50 邪魔者
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王の隣に立つ公爵によって罪状は読み上げられた。
その内容にラフェルは愕然とする。
そして、すぐにこの場にロンレーナ宰相がいないことと、謁見の間に集められているのがロンレーナ宰相に嫉妬や不満を抱いている貴族ばかりであることに気がついた。
「父上、どうしてこのようなことをなさるのですか!?」
意図的にラフェルを遠ざけていたであろう王ではあったが、謁見の間に現れたラフェルの姿に動揺することもなかった。
玉座がある壇上の前に立ち尽くしていたエールシャルルが後ろを振り返り、「スカーレット様」とその唇が動いた。
「先ほど罪状を読み上げたのですが、途中参加のラフェル王太子殿下のためにもう一度読み上げる必要がありそうですな」
「レアル兄上を救えなかったことがエールシャルル嬢の罪など、そんなの言いがかりです!」
ラフェルは公爵を睨む。
「私の婚約者に極刑を言い渡すなど……」
「ラフェル王太子殿下の婚約者はスカーレット嬢です」
「何を馬鹿なことを言っているのですか?」
「スカーレット嬢のおかげで傷が癒えたそうですね? ラフェル王太子殿下には有力な婚約者が必要で、スカーレット嬢には王太子殿下を癒したことへの褒美が必要です」
ラフェルは怒りに体が震えるのを感じた。
「これはどういう状況ですか?」
謁見の間にまた一人入ってきた。
ラフェルが視線を向けると、弟のリューリットが部屋の中を進みながら周囲を見回していた。
そして、リューリットはルーファの隣に立つスカーレットに視線を止めて、しばしスカーレットの姿を観察した後に微笑んだ。
「スカーレット嬢の姿が戻られて喜ばしいです」
リューリットの言葉に謁見の間にいる貴族たちがざわついた。
それは王の隣に立つ公爵も同じ反応だった。
皆、ラフェルにばかり注目していたというのもあるが、ルーファの隣に立つ美少女がまさかスカーレットだとは思ってもみなかったのだ。
「あの少女が骸骨令嬢?」
「第三王子は姿が戻ったと言っていたぞ、あれが本来の姿だということか?」
「あの姿ならば、王太子の婚約者にも相応しいだろう」
貴族たちのそんなざわめきを聞きながらルーファは内心で不満を募らせた。
それはラフェルも同様だったようだ。
ラフェルはエールシャルルの隣に立つと、その手をしっかりと握って貴族たちを見回した。
「私の婚約者はエールシャルル嬢だ! 他の女性と結婚するつもりなどない!!」
「ラフェル王太子殿下とはいえども、王の決定を覆すことはできませんぞ! 警備兵! エールシャルル嬢をお連れしろ!」
ラフェルは腰の剣を抜き、エールシャルルを庇うように立った
「父上! 正気に戻ってください!」
自らの婚約者を守るためならば王に刃を向けそうな勢いのラフェルにスカーレットは声をかけた。
「ラフェル様はエールシャルル様を避難させてください」
「それならば、スカーレット嬢とルーファにエールシャルル嬢と一緒に逃げてもらいたい!」
ラフェルとしてもエールシャルルを逃がしてあげたいが、自分がこの場を放り出すわけにはいかないと考えていた。
しかし、スカーレットとしてはラフェルの存在はこの場では邪魔でしかなかった。
三度目の人生で穏やかな幸せを自分に与えてくれようとしたラフェルに対して、スカーレットはすこしばかり感謝していた。
スカーレットが両親や領民たちに向ける気持ちからすると、圧倒的にささやかな気持ちではあったが、それでも、彼に敬愛する父親を殺したという負目は抱いてはほしくなかった。
だから、王に後悔と苦痛を与えたかったスカーレットにとっては、ラフェルは本当に邪魔だった。
「ラフェル様、わたくしが第一王子にかかっていた魅了の魔法を解いたことはご存知ですか?」
このような切迫した状況で突然、何の話をしているのだろうと思いながらもラフェルは素直に答えた。
「知っています」
「魅了の魔法の解呪がどれほど難しいこともご存知ですか?」
「はい」
「わたくしがこの国で二番目に強い魔法使いだということをご理解いただけますか?」
「二番目? 一番目ではなく?」
「一番目は大お祖父様ですから」
「そうなのですね」
「さて」と、スカーレットはすこし呆れたような表情を見せた。
「わたくしとラフェル様、この場に残った方がいいのがどちらかお分かりですよね?」
ラフェルはエールシャルルの手をしっかりと握り、答えた。
「それは私です。私の婚約者が罪なき理由で断罪されようとしているのですから!」
「エールシャルル様、ラフェル様を連れて行ってください」
「はっ!」とエールシャルルは勇ましい返事をし、ラフェルの手をしっかりと握ると走り出した。
ドレスにヒールという動き難い装いだというのに、エールシャルルは凄まじい勢いで走っていった。
その後ろ姿を見送った後、スカーレットは魔法で謁見の間の扉を閉じた。