表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

血統の粛清

「全てが、予定通りだ」


アーサーは血に染まった英知の塔を見上げる。


リリアの潜入から始まった計画。血の結晶の発見。そして、姉の裏切りまで。 十年の歳月をかけて描いた復讐劇の、全ての駒が揃った。


「我が主」


リリアが、シルヴィアの血から作られた結晶を掲げる。 二週間の潜入の末に手に入れた、血の一族の遺産。


「砕け」


無機質な声と共に、結晶が粉々になる。


「母様!」


マリアベルが叫ぶ。


英知の塔の天才少女。リリアの監視報告によれば、血の研究に並外れた才能を持つという。 そして、裏切り者シルヴィアの娘。


「弟よ、私を血の契約に加えてはくれないか」


シルヴィアは片膝をつく。


「ほう?」


アーサーの血の右腕が、不吉に蠢く。


十年前、血の一族への襲撃の夜。 姉は弟を逃がすため、敵兵の前に立ちはだかったはずだった。 だが実際は――。


「十年前、我が一族を裏切り。そして今、敵の庇護の下で血の研究とやらを?」


「違う! これは血の一族を救うための……!」


「救う?」


フィリウスが先日報告した諜報の内容が、脳裏を過る。 反血族同盟に寝返った姉。血の研究を進言し、血の一族の力を解析しようとした裏切り者。


「見せてやろう。血の契約を裏切った者の末路を」


その瞬間。


「ぎっ!」


シルヴィアの体が跳ね上がる。


かつて、影走りの裏切り者が見せた末路。 血管が浮き上がり、体内の血が沸騰する様。 あの処刑を、今、実の姉に。


「アーサー様」フィリウスが声を潜める。「しかし、姉君を」


「黙れ」


血の刃が、フィリウスの頬を傷つける。 先日の裏切り者の時と、同じ場所を。


「忘れたか? 裏切りは、即座に命を持って償う。これが血の契約の絶対条項だ」


シルヴィアの体内で、血が逆流を始める。


「あ、あああああッ!」


血管が次々と破裂する。 噴き出した血が、アーサーの右腕に吸収されていく。


全てが、十年前の儀式の夜と重なる。 ただし今度は、裏切り者への処刑として。


「無駄な抵抗だ」


「お、弟よ……」


最期の言葉は、血の雨と消えた。


静寂が支配する中、アーサーはマリアベルに向き直る。


「さて」


血に濡れた右腕が、少女に向けられる。


「お前には才能がある。私の血に誓うか?」


「母様を殺して、よく私に」


「感傷は無用だ」


リリアの報告通り、確かな才能を持つ少女。 その力は、新たな血の一族に相応しい。


「血の一族に、情など必要ない」


広間の隅では、反血族同盟の首脳たちが震え上がっている。


「リリア、フィリウス」


「はい」二人が同時に答える。


「同盟首脳は全て処刑。各地に配置した影走りに、一斉蜂起の指示を」


計画通り、同盟の崩壊と共に、新たな血の帝国が始まる。


「それと」


アーサーは、月を仰ぐ。


「英知の塔は、私たちの新たな拠点となる」


血で作られた右腕が、不敵に輝いた。 シルヴィアの血を吸収し、さらなる力を得た腕が。


「マリアベル。最後だ」


アーサーは少女に、再び問う。


「選べ。死か、それとも」


血の雨が降り注ぐ中、少女の運命が決まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ