06 婚約者
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「スカーレット!!!」
今日も元気にルーファはスカーレットの元を訪れた。
9歳までは領地に引きこもっていたスカーレットだったが、10歳になってから王都の屋敷で過ごすようになっていた。
強大な力を手に入れたスカーレットはもう領地に引きこもっている意味などなかったのだ。
これからは両親や領民を守るために力を振るう必要があった。
「ルーファ様、今日は何のご用ですか?」
ルーファはスカーレットの1日のスケジュールを完璧に把握しており、スカーレットが趣味の魔法の研究をしている時間や淑女の授業の時間を避けて、ティータイムの時間に必ず訪れる。
その日もスカーレットはバルコニーで中庭の花々を見ながらお茶を嗜んでいた。
もちろん、消化しているのは骨の間のスライムである。
「この衣装を見てくれ! 次のパーティーでスカーレットが着るドレスの色に合うと思わないか!?」
いつも白やクリーム色の衣装を着ているルーファだったが、その衣装は夜のような深い紺色だった。
スカーレットはその衣装をじっくりと見つめて、ふむと頷いた。
確かに、ルーファによく似合っていた。
正直、これまで着ていた白っぽい衣装よりも好ましい。
「わたくしの真っ赤なドレスと並ぶと毒々しさが増していいと思います」
スカーレットは正直にルーファの衣装を褒めた。
そう。これがスカーレットの正直な褒め言葉だった。
マーサも、ルーファの後を追ってきたルーファの従者もすこし困った表情をしているが、そんなことにスカーレットは気づかない。
そして、ルーファはスカーレットの言葉をそのまま褒め言葉と受け取り、満足げな表情でスカーレットの前の椅子に座った。
「スカーレット、僕にお茶を淹れてくれないかい?」
「今日はミントティーでも淹れましょう」
細く白い骨の指が器用に動く様をルーファはその瞳を細めて見つめる。
自分が口にするものには無頓着のスカーレットがルーファのためには色々と考えて用意してくれる。
そのことがルーファにはたまらなく嬉しいのだ。
オフーラ王国の継承順位は争いを少なくするために年長順と決まっている。
長男が王太子となり、次男が万が一のための予備であり、それ以降は万が一の更に万が一のためということで、下にいけばいくほどその存在価値は薄れる。
第四王子のルーファは家臣たちにとっては穀潰しと同じだった。
もしくは、いずれは王族ではなく身分を落として貴族となり、自分達のライバルとなる疎ましい存在だ。
母親からは愛情を感じることができたし、多忙でたまにしか会えない父親も愛してくれているのだろうと思った。
兄弟たちも仲が悪いわけではないが、家臣の態度が違うために自然と優劣ができていた。
それでも、ルーファが鈍感で家臣たちの表向きの笑顔だけを信じられるような子供ならば恵まれた環境で純朴にすくすくと育つことができたのかもしれないが、ルーファは兄弟の中でも取り分け聡い子供だった。
家臣たちの笑顔の裏の本音を見抜く目を持ち、侮る眼差しに気づくことができた。
他者から侮蔑されることが自分の才覚によるところならば仕方ないが、そうではない。
ただ生まれた順番が蔑まれる要因なのだ。
ルーファに罪はない。
それならばそうした眼差しなど無視すればいい。
けれど、聡くとも子供だ。
彼らの目に、陰口に、嫌味に、嘲笑に、傷ついた。
そんなルーファが6歳の頃に父親である王の命で婚約が決まったのがスカーレットだった。