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1 冒険者への憧れ

次回 メイドと主人

私はこの家が嫌いだ。無駄に豪華な邸宅も、過保護な親も、期待する爺様も、口うるさいメイドも。

私はもっとの自由になりたい。つまりは冒険者に。世界を駆け巡り、ギルドに行き、パーティーを組み、魔物を討伐したり、迷宮に潜ったり、うん!我ながらよく出来た夢だ。


「リアお嬢様。おはようございます。」


「ローラ。夢想中に何の用だ。」


 ローラは我がグレイス家のメイドだ。気が利くし、優秀だ。

ただ、母様に言われてるのか知らないが、私に対して口うるさい。


「お嬢様。夢想をしながらでも宜しいので、今日の予定を聞いてください。まず、午前には魔術と算術のお勉強。午後は昼食後、ゴア領主ジュンベルク様とお茶会を、夕方には政治論の講義を受けていただきます。」


相変わらずつまらない予定だ。変わらない毎日を過ごすのは苦痛だ。


「ねえ。ローラ。政治論の講義はいいから、どこか行k」


「行きません。政治論の講義も重要でございます。なにせお嬢様はグレイス家の跡継ぎなのですから。」


そう。私は跡目。中央連邦西部、トリディア海に面するルーモラ領の領主ポケの娘だ。

外出など許されるわけがない。


「跡継ぎとか政治とか興味ないよ。」


ローラはハァとため息を吐き、私が寝ているベッドにちょこんと座って、微笑みながら言った。


「仕方ないですね。明日、休みを貰える様に私から奥方様にお願いしましょう。」


「やったね!さすがローラ。」


 ローラは苦笑しながら部屋を後にした。ローラは口うるさい分、私の我儘を聞いてくれる気がする。

 

___


 午前は魔術の勉強。家庭教師はミレイユ先生という魔女だ。


「リア。魔術の区分。大きく分けて四つですが、全て言えますか?」


「はい。攻撃魔術と治癒魔術、結界魔術、補助魔術です。」


「その通りです。あなたは今まで、それらの低位魔術をを習ってきました。次に何を学びたいですか?」


「治癒魔術ですね。」


 即答した。やってて楽しかったのは治癒魔術であり、実はこっそり、独学で中位まで学んでいたのだ。


「そうですか。治癒魔術ですか……」


 先生は少ししょんぼりした。先生の専門は攻撃魔術だからだ。

先生は小声で「出来れば攻撃魔術がいいなー」などとボソボソ呟く。


「先生。私は治!癒!魔術が学びたいです。先生もいじけてないで教えてください。」


「はー仕方ないですね。いいでしょう。」


「ありがとうございます。」


 先生は多少不機嫌になりながらも治癒魔術の中位ついて教えてくれた。

専門じゃ無いと言いながらも流石は帝位魔術師と言ったところ。非常に分かりやすい。


「先生、冒険者だったんですか?」


「ええ。まあ。昔ね。」


「冒険譚聞かせて下さい!」


「嫌ですね。黒歴史ですから。」


 先生は照れながら言った。まあ、いつか聞ける日が来るだろう。いや、来て欲しい!

 

 魔術のあとは算術。あんまり得意じゃないせいで、

本来なら十二歳までに習得すべきなんだけど、十五歳となった今なお勉強。


「お嬢様。お疲れ様です。昼食のお時間でございます。」


「疲れたーやっぱり算術嫌いよー」


「将来必ず必要になります。」


「ローラが計算すればいいじゃん。」

「いつまで私が近くにいるとは限りませんので、自立してもらわなければ。」


 ローラが居なくなるわけない。私が物心ついた時から近くにいるのだ。

居なくなることなど、想像もしなかった。でも……


「冒険者になるのが夢ではないのですか?冒険者の時に私はお供しませんよ。」


「……」


 上手く納得させられた。冒険者なんて無理なのに、どうして納得するのだろうか。


(思えばローラに頼ってばかりね。)

 


 昼食後は少し自由時間。でも昼食の後って眠くなるから昼寝する。


「お嬢様。お嬢様。起きてください。お茶会に遅れてしまいますよ。」


「あと三十分だけ。」


「そしたら遅刻確定です。」


 ローラは少し怒った風に私を起こした。わたしは言われるがまま支度をして、茶会へと向かった。


 茶会というのは、つまるところ「退屈の芸術」だ。

薄い紅茶を飲みながら、誰も本心を語らない。笑顔と世辞の応酬。

貴族なんて、いつからこんなに暇になったのだろう。いや、初めからか。


「リアお嬢様、こちらにどうぞ」


「……ありがとう、ジュンベルク様」


 隣に座るのは領主ジュンベルク。年は三十。気取った笑みを浮かべ、何か言えばすぐ「素晴らしい」と返す。


(……退屈。心の底から、退屈)


「そういえばお嬢様。聞いてますぞ。治癒魔術が高位になられたと。いやいや、さすがはポケ殿下の御息女。」


「ありがとうございます。しかし、もうそろそろ前置きは宜しいのでは?」


 ジュンベルクは苦笑した。ここまでは前置き。

私に接触してくるには何かしら目的がある。ジュンベルクは立ち、池の方を見ながら言った


「昨今の連邦政府は腐っている。連邦議会の意向を無視して、元老院が操る無能な王による腐敗政治だ。私はね、こんな連邦を変えたいのです。」


「前置きは良いと言ったではありませんか?なぜ建前を使うのですか。普通に権力を取りに行くために協力して欲しいと言えば良いではありませんか。」



 ローラが額に手を当てている。少し言い過ぎたか?いや、これくらい言わないと分からないのだ。ジュンベルクは席に座り、胸に手を当てた。


「お嬢様。おっしゃる通りでございます。私の権力欲でございます。申し訳…」


「謝る必要はないぞジュンベルク。」


 後ろから聞き馴染みのある声が聞こえた。そこに立っているのは父様だった。


「貴族にはその様な会話術が必要だ。」


「殿下…ありがとうございます。」


 場の空気は一瞬にして固まった。場違いな小鳥の声だけが庭園に響く。


「そしてリア。少し魔術が出来たくらいで調子に乗っているな。確かに、お前にはカリスマ性がある。しかし、その自信が身を滅ぼすぞ。」


 私はそっぽを向き、小声で返事した。父様はジュンベルクの横に座り、世間話を始めた。


「帰ります。」


 私は席を立ち、ローラに目配せをして席を後にしようとした。父様には顔を合わせず。


「ローラよ。娘を頼むぞ。」


「お任せ下さい旦那様。」


 ローラは深々とおじきをした。何が頼むだ。私のことをほったらかしにして。こう言う時だけ邪魔して。

 


「お嬢様…」


 私は自室のベットに転がっていた。何ともやるせない気持ちだ。

私は貴族とは違うと思って、私に媚びてくる貴族を見下して、説教して。

父様のおっしゃる通り。私は調子に乗っていた。



「うまく言ったつもりだったのよ。ジュンベルクの気持ちを見透かして、それを正そうとした。そして……失敗した。」


 もう嫌になる。こんな生活があと何年も続くと思うと。


「ねえ、ローラ。私どうすればいいのかな?私、何したいんだろうね。」


 夕日がカーテン越しにさしてきて、部屋はオレンジに染まっている。


「お嬢様は少し考え過ぎです。貴族というのはお嬢様が思っているほど下劣ではありません。もちろん、権力に溺れている方もいます。しかし、多くの貴族は教養があり、風流を好む文化人です。」


「貴族が嫌いなわけじゃない。ただその貴族の在り方を私に押し付けないでほしい。巻き込まないでほしい。」


 そう。貴族の全員が愚かというわけではない。それは知っている。でも私は…


「貴族になりたくない…」


 ローラは枕元に座り、私の額を撫で、微笑みながら、話した。


「何よ。」


「では、今日の夜から街に行きましょう。そこで外を知ることで、気が晴れるやもしれません。加えて、教養も身につきます。」


「母様が許してくれるとは思わないわ。」


「言ってみないと分かりません。それに私の勘ですが許してくれると思います。」


「曖昧だなー」


「冒険者になりたいのではないですか?奥方様のお部屋に行けずにどこに行けるのでしょう?」


 ……ローラはズルい。

 


 日没後、私は母様のお部屋を訪ねた。緊張する。もし断られたらどうしよう。いや、断られる可能性の方が断然高い。逆にそう考える方が楽だ。勇気を出してノックした。


「母様。リアです。」


「入りなさい。」


 母様の声が聞こえた。一週間ぶりの対面だ。


「失礼します。」


 部屋に入り、ドアの横に立った。母様はソファーに座り、窓の外を見ていた。


「貴方が幼い頃、この庭でよく遊んでいましたね。毎日、毎日、ローラと駆け回っていました。私はそれをここから見るだけで幸せでした。」


 いきなり詩的に話すので少し驚いた。しかし、母様の目は潤んでいた。

そして、私の方を向いて微笑みながら答えた。


「ローラから話は聞いています。私は愛しの我が子を外に送り出すつもりはございません。

ましてや、冒険者など…」


 ローラはそこまで話したのか。余計なことを。冒険者なんてなれないのに。


「母様。私は将来、グレイス家を継ぐつもりです。しかし、宮廷の中に居るだけでは立派な跡継ぎにはなれません。外の世界を知る必要があります。」


 拳を強く握り、母様の目を強く見つめた。母様は立って、私の前に立った。

私は背筋を伸ばして、向かい合った。母様は私の手を取り、両手で強く握り締めた。

嘘ではない本音だ。じゃなければジュンベルクを馬鹿にできない。


「我儘になりましたね。少し安心しました。私は母親らしいことを何もやれてません。」


 母様はそういうと、私の手を離し、窓の近くに向かった。


「明日の夜には戻ってくるのですよ。」


 明日の…夜…。


「ローラにも伝えましたが…」


「母様、ありがとうございます。」


 母様が認めてくれたのだ。私の外泊を。それは多分、母様が私に母親らし……いや。

詮索はよそう。認めてくれただけで嬉しい。


「私に出来るのはこのくらいですから。」


 母様は夕日を見ながら言った。その顔は赤く染まっており、頬を涙が伝っていた。

 


 部屋に戻ると、ローラが私の旅支度をしてくれていた。ということはつまり 


「ローラは分かっていたの?母様が認めてくれるのを。」


「はい。私が奥方様にお伝えした時には、お心を決めていらっしゃた様子でしたので。」


 ローラには感謝しなければならない。もちろん母様にも。


「ローラ。ありがとうね。外宿の間に何処かでお礼をしなければならないわね。」


「お礼なんて入りませんよ。気持ちだけで十分なのです。」


「私がしたいの。何か欲しいものはない?」


 ローラは準備の手を止めて、私にお辞儀した。そして、右手の人差し指を上げて言った。


「欲しい物はありません。しかし、一つだけ我儘を言わせてください。これからも私はリア様にお仕えしたく存じます。そして、リア様が王となる姿を見届けたいです。」


 王とは大袈裟な。領主にならず冒険者になりたい自分の夢と母様やローラのために領主になる使命、二つの間で揺れ動く。


 準備を整えて門に行くとローラが宮殿を見つめた。私も振り返ると窓から母様が手を振っていた。

心配そうな顔をしていたので、私は安心させるように笑って手を振った。


「行って参ります。」

 


 夜の街は賑やかだった。酔った冒険者や行商人、宣伝する露天商や旅の魔法使い。

多種多様な人々がこの狭い路地を行き交っていた。


「ローラ凄いよ。人が沢山。」


「ええ、お嬢様の誕生日会よりも多いですね。私も街に出るのは久しぶりなので、どちらかというと、懐かしい気持ちです。」


 語彙力が無くなるほどに、この街は私の目に煌びやかに映った。宮廷の中では決して見ることができない。


「ねえねえ、あれは何。」


「あれは魔道具ですね。確か……守護神の指輪と言った気がします。」


「どんな効果なの?」


「指輪に魔力を込めると、防護結界が展開されます。買いますか。」


「検討しよう。」


 いろんな魔道具を見ながら、ふと気づいた。


「私、杖持ってないわよね。」


「いつも先生のものをお使いになられていますからね。」


 流石に自分のを買うべきだろうか。でも、治癒魔術以外は低級だし。「賢者、杖を選ばず」とも言うし。


「うーん。」


「そこの姉ちゃん。杖買うか迷っとるんか。それなら、今日だけ割り引くぞ。」


「本当ですか?」


「初めての杖なんだろう?買っちゃえよ。」


「では、何がオススメですか?」


 そこにあったのは五本の杖。うち二つは四十センチ程、残りは二メートル程。店主曰く大きければ大きいほど、埋め込める魔石も大きくなり、魔力量も増大する。


「すいません。この杖には魔石が埋め込まれていないのですが……」


「ああ、これは木自体に魔力がある珍物だ。その分、小柄だ。」


「これにします。」


 理由は特にない。ただ気に入ったから。まあ、こんな買い方もいいだろう。

 


 少し歩くと大通りに出た。商店が多く立ち並び、レストランから立ち上る煙が夜空に広がっていた。

いい匂いがする気がする。


「リア様。私から離れないでください。」


 ローラは頻繁に私の方を振り返って、無事を確認した。

私も子供じゃないんだけど、と思ったが、ローラの心配は誘拐にあるだろう。


 私はグレイス家の令嬢。自分で言うのもアレだが、容姿はいい方だと思う。だから、売れば高くつくのだ。一応、深く帽子を被って変装をしているうえに、民衆はそもそも私の顔を知らないはずだ。


「もしかしてリア様でございますか。」


 げっ。何故この少女(多分同年齢)は私の顔を知っている?年に数度の式典でしか顔を出さないし、民衆は遠くからしか見えない。


「ど、どうも。」


「ワー。リア様だ。こちらにはどのようなご用で?」


 え。どうしよう?まさか気づかれるとは思っていなかったから、なんと受け答えすればいいか分からない。


「リア様は街の様子を視察しに来られたのです。将来のルーモラ領主として。」


 ローラが助け舟を出してくれた。まさか、外に出たいからという単純な理由を言うわけにはいかない。確かに視察なら筋が通る。


「そうなのですか。さすがリア様でございます。これかもこの街のことをよろしくお願いします。」


「はい。任せてください。」


「そういえば、あの角を曲がると私の父が経営しているレストランがあるんですが、是非来てください。」


 レストランか。確かにそろそろ夕食の時間だ。ローラの顔を見ると、ローラも頷いてくれた。改めて、少女の方を見る。


「では、レストランまで案内をお願いします。楽しみですね。」


「了解しました。」


 少女はそう言ってお辞儀すると、私たちを先導した。さっきの会話のせいか、みんなが私に手を振ったり、「リア様!」と声をかけてくる。私たちが通ろうとすると人盛りが次々に道の端に寄った。そのおかげで五分ほどでレストランに着いた。


「おとーさん。帰ったよ。」


 少女がそういうと、厨房から白い料理服を着た小太りな男性が出てきた。ユアは駆け寄り、ハグをした。微笑ましい。


「おかえり。ユア。えーっと後ろの方は?」


 男性はユアを抱っこしながら、私たちの方を見た。どうやら、彼は私の顔を知らないらしい。


「さっき会ったリア様とそのメイドさんよ。お父さんがレストランをやっていると言って招待したの。お手上げでしょ?」


「リア様!なんと……娘がご無礼を。お許しください。」


 男性は深々とお辞儀をした。貴族に話しかけたら死刑などという法律はないのに。


「いえいえ。娘さんのお陰で良い店を紹介していただきました。お料理楽しみにしています。」


 私がそういうと、少し冷や汗をかきながら男性自ら席を案内してくれた。店の隅の円卓に向かい合って私たちは座り、料理の到着を待った。ちなみに料理はお任せだ。


 私とローラが他愛もない世間話をしていると、厨房からユアが話に混ざりたそうにこちらを見ていた。


「ユアと言いましたっけ。こちらで少し話しませんか。街のことを教えて欲しくて。」


 私はローラにいいよね?という感じで笑うと、ローラは良いですよといった感じで頷いた。一方のユアも父親に確認をしていたらしく、一度厨房の奥に行ってから私たちの席についた。


「ユアは父親に愛されているのですね。」


「はい。でも、最近はウザいです…」


 私は少し羨ましく思った。いつも父様から他人のように接せられる私からしてみれば、鬱陶しいだけマシなのだ。


「でもね。それは愛の証拠だよ。」


 ローラがユアに言った。ユアは「分かってますよ」と言わんばかりにもじもじした。しかし、その言葉は私に向けてだったのかも知れない。


「ユアは三人家族なのですか。」


「いいえ。父子家庭です。」


 なんとも反応しづらい。家族がいる私が弱音を吐くのは恥ずかしい。。


「私は率直にいうとリア様が羨ましく思います。だって、お金に困らないし、お母さんとお父さんもお元気でしょ。」


「確かに私は物理的には幸せかも知れません。しかし、父様が私を愛してると思いません。それに、貴族というのは堅苦しいものですよ。憧れるものではありません。」


「贅沢な悩みですね。」


「そうかも知れません。」


 ユアとローラと話しているうちに料理が到着した。猪のスープだぞうだ。ユア曰く「宮廷ではこうゆうものは食べなさそうだから」とメニューにないものをわざわざ作ってくれたらしい。


「リア様のお口に合えば良いのだが…」


 厨房から心配そうな声が聞こえてくる。安心してくださいとっても美味しいですよ。因みに、何故かユアも食べています。


 腹一杯になって、店を出ると群衆が店を取り囲んでいた。

もちろん、目当ては私だ。私が出ると、群衆は私に向かって手を振ったり、叫んだりした。

さすがに熱狂的過ぎだと思うが、まあ忠誠心が高いのはいいことだ。

しかし、これじゃ宿まで付いてきてしまう。



「リア様。店の裏口からどうぞ。」


 彼の助力を得て、私たちは密かに裏口からの脱出に成功し、足早に宿へと向かった。

 


 宿の部屋は私のよりは小さかったが、二人で寝るには十分だった。

二つベットが置かれており、机が一つだけ角にあった。

私たちは湯につけたタオルで体を拭き、寝巻きに着替えて、ベットに腰をかけた。


「リア様、いかがでしたか?」


「ローラ、手配をありがとう。最高の夜だったよ。」


「それは何よりです。私もリア様と寝床を共にできるのが嬉しうございます。」


「そういえば一緒に寝るのは初めてだね。そんなに嬉しいものかな?」


 ローラは胸に手を当てて、答えた。


「嬉しいに決まっているではないですか。幼き頃より毎日見てきましたリア様と共に寝れるのは臣下にとっては非常に嬉しいものです。」


 そうか。ローラは私が生まれてからずっと一緒にいるのか。

彼女は臣下と言ったが、むしろ母親としてなのかも知れない。


「ローラ。私はローラのことも大切な家族そして母親だと思っているよ。それほど、私はローラに世話になったのだから。」


 ローラは少し下を向いた。その目には涙が溜まっていた。


「滅相もございません……」


 ローラには感謝しかない。私を育ててくれた母親であり、

支えてくれたメイドであり、共に生きた親友なのだから。

 



 翌朝。宿が提供してくれた朝食を頂いで、私たちは商店街に向かった。

この季節、朝は冷え込むのでしっかり防寒した。


 ローラの計画は午前に商店街をまわり、午後は城門近くで昼食をとってから、

城壁の外にある港に寄って海を見てから帰る。


「いやー。ローラには頭が上がりません。」


「そんなこと仰らないでください。これも私の大切な仕事です。」


 そんな会話をしていると、昨日の少女ユアに偶然再会した。

父親も一緒だったので、多分買い出しとかだろう。


「あっ。リアs」


 ユアが私の名前を言おうとしたので、私は指でしーとした。ユアは慌てて、黙った。


「昨日はどうもありがとうございました。また、あの料理を頂きたいものです。」


「いえいえ。お口にお会いになったのであれば良かったです。いくらでも家にいらしてください。」


 彼は少ない髪を撫でながら、照れていた。まあこれから、グレイス家御用達にしよう。


「ところで何をしてらっしゃるのですか。」


「今日の夜の買い出しです。本日も来られますか?」


「いえ。この後、商店街によって、城外で観光した後、今夜には宮廷に戻ります。」


「そうですか…」


 彼は少し悲しそうにしていた。ユアは今日も来てよとローラに我儘を言っている。


「でもまた行きます。私はこの街もあの店も大好きですから。」


「ええ。お待ちしております。」


 そう言って、私たちは市場を離れた。朝日に照らされた色とりどりの野菜が私たちを見送った。

 

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