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魔導都市の影

「魔導国家アーケン公国――」


俺は地図の上で、赤い点を指でなぞる。


「血の一族を封印する術を研究する国か」


アーケンの中枢、魔導都市シュヴァルツガルテン。 世界最大の魔導研究機関『英知のセイジタワー』がそびえ立つ場所だ。


「潜入経路の確保は済みました」


リリアが、魔導都市の見取り図を広げる。


「研究所の清掃人として、私が入り込みます。他のS級契約者からも、協力の申し出が」


「断れ」


俺は血の右腕を軽く握る。


「お前一人で十分だ。他の者が動けば、目立ちすぎる」


「承知しました」


彼女の銀髪が、月光に冷たく輝く。


その時、広間の扉が勢いよく開かれた。


「アーサー様!」


慌てた様子でフィリウスが駆け込んでくる。


「アーケン公国、とんでもないものを」


「落ち着け」


「血の結晶ブラッドクリスタル


フィリウスの言葉に、空気が凍る。


「十年前、我々から奪った血液を、結晶化することに成功したようです」


「何だと?」


俺の右腕が、激しく疼く。


血の結晶。 血の一族の力を封じ込めた魔導結晶。それを扱える者がいれば――。


「リリア」


「はい」


「任務を変更する」


彼女の瞳が、鋭く光る。


「血の結晶を破壊し、研究データを全て消去。そして――」


「研究者は全て血に還せ、ということですね」


リリアの声に、感情はない。


「アーサー様」フィリウスが声を潜める。「しかし、英知の塔には数千の研究者が」


「構わん」


俺は月を仰ぐ。


十年前、血の一族を魔物と蔑んだ者たち。 その研究所から漏れ聞こえる悲鳴など、音楽のように心地よい。


「準備を始めよ」


「はい」


リリアが立ち去った後、フィリウスが問いかける。


「現地のB級諜報部隊『影走り』にも、指示を」


「必要ない」


俺は血の右腕を掲げる。


「奴らの研究が成功すれば、我々の血の力さえも封じられかねん。今回は――」


俺の腕から、黒い血が滴り落ちる。


「リリアの血で、十分だ」


月が、不吉な赤みを帯びていた。


魔導都市に潜入するリリア。 彼女の血は、研究所を血の海に染め上げることだろう。


(復讐は、着々と進んでいく)


反血族同盟を構成する国々の一つ、アーケン公国。 その心臓部に、最初の楔を打ち込む時が来たのだ。


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