっきの圧縮熱球の際、魔力出力が限界を超えてオーバーヒートした。
「ごめん。」
これしか言えない、、、
僕は尻餅をつき、目を瞑った。
「何がごめんだ!」
マルクスの声が脳に響くと同時に、金属音が鳴った。
恐る恐る目を開けると、マルクスが立っていた。
「マル、クス、、、」
「だから俺は反対したんだ。荷物が増えるからな。」
マルクスの足元に血が滴る。
弾いた破片が刺さっていた。
「マルクス、血が。」
「心配ねぇ。あとでメイに治してもらう。」
マルヴァロスは笑みを浮かべながら、言い放つ。
「お前も日本刀使いか?」
「ニホン?何だそれは」
ニホン刀何て聞いたことない。
「お前が使っているその剣は400年前、勇者が使っていたものだ。」
「これが勇者の剣?」
「同種なだけだ。勇者が使ったことで広まったのだろう。
話は終わりだ。剣士のお前は案外良い。」
マルヴァロスは槍を向けた。
「剣士は?こいつが魔術師の底辺なだけだ。“あいつ”は違うぜ!」
横の壁が崩れ、そこから斧と杖を持った2人の男が出てきた。
__________バース視点
ラリルとメイが落ちたことに気が囚われているうちに、マルクスとラミレスまでもが消えていた。
水漏れがないことを見るに、僕らが消えたと言う方が正しい。
「おい、ここは何処だ?」
「さあ、分からん。」
さっきの廊下と変わらない見た目だ。
とりあえず歩いてみることにした。
「凄いなこれは。」
「うむ。」
歩いてきた廊下とは違う、「回廊」に出た。
右の壁には終わりが見えない絵画がある。
そこには異形の男に4人の男が跪き、さらに後方に24人の様々な姿をした人々が土下座をしている。
「魔界大戦時のものか、、、」
「どういうことだ?」
「黒い異形は魔王、4人の男が四魔帝、24人の奴らは二十四魔将。」
絵画を見て行くと、魔界大戦の顛末が描かれていた。
そして、最後にマルヴァロスの死と未知の言語が描かれている。
「何て読むんだ?」
「儂にも分からん」
古代魔族の言葉など知ったことか。
「なあ、この死に方変じゃないか?」
ガリアが指摘するとこには、マルヴァロスが白く消えて行く様子が描かれている。
魔術や剣で殺された描写はない。
なんなら、自ら死を選んでいるように見える。
「自殺か?」
「ならこんな書き方しねーだろ。」
白く、死ぬ?もしや、、、
「霊昇術か。」
「死んでお化けにでもなろって言うことか?」
「その通りだ。死後、霊体として現世に残る。古代の魔術だ。」
と言うことはまだ奴はここにいる可能性が高い。
「ガリア!手を出せ。」
「お、おう。」
ガリアの手に杖を当てる、ガリアの手は白く帯びる。
「何をした?」
「霊対術じゃ。これでゴーストの体を触れることが出来る。
ほれ、斧にもつけるぞ。」
ガリアの斧も白く光る。
ガリアは「カッケー」と言っていたが、儂もそう思う。
「先に進もう。ラリルなら大丈夫かもしれんが、ラミレスは霊対術が使えんだろうから、先に相対したらマズイ。」
さらに進むと上への階段があった。上に登るとステンドグラスとシャンデリアに彩られたホールがあった。
「綺麗じゃな。」
「俺には芸術が分からん!」
この美しさが分からんとは。
呆れていると横から爆発音がした。
「クソ!先にあいつらが当たったか!」
「ガリア!壁を破れるか?」
「俺は斧だぞ!」
「儂の爆華と合わせろ!」
「仕方ねぇ。行くぞ!」
ガリアが斧を振るうのと同時にそこに小規模な爆発を起こす。
壁は老朽化もあってか、次々に崩れて行く。
海の中とか関係ない。賭けだ。
金属音が聞こえる。近い!
「行くぞーーーー」
壁が崩れ、大きなホールに出た。
そこにはマルクスとラミレス、そして三つ目の男。マルヴァロスがいた。
「貴様ら!何故ここに!」
「俺の弟子と友人に手を出しやがって!」
ガリアが斧を振りかざし、大きく飛躍する。
マルヴァロスが黒い槍を向ける。
「疾風刀」
風が刃状になり、黒い槍に当たる。
槍は軌道が逸れた。
「良いぞ!バース。」
マルヴァロスは左手に剣を出現させ、構えたが
ガリアは剣を割り、体をぶった切った。
「ぐぬっ!」
マルヴァロスは後ろによろけた。
その瞬間を見逃さない。
「絡根」
マルヴァロスの腰に根が巻きつき、そのまま引っ張り倒す。
マルヴァロスは右手を再生させたが、
「させるか!」
ガリアが光る手でそれを抑える。
「今だ!」
傷だらけのマルクスは駆け出した。
その剣に霊対術をつけ、さらに瞬風で加速させる。
「お返しだ。」
マルクスはガリアを飛び越え、マルヴァロスの胸元に剣を突き刺した。
「あの方が生き返るまでは、、、」
死んだ。多分。少なくともこの体は絶命した。
魂は生きており、何処かで復活するかも知れんが今はそれでも良い。
「バース。考え事してないで、治癒してくれ。
低級なら使えるだろう。」
「ああ。」
マルクスは黒い破片が刺さっていた。
幸い、浅い傷だったので儂でも治せた。
「案外あっさりだったな。」
「何がだ。こちとら死にかけたんだぞ。」
「霊体だから弱体化していたのだろう。」
「そんなことよりどうする?」
時間は既に一時間経過していた。残り二時間でメイ達と合流し、ロシュの家族を見つけ、リアへの手がかりを探す必要がある。
「まあ、歩くか。」
回復したマルクスは立ち上がり、指差した。
「マルヴァロスが出てきた廊下に行けば、何かあるだろう」
「そうだな。」
「はい!先を急ぎましょう。後、、、ありがとうございました。」
ラミレスは目を背けながら言った。
「「はははは!」」
ガリアとマルクスが笑った。
「お前も頑張ったんだ。オヌールの目のメンバーとして認めよう。」
「俺は初めから認めてたぜ。このジジイもな。」
ジジイとは!
「ガリア。後でゆっくり話をしよう。」
ホールは笑いで包まれた。
次回 無杖の実力




