48 本来の姿
お読みいただきありがとうございます。
二人の不思議なやり取りに焦ったのはルーファだ。
「スカーレット! 僕の記憶はどうなるの?」
マーリンは今初めて気づいたかのようにルーファを見た。
「スカーレット、この者には静止の魔法を使わなかったのか?」
「ルーファ様は空気を読むことに長けておりますから。まぁ、読みたくない時は無視することも多々ありますけれど」
「騒がないと判断して魔法をかけなかったのか」
「はい」
マーリンは顎を撫で、ルーファを頭の上からつま先まで観察する。
「其方はこの惨状の記憶を残したいのか?」
「こんな状況はどうでもいいです! 僕は、スカーレットとの全ての記憶を残しておきたいのです!」
スカーレットに対するルーファの執着は異常ではあったが、マーリンは自身が異質な存在であり、自分の孫娘も同様に普通ではないことを知っていたため、ルーファの異常さはそれほど気にならなかった。
「どうするのじゃ?」
「そうですね……もし、これからのわたくしの姿を見て、婚約解消したくなったらおっしゃってくださいまし」
王族との婚約をただただ面倒なことだと思っているスカーレットは何かにつけて婚約解消の話を持ち出すが、ルーファがそれを了承することはない。
「僕がスカーレットと婚約解消したいとか絶対にないよ」
スカーレットの曽祖父であり大魔法使いであるマーリンはスカーレットの手をしっかりと握り、スカーレットの膨大な魔力を吸収した。
スカーレットも全く抵抗せず、生きるのに必要な最低限の魔力を残して全てをマーリンに返す。
その過程を見ていたルーファは呆然とする。
老人が徐々に骸骨となり、骸骨だった少女が徐々に美しく可憐な少女の姿へと変化していく様子は実に奇妙なものだった。
時を巻き戻す魔法はリッチとなったスカーレットでも容易に行えるものではなく、リッチになった後も魔法の研鑽を重ねた者が習得できる魔法だったためにマーリンに行ってもらう必要があったのだ。
そのため、マーリンからもらっていた膨大な魔力をスカーレットはマーリンに返した。
「……スカーレット?」
美しい少女に戻ったスカーレットの姿にルーファは驚き、その姿を凝視してしまった。
「もしかして、それが本来のスカーレットの姿?」
「ええ。どうですか? 婚約解消したくなりましたか?」
スカーレットの質問の意味がルーファにはわからなかった。
「どうして?」
「ルーファ様は骸骨の姿がお好きなのですよね?」
スカーレットが小首を傾げて聞いてきた。
骸骨の時も、美少女となった今も、とても愛らしく見える仕草だ。
「僕はスカーレットが好きなだけだけど?」
スカーレットはすこしだけその瞳を見開き、数度瞬きを繰り返した。
その様子を見て、ルーファは(お得だな)と思った。
眼球があり、肉や皮がついていると、そのような表情が見えるのだ。
「……わたくし、ルーファ様は死体愛好家なのだと思っておりました」
「僕はスカーレットだから好きだったのに、僕の言葉を信じてくれてなかったの?」
「はい。まったく」
確かに、何度も、繰り返し「好き」だとは言われていたが、それは死体が好きだとか、骸骨が好きだとか、そいう意味だと思っていた。
「其方、面白いな」
マーリンは骨の指で骨の顎を撫でながらルーファを見て言った。
「記憶を残しておいてやろう。よかろう? スカーレット」
「大お祖父様がそうおっしゃるのなら構いませんわ」
「大お祖父様、ありがとうございます!」
「其方の曽祖父になるつもりはないからマーリン様と呼べ」
興味深いという意味では確かにルーファのことを気に入ったマーリンだったが、スカーレットの隣に立つ者として認めるかどうかはまた別の話である。
「では、その娘が死ぬ前に時を戻すぞ」
マーリンはどこからともなく大きな杖を取り出して、詠唱を始めた。
「《巡る時よ……》」
詠唱により徐々に魔法陣が構築されていき、魔法の発動と同時にその場は眩い光に包まれた。