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お読みいただきありがとうございます。


「これは……」


 謁見の間、玉座に続くレッドカーペットがところどころ濡れて赤黒くなっており、その液体の正体が血であることは床に倒れている兵士たちと、そして、レッドカーペットの真ん中、美しいドレスを真っ赤に染めて倒れているエールシャルルの姿でわかった。


「エールシャルル嬢!」


 ラフェルはエールシャルルに駆け寄ってその体に触れたが、すでにエールシャルルは亡くなっていた。


「父上、これはどういうことですか!?」


 喋れぬ父王に変わり、父王の隣に付き従っていた公爵が答えた。


「罪状を伝えたところ、歯向かって来たのです」

「罪状……彼女が何をしたというのですか!?」

「その娘は、前王太子の婚約者という立場でありながら前王太子に怪しい女が近づくことを許し、さらに婚約解消までして前王太子を陥れました」

「そんなのは言いがかりです!」


 ラフェルの言う通り、とんでもない言いがかりだった。


 ラフェルが王と公爵の相手をしている間にスカーレットは謁見の間にいる貴族たちに視線を走らせた。

 ミルスからの知らせがあった通り、ロンレーナ伯爵は隔離されているようだ。

 この場にロンレーナ伯爵がいれば、エールシャルルが死んでしまう前にスカーレットは謁見の間に来ることができただろう。


「私の婚約者を殺めるなど……」


 これまでの人生の中で一度も抱いたことのないほどの怒りをラフェルは感じていた。

 それも、敬愛する父親に対して。


「ラフェル王太子殿下の婚約者はスカーレット嬢です」


 おかしなことを言う公爵をラフェルは睨んだ。

 もちろん、誰にもスカーレットを譲る気のないルーファも公爵と父王を睨む。


「何を馬鹿なことを言っているんだ?」

「スカーレット嬢のおかげで傷が癒えたそうですね? ラフェル王太子殿下には有力な婚約者が必要で、スカーレット嬢には王太子殿下を癒したことへの褒美が必要です」


 スカーレットは完全に自分が計算間違いをしたのだとわかり、やり直すことにした。


「《静止》」


 次の瞬間、その場の全てのものが時を止めた。


 スカーレットは自身の経験上、国王がエールシャルルに難癖をつけることは想定していた。

 しかし、それでも国王は計画的な悪事を働くことには不慣れだと思っていたのだ。


 だから、謁見の間でエールシャルルに難癖をつけてもロンレーナ伯爵がエールシャルルを守ってくれると思っていた。

 だが、スカーレットの予想に反し、国王は悪事のために知恵を絞ったようだった。


 スカーレットの読みが浅かったために、今後も使おうと思っていた駒を無駄に失ってしまった。

 その一つの駒だけならまだしも、このままでは次期国王という駒も失ってしまうかもしれない。


「大お祖父様、申し訳ございませんが、力をお貸しください」


 スカーレットの呼びかけでどこからともなく老人が現れた。


「スカーレット、どうしたのだ?」

「大お祖父様、わたくし、失敗してしまいました」

「うまくいっていたようだが、やり直しか?」

「生きていてもらわなければいけないご令嬢が亡くなってしまったのです」


 スカーレットの言葉にマーリンはレッドカーペットの真ん中で倒れる少女を見た。


「あの娘か?」

「ええ」

「では、数刻だけ時を戻せばよかろう」


 曽祖父が差し出した手にスカーレットは真っ白な骨の手をのせた。


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