最後の想い
テーブルに突っ伏して頭から血を流し事切れている男の身体を蹴る。
男の身体は椅子ごと倒れた。
男の座っていた椅子をテーブルの前に置き直す。
それからカウンターの後ろ側の棚に並んでいるウィスキーを眺める。
『オ? 流石はマフィアのボスの馴染みの店、マッカランが置かれているじゃないか』
カウンターの内側に歩みマッカランの瓶とグラスを持ち、先ほどの椅子に座りグラスにマッカランを注ぐ。
グラスに注いだマッカランをチビリと飲む。
『あぁ……美味いなぁ』
マッカランなんて高級なウィスキーを飲んだのは此れが2度目、俺1人じゃとてもじゃないが入れない高級バーで、組織の幹部に奢ってもらって飲んだのが最初。
あれから10年以上経ってやっとまた飲めた。
『痛……』
撃たれた腹の傷がズキズキと痛む。
俺はさっき蹴り倒した男、敵対組織のボスを殺しに来た殺し屋。
ボスとテーブルの周りに骸を晒してる2人のボディガードを先制攻撃で射殺した。
でも反撃され腹に一発食らったうえ運転手を逃がしてしまう。
あと5〜6分も経ては運転手の通報で敵対組織の奴らが押し寄せて来る筈だ。
腹に一発食らった身じゃ逃げてもたかが知れている。
だから此処でマッカランを飲みながら敵対組織の奴らに殺されるのを待っているって訳なのさ。
キイィィー!
店の外から車が急停止する音が響いて来た。
グラスの中身を全て喉に流し込み、ガバメントの銃口を店のドアに向ける。
ドアが蹴り開けらると共に道に面している窓のガラスが割られ、ドラム弾倉を付けたシカゴタイプライターを持った男たちがドアや窓から店の中に銃弾を叩き込む。
ガバメントの引き金を一度引いただけで俺は椅子ごと後ろに弾き飛ばされ、カウンターに叩きつけられた。
カウンターの上に横たわった俺の身体には、途切れること無く銃弾が叩き込まれ蜂の巣にされる。
カウンターの上で仰け反り薄れてゆく目に、高級ウィスキーの瓶が次々と流れ弾で粉々になって行くのが映り、勿体ないなぁという想いが最後に頭を掠た。