4 パーティー結成
「パーティー結成を記念して乾杯!」
「乾杯だ。」
「乾杯。」
「かんぱーい。」
「……乾杯。」
テンポが速い。つい数時間前まで殺し合っていたのに、今は盃を交わしている。
「ねえ、マルクス。素直になりな。」
マルクスは僕達が加入したことに不満があるらしい。一方、ガリアは強いならいいと加入を認めて、バースは僕と共に戦えることを嬉しく思っているらしい。
「チッ。俺は認めねーからな。」
そう言うと、マルクスは席を立ち、外に出て行ってしまった。メイは僕にごめんと会釈し、マルクスを追って行った。
「ガリアさんの斧凄いですねー」
「そうだろう。これはな、俺の故郷の匠が丹精込めて作った一級品だ。」
「妹に良い土産話ができた。」
ラミレスに妹がいたのか。
「そういえば、戦士って武器によって流派が違うんですよね。」
「それは剣士だな。戦士に流派もクソも無い。戦士の数だけ流派がある。」
ラミレスはガリアとすっかり意気投合している。まるで兄弟みたいに。
「ラリルさん。少しお話ししませんか?」
「良いですよ。」
バースは立ったラミレスの席に座り、僕に飲み物を注いでくれた。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
ぶどうジュースをゴクリと飲むと、バースはまた注いでくれた。
「すいません。」
「いえいえ。」
「バースさんはどうして僕と会えて嬉しかったのですか?」
「現在進行形で嬉しいですよ。だって、無杖の魔術師じゃないですか。生きている間に会えるとは……」
バースは目をキラキラさせながら、僕を見ていた。何とも話しづらい。
「光栄ですね。バースさん程の歴戦の魔術師にそのように言ってもらえて。」
「ご謙遜なさらず。」
バースはまた、ぶどうジュースを注いでくれた。尊敬してくれているのは嬉しいのだが、いかんせん、こんな待遇は初めてで慣れない。
「それで無杖魔術とはどのように行うのですか?私にもできますか?」
無杖魔術というのは杖なしで魔術を使うこと。一般的、というよりほぼ全員は杖が必要だ。歴史上、無杖魔術師
は数人だ。
かつて先生が言っていたことを思い出した。
『無杖とは才能だ。習得できるものではない。だからと言って驕ってはいけない。ラリルがすべきことはその才能を伸ばすことだ。』
「僕にもよく分かりません。なので教えることはできないです。すいません。」
「いえいえ。」
バースはそう言いつつも少し残念がっていた。まあ、教えることのできるものなら、もっと普及してることだろう。
「私も自分が出来るとは思っていませんでしたし、それ以外の技術を高めることの方が肝心ですからね。」
バースはそれでも前を向いた。このくらいのことで凹んでいては冒険者なんてや出来ないだろう。バースはまたぶどうジュースを飲むと僕の方を向いた。
「ラリルさん。もし良ければ、お手合わせしませんか?ただの興味です。」
「良いですよ。」
歴戦の魔術師と戦える機会は少ない。特に相殺術は経験がものを言う側面がある。
「では決まりで。」
この後、僕らは魔術のことやパーティーのことについてジュースが尽きるまで話し合った。
私からしてみれば、パーティーメンバーが増えることは悪くないと思っていた。確かにこのメンバーでいる期間は長い。思い入れもある。それでも、今回の依頼の都合上、人が多いに越したことはない。
「俺は反対だ。」
マルクスは違った。倉庫での戦いの後、皆んなで話し合った際、マルクスは難色を示した。私たちの説得で渋々受け入れたが、やはり嫌なのだろう。酒場を抜け出してしまった。
「待ってよ。マルクス。」
私はマルクスを追いかけた。夜の街は混雑していたので、すぐに見失ってしまった。大通りは街灯があるが、少し離れれば玄関のランプしか光源がなくなる。
「まあ、マルクスが行くとこは分かるんだけどね。」
マルクスは拗ねた時、大抵は一人で宿に戻っている。今回もそうだろうと踏み、私は泊まっている宿に向かった。
「お帰りなさいませ。」
受付の人が挨拶をしてくれた。私も軽く会釈し、3階へ向かった。マルクスの部屋には鍵がかかっていた。
「おーい。マルクース。出てきてー」
反応はないので、私は鍵穴に杖を当てた。
「弁償はマルクスにさせるので……」
小声で呟き、風弾を軽く放ち、鍵穴を吹っ飛ばした。中に入るとマルクス目を丸くして見てきた。
「何よ。」
「鍵穴破壊してまで入ってくることねーだろう。お前が弁償するんだぞ。」
「そこは安心して。あとでマルクスに請求書送るから。」
「俺が払うんじゃないか!」
マルクスは呆れた様子でベットにねっ転がり、毛布を頭まで被った。私はそれを取り去った。
「何だよ。」
「戻るよ。」
「嫌だよ。」
「何でよ。」
「嫌だから。」
「だから、どうして?」
イラついた私はマルクスの背中に杖を突きつけて、伝雷を放った。マルクスが「分かった。分かったからやめて。」と言ったので、私はやめた。
マルクスは過呼吸になりながら「酷いよ」と呟いた。
「ラリルたちの何が気に食わないの?」
私は椅子に座り、マルクスはベッドに腰を掛けた。微妙な空気が流れる。
「気に食わないことはない。」
「だったらどうして?」
「何年もこの四人でやってきた。なのにここに来て、何故よそ者を入れる?」
「ふーん。つまりは嫉妬か。」
私は煽るように言った。
「嫉妬じゃねーし。」
マルクスは少し顔を赤くして、そっぽを向いた。詰まるところ、四人で仲良くワイワイやりたいってことだ。
「この依頼だけだし、良いんじゃない?」
「好きにしろ。」
マルクスは毛布を被り、横になった。私はやれやれと思いつつも、言質取ったり!とガッツポーズした。そう、
「好きにしろ」だ。
「遅くなってごめーん……って、仲良くなり過ぎだろ!」
私が酒場に戻るとバースはラリルとぶどうジュース片手に何かの話を話しており、ガリアはラミレスに斧を見せびらかしている。誰も私に気づかず、何だかマルクスに怒りが湧いてきた。
「あっ!メイさん。お帰りなさい。」
「ただいま、ラミレス君。」
最初に気づいてくれたのはラミレスだった。ああ、素直で良い子と思った。
「おお、メイ。戻っていたのか!」
「……」
「何で無視するだよー俺には女心がわからんのだ。」
自分で考えなさい。女心とかそれ以前の問題でしょう。私はキレ気味に奥のバース達の机へ行きました。
「あ、メイさん。」
「戻っていたのかメイ。」
二人同時に私に気づいた。仕方ない。二人とも私の寛大な心で許してやろう。
「ところで、二人は何を話しているの?」
そう聞くとバースは上機嫌になりながら答えた。随分と楽しそうだったようで。
「魔術の話だが、ラリルさんは非常に魔術に精通していて、この年にしてここまでとはと、驚かされた。」
二人の笑い声が、胸の奥をちくりと刺した。
自分だけ別の場所にいたようで、落ち着かなかった。私があんな奴の説得をしている間に楽しく飲んでいたと思うと。
「よし!儂は帰る。眠くなったからな。」
バースはまるで危機を回避するように、足早に酒場を出た。残されたラリルは危機を感知出来ていなかった。
「メイさん。飲みませんか?」
ラリルは新しいコップを貰い、ぶどうジュースを注いでくれた。明日から捜索再開とはいえ、酒場に来て、酒を飲まないのはどうだろうか。
私は言われるまま席に座り、コップを受け取った。先程、くだらない説得をしていたせいで喉が渇いていたので一気に飲んだ。
「マルクスさんはどうでしたか?」
「あんな奴放っておけば良いのよ。」
「そうですか……」
「何よ。君が心配することじゃないわ。」
ラリルは心配げだったが、これは私達の問題だ。恥ずかしいが私達が解決すること。
「それより、ラリル君はどうして捜索を?」
同じ目的なのは知っていたが、どうゆう依頼でラリルが捜索していたのかは知らなかった。
「ユアという少女に頼まれたんです。彼女の父が誘拐犯だという冤罪をかけられていると。どうしても助け出して欲しいと。」
なるほど。冤罪か。可哀想。
「それで無罪証明を手伝うということですか。優しいんですね。」
「僕というよりラミレスがやろうと言ったんです。僕は面倒事避けるタイプなんで。」
「そうですか。私から見れば率先して助けそうですけどね。」
お世辞ではなく、本音だ。倉庫での戦いの時も私達を傷つけるような魔術は使わなかった。私たちは殺しにいったのに。
「僕もそろそろ帰ります。明日、7時に城門前ですよね。朝早いですし。」
ラリルはそういうとラミレスを連れてに行った。
「もう少し居ても良いじゃないですかーねえ、ガリアさん。」
「夜は怖いものだ。何も見えず、どこから敵が来るのか分からんからな。」
少々意味が分からないが、ラミレスは納得したらしく席を立った。
「よく分からないけど、ガリアさんが言うなら帰ります。」
あ。納得してなかった。ラミレスはトボトボと歩き出し、ラリルはガリアに一礼して酒場を出た。
「マルクスの調子はどうだった?」
ガリアは2人を見送った後、私に聞いてきた。私は少し不機嫌になりつつ、ビールを一杯頼んだ。
「マルクスとは相変わらずだな。」
「何分ったような口聞いているのよ。」
私がビールを一口飲み、わざと大きな音を立てて置いた。ガリアは笑いながら言う。
「お前と会った時から、お前達の関係は変わらん。ずっとこんな調子だ。」
「そりゃそうでしょ。私達が何年一緒に居ると思っているの?二十三年よ。生まれてからずっとよ!」
ガリア顎髭をさすりながら、私の目を見て言った。
「あいつが嫌いか?」
「嫌いな訳がないでしょ。嫌いだったら、とっくに解散してる。」
即答した。マルクスの性格は知っている。良い面も悪い面も。私はそれを受け入れているし、多分マルクスも私
の性格を受け入れている。
「やっぱり変わらないな。」
ガリアが笑った。私は変わりたくない。この関係が。
「ロスです。」
ラミレスは魂が抜けた顔をしていた。それほどまでにガリアとの会話が盛り上がっていたのだろう。
「どうせ、明日からずっと一緒だ。」
僕は慰めるように言った。
「でもロスはロスです。」
気持ちは分かる。みんなで騒いだ後、店を出ると何か悟りを開けるのだ。
夜は深まり、朝には混雑していた大通りも肌寒い風が通っている。
「見つかりますかね?」
「何がだ。」
「お嬢様ですよ。誘拐から一カ月も経っているのに近辺いるとは思えません。」
ラミレスは悲観主義者かもしれない。魔術の開発の時もそうだった。
「ラミレスは少し、この国を舐めているな。彼らは誘拐事件が起きた時すでに、国境の検問を強化している。」
「密航だってあるんですよ。」
「ネルーメ産の違法薬物対策で元から海の検問は厳しい。」
ラミレスは「そうですか。」と言って、早歩きで僕を追い抜いた。少し言い過ぎたかもしれない。ラミレスは少
ししたとこで振り返り、僕に言った。
「ラリルさん。何しているんですか?明日、早いですよ。寝坊したら置いていきます。」
思い込みだったようだ。
「どうしたんですか?様子変ですよ。」
「いや、何でもない。」
ラミレスの肩を叩き、僕は宿に向かった。
「早く帰るぞ。」
「はい。」
ラミレスの顔は見なかったが、笑っていた気がした。
冷たい隙間風に体を震わせながら、僕は朝の支度をした。冬の水道水は冷たく、目はすっかり覚めた。
「おはようございます。」
「おはよう。」
ロビーに出るとラミレスが待っていた。いつもならこのまま朝食を食べるのだが、早朝の出発だったので昨日買
っておいたパンを後で食べるつもりだ。
「いよいよですね。」
「遠足じゃないぞ。」
「分っています。」
そういう僕もパーティーでの依頼は久しぶりなので、ワクワクしているとは口は裂けても言えない。
なんて冗談を言いながら、僕らはこの宿を出た。三泊四日の滞在だったが、この街を満喫出来た気がしない。
「雪だ。」
空から白い粉がパラパラと落ちている。レンガ畳を覆うように積もっている。
早朝の大通りは雪のせいもあってか、少し寂しく感じる。
「寒いですね。」
「しっかり防寒したが、それでもこの寒さはくるな。」
早朝からの活動ということもあり、厚木はしてきた。雪は想定外だが。
「それにしてもあの魔法陣は便利ですね。」
昨日ラミレスに教えたバック代わりになる魔法陣。魔法陣を通して亜空間の中に物を収納する優れ物だ。
「そうだな。お陰で荷物は殆どない。」
僕らが持っているのは杖と小銭だけの軽装だった。今回の依頼は戦闘になりやすいので、動き易い方が良いからな。
「おはよー。」
城門からメイが手を振っていた。他三人もいる。
「「おはようございます。」」
「いやー寒いね。」
と言っているメイは昨日と変わらない短パンにレギンスという寒さを感じさせない服装だった。壁に寄りかか
り、目を瞑っているガリアに至っては半袖だった。
「朝からうるさいな。」
マルクス眠そうに言った。多分、朝型ではないのだろう。
「お二人とも。おはようございます。」
「「おはようございます。」」
バースは丁寧に挨拶をしてくれた。バースも昨日と変わらない服装だったが、魔術師のローブというのは暖かい
らしい。
「では行きましょうか。」
僕達はここからルーモラ港に向かい、そこから船でニムラ港に向かう。
「ルーモラ港からニムラ港まではどのくらいですか?」
「半日もあれば着くわね。」
「ニムラ港には世界中から集められた珍品もあるから楽しみにしとけよ。」
ガリアの発言にマルクスは「遠足かよ」と呟いた。これから戦いになるかもしれないのに、このパーティーは緩
いな。
「ええと、どう探すのでしょうか。」
一方のラミレスは何度も瞬きをし、明らかに緊張した様子だった。
「まあ、怪しい場所をしらみ潰しに探したり、聞き込みしたりとかかな。」
「そ、そうですか。」
ラミレスのことが少し心配になった。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。」
その声がいつもより高かった。いつもと言っても会って数日。そもそもここまで、気にかける必要はないが……
雪の中歩いて数時間。僕らはルーモラ港に到着した。
「うわー」
雪景色の海はとても美しかった。雪は海に触れた瞬間、溶けて消えてしまう。
船に乗り込む際、厳しい手荷物検査をされた。僕とラミレス、バースは魔術師だったこともあり、魔法陣の中も
調べられた。
「やっぱり厳しいですね。」
「これじゃ出国することは不可能に近いだろう。」
僕らは甲板に座りながら、朝食のパンを食べた。
「硬いですね。」
「昨日の残り物だからな。」
ラミレスは硬いパンを頑張って引きちぎり、口の中で頑張って咀嚼していた。
それを見たメイはクスクス笑う。
「人の不幸で笑わないでください。」
「ごめんごめん。ラリル君は上手く食べているのに、頑張って食べてるから。」
ラミレスは僕の方に視線を向けた。
「ラリルさん!何でそんなにホクホクなんですか?」
「僕はただ、水球を熱して発生した水蒸気で蒸しただけだよ。」
「ラリルさんは器用だな。」
バースは自分の手元でも同じことをして、「これは良い。」と呟いた。
「魔術は想像力が大事だからね。ラミレスも……」
メイがラミレスに話しかけようとすると、ラミレスは小声で「これだからソロ冒険者は、人との繋がりは知らな
いのですか?そもそもパーティーというのは……」とぶつぶつと嫌味を言っている。
「教えなくてすまなかったな。」
一応謝ったが、僕が本当に悪いのだろうか。
「いや、べ、別に。」
何だかバツが悪そうなラミレスにみんなが吹き出した。このパーティーは大丈夫だろうかと疑問と安心が湧いて
くる。
「おい、計画を考えるぞ。」
マルクスがやれやれといった感じで甲板に上がってきた。
「メイはしらみ潰しと言ったが、さすがにそれじゃ厳しい。」
メイが眉をひそめるのを横目に、マルクスは僕らの真ん中にニムラ港周辺の地図を広げた。
「奴らのアジトに潜入するのが最も手っ取り早い。」
「そりゃそうでしょ。」
メイは鋭い口調でツッコむ。バースやラミレスもイマイチ分っていない様子だった。もちろん僕もだ。
「まあ聞けって。敵のアジトに潜入する最も簡単な方法。ラミレス分かるか?」
「裏口とかですか。」
「知ってたらこんな苦労しねー」
「じゃあ何ですか。」
ラミレスは膨れっ面で返す。
「どいつもこいつも仕方ねぇな。」
マルクスの一言に「どの口が」「誰が昨日拗ねたんでしょう」とメイとラミレスが噛み付く。
「ゴホン!」
バースの鶴の一咳で二人は愚痴をやめた。気を取り直してマルクスが話す。
「最も簡単な方法は俺らも同業者になることだ。つまりはスパイだな。」
納得した僕とラミレスとは対照的に、バースとメイは両手で顔を覆った。
「僕は結構良い案だと思ったんですけど。」
「私たちも“初め“はそう思った。でも、ある依頼で私がメイドになったの。」
「あ、言わなくて結構です。」
何だか察しがついた。確かに美人だしね。「あれは作戦が悪いわけでは……」
言い訳をしようとするマルクスをメイは鬼の形相で睨みつける。
「一応までに作戦を聞いても?」
今度は僕に視線を向けてきた。
「一応です。一応。」
マルクスはメイの顔を気にしながら、話し出した。
「誰かに奴隷役になってもらって、奴隷商人を装うって感じ……やめときます。」
「誰にやってもらうつもりだったの?」
メイの低い声から怒りが伝わってくる。
「やっぱり、奴隷として売るなら美人な。」
「ってことは僕ですね。」
「はい?」
「僕が奴隷役で潜入すれば良いんですね。」 ラミレスの発言にみんなが困惑した。だって奴隷役に自ら志願する
やつなんているはずがないもん。
ラミレス以外に。
「それはいかん。こんな若造にさせられるものか。」
「自分で言っているのですから、良いではありませんか。」
確かにラミレスは美少年だ。しかし、学生を危険に晒すほど、作戦に困っているわけではない。
「そう言うなら良いだろう。」
今まで目を瞑り、会議に参加していなかったガリアが口を開いた。
「しかし、ラミレスよ。戦士たるもの一度やると決めたなら、やり通せ。」
「もちろんです。」
この空気にノーと言える人はいない。結局、ラミレスが奴隷役として決まった。
「というか。お前自分で美人と言っていた気がするけど。」
「僕は言っていませんよ。僕は。」
作戦を練っているうちにニムラ港に到着した。時間はすでに夕方になっていた。
雪は止み、綺麗な夕暮れが海を赤く染めていた。
「いつか妹にこんな夕日を見せたい。」
ラミレスがポツリと言った。
「あっ。すいません。何だかしんみりすること言っちゃって。」
「いや別に。妹を思い遣っているのだな。」
僕がそう言うと、ラミレスの唇が震えた。
「あいつ、病気で……家から出られないんです。でも、僕は……魔術を学びたいなんて言って。置いてきたの
に……」
ラミレスの声が震え、言葉がそこで途切れた。
そっとラミレスの頭を撫でた。なんて言えばいいか分からない。分ったとしても僕に言う資格はないのだろう。
でもこれだけは言える。
「僕も見せたかった人がいる。でも、その時は見せたいと思えなかった。今、妹のために泣けているお前は立派だ。」
ラミレスへの慰めでもあり、僕への戒めでもある。
ラミレスの顔は真っ赤に染まっていた。僕の顔は何色に染まっているのだろう。
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