46 依頼
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「エールシャルル嬢に再びポーションを作ってあげてはくれないでしょうか?」
ラフェルは目の前のソファーに座る異形の少女に緊張しながら言葉を続ける。
「そして、できれば、父上にも傷を癒すポーションを作ってもらいたいのです。もちろん、どちらのポーションも費用は私が負担します」
普通の令嬢ならば王族からの依頼を断ったりはしないと思うが、スカーレットは見た目からして普通ではなく、その見た目が示す通りに小さな身のうちに強大な力を持っているのだろうとラフェルは察することができた。
弟の婚約者でなければ、自分はこのように冷静に話すことなどできなかったかもしれないとも思う。
弟である第四王子の婚約者ということは、スカーレットは敬愛する父王に選ばれた少女だということだ。
そんな少女を、自分の恐怖心に負けて無下にすることなどできない。
「わかりました。材料を揃えるのにすこしお時間をいただくかもしれませんが、お作りいたします」
「ありがとうございます。スカーレット嬢」
思った以上にあっさりと依頼は了承され、さらに年齢以上に丁寧でしっかりとした受け答えをしてもらえたことでラフェルはすこし気が楽になった。
異形の姿をしているものの、他の10歳の令嬢や令息たちと比べて随分と大人びていて話しやすいように思えた。
その後、気持ちの落ち着いたラフェルはスカーレットにポーションの効能や製造過程について質問をし、スカーレットも包み隠すことなく話した。
ルーファはラフェルとスカーレットが話すのを作り笑いを維持したまま見ていた。
すると、不意にスカーレットが左耳の空洞を左手で覆うような仕草をした。
「本日はエールシャルル様も王に呼ばれているとお聞きしましたが、こちらには来られないのでしょうか?」
「ああ。エールシャルル嬢でしたら、今頃父上と謁見されていると思います。スカーレット嬢の前にお会いすると父上が仰せでしたから」
エールシャルルを気にするスカーレットの様子をラフェルは微笑ましく思った。
異形の姿でもスカーレットは友達思いのいい子なのだろうと思うと骸骨の姿もそれほど怖くはなかった。
「王太子殿下はエールシャルル様と同行されないのですか?」
「父上がエールシャルル嬢と内密の話があるとのことで、私は部屋で待っているようにと言われたのです」
だから、ラフェルはこの時間にスカーレットにポーション作成をお願いしてみようと思ったのだ。
ラフェルの言葉にルーファが首を傾げた。
「ラフェル兄様、それはおかしいです。私はスカーレットを出迎えに城の入り口まで行きましたが、何人もの貴族たちが来ていましたよ」
「エールシャルル様に内密の話があるのでしたら、謁見の間でなくとも良いはずです」
ルーファの話が本当ならば、確かに自分が部屋で待たされているのはおかしなことだとラフェルは思った。
それに、スカーレットの言うとおり、内密の話ならば謁見の間ではなく、もっと小さな部屋でいいだろう。
しかし、父王が自分に嘘をつく必要もないとラフェルは考える。
「しかし、父上はそのように……」
「ラフェル兄様、早く謁見の間に行きましょう!」
「……わかった」
ルーファに急かされて、ラフェルは謁見の間に急いで行ってみることにした。
まるで何か事件が起こっているかのように危機感を感じているらしい弟の様子も、エールシャルルを心配しているスカーレットの様子もきっと杞憂に違いないが、最近の父王の様子がおかしいこともまた事実だった。
とりあえずは行って、確かめればいいのだ。
父王の言っていた通りに公務のことで父王がエールシャルルと話をしていたところを邪魔することになったのならば、ルーファとスカーレットを庇って自分が謝ればいいことだ。
そう考えて、ラフェルは謁見の間の前まで来た。
謁見の間の前にいるはずの警備兵がおらず、まさか、本当に何かあったのだろうかとラフェルは謁見の間の扉を押し開いた。
そして、中の惨状に絶句した。