風の導きにて
こんにちは。いえ、こんばんわ?私の名前はルト。
すみません。ここにいると現実時間が分からないので混濁してしまうので。
え?ここが何処か、ですか?ここは《宵と暁の背徳者》で作り出した異空間です。感情と同調し効果が変わるのです。なかなか便利ですよ。
【誰に話しているのですか?現実逃避してないで手伝って下さい】
「・・・ハイ」
自ら提案して来たのに楽園への行き方が分からないと言われ上げて思いっきり落とされた後。アルが・・・いえ、アルトゥスが【よくよく考えれば《カルマ 宵と暁の背徳者》の制限時間は24時間なので寝る為になら使えますね】と言われ今に至ります。
「ですが同調の仕方なんて分かりませんよ?私」
朝と夜が隣合わせで存在する水面上の世界。今は誰とも同調してないので初期状態にあるそうです。
【取り敢えずこの空間の核を探して下さい。話はそれからです】
「・・・分かりました」
大人しく従うしかありませんね・・・。
◇◇◇◇
「ありました!」
捜索開始から8時間。タイムリミット2時間前になって漸く核が見つかりました。
「綺麗ですね。スーモ―キークワォーツみたいです」
【核は同調者にあわせて形を変えます。ほら、早くしましょう。時間は残り少ないですから】
「はいはい。えっと・・・」
魔力を核に流し馴染ませる。神経を核に集中させより早く同調出来る様にする。
『誰?』
「!!」
【?!核から手を離し――!!】
◇◇◇◇
「・・・ん」
【起きましたか?】
「アル・・・?」
【同調は成功です】
「良かった・・・」
【綺麗ですね。蒼い満月に星空。綺麗で・・・何処か寂しそうで人を拒絶する冷酷さがあります】
「それは褒めているのですか?」
【お好きな方で】
「お褒めに頂き光栄です」
その時、世界が崩壊を始めた。まるでガラス細工の様に粉々になっていく。
【時間が来たようです】
現実世界は朝でした。異空間内にいる間でもこちらの時間は進み続ける様ですね。
「そういえば・・・あの声」
同調時に一瞬だけ聞こえた声。アレは、誰の?
「すみません」
「【!】」
「君がルト?」
「!そう、ですが・・・」
まさか狩人の
「良かった!僕は風の厄災、シルフ!宜しくね!」
「へ」
「あれ。人違い?」
小さい、私よりも5歳くらい年下に見える男の子。けれどその口から発せられた声は明らかに成人男性のそれで。情報の齟齬で脳がバグりそう、、ではなくて!今、この子、
「風の厄災?」
「うん!」
私の言葉に男の子・・・シルフはニッコリと満面の笑みを浮かべた。
◇◇◇◇
「新しい厄災が近くで生まれたって聞いて、見てみたくなったんだ!」
固くなったパンを必死に噛み砕きながらシルフが言う。物凄く聞き取りづらい。
「そうですか・・・」
【お気楽ですね】
「うん!僕は何か1つの物に縛り付けられるのが大っ嫌い!風の様に自由じゃなくちゃ!」
「はぁ」
分かった様な分からない様な返答を返しながらパンを手で砕き口に運ぶ。かたひ。
「じゃ!気が向いたら僕の故郷の風の都に来てね!」
「・・・行ってしまいました」
【急がしい方ですね】
「【まるで嵐の様です】」
「・・・」
【何故それで黙るのですか】
「いえ、何でも」
【・・・そうですか】
「パンも先程ので最後でしたし、街に向かいましょう。宿も欲しいですし」
【異空間があるから良いのでは?】
「いきなり何も無い空間から人が出てきたら色々と不味いので・・・」
【確かに、そうですね。なら一番近いヘロデの街へ行きましょう。あそこは教会がありませんから】
「分かりました。・・・寝ていいですか?」
【えぇ。不眠不休の捜索、お疲れ様です】
◇◇◇◇
その頃、ヘロデの街にて。
「大変よ!領主様の御子息が!」
「なに?!直ぐに医者を!」
ルトが向かおうとしていた街、ヘロデ。異端者が今まで確認された事が無い故に教会が無く、聖なる結界が無かった街に魔の手が迫っていた。
「〜♪」
そんな錯乱状態の街を楽しげに眺める人影。
「やっぱり、人間はこうじゃ無くちゃ!」
その影は闇の中、静かに笑みを浮かべた。