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07 初恋

お読みいただきありがとうございます。


 王都から馬車で数日かかる領地に隠されている骸骨令嬢の噂はルーファも知っていた。


 通常ならば貴族の子供たちは6歳頃から母親に連れられて子供向けのお茶会に出向き社交の練習を始める。

 しかし、ルーファと同じ年齢のスカーレットは領地から一度も外に出たことがないという。


 ただ、生まれてきた姿が普通ではなかったという理由だけで領地に閉じ込められている令嬢が、なんだか自分に重なるような気がして、ルーファは勝手に親近感を抱いた。


 王はスカーレットが3、4年以内には王都に来て社交に顔を出すようになるため、その時にでも顔合わせをすれば良いと言ったけれど、ルーファはすぐにでもスカーレットに会ってみたくてわがままを言った。

 ルーファがわがままを言ったのはその時が初めてだったため、王は幼い息子が初めての遠出をすることを許し、ルーファは馬車に乗って何日もかかるスカル侯爵領へと向かったのだ。


 そこで出会ったスカーレットはルーファが想像していたような冷たい大人たちに囲まれて閉鎖空間に閉じ込められている可哀想な令嬢ではなかった。

 スカーレットは6歳とは思えない落ち着きと優雅さでルーファを迎え、執事や侍女、メイドたちに威厳を持って指示を出していた。

 そして、屋敷の大人たちが誰一人としてスカーレットのことを軽んじていないことがわかった。


 最初こそその姿にすこし驚いたけれど、その姿の異質さを除けば、彼女は6歳にして淑女と言えるほどの立派な貴族令嬢だった。

 そんなスカーレットに自然とルーファは惹かれていった。

 それはまるで、優しい魔法でもかかっているようだった。


「魔法ですか? かけていますよ」


 王都へと戻らなければいけない日の前夜、満月が見えるバルコニーで自分はスカーレットの婚約者になれてよかった、まるで魔法のように自分はスカーレットに惹かれていると打ち明けると、スカーレットはさらりとそんなことを言った。


「王子が領地にいらした時にわたくしを怖がらないように魅了の魔法をかけたのです」


 スカーレットの告白にルーファは驚いた。

 自分が魔法をかけられていたこと、魅了の魔法という高位の魔術師でなければ使えない魔法を6歳の少女が使えること、そして、それをあっさりと自分に告げてきたこと。

 その全てに驚いた。


「明日の朝、馬車に乗り込む時に魔法を解いて差し上げますから安心してくださいませ」


「そして」と、スカーレットは微笑む。

 肉も皮もついていないから、実際に微笑んだかどうかはわからないけれど、ルーファには月明かりの下でスカーレットが華やかに微笑んだように見えた。


「王都に戻りましたら、婚約の解消を王様にお申し出くださいませ」


 翌朝、本当にスカーレットは魔法を解除してくれたようで、ルーファの目には彼女にまとわりついていたキラキラした光が消えたような気がしたし、ドキドキと高鳴っていた心臓も静かだった。

 けれど、ルーファが彼女を好ましいと思う気持ちに変化はなかった。


 王都に戻り父親である王に帰還の挨拶をするために謁見すると、王は恐る恐るという様子で聞いてきた。


「スカーレット嬢はどうだった?」


 ルーファはすこし考える素振りを見せて父王に答えた。


「早く大人になって辺境領地を賜りたく思いました」

「なぜだ?」

「彼女は自分を見た者の心を気遣って領地に引きこもっているのです。それから、彼女の祖父母と両親が彼女のことを守るために領地から出さないのだということもわかりました。ですので、彼女が安心して過ごせる辺境の地を賜りたく思います」


 王はすこし驚いたようにその目を見開き、それから「そうか」と口元を崩した。

 スカーレットを見ていたせいか、ルーファは以前にも増して人の表情の機微を読み解くことが上手くなったように感じた。

 王のその笑みは、父親としての微笑みだった。

 それに気づいた瞬間、ルーファはスカーレットとのやりとりを思い出した。


「飲めないものを飲み、食べれないものを食べるのは辛くはないのですか?」


 庭でスカーレットとお茶をしていた時に聞いたのだ。

 口に入った後の処理はスライムが代行しているということは初めてお茶をした時に、「胃腸があるのですか?」と思わず不躾に聞いてしまい、スカーレットが嫌な顔ひとつせずに……たぶん、嫌な顔はしていなかったと思うが、その際に種明かしをしてくれたから知っていた。


「このような姿でも、わたくしが飲食をする姿を見るとホッとする人は多いのです。自分たちと変わらない部分があるのだと勘違いすることですこしでも警戒心を解いてくだされば、そこから徐々に親しくなることができます。王都に行き、社交の場に出たら、そういう術が領地のため、領民のために情報を得る助けになりますから」

「しかし、無理をせずとも、スカーレットの素晴らしさをわかってくれる者はいるはずだ」


(私のように)と、そう信じて言ったルーファに「おりませんよ」とスカーレットは言った。


「どんな綺麗事、絵空事よりも、目に見えるものが大切なのです」


 ルーファはスカーレットの言葉を思い出して、父親の笑顔を真似て口角を上げた。

 父親が見せてくれた愛情が大切なのだ。


 そして、この国の王に愛されている息子なのだと家臣に見せることが、この先、婚約者を守るために有用になることにルーファは気がついた。



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